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2024年4月30日展望を知る

コネクティッドデータ活用でクルマと社会を変革

自動車業界は100年に一度の変革期にある。鍵となるのは、クルマのソフトウェア化とコネクティッドデータの活用だ。本稿では、車両開発や自動運転、データ連携における変革が相互に影響しあいながら変化する自動車業界の未来を、トヨタ自動車とNTTデータの担当者が解説。コネクティッドデータと他業界のデータ連携における社会課題解決の具体事例や、さらなる変革の加速に必要な要諦をまとめた。
目次

クルマづくり・ビジネスモデル・脱炭素という3つの柱で変革が進む自動車業界

自動車業界の成長の鍵としてCX(顧客接点関連サービス)、MX(自動運転を主軸とするモビリティサービス)、EX(EVを主軸とするエネルギーサービス)の3領域を定義しているNTTデータ。NTTデータでモビリティ領域のThought Leaderを務める千葉 祐は、「自動車業界は日本の基幹産業であり、世界的に見ても他の産業の追随を許さない大きなマーケットです。だからこそ、非常に環境の変化が激しい」と指摘する。

その激しい変化を見据えて、NTTデータはどのようなForesight(展望)を描くのか。千葉はキーワードとして、『自動運転』、『ライドシェア』、『物流の2024年問題』、『OTA(Over The Air:無線通信による車両ソフトウェアのアップデート)』、『SDV(Software・Defined・Vehicle:ソフトウェア定義型自動車)』、『EVシフト』など、さまざまなキーワードを挙げる。

「NTTデータは、これらのキーワードから導かれる環境変化を、『クルマづくりの変革』、『ビジネスモデルの変革』、『脱炭素への変革』という3つの柱でまとめました。TESLAのようにソフトウェアのアップデートにより、購入後もクルマの付加価値を向上させるOTAを中核に据えたSDVが主流になれば、クルマづくり自体が変わります。また、Uberのようなライドシェアリングや、アメリカでは実用化している自動運転による無人タクシーなどは、クルマを使ったビジネスモデルそのものを変革します。そして、クルマは製造にも走行にもエネルギーを使うからこそ、脱炭素にコミットしなくてはいけません」(千葉)

図1:自動車業界を取り巻く環境

図1:自動車業界を取り巻く環境

クルマの変革には、もうひとつ、大きなキーワードがある。それは『コネクティッドデータ』の活用だ。コネクティッドデータとは、『コネクティッドカー(つながるクルマ)』から生まれるビッグデータのことをさす。トヨタ自動車 デジタルソフトウェア開発センター e-TOYOTA部 DSデータ事業推進室の室長、田村 誠氏は、「コネクティッドカーとは、無線通信モジュールを搭載した車両です。クルマをクラウドと接続することでお客さまにさまざまなサービスを提供するとともに、その車両から得られるコネクティッドデータが蓄積されます」と説明する。

コネクティッドデータの活用は、さまざまな交通課題・社会課題を解決できる可能性を秘めている。その活用の一事例に、NTTデータが取り組む『運転データを活用した脳の健康状態を推定するAI構築の実証実験』がある。

「kmタクシーやエーザイ、ゼンリン、トヨタなどと共創し、認知機能の低下に関してアプローチを行います」(千葉)

具体的には、実験対象者となる無作為に選定した65歳以上のkmタクシードライバー数十名に対して、エーザイが提供する脳の健康度をセルフチェックするツール「のうKNOW」でチェック。併せて、kmタクシーの所有する車両に設置したGPS機器から、速度、加減速状況などの走行データを取得する。脳の健康度データ、走行データに加えて、ゼンリンが提供する地図データ、交通状況や渋滞情報といったトヨタのコネクティッドデータを突き合わせて、認知機能の低下など脳の健康状態を推定するアルゴリズム(※)の開発を進めるという。

「本人に自覚がなく、周囲も気付いていない軽度認知症の段階において、運転という日常の行為からそのリスクを検知する。それができれば、早めの治療や薬の投与で、進行を防ぐことができるかもしれません」(千葉)

図2:コネクティッドデータ活用事例:運転データを活用した脳の健康状態を推定するAI構築の実証実験

図2:コネクティッドデータ活用事例:運転データを活用した脳の健康状態を推定するAI構築の実証実験

(※)

運転特性データを活用した脳の健康状態を推定するアルゴリズム構築の実証開始に関するニュースリリースはこちら:(https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/012400/

コネクティッドデータの活用で、モビリティカンパニーへの変革をめざすトヨタ

トヨタもコネクティッドデータ活用を推進している。

「トヨタは、自動車製造業からモビリティカンパニーへの変革をめざしており、その中でコネクティッド戦略を打ち出し、推進しています。戦略の柱は3つ。1つ目は全てのクルマをコネクティブ化すること。2つ目はコネクティッドカーから収集されるビッグデータを活用し、お客さまや社会に貢献すると同時に、トヨタ自身のビジネスの変革を推進すること。3つ目は、さまざまな企業と提携し、新たなモビリティサービスを創出すること。この戦略に舵を切ってから、すでにグローバルで累積2,000万台以上のコネクティッドカーを販売しています」(田村氏)

