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2022年7月15日トレンドを知る

脱炭素への新たな道を示すブルーカーボン

2050年カーボンニュートラルを国として目指す中で、企業や自治体は脱炭素化への対応を求められており、今後もその動きが加速していくことが予想される。その対応策の一つであり、新たなCO2吸収源対策として注目されるブルーカーボンを紹介したい。

目次

吸収源対策として注目を集めるブルーカーボン

ブルーカーボンとは、「藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素」のことで、対象生態系としては海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林が挙げられます。
今までCO2を吸収すると言えば、森林、農地土壌炭素といったものをイメージしたと思いますが、実は森林が人類の活動による二酸化炭素(CO2)の12.5%を吸収しているのに対して、海では30.5%を吸収していると言われています(残りの57%は大気中に放出)(※1)。図1の通り、今後森林のCO2吸収量は頭打ちになることが予想される中で、大きな吸収ポテンシャルを持つブルーカーボンが今後の吸収源対策として注目されているのです。特に、海洋国家である日本としてはポテンシャルが大きいと考えられているため、2050年カーボンニュートラルを国として目指す上で無視できないものになることは間違いありません。

図1:浅海生態系におけるCO2吸収量の全国推計値とその他吸収源の値との比較 (出典:桑江ら、2019 土木学会論文集)

図1:浅海生態系におけるCO2吸収量の全国推計値とその他吸収源の値との比較
(出典:桑江ら、2019 土木学会論文集)

しかし、世界各国の温室効果ガスの排出量状況として示される国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局の温室効果ガスインベントリ(※2)算定におけるブルーカーボンの扱いは、各国において検討や経験が十分でないことから、現在のところ「任意算定」となっており、日本は現時点ではブルーカーボンを算定対象としておりません。ポテンシャルがあるにも関わらず、実質吸収源対策として認められていないのです。
一方、任意算定の状況下でも、現時点でオーストラリアと米国等ではIPCC湿地ガイドラインに沿ってブルーカーボンの算定やUNFCCC事務局への報告を開始しています。そして日本でも2020年に制定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にて、ブルーカーボンについて「カーボン・オフセットの検討を行う」と記載がありました。ブルーカーボン・オフセットとはブルーカーボンによるCO2吸収・固定の効果を企業などが環境価値として買い取り、企業などが排出するCO2と相殺する仕組みであり、詳しくは後述します。現在国土交通省や農林水産省を中心にブルーカーボンの取組推進における検討が進んでおり、将来的には吸収源として認められていくことが予想されます。

(※1)日本マリンエンジニアリング学会誌 第52巻 第6号(2017)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime/52/6/52_695/_pdf

(※2)

温室効果ガスインベントリは一国が一年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータのこと。各国における温室効果ガス排出量を把握するために作成。

実用化への課題とは?

現時点でブルーカーボンの実用化において大きな課題が2つあります。
まず1つ目が藻場の造成技術を高めることです。現在地球温暖化により海水温度が上昇し、各地で海そう類が減少・消失してしまう磯焼けが問題となっています。ブルーカーボンを活用するにも、海そう類が育たなければCO2を吸収することは出来ません。こうした藻場の変化の実態を把握し、減少した藻場を回復させるため、気候変動による環境変化に適応した新たな藻場造成技術が必要となります。また、藻場は多くの生物の産卵や隠れ場としての機能、過剰な栄養塩を取り込む水質浄化の機能などを有しているため、藻場造成は漁獲量増加といった漁業関係者のメリットに繋がります。

そして2つ目がブルーカーボンによるCO2吸収量を精緻に算出することです。森林と違ってまだブルーカーボンは国際機関や国に正式に認められた吸収量の算定式がない状況です。その理由としては、海そう類にはいくつか種類があること、生育環境によってCO2吸収量が異なることが挙げられます。また、CO2吸収量のモニタリングにおいても、海中環境での計測に課題が多く、手法が確立されていません。今後CO2吸収量を算出し、インベントリとして報告するためには、算定方法に関してある程度の正確性が必要とされます。そのため、現在国立研究開発法人水産研究・教育機構にて、全国のすべての藻場タイプの吸収係数の設定や新たな面積算定手法の構築を目標として研究が進められています。

NTTデータでは、こうした国の活動の一助となることを目指して、今年の2月に熊本県上天草市にてブルーカーボンのCO2吸収量算定の簡易実証を実施しました(※3)。実際に上天草市にあるアマモ場にてアマモを採取するとともに、空中ドローンを使用してアマモの生育面積を算定しました。実証を通して、空中ドローンを活用したモニタリング手法の、観測時に気候の影響を受けやすいこと、海面の画像のみでは種別の判別や密度(被度)の特定が難しいといった課題が浮き彫りになりました。面積を正確に算出するためには、実際に海中に潜り、海そうの種類の特定や密度の確認が必要と考えます。しかし、ダイバーの手配や海中ドローンの活用などに関してはコストがかかることもあり、より安全で安価なモニタリングの実施には課題が多くあります。ブルーカーボンを持続可能的に推進していくための検討が必要です。

(※3)ニュースリリース:海そうのCO2吸収量を算定する実証事業を実施

https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2022/041400/

ブルーカーボン・オフセットによる脱炭素化の推進

ブルーカーボン生態系の拡大を図るためには、藻場を造設するための費用や、吸収量算定に伴うコストを相殺するための資金メカニズムが必要となります。その方法として挙げられるのが「ブルーカーボン・オフセット制度」です。カーボン・オフセット制度とは、前述した通り、企業等が排出したCO2などの温室効果ガスについて、他の場所での排出削減や吸収に貢献することを通じて埋め合わせる取組のことです。

図2:カーボン・オフセットの取組イメージ (出典:Jブルークレジット(試行)認証申請の手引き Ver.1.1)

図2:カーボン・オフセットの取組イメージ
(出典:Jブルークレジット(試行)認証申請の手引き Ver.1.1)

現在、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合が、藻場・干潟等を対象としたブルーカーボン・オフセット制度の試行を実施しており、横浜市や福岡市といった自治体でも独自の方法論を使ったカーボン・オフセット制度を実施しています。まだ、J‐クレジット(※4)のように国が正式に認定している制度ではありませんが、今後研究開発が進み、CO2吸収量の方法論が確立されれば、森林吸収と並びブルーカーボンもJ‐クレジット制度に追加される可能性があります。そうすると、そのクレジットを地球温暖化対策推進法への報告にも使用可能になるため、脱炭素化を目指す企業にとってブルーカーボンのクレジットの購入が選択肢の一つになるでしょう。
もちろん企業だけでなく、自治体にとってもブルーカーボンは重要になると考えます。2022年7月現在、749自治体が2050年の脱炭素に向けてゼロカーボンシティ宣言をしています。各自治体は地球温暖化対策実行計画を策定し、省エネ・再エネ・森林吸収の取組を通じて脱炭素化を目指していますが、再エネポテンシャルが小さく、ゼロカーボンの達成が厳しい自治体もあります。そうした自治体で海に面している地域では、ブルーカーボンが新たな解決策として挙げられます。磯焼けが課題となっている自治体は特に、藻場造成を進めるための資金源としてカーボン・オフセットを活用することで、環境保全の取組も同時に進めることが出来ます。藻場造成によって漁獲量が増加すれば地域の水産業の振興にも効果があるため、脱炭素だけでなく地域経済活性化へと繋げることもできるでしょう。

今後ブルーカーボンは企業・自治体が脱炭素化に取り組む上で重要な要素の一つになることが予想されます。これからのブルーカーボンの動向に着目してみてはいかがでしょうか?

(※4)

J‐クレジットとは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。J‐クレジットはカーボン・オフセットなど、様々な用途に活用。

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