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1秒でも早く救急患者を病院へ。ICTで救急医療に貢献した営業担当の挑戦

救急医療の現場では、1分1秒の差が命運を分けることもあります。その一方で、救急件数の増加により、患者が病院に搬送されるまでの時間は長くなっています。こうした問題を解決すべく、ヘルスケア事業部の三嶋は香川県にて新しい救急医療情報システムを考案し、大きな成果を上げました。今回はその舞台裏に迫ります。

目次

救急医療情報システムの利用率が下がっていた理由

三嶋 大二郎
第二公共事業本部 ヘルスケア事業部
第三統括部 救急医療ソリューション担当

前職の日系大手電機メーカーでも、医療関連のシステムやソリューションの営業に携わっていた三嶋。そのやりがいをこのように語ります。

三嶋 「もともと医療業界に強い興味があったわけではなかったのですが、関わってみると、すぐに自分に合う分野だと気づきました。システムで世の中に貢献しようと思ったら、これほどやりがいのある分野はありません」

やがて三嶋は、既存のシステムを提案するだけではなく、システム自体を考える仕事がしたいと考えるようになり、新しい舞台への転職を考え始めます。

三嶋 「実は当時、システム業界を離れることも考えていたんです。なぜなら、仮に製品に問題があって、お客さまに迷惑をかけることがあったとしても、営業という立場では製品の品質を左右できないから。大きなジレンマを感じていました」

転職先としてはメーカーなどの事業会社を中心に考えていたため、当初はNTTデータへの志望度は低かったといいます。しかし、当時の転職エージェントとの議論を経て、徐々に考え方が変わります。

三嶋 「エージェントから、NTTデータ以上に三嶋さんが自分らしく活躍できる会社はない、とまで言われて。そこまで言うのなら、と調べてみると、想像以上に広い領域で日本の情報システムを支えている会社だということが分かって興味を持ちました」

三嶋は、NTTデータであれば医療業界に対して商品・サービスの企画から営業に携わることができると確信し、入社を決意。現在のヘルスケア事業部に配属となり、香川県を担当することになりました。

元をたどると、弊社のヘルスケア事業部は、病院システムから始まり、すぐ後に救急医療情報システムが出来たそうです。救急患者の受け入れに利用されるシステムで、全国47都道府県での大多数への導入実績があり、日本の医療分野を牽引する重要な事業でした。

しかし三嶋が直面したのは、救急医療情報システムの利用率が下がってきているという現実でした。

三嶋 「もともとは病院側が受け入れ可否を入力するシステムだったのですが、入力の手間がかかり、しかも受け入れ状況は刻一刻と変わります。情報が参考にならないとなると、消防機関が見なくなり、ますます病院側が情報を入力しないという悪循環です。このままではいけないと誰もが思っていました」

入力の装置を変えるなど、表層的なことを行うだけでは根本的な解決になりません。そこで三嶋は、救急医療情報システムをフロー自体から抜本的に変革するプロジェクトに乗り出しました。

ユーザの声を起点に、革新的な次期システムを構想

NTTデータに転職して1年ほど経った頃、三嶋の頭の中にはあるアイデアが生まれていました。

三嶋 「病院側が情報を入力するというフロー自体を変えるべきだと考えていました。病院が患者を受け入れられるかどうか、という未来の情報ではなく、救急隊員が患者をどこに運んだのか、という過去の実績を一覧化するのが一番の近道になります」

しかし当時、NTTデータに対する香川県からの印象は芳しいものではありませんでした。長年に渡りNTTデータがシステム提供しているにも関わらず、システムの利用率が下がっていることから、三嶋は「香川県は再びNTTデータにシステムを任せてくれないのではないか」という思いを抱きました。実際に香川県が別のベンダーに頻繁に次期システムに対する提案を求めているという情報も耳にしていました。

普通のやり方では、まず状況をひっくり返すことはできません。そこで三嶋は大胆な方向転換を図ります。

三嶋 「県はあくまでもスポンサーであって、本当のユーザは消防機関や医療機関の方々です。良いものを作るにはユーザの声を聞かなければならない。そこで、消防機関や医療機関を集中的に回ることにしました」

三嶋は足繁く消防機関や医療機関を訪問し、関係を構築していきます。そしてある日、消防機関のお客さまから「デジタルペンを使いたい」という声をいただきます。ただし、デジタルペンを具体的にどう活用したいのかは、具体的なレベルにまで至っていませんでした。三嶋はひらめきます。

三嶋 「デジタルペンは、今まで温めてきたアイデアと結びつくと感じました。具現化すれば勝機がある、と」

次期システムの構想はこうでした。まず、患者の搬送実績を救急機関が入力するフローに変えることで、常に最新の情報を共有しながら搬送先を探せるようになります。そして、従来は救急隊員がアナログのペンで傷病者観察メモを記入していたものをデジタルペンに置換。手書き運用のままで電子化を実現します。

電子化した傷病者観察メモは、救急車が到着する前に医療機関に共有されることで、事前に状態を把握し、迅速な処置準備ができるようになります。

結果、入札までにシステムの全体像ができあがり、満場一致でNTTデータの受注が決定しました。県の担当者からは、「最大の勝因はあらゆる意味での情報収集力。現場の意見が提案書に凝縮されていた」と、NTTデータの提案を高く評価するコメントをいただきました。

ICTを活用して、国全体の医療に貢献したい

プロジェクトが本格始動してからも、三嶋は各所に奔走しました。

三嶋 「システムの細かい仕様を詰めるところまで私が直接関わりました。受注後も、お客さまからはさまざまな機能の要望をいただくのですが、それは本当に必要なのかと膝を突き合わせて話し合いました。私の経験上、何でもできるシステムは、何もできないシステムになってしまいます。必要な機能だけに絞り込んだ結果、非常にシンプルなインターフェースになりました」

その甲斐もあり、導入後の次期救急医療情報システムの利用率は100%。本当に現場に利用されるシステムとして生まれ変わり、香川県の救急医療にとってなくてはならないものになりました。

また、このシステムは各分野に対しても大きなインパクトをもたらしました。各医療学会では先進的な事例として発表されました。総務省の「救急業務のあり方に関する検討会報告書」ではICTの先端事例として取り上げられ、テレビでも紹介されました。

なぜ、このようなシステムを実現できたのか。三嶋はこう語ります。

三嶋 「システムを作る技術力の高さ、品質に対する責任感の強さなどもありますが、メンバーたちのモチベーションが高かったことも挙げられます。役に立つシステムを作りたいという想いを誰もが持っており、従来のシステムが使われていなかった状態に問題を感じていました。このプロジェクトで仕組みを変えて、真に価値のある救急医療情報システムを作りたい、と」

また、プロジェクトに関わったエンジニアたちは、今でも「面白いプロジェクトだった」と口々に語るそうです。

三嶋 「私のやり方は異端なのですが(笑)。上司に直談判をして予算をもらい、従来のプロセスにのっとらずに提案前の段階からシステムを作ってもらったんです。修正や改善は何度もお願いしましたが、エンジニアは最後まで付き合ってくれて、提案前に既に画面までできあがっていました」

そして三嶋は、次なるビジョンも見据えています。

三嶋 「次は香川県だけでなく、国を巻き込んだプロジェクトに挑みたいと考えています。例えば、AI・ビッグデータを活用した救急需要予測と救急車の最適配置がそのひとつです。データ分析によって、あらかじめ119番の発生場所を予測できれば、医療機関までの搬送時間も短縮できます」

ICTの観点から、医療に対して貢献し続けたい。三嶋の挑戦は、まだまだ終わりません。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです