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国内の議論も進む企業間データ流通インフラの実現構想
2023年11月21日展望を知る

国内の議論も進む企業間データ流通インフラの実現構想
~ウラノス・エコシステムが目指す国内産業界のデータ連携基盤~

企業や組織を跨る安全なデータ流通を実現するデジタルインフラ構想である「データスペース」は、欧州内の様々な産業界を中心に、その実現に向けた活動が推進されている。日本国内でも、企業間データ流通による社会課題解決と付加価値創出を目指して、産官学の連携によるプロジェクトが発足し、急速な進展を見せている。ウラノス・エコシステムと名付けられたこのプロジェクトについて、本稿では、アーキテクチャ構想を中心に、NTT DATAの見解と取り組みもまじえて紹介する。

目次

データスペースの取り組みは構想から社会実装に

製造業やエネルギー産業、医療、教育等、様々な分野で、多数の企業や組織による協業のもと、製品やサービスの開発や提供が行われています。そうした活動の中で、企業や組織は様々なデータを管理し、必要に応じてそれらのデータを取引先企業や顧客、業界を監督する当局等に共有します。近年では、脱炭素社会や資源循環型社会の実現に向けた社会課題や、目まぐるしく変化する世界情勢がサプライチェーンの安全性に影響を及ぼすといった経済課題に対応するために、企業間でのデータ共有の重要性はますます高まっています。

図1:社会環境の変化と企業間データ共有の重要性(※1)

図1:社会環境の変化と企業間データ共有の重要性(※1)

過去の記事(※2)でもご紹介したように、欧州では、様々な産業界で生成されるデータを安全に管理し、必要な相手に共有できる仕組みを整え、社会課題の解決や付加価値の創出を目指す、「データスペース(data space)」という概念を打ち出しています。欧州のデータスペース構想は、その実現を技術面で支えるGaia-Xプロジェクトを一つの核としています。データの管理を第三者のプラットフォームに委ねるのではなく、データスペースの参加者各々がデータを保持したまま、必要な相手に必要なデータを受け渡すという、企業あるいは産業界のデータ主権を保護できる連邦型のデータインフラを整備する方針が掲げられています。

Gaia-Xが定めるデータインフラの技術に関する共通要件を採り入れながら、欧州域内の各産業界でのデータスペース構築プロジェクトが次々と組成され、実装が進められています。2023年10月には、ドイツの自動車メーカなどを中心として推進されていた、自動車製造業データスペースCatena-Xが正式稼働を開始したと発表されており、データスペースの取り組みは構想段階から社会実装段階へフェーズを移そうとしているように感じられます。

(※1)図1で掲載している内容は、2023年11月13日にNTTデータグループが公開した、「グローバルデータ連携基盤に関するホワイトペーパー(2023年度版)」にも収録されています。

https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2023/111302/

(※2)DATA INSIGHT | 欧州で推進されるデータスペースとは?~データ共有の新しい潮流~

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2022/1104/

ウラノス・エコシステム:日本におけるデータ連携基盤構築に向けた活動が発足

安全な企業間データ流通のしくみを構築する取り組みは、欧州だけでなく、世界各国で重要性を増しており、日本においてもそれは例外ではありません。特に、国内外の多数の企業が携わる製造サプライチェーン等を考えると、業界内企業の包括的な巻き込みや越境データ流通の取り決め等のハードルが高く、各企業や業界団体の努力だけでは構築が難しいものです。

こうした課題感に対して、経済産業省は、2023年4月、産官学の連携に基づき、企業、業界、国境を跨いだデータ連携・利活用の実現を目指すイニシアティブとして「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」を発足させました(※3)。ウラノス・エコシステムの取り組みには、人流・物流DXと商流・金流DXという大きな2つのテーマが掲げられています。本稿では、2つのテーマのうち後者に含まれる「サプライチェーンデータ連携基盤」の構築に注目して、公表資料で示される内容等をもとにご紹介します。

ウラノス・エコシステムは、トラスト確保とデータ主権に基づく安全な企業間データ流通を実現することを原理原則に含んでおり、その点は欧州データスペース構想とも通底していると言えます。そうした方針に加え、大小様々な企業に向けた高いユーザビリティを備えることや、基盤に接続するアプリケーション事業者やサービス事業者が創意工夫を行うことで発展するエコシステムの基盤とすること等を目的とした、アーキテクチャを定義しています。なお、ウラノス・エコシステムが実現を目指すサプライチェーンデータ連携基盤のアーキテクチャ構想は、ガイドラインとしてIPA(情報処理推進機構)から一般公開されており、どなたでも確認できます(※4)

協調領域と競争領域に基づくレイヤ構造

ウラノス・エコシステムにおけるデータ連携基盤は、政府や業界団体等が担う協調領域と、産業界における競争領域とに峻別されたレイヤ構造をとります。

協調領域には、業界やユースケースの分野に依らず、企業間データ流通の共通機能を提供する「データ流通層」や、企業間データ流通に基づくユースケースを実装するにあたり業界別や分野別に備えるべき共通機能を提供する「連携サービス層」等が含まれます。

