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2024年3月14日展望を知る

デジタル時代に求められる組織・人材マネジメント ~7つの戦略アクションを徹底解説~

日本企業は欧米企業と比較してデジタル競争力が低いとされる。各社が変化の速いデジタル時代を生き抜くための既存/新規事業強化とそれを支えるDX(デジタル変革)に挑戦する一方、その多くは狙った成果を生み出すことに苦戦しているのが実情だ。そして、その最たる要因が組織と人材の問題に正しくアプローチできていない事にある。組織と人材は変革を実現する鍵であり競争力と差を生む源泉であるにもかかわらず、従来の組織・人材マネジメント手法で大規模な変革に挑もうとしているのだ。デジタル時代の組織・人材強化をテーマに経営層・事業責任者・企画部門・人事部門はどう向き合うべきか。株式会社NTTデータ経営研究所の長安 賢が解説する。
目次

組織・人材変革なくしてビジネスインパクトのある事業変革は起こせない

デジタル時代に対応するためには、旧来型の組織・人材マネジメントから脱却し、時代に即したアジリティのある組織・人材モデルへの変革を進めなければならない。しかし、どこに注力してビジネスモデルを変革していくのかが定まらなければ、どのような組織・人材モデル変革が必要なのかも定まらない。

そのため、中長期的な事業強化を実現していく視点で自社におけるDXを進める目的(既存事業の強靭化なのか・新たな価値の創造なのか)とその導入の範囲について全体像を整理し、中長期的な要強化領域の識別と取り組む優先順位を定めなければならない。DXと一言で言ってもその領域は広く、地に足の着いた議論を進める上では解像度を上げて整理する必要がある。

DXをバリューチェーンの変革範囲とビジネスモデルの変革規模を軸に整理すると「デジタルBPR型DX」「バリューチェーン変革型DX」「新規価値拡張型DX」「ビジネスモデル再編型DX」の4つに分類できる。

変革規模と変革範囲の双方の観点から取り組みやすいのが、既存ビジネスの非効率な業務をデジタルで自動化する「デジタルBPR型DX」(左下)だ。すでに多くの企業で取り組みが進んでいる領域となる。次のステップとして、これを全社バリューチェーン全体に広げて複合的、多面的に変革していくのが「バリューチェーン変革型DX」(左上)だ。一方で、既存のビジネスモデルを変革させて付加価値を高め、規模を拡大していくのが「新規価値拡張型DX」(右下)。そして、バリューチェーン、ビジネスモデルの両方を変革させて完全に新規のデジタルビジネスを生み出すのが「ビジネスモデル再編型DX」(右上)だ。

この4つのDXと組織・人材の関係性について、NTTデータ経営研究所の長安 賢は次のように語る。

「左下の『デジタルBPR型DX』は既存の組織・業務自体を前提として着手が可能であるため、組織・人材マネジメント自体を大きく変えることなく対応できます。しかし、それ以外の大きなビジネスインパクトを生み出せる残りの3つの領域に変革範囲を広げていくためには組織や人材モデル変革への着手が不可欠です。」(長安)

組織・人材モデルを強化する7つのアクションと突破の道筋

より大きなビジネス成果の創出につながるDX変革範囲を広げていくには組織・人材モデルの変革が必要。では具体的にどのように組織や人材モデルの変革に取り組めばいいのか。

「まず大切なのは、さまざまなバズワードが飛び交う組織・人というテーマの検討においても中長期的に目指すゴールを見失わないこと。ビジネスの成果につながる部分への視点をぶらさないことが重要です。そもそも企業の競争優位性確保と持続的な成長を生み出すためには、環境や顧客ニーズの変化に合わせてビジネスモデルを素早く変革し、価値を創出し続けなければなりません。日本企業の従来モデルがある中で、その変化への対応が得意な企業は限られますが、それができる組織をつくり、自律的なリスキリング等を通じて組織と人材を環境変化に合わせて迅速に最適化していくことが、組織・人材変革の究極のゴールです」(長安)

長安は、このゴールに到達するために企業が取り組むべき「組織・人材の7つの戦略アクション」を掲げ、それぞれのテーマに対してどのようにアプローチしていくべきかを事例を交えて紹介した。

<1>企業競争力の源泉としての変革スピード強化

デジタル時代のビジネスはスピードとアジリティが勝負。戦略が正しくてもサービス提供や顧客/市場アクセスのスタートがわずかに遅れるだけで競争に負けてしまう側面があります。

しかし、大企業や成功体験のある企業ほど新しい挑戦をしようとしたときにブレーキがかかりやすい。長安はこの原因を「強いコア事業を持っている企業ほど意思決定スピードや既存/新規事業感での対立で身動きが取れなくなりがちであり、公平性・確実性重視の旧来型の人事制度等が更に検討推進の動きや足を引っ張っぱるため」だと話す。既存事業の成功体験が強いからこそ、既存事業の延長であり動き出しやすい「デジタルBPR型DX」に留まってしまい、それ以上の本質的なビジネス変革が生まれにくくなるのだ。

長安は同様の課題をトップダウンのDX戦略推進で乗り越えた、製造業A社の例を解説した。

主力製品が高いシェアを誇る製造業のA社では、既存事業が強いことから参入機会はあるにも関わらず新規ビジネスへの迅速な意思決定と進出がなかなか進まなかった。そこで、トップダウンで既存のビジネスモデルの強化と新たな事業を創出する両方を狙ったDX戦略方針を策定。特に難易度の高い新規ビジネス型を確実に実行するために外部からDX専門人材を招き、ゼロベースで推進組織を設計した。外部パートナーを活用して新規事業の企画、PoC/PoBを進める一方で、デジタル人材向けの制度の磨き込みと積極的な採用活動を展開し、社内の人材育成にも注力。外部パートナーからノウハウを獲得し、内製化を進めることに成功した。

これらの例は、日本の伝統企業においても適切な権限配置と組織設計をトップダウンで進め、外部に依存することなく先進人材を囲える制度を整備することでアジリティ高く新規事業を推進しながら、自社のコアとなるデジタル人材を内製化につなげる事ができた1つの成功事例と言える。

<2>人的資本情報のビジネスとの連携高度化

昨今、各企業には人的資本情報の開示が求められ、各社においてもどう情報を開示し、いかに最適な投資家コミュニケーションをとるかといった側面での検討が実施されつつある。しかし、ただこれらの情報を開示すること自体をタスクとして処理するだけでは意味がない。流麗なストーリー構成での説明が完成したとしても中長期的にはそれらを通じビジネスの成長にどうつながったのかが今後はより強く検証されていくだろう。その事を考えると中長期的なフォーカスはビジネスの成果を生み出すために自社はどんなデータを(開示情報以外においても)持続的に眺め、改善していく必要があるのかという検討がより重要となる。「自分たちの会社は本当に人材を生かせているのか」「社員の意欲やスキルを高めるために何をすべきか」等を考え、具体的な行動に落とし込むメカニズムを企業組織内に組み込まなければならない。

人的資本をビジネス成果につながる形で最適化し最大限に生かすためには、単にトップダウン・管理目線での人材ポートフォリオを管理するだけではなく、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチが不可欠だ。トップダウンによるアプローチだけでは、個人にとっては「会社がやれと言ったから」「自分には関係ない」という反応が生まれ、分断や上滑りが生まれやすい。いかに組織として必要な要件とボトムアップでの個人の自律的な伸びようとする力のベクトルが揃っているか、過不足が無いかと言う観点で一体的に人的資本情報の活用を進めていく必要がある。

<3>事業の多様化をマジメント可能なリーダーシップ強化

リーダーシップのあり方は時代によって変わる。過去の成功体験をもとにした旧来型のリーダーシップでは、変化に対応できない可能性がある。ある調査によると現在のリーダーシッププログラムに満足している経営者は全体の2割に満たないと言う。デジタルビジネスを牽引していくためには、スピーディーに意思決定ができる、多様性を前提とした新しいタイプのリーダーシップが必要だ。

