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2024年5月14日展望を知る

創薬イノベーション進展のカギは「医療ビッグデータ×次世代AI」
~日本中の医療データを集めた創薬プラットフォームで海外メガファーマ勢に対抗~

ビッグデータの利活用によるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、医療やライフサイエンス領域において大きな変革をもたらす。特に創薬については、医療ビッグデータと次世代AIを組み合わせることで“超効率化・生産性向上”の実現が可能になる。そのような徹底した「創薬DX」にこそ日本の製薬業界がグローバルで勝ち抜く道があると語る京都大学の奥野恭史教授と、その方向性を見据えたサービス展開を始めているNTTデータ、それぞれが考える「創薬DX」を起点とした製薬ビジネスの未来像について語り合った。
目次

創薬DXを進めることで製薬業界の常識を覆す

京都大学 大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 ビッグデータ医科学分野 教授 奥野 恭史 氏

京都大学 大学院医学研究科
人間健康科学系専攻
ビッグデータ医科学分野 教授
奥野 恭史 氏

DXの著しい進展を背景として、近年の医療・製薬業界では「患者中心の医療」が重要なキーワードになっている。そうした中で、製薬企業が果たす役割やそれに対する期待はますます大きくなっていくと考えられる。患者中心の医療体験「MX(Medical Experience)」の革新を提唱するNTTデータも、製薬業界のDXに大きな可能性があるとして、画期的な創薬による既存バリューチェーンの革新と、予防から予後までの新たなバリューチェーンの構築に乗り出している。

一般的に、新薬の開発には、1,200億円の開発費用と10年以上の期間を要し、それでも成功確率は2.5万分の1以下にすぎないというのが実情である。製薬業界は長年にわたってそうした課題に苦慮してきたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、その常識を一気に覆した。パンデミック(世界的大流行)という特殊な事情があったとはいえ、開発から約1年間でワクチンと治療薬が人々に投与されたことは大きい。

今後コロナ禍における新薬開発のスピード感を常識に変えていくためには、生産性向上のための「徹底的なDX化」が必要だと京都大学の奥野恭史教授は言う。

「創薬プロセスには、ターゲット分子やリード化合物の探索、最適化、バイオアッセイ、前臨床試験、臨床試験といくつもの段階がありますが、個々の部門にAIアプリケーションを導入したところで、実際にはそれほどのスピードアップにはなりません。重要なのは、それぞれの部門をシームレスにつなぐことであり、そのためには創薬DXのプラットフォーム化が不可欠です」

創薬プロセスをつなぎAIが自動で化合物を生成

理化学研究所や京都大学による研究グループは、創薬プロセスの中でも、アカデミアでの開発実績が高い段階のプラットフォーム化を手がけた。病気の原因となるターゲット分子(異常タンパク質)を探索する部門、それを抑えるリード化合物をデザインする部門をそれぞれ自動化するシステムを開発し、さらに部門間をつなぐ半自動計算フローの構築に成功している。

一例を示すと、COVID-19感染の重症化メカニズム解明と創薬ターゲット探索への応用では、まずウイルス感染細胞から実験的にmRNAデータを取得する。それらの網羅的mRNAデータに基づいて、AIが軽症と重症化における生体内の遺伝子ネットワークの変化を推定。さらにスーパーコンピューター「富岳」を用いてウイルス増殖に関わるタンパク質の作用を抑える化合物を探し出す。コロナ禍当時に、このようなシミュレーションを行うことで、約2,000種類の既存薬の中からウイルス増殖を抑える候補薬を見つけ出した。

さらに、急速に発展する生成AIのシステムを使うことで、化合物を自動でデザインさせることが可能になる。例えば、ある病気に関するターゲットとなるタンパク質の配列を入力すると、そのタンパク質に結合する化学構造を自動でデザインすることができる。システムの裏側では、生成AIがものすごいスピードで化学構造を次々にデザインし、そのたびにターゲット結合活性やADME(薬物動態)を予測。生成AIによるデザインと活性予測を何度も繰り返すことで最終的に最適な化合物を自動デザインするシステムだ。

「こういったシステムは世界中で研究されていますが、私たちの予測技術は世界レベルです。標的タンパク質を探す予測精度については、先行研究では60%くらいだったのに対して、私たちのシステムでは約80%の結果でした。化合物をデザインするAIもオリジナルなもので、世界で最も精度が高いといわれているものよりもさらに高精度でした」と奥野教授は自信をのぞかせる。