こうした協調領域の機能に接続するアプリケーションやユーザ企業システムは、競争領域に位置付けられます。競争領域では、アプリケーション事業者やユーザ企業により、協調領域が定めるルールやインタフェースに沿いつつ利便性や機能性等を追求した創意工夫が行われ、データ連携基盤全体としての発展につなげていく狙いがあります。

図2:サプライチェーンデータ連携基盤を構成する代表的なシステムの配置

図2:サプライチェーンデータ連携基盤を構成する代表的なシステムの配置

分散と集中のハイブリッド型のデータ管理

各企業が自社システムやアプリケーション等でデータを保有しながら、必要なデータを必要な相手に共有するというデータ流通のしくみは、堅確なデータ主権の確保につながります。一方で、各企業にとっては、自社のデータやその連携先企業を管理するための負担が大きくなります。

ウラノス・エコシステムでは、企業活動により生じる機密データは企業側で分散的に管理しつつも、企業間の取引関係の情報や規制対応のために集約すべき証跡等の最小限のデータについては、連携サービス層で集中管理する方針を採っています。連携サービス側で管理するデータの中にも、企業にとっては第三者に公開されるべきではないものが含まれるため、高度なアクセス制御や企業毎にデータストア領域を分割するなどの工夫で、データ主権を確保します。

図3:データの種別や用途に応じたデータ管理方針

図3:データの種別や用途に応じたデータ管理方針

国外データスペースとのデータ交換

ウラノス・エコシステムは、日本国内で産官学連携により企業間データ流通インフラを整える取り組みですが、サプライチェーンが国際的に開かれていることを考えると、国外のデータスペースに参加している企業とのデータ交換も必要となります。

ウラノス・エコシステムは、国内企業がデータを流通させる際に用いる軽量なインタフェースをデータ流通層に実装するとともに、外部のデータスペースとのデータ交換を担うインタフェースを、別途設ける設計としています。データモデルや識別子体系、データ主権確保に関するポリシ等は、ウラノス・エコシステムと外部のデータスペースとで異なる可能性があるため、そのインタフェースが差分を吸収しながら相互のデータ交換を行う役割を持ちます。

こうした外部データスペースとのデータ交換のインタフェースは、例えば、Catena-Xが採用するEDC(Eclipse Dataspace Components)のコネクタと技術的な互換性を備えたものとして開発したり、各種のコネクタ技術間での相互運用性に関する国際的な議論を踏まえた標準仕様に沿って開発したりする方針が考えられます。(※5)

図4:データ流通システムが提供する2種類のインタフェース

図4:データ流通システムが提供する2種類のインタフェース

(※3)経済産業省| Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/ouranos.html

(※4)独立行政法人 情報処理推進機構 | サプライチェーン上のデータ連携の仕組みに関するガイドライン(蓄電池CFP・DD関係)

https://www.ipa.go.jp/digital/architecture/project/btob/scdata-guidline.html
なお、本稿は、2023年10月12日に公開された本ガイドラインα版の内容等に基づきます。

(※5)EDCやコネクタの標準仕様等については、以下の記事で紹介しています。
DATA INSIGHT | データスペース技術動向 ~Eclipse Dataspace Components(EDC)とDataspace Protocol~

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2023/1030/

NTT DATAの取り組みと今後の展望

NTT DATAは、ウラノス・エコシステムが実現を目指すサプライチェーンデータ連携基盤の開発・実証事業に参画しており、業界や分野を横断して利用できるデータ流通システム等の開発を担っています(※6)。また、ウラノス・エコシステムの最初のユースケースである自動車業界のバッテリートレーサビリティにおいて、連携サービス層(蓄電池のトレーサビリティ管理システム)の開発事業にも採択されており、2024年度の運用開始を目指して開発と実証を進めています(※7)

ウラノス・エコシステムの開発・実証事業に参画するに際し、NTT DATAは、これまで研究を進めてきた欧州データスペースに関する技術知見を活かすことで、国内産業界としてのデータ主権確保と国際的なデータ流通の両立を目指すとともに、ここで開発したしくみを他業界、他ユースケースに展開していく活動にも取り組み、企業間データ流通に基づくエコシステムの形成に貢献していく考えです。

日本のウラノス・エコシステム、欧州の各種のデータスペースプロジェクト、そして日欧以外の国・地域においても、企業間データ流通インフラの整備や、それらの国際的な相互連携に向けた取り組みが、今後ますます進んでいくと考えられます。企業同士が真正性と安全性を確認しながらデータを相互に共有できる社会インフラが実現した先では、どのような課題が解決され、どのようなコラボレーションが生まれるでしょうか。企業のデジタルトランスフォーメーションと合わせて、産業界全体のデジタルトランスフォーメーションの基盤となりうるデータスペースの動向に、引き続きぜひご注目ください。

(※6)NTT DATA | 企業や業界、国境を跨ぐデータ連携基盤構築に向け、「ウラノス・エコシステム」に関する公募事業に採択

https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/101301/

(※7)NTT DATA | サーキュラー・エコノミーを実現するバッテリートレーサビリティプラットフォームを構築 ~経済産業省の「無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業(健全な製品エコシステム構築・ルール形成促進事業)」に採択~

https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2023/101600/

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