新規領域開拓を担うリーダーの不足が課題となっていたB社では、デジタル変革を推進するために必要な要素を定義しリーダーシップモデルを刷新した。リーダーに求められる要素や能力は既存のコアビジネスと新規ビジネスでは異なることが識別されていたが、B社においては新規ビジネスの範囲がコアとの連携領域が主流となるという見極めから、次世代のリーダーシップはその双方を理解でき、マネージできることを求めていくプログラムとして強化を進めた。

強化を進める上で、現在の後継者プールの人材がどの程度デジタルビジネスに必要な強みを持っているのかリーダーシップアセスメントを通じた可視化を実施したところ、当初の通り、計画と確実な執行を強みとする人材中心であり、後継者プール時点で既存事業のリーダーの再生産に近い状況になっていることが可視化された。そのため、後継者プールの多様化及び、既存の強みを生かしながら求められるマネジメントの役割を習得する実践プログラム/プロジェクト機会提供を実施し、その求める要素、プールの多様化、ギャップの可視化、不足を強化するプログラムを一体的に実施し、組織を率いるリーダーがDXのボトルネックにならない構造を実現した。

<4>人材・スキルミスマッチへの対応・自律リスキリング

デジタル時代における戦う市場の広がりと参入障壁の低下は、かつてないほど各企業の事業構造変革の頻度とスピードを高めつつある。そのため、事業構造が変わることで求められる組織ケイパビリティや競争優位の源泉が変化していく一方、各企業組織の中においては「自分自身の仕事はあまり変わらない」と考えている従業員が取り残されていることで、「人材の人数は揃っているものの、質を加味した場合には人材が足りていない」という状況に陥りやすくなっていく。こうした人材のミスマッチは事業環境、テクノロジー、法制度等のさまざまな変数で発生するため、そのギャップをいかに最小化できるかという組織能力も重要な競争力の源泉となりうる。ギャップの解消においては短絡的なギャップがあるのでリスキリング研修といった単純な打ち手だけではなく、いかに自律的なキャリアを促進して支えるかといった、個人/組織両面での打ち手を実施し、新しい事業の方向性に合った質の高い人材の確保を進めることが必要だ。

ものづくりからデジタル領域に事業のコアをシフトしつつあるC社では、人材のスキルミスマッチが数千名規模で発生することが想定されていた。そこで、将来のビジネス像から必要な組織機能と求める人物像、スキルを定義して可視化。これらを社員に対して公開し、このギャップに対して組織として全面的にバックアップする機会を提供する事をコミュニケーションし、個人の自律的なキャリア形成を促進。キャリア探索サポート部門新設や教育・異動プログラムを導入する等の育成支援体制を整えた。個の成長を最大化する環境をつくることで組織力の強化につながったケースと言える。

<5>専門人材不足への対応

デジタル人材を含む高度専門人材はグローバル全体でニーズが高まっており、国や地域、業界を越えた人材獲得競争が繰り広げられている。これまで企業は比較的地理的に閉じた市場において人材を選ぶ立場であったが、これからは戦略的優位を生み出す人材から選ばれる要素を持つ企業となっていく事の重要性をこれまで以上に認識する必要がある。

こうした状況下で専門人材を確保するためには、企業目線ではなく働き手や従業員体験(EX)目線のアプローチで「この会社で働くことにどんな価値があるのか」というメッセージを伝えていかなければならない。仕事の魅力、成長機会、多様性等の従業員提供価値をしっかりと定義して、アピールすることが大切だ。この価値訴求は必ずしもすべての要素で満点を取る必要はなく自社ならではの磨き込みが必要となる。日本企業においては多くの場合、初任給等の報酬を中心とした訴求や組織自体のパフォーマンスが中心になりがちではあるが、冒頭の事例A社においては処遇レベルは程々だが仕事で取り扱うデータの中身やサービスの社会価値等の訴求で大手デジタル企業と人材獲得で競合するレベルを実現した。小手先や入口だけではない選ばれるための従業員体験全体をどう磨くのか、という視点でのアプローチによって差が出る事を認識する事が重要だ。

