消臭剤製造期間を従来比95%削減する新たな消臭成分調合手順を開発
~250種類の悪臭データベースと数理最適化技術により匂いのデジタル化を実現~
トピックス
2024年8月30日
株式会社NTTデータグループ
株式会社NTTデータグループ(以下、NTTデータグループ)は、株式会社香味醗酵(以下、香味醗酵)の悪臭データベースの情報とNTTデータグループの数理最適化技術を用いて、悪臭に効果的な消臭成分を調合する手順を開発しました。2024年4月~2024年7月までに行った共同実験では、本調合手順により消臭剤の開発期間を従来の約1年半から最短1ヵ月に短縮することができました。
両社は本調合手順を利用し、家庭やオフィスの悪臭対策に加え、工場などで使用される悪臭を放つさまざまな素材の匂いに対する消臭剤開発を効率的に実施し、匂いに課題をもつ環境の改善に貢献します。将来的には、悪臭の消臭だけでなく、ヘルスケア分野や映像産業など新たな匂いを作り出すシーンで本調合手順を適用するなど、2025年までに10件以上の匂いに関するビジネス創出をめざします。
背景
昨今、食品、ヘルスケア、医療、メタバースなど、さまざまな業界で匂いを活用したビジネスが検討されています。新たなビジネスニーズに応えるために、NTTデータグループ、香味醗酵、および日本電信電話株式会社(以下、NTT)は、2022年11月より香味醗酵が保有する数百種類の匂い成分から最適な組み合わせを計算することで、少数の匂い成分でさまざまな匂い・香りを瞬時に再構成する実機検証を行ってきました注1。2023年4月には、NTTデータグループのイノべーションセンタ注2は香味醗酵とパートナーシップ契約を締結し注3、ビジネス応用に向けた技術開発を進めています。本件は同パートナーシップ契約に基づき取り組む共同実験の成果です。
また、匂いに関連する産業の中でも悪臭対策へのニーズは高く、一般消費者向けのペット用品やトイレタリー事業などに限らず、ビジネスにおける快適なオフィス環境の保全、特殊な素材を扱う工場における特定の匂いの改善など、さまざまなシーンでの需要が考えられます。一方で、人間が悪臭であると感じる化合物は、300種類ともいわれており、これらに対応する消臭成分(アンタゴニスト)には相性があり、効果を打ち消してしまう化合物の組み合わせも存在します。さらに、使用する消臭成分の安全性や材料コストなど、最適な消臭効果を得るためにはさまざまな要件を満たす調合方法を算出する必要があります。
技術概要
NTTデータグループと香味醗酵の共同実験の結果、香味醗酵の匂いのデジタル化技術とNTTデータグループの数理最適化技術を用いて、消臭剤開発における匂いのデジタル化に成功しました。具体的な技術概要は以下の通りです。
悪臭250種のデータベースを構築
香味醗酵の匂いの測定技術を用いて、悪臭250種の測定を行い、それぞれの悪臭に対応する消臭成分(アンタゴニスト)を突き止めることで、悪臭データベースを構築しました。今後は残る50種類のデータベース化にも着手予定です。
相性を考慮した消臭成分の組み合わせ技術
消臭剤開発では、同じ嗅覚受容体注4に反応を示す化合物を複数混合する必要があります。この時、化合物同士の相性によっては、悪臭を強く感じてしまう調合結果となる可能性もあります。NTTデータグループと香味醗酵の異なる分野の強みを共同で適用することで、このような相性を考慮した適切な組み合わせを見つけ出す技術を開発することに成功しました。
コスト・安全性考慮の数理モデル開発
悪臭は、悪臭データベースに存在する複数の成分が関与していることが多く、またそれらの濃度に対してもN倍の濃さに対してN倍の反応になるわけではないため、対応する消臭成分の組み合わせや濃度の候補は膨大な数になります。このような多くの組み合わせの中から、効果だけでなく、コストや安全性など、複数の側面から適切であると判断する数理モデル群を開発しました。
本技術により得られる効果
従来の香味醗酵の消臭剤開発の手順は、以下の4つのフェーズに分けられます。
- フェーズ0:悪臭捕集条件の検討・捕集
- フェーズ1:悪臭に応答するヒト嗅覚受容体の特定
- フェーズ2:消臭候補化合物のスクリーニング
- フェーズ3:製品処方による効果の検証
従来の消臭剤開発では、フェーズ0とフェーズ1で数ヵ月、フェーズ2で3ヵ月、フェーズ3で数ヵ月~1年かけており、全体で1年~1年半かかっていました。今回、香味醗酵が作成した悪臭データベースにより、フェーズ0とフェーズ1は1週間ほどに短縮できます。また、NTTデータグループが開発した手法により、フェーズ2を1週間ほどに、フェーズ3を数週間ほどに短縮することができます。このように、NTTデータグループと香味醗酵の技術により、消臭剤開発に要する期間を最短1ヵ月に短縮することができます。
今後について
今後NTTデータグループは香味醗酵と連携し、消臭剤開発の効率化・高度化だけでなく、遠隔地で同じ匂いを共有できる匂いの転送技術を用いたビジネス開拓に取り組み、匂いの転送・調合の高速化によるリアルタイムな合成技術を開発し、映像産業や音楽配信に匂いを付加したデジタルコンテンツの提供、メタバースや映画などにおける視覚と聴覚への情報以外に嗅覚に対しても訴えかける情報伝達の実装、人間の生理活性に応じたフレーバーの提供、臭気検査など人の嗅覚が必要な作業の自動化や遠隔管理など、広範囲なビジネス分野での応用を行う事で、2025年までに10件以上の匂いに関するビジネス創出をめざします。
注釈
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注1
少数の匂い成分から膨大な匂い・香りを作り出す組合せ最適化に関する実験開始
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2022/110200/ -
注2
NTT DATAは、中期経営計画において掲げる技術戦略において、技術の成熟度に応じたEmerging、Growth、Mainstreamの3つの領域における活動を推進しています。2022年8月に設立したイノベーションセンタでは、EmergingとGrowth領域の活動を実施しており、量子コンピュータ、デジタルヒューマンなど5~10年先に主流となる先進技術を見極め、お客さまとの共創R&Dで新たなビジネス創出に取り組んでいます。大学やスタートアップとも連携することで、各国で先行する技術情報をいち早く収集し世界トップクラスの先進技術活用力の獲得をめざしています。
参考:グローバル6カ国に「イノベーションセンタ」を設立
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2022/081900/ -
注3
組合せ最適化技術を活用した匂い再構成技術に関するパートナーシップ契約を締結
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/032700/ - 注4 人間が匂いを感じる際に反応する細胞内のセンサーの役割を担う部分を嗅覚受容体と言います。人間は、約400種類の嗅覚受容体により匂いをかぎ分けており、香味醗酵は世界で初めてこの嗅覚受容体をセンサー化し、各受容体の匂いに対する経時的な応答波形を匂いコードとしました。
- 文章中の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。
本件に関するお問い合わせ先
株式会社NTTデータグループ
技術革新統括本部
Innovation技術部
伊井、矢実
E-mail:qcomputer@kits.nttdata.co.jp
TEL:050-5546-6290