AI技術はIT企業に任せて製薬企業は創薬に注力する

とはいえ、個々の部門のAIアプリケーションを開発しつつ、それらをつないで同期させるシステムを作り上げることは容易ではない。しかも、AI技術は極めて進歩が速く、その都度、すべてのアプリケーションをアップグレードして、それを何年にもわたって継続していくとなると、製薬各社が独自に開発し続けることは実際的ではない。

それに対する現実的な解として、奥野教授は業界共通のプラットフォームを構築して、各社がシェアしながら使っていくことを提案している。「日本の製薬企業は、米国のメガファーマに比べて規模も所有データ数も数十分の1程度ですから、1社単位ではとても戦えません。製薬企業は創薬の部分で勝負し、AIやプラットフォームについてはその道の専門家に任せればいいのでは」と奥野教授は語る。

株式会社NTTデータ 第二インダストリ統括事業本部 製薬・化学事業部部長 関根 志光

株式会社NTTデータ
第二インダストリ統括事業本部
製薬・化学事業部部長
関根 志光

具体的な取り組みとしては、2016年11月に、京都大学、理化学研究所、ライフ系企業、IT系企業など約125企業・団体が参画するライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)が発足し、創薬AIの開発を進めてきた。参画する製薬企業は、自社のデータを外部に持ち出すことなく、組織内においたままAIモデルパラメータのみを送受信することでAIを学習させ、賢くなったAIを利用できる。競合しながらも協調してAIを構成する連合学習という仕組みだ。

しかし、ここまでできてもまだ新薬の登場には至らない。最終的にはヒトに効くことが確認できなければいけないので、ここから先はヒト臨床試験につなげる仕組み作りが重要になる。中でも臨床に基づく医療データが肝となるわけだが、臨床データは個人情報の最たるものであり、取り扱いが一段と難しい。NTTデータが展開するRWD(Real World Data)(※1)提供サービスは、まさにそこに風穴を開けようとしている。

NTTデータは、国内で初めて認定医療情報等取扱受託事業者の認定を受け、次世代医療基盤法に基づいて「千年カルテ」(※2)という事業を展開し、連携する医療機関から預かった180万人分を超える膨大な症例データの匿名化処理などを行い、製薬企業やアカデミアに提供している。「最近はさらにデータの蓄積が進み、創薬での千年カルテの利活用が活発になっています。製薬業界におけるRWDへの期待の高まりを感じます」とNTTデータの関根志光は語る。

(※1) RWD:

保険請求データ、電子カルテデータなど、実際の医療を通じて生み出される医療情報

(※2) 千年カルテ:

https://www.ldi.or.jp/

オールジャパン体制でのプラットフォーム化を

製薬DXが進むにつれ、計算リソース次第でAI格差が広がっていくことになる。そんな中で日本の製薬企業が強みを発揮するには、IT企業と連携し、日本のメーカーならではのノウハウを学習させることで賢いAIを開発していくことが必要だ。

ただし、AI性能向上に必要となる学習データの提供に当たっては、慎重な“日本企業らしさ”が足かせになってしまうことがある。「自社の重要なデータを外に出す必要のない“連合学習”(※3)のような仕組みも生まれています。しかし、新しい取り組みは社内で抵抗されかねませんから、成功事例となるエビデンスを示して納得してもらう必要があるでしょう。創薬DXはすごいスピードで変化しつつ、かなり長いフローになっていくものですから、大丈夫だと確認してからでは手遅れです。ハイスピードで走りながら、成功事例をどんどん出していくくらいの勢いでやっていかないと世界とは戦えません」と奥野教授は語る。

また、AIの学習におけるRWDの重要性についても触れ、実際の臨床データを創薬AIにフィードバックすることでより効果的な創薬につながるという。だからこそ、最初から最後まで、全部をつなぐプラットフォームが必要になる。

「つなぐのはプロセスだけでなく、国内の産業界全体です。NTTデータのような多くの知見・経験を持つ企業からカッティングエッジな技術を持つベンチャーIT企業までが一丸となって、願わくはメイド・イン・ジャパンで製薬業界を盛り上げていきたいと思います」と奥野教授は業界全体に向けてエールを送った。そうして自らも共にチャレンジしていく姿勢を示し、オールジャパン体制で創薬DXを進めていくことの大切さを強調した。

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  • 1.創薬研究に関する環境変化とデジタル化
  • 2.NTTデータの目指す創薬研究の未来
  • 3.実現に向けた課題と変革ポイント
  • 4.NTTデータの事例・取り組み

NTTデータが考える医療・製薬のDXに関する詳細はこちら

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

(※3) 連合学習:

学習データセットが分散している環境での機械学習モデルの学習法。分散しているデータを1カ所に集めずに、秘匿性を保ちつつ、AIの学習によって得られたパラメータのみを統合する機械学習の方法

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