<6>社外/パートナー活用での組織ケイパビリティ迅速拡張

経営層や事業責任者、各部門リーダーが頭を悩ますテーマとして「組織内の人材だけでビジネスの要請に応えられない」という課題が多く発生する。これは量と質の両面から発生するが、事業環境変化の中でこのようなギャップを社内だけで吸収する事が現実的には困難な状態が今後も頻発する事を考えると、外部パートナーをいかに活用するかという戦略方針整理も重要となってくる。

パートナーに求められる要素はDXのステージによっても異なり、「デジタルBPR型DX」の領域ではツール導入支援を中心としたニーズが主になるが、その発展形である「バリューチェーン変革型DX」の領域に進んでいく場合には複数領域をまたぐため、テクノロジー・ビジネスの両方の視点を持つパートナー選定が必要となる。そのため、個別最適にならないようグランドデザインを含めて支援できる先を見据えたパートナリングの検討が必要だ。
「新規価値拡張型DX」の領域では、CX/UXデザイン、データドリブンでの付加価値模索等の専門性を持つパートナーが求められる。もっとも難易度が高い「ビジネスモデル再編型DX」を実現するためには、新規ビジネスを生み出す構想力やスピード、推進力を基準にパートナーを選ぶことが重要だ。

これらの市場ニーズに対応するためにさまざまなサービス提供が多数の企業から実施されているが、その際に避けたいのは、外部パートナーにほぼすべての業務を任せきりにしてしまう事である。これではプロジェクト終了後に社内にケイパビリティが残らない、もしくは延々と外部依存が続く構造に陥るリスクがある。社外パートナーに何を任せ、自社で何を担うのかをコントロールしながら各社のパフォーマンスを引き出し、中長期の視点でケイパビリティの内製化を進めることが重要だ。中長期的に各企業における内製化への道筋までを描ける誠実なパートナーと組むことが必要となる。

<7>変革を支える人事機能強化

これまでに紹介した戦略アクションを実行していくためには、戦略的人事機能の強化が必要となる。その一方で人事部門はその宿命として戦略機能と人事オペレーション機能と言う高度化と効率化という双方向に振れたミッションを持つことからその推進には悩みも深い。人事部門体制を効率化するためにスリム化したところ戦略機能を担う事がより難しくなったというような悲劇的な展開も変革アプローチを失敗した場合には発生しがちである。

また、各企業内での叩き上げの人事エキスパートが必ずしもデジタル時代に対応した組織・人材マネジメントに詳しい訳ではないという問題も根深い。全体としての人事・組織戦略を描かずに個別テーマに即した対応をする事や、単にツールを入れて終わりという状態にならないように注意する必要がある。

管理部門のコスト削減と戦略人事機能強化という課題を抱えたD社のケースでは、自社の成長戦略にもとづいて人事重点テーマを策定。人事業務のデジタル化を進めてコスト削減を図り、浮いた原資と人材を新たに立ち上げた戦略人事領域に投資することで人事機能強化を成功させた。このような形で正しいアプローチをとることで戦略的人事機能の強化と効率化をバランスさせることは可能であり、適切なパートナーと共にこれらの変革を進めていく事も全体の取組みの確度を上げていく事につながる。

組織・人事の強化は後回しにしてはいけない

長安が挙げた「7つの戦略アクション」はどれか1つのテーマだけに取り組むものではなく、自社の成長戦略に合わせていくつかのテーマを組み合わせ、複合的に進めていくものだ。長安は、改めて組織変革の重要性を説く。

「戦略やテクノロジーへの投資と比べて、組織や人材モデルの強化は後回しにされやすい領域です。しかし、企業の成長には不可欠なもので中長期的なパフォーマンスの差となって現れます。中長期視点で今何をやるべきかを整理し、正しいアプローチで実行していくことが大切です」(長安)

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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