コネクティッドカーから収集されるコネクティッドデータは、『ナビプローブデータ』と『CANデータ』の2種類に大別される。ナビプローブデータは、クルマに搭載したナビゲーションシステムが生成する位置情報や速度情報など。CANデータは、走る・曲がる・止まるといったクルマの挙動、ワイパーやライトの作動といった車両挙動の情報だ。

図3:コネクティッドカーから収集されるコネクティッドデータ

図3:コネクティッドカーから収集されるコネクティッドデータ

「トヨタではコネクティッドデータを、車両設計の高度化・効率化、メンテナンスなどアフターサービスを含むお客さまに寄り添った自動車ビジネスの構築に活用しています。またコネクティッドデータを統計加工することによって、お客さまがより安全、安心、便利にクルマを使えるようなサービス・保険への活用、交通状況や道路状況の見える化などへの活用もでき、より良いモビリティ社会の構築に活用することを考えています」(田村氏)

トヨタとNTTデータが取り組むコネクティッドデータの活用事例

田村氏が語るコネクティッドデータが生み出す世界。そのいくつかを具体的な活用事例として紹介しよう。最初は、「渋滞情報」の事例。車両の位置や速度を道路ごとに統計加工して、平均速度・通過時間などを算出し、ナビゲーションシステムの渋滞情報やダイナミックルートガイダンスに使用している。最近は、CANデータによって、交差点付近の詳細な渋滞情報を生成する取り組みも始めており、ガイダンスや目的地に着くまでの時間の精度を高めている。

次に「防災・減災」の事例だ。トヨタでは、コネクティッドカーから得られた渋滞情報を統計加工して、災害発生時に車両が通過できた道を表示する『通れた道マップ』を展開している。災害時のクルマでの避難や物流などにも活用されており、先日の令和6年能登半島地震でも、多くのアクセスがあった。

図4:コネクティッドデータ活用事例:通れた道マップ

図4:コネクティッドデータ活用事例:通れた道マップ

『交通事故対策』の事例では、コネクティッドデータをもとに、急ブレーキや速度位置情報を分析し、道路上の交通事故に関わる危険箇所を可視化。自治体などに活用してもらい、交通事故対策の実施、また対策後の効果確認などを実施している。既に、愛知県において、分析結果をもとに危険交差点や危険箇所を改修した結果、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が作動した件数が大幅に減少したという結果も得られている。

一風変わった事例は、『道路状態検知サポート』だ。コネクティッドデータ、特にCANデータは、クルマに搭載された、さまざまなセンサーから情報を集めている。田村氏は、タイヤから挙がってくる情報について話を進める。

「タイヤの回転速度を分析すると、凸凹や荒れといった道路状態を検知できます。このデータを使えば、路面調査車両や専用機器で調査していた従来の路面調査より、効率的に道路状態を把握可能です。この技術は、国交省が展開しているNETISにも技術登録されています。また、路面凹凸検知の技術を応用し、冬季路面管理への活用検討も開始。路面状態の把握だけでなく、除雪計画・融雪装置設置計画や稼働監視などへの応用も検討しています」(田村氏)

最後の事例は、『車両データの自動車保険への活用』、いわゆるテレマティクス保険だ。急加速や急ブレーキなどのデータをもとに、ドライバーの運転をスコア化し、保険料算定や安全運転アドバイスに活用する。この運転スコアをお客さまに開示することで安全運転の行動変容を促し、従来の自動車保険に比べて約2割の事故削減につながったという結果も出ている。

図5:コネクティッドデータ活用事例:車両データの自動車保険への活用

図5:コネクティッドデータ活用事例:車両データの自動車保険への活用

コネクティッドデータを活用した新たな連携で、社会課題の解決に取り組む

ここまで、さまざまなコネクティッドデータの活用事例を紹介したが、田村氏はさらなる広がりについて、このように語る。

「CANデータによって、状態の推定や統計的傾向把握は可能になりました。今後は、カメラ画像データを組み合わせることで、さらに分析精度の向上をめざしていきます。交通危険箇所や道路の状態、気象状態などの可視化に留まらず、クルマの情報で見える化できるものが、まだまだたくさんあるはずです。コネクティッドデータを用いて、社会や地域、それを支える企業や市民の方々のご協力をいただき、社会課題の解決を一緒に進められればと考えています」(田村氏)

大きな枠組みの必要性を唱える田村氏の言葉に、NTTデータの千葉は、「一企業だけで解決できる社会課題はほとんどありません。従来のビジネススキームを越えて、新たな連携で社会課題の解決に取り組む必要があります。コンシューマーも含めた全員がWin-Win-Winの関係になれば、自ずとそれができるはずと考えています」と語る。

現在の自動車業界では、さまざまな領域でコネクティッドデータが活用されることで、新しい形の社会課題解決が広がりつつある。千葉は最後に、「大きな枠組みにさまざまな企業が参加するなか、その仲間たちをデータでつなぐことは、NTTデータの役割。ソフトウェア企業としてリードしていきます」と力を込めた。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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