人では発見が困難な匂いの合成パターンを探索する手法を開発

トピックス

2024年1月25日

株式会社NTTデータグループ

株式会社NTTデータグループ(以下、NTTデータグループ)は、株式会社香味醗酵(以下、香味醗酵)と共同で、従来手法では発見が困難な匂いの合成方法を効率的に探索する手法を開発しました。デジタル化した匂いデータとイジングマシン注1による組合せ最適化を用い、シナモンの香りを再現する従来とは異なる合成パターンを発見しました。
一般的に人による匂いの合成では、作りたい匂いの主要成分を中心に他の成分を組み合わせるのが基本的な方法です。しかしこの方法では特定の匂いを再現するための合成パターンが限られてしまいます。今回、イノベーションセンタ注2の量子コンピュータ/次世代アーキテクチャ・ラボ注3が保有するイジングマシンの活用ノウハウを用いて、主要成分を含まない合成パターンを発見可能な新たな手法を開発しました。本手法により、合成の自由度が高まるだけでなく、少ない成分から多くの匂いを生み出せる効果も期待できます。
この手法を利用して両社は、ヘルスケア分野に向けたより安全・安心な香料の合成や、より少ない原材料で豊富な香りをオフィス空間などに届けるサービスの提供など、さまざまな匂いビジネスを検討していきます。さらに今後両社は、香料開発の効率化・高度化だけでなく、映像産業やメタバースへの匂い情報の実装などを含めた新たなビジネスの開拓に取り組み、2025年までに10件以上の匂いに関するビジネス創出をめざします。

背景

昨今、食品、ヘルスケア、医療、メタバースなど、さまざまな業界で匂いを活用したビジネスが検討されています。このような新たなビジネスニーズに応えるために、NTTデータグループ、香味醗酵、および日本電信電話株式会社(以下、NTT)は、2022年11月より香味醗酵が保有する数百種類の匂い成分から最適な組み合わせを計算することで、少数の匂い成分でさまざまな匂い・香りを瞬時に再構成する実機検証を行ってきました注4。さらにこれらの実験結果を踏まえ、NTTデータと香味醗酵は2023年4月にパートナーシップ契約を締結し注5、ビジネス応用に向けた検討および、実問題への適用に向けた技術開発を進めてきました。本件は同パートナーシップ契約に基づき取り組む「少数の匂い成分から膨大な匂い・香りを作り出す組合せ最適化に関する」共同実験の成果です。

新手法の概要

匂いビジネスを実現するには、単に匂いが近い成分を用意して合成すれば良いわけではなく、安全性への配慮や豊富な匂いを低コストで合成するなど、さまざまな要件を満たす必要があります。現在、一般的に実施されている匂いの合成方法には定石のようなパターンが存在しますが、これらの定石とは外れたパターンの中にも目的に合致するものが存在する可能性があります。これらを探索できればより目的の匂いに近い合成パターンの発見や、特定の匂いを合成するパターンの自由度向上、本研究のテーマである少数の匂い成分から膨大な匂い・香りを作り出すことなどが期待できます。
これまでの手法では発見が困難なパターンを効率的に探索するため今回、イジングマシンを用いた手法を検討し、実際にシナモンの香りを題材に、新たな合成パターンを発見できることが確認できました。探索精度を高めるために以下の改善を行っています。

匂い成分の組み合わせと濃度を同時に最適化

「匂い再構成モデル」に、新たに香料濃度を考慮するモデルを追加することで、同じ香料の組み合わせに対して濃度の違いまで考慮した新たな再構成パターンを出力することが可能になりました。

定石とは異なるパターンの探索

組み合わせ計算に利用しているイジングマシンは、1つの最適な答えを出すだけでなく、パラメーターを調整することで、膨大な組み合わせの中から、素材の組み合わせや合成濃度が全く異なる複数の答えの候補を出力することも可能です。このような特長を利用して、定石とは異なる再構成パターンを効率的に発見することが可能になりました。

複数の匂いパターン候補を出力

実際に匂いの合成を行う際には、匂いだけでなく、匂い成分の安全性やコストなど、ビジネス上の制約条件を考慮する必要があります。このようなビジネスプロセスを効率的に実施するために、イジングマシンの高速性を用いて、いくつかの再構成パターンを高速に提示できる仕組みを構築しました。

図:匂いの合成パターンの探索イメージ

図:匂いの合成パターンの探索イメージ

今後について

今後両社は、香料開発の効率化・高度化だけでなく、匂いの転送技術を用いたビジネス開拓に取り組み、リアルタイムな合成を用いた、映像産業や音楽配信に付加したデジタルコンテンツの提供、メタバースや映画等への匂い情報の実装、人間の生理活性に応じたフレーバーの提供、臭気検査など人の嗅覚が必要な作業の自動化や遠隔管理など、広範囲なビジネス分野での応用を行う事で、2025年までに10件以上の匂いに関するビジネス創出をめざします。

注釈

  • 注1イジングモデルと呼ばれる数式を解くことが可能なコンピューター。量子アニーリングマシンなどもイジングモデルの一種に分類される。
  • 注2NTTデータグループは、中期経営計画において掲げる技術戦略において、技術の成熟度に応じたEmerging、Growth、Mainstreamの3つの領域における活動を推進しています。2022年8月に設立したイノベーションセンタはEmerging領域の活動であり、量子コンピューター、メタバースなど5~10年先に主流となる先進技術を見極め、お客さまとの共創R&Dを通し新たなビジネス創出に取り組んでいます。大学やスタートアップとも連携することで、各国で先行する技術情報をいち早く収集し世界トップクラスの先進技術活用力の獲得をめざします。
    参考:グローバル6カ国に「イノベーションセンタ」を設立
    https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2022/081900/
  • 注3NTTデータグループは、2023年4月に当社イノベーションセンタによる先進技術導入支援サービスにおいてコンサルティングサービス「量子コンピュータ/次世代アーキテクチャ・ラボ」の提供を開始しています。今回の取り組みは、その一環として実施している香味醗酵との共同実験の成果になります。
  • 注4少数の匂い成分から膨大な匂い・香りを作り出す組合せ最適化に関する実験開始
    ~匂いの再構成技術開発による香料開発の効率化・高度化を目指して~
    https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2022/110200/
  • 注5組合せ最適化技術を活用した匂い再構成技術に関するパートナーシップ契約を締結
    https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/032700/
  • 文章中の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。

本件に関するお問い合わせ先

株式会社NTTデータグループ
技術開発本部
イノベーションセンタ
E-mail:qcomputer@kits.nttdata.co.jp

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