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2023年3月29日展望を知る

「ヘルスケア×デジタル」がもたらす3つの変化
~各業界のサービスにヘルスケアが組み込まれることで叶う「より良い暮らし」~

生活者の健康意識が高まる中、ヘルスケアはどのような進化を遂げていくべきなのか。本人の状態・趣向に合わせたヘルスケアサービスが日常生活の中に溶け込んでいる世界を実現する上でのキーワードは、デジタル技術の活用だろう。サービスを提供する企業同士が業界の垣根を越えて連携することも重要だ。それぞれ異なる強みを持ちながらヘルスケアに取り組む3社のメンバーがディスカッションした。
目次

デジタル技術が起こした人々の行動変化と、あるべきヘルスケアの姿

デジタル技術によってこれからのヘルスケアはどのように変化していくのか。その答えを探る上でまずはデジタル技術による「人々の行動の変化」を認識しておくべきだとNTTデータ デジタルウェルフェア事業部の山根知樹は語った。

第二公共事業本部 デジタルウェルフェア事業部 山根 知樹

第二公共事業本部 デジタルウェルフェア事業部
山根 知樹

「新型コロナウイルスをきっかけとした行動制限により活動のオンライン化が一気に加速した結果、人々の行動にいくつもの変化が生まれました。1つ目は、場所の制約が消えたことです。オンライン化によって私たちは移動コストを最小限に抑えながら活動範囲を広げられました。2つ目は、可処分時間が増えたことです。テレワークの普及によって忙しい現代人にも以前より余裕と自由が生まれ、ある調査では趣味や家族との時間が増えたという結果も出ています。タイムパフォーマンスという言葉も出てくるなど、時間の価値がより重視される時代になっています。3つ目は消費行動の変化です。オンライン店舗でもリアル店舗でも買い物が非接触になり、食・エンタメ・金融、その他さまざまなサービスのデジタル環境が整備され、オンラインでできることは以前に増して充実してきています。」(山根)

このような人々の行動の変化を踏まえて、ヘルスケアはどのように変化していくべきなのか。「未来のヘルスケアの世界観」について考えていくが、まずその前に、そもそも「より良いヘルスケア」とは何かを改めて考えたい。そのポイントは、肉体的、精神的、社会的に健康な状態であることだ。

「肉体的に健康な状態が望ましいことは言うまでもありませんが、新型コロナウイルス禍においてはメンタルヘルスケアの重要性も高まりました。さらに、生きがいや社会の中に居場所があると感じられる状態である社会的健康も重要になってきています。真の健康のためには、これら3つのヘルスケアが重要です。私たちは、真の健康の実現をテクノロジーの力でサポートできると考えています」(山根)

たとえば、肉体的健康においてはウェアラブルデバイスによるバイタルデータのモニタリングや、精神的健康においてはメンタルヘルスの改善アプリ、社会的健康においてはSNSなどオンラインを通じた社会参画や自己実現といったものが挙げられるだろう。そのように3つの側面で人の健康を支える「未来のヘルスケアの世界観」について、山根は解説を続けた。

図1:未来のヘルスケアの世界観

図1:未来のヘルスケアの世界観

「本人の同意のもと自然と健康データが取得・分析され、本人の状態、趣向に合わせてヘルスケアをサポートするサービスが日常生活の中に組み込まれていきます。たとえば、睡眠中は天候やバイタルデータに応じて自動的に快適な環境に調整される。就業時には、姿勢の悪化や目の疲労を検知して通知が届く。食事の際は、健康状態を踏まえた献立がレコメンドされる。1日の終わりには健康活動の成果を可視化し、現状が続いた場合の未来の疾病リスクが提示される。私たちはそのような世界観を描いています」(山根)

業界の壁を越え、生活者視点のサービスを目指す

このような「未来のヘルスケアの世界観」を実現するためには、各業界のサービス構造にも変化が必要だろう。現状では、ヘルスケア・健康医療のサービスと、食品・保険・エンタメなど各業界のサービスはそれぞれ独立した状態で存在している。NTTデータが目指す未来のヘルスケアを実現するためには、ヘルスケアサービスと各業界のサービスを掛け合わせることで「ヘルスケアが日常生活に組み込まれる」ようになることが不可欠だ。

そして、デジタル活用によって3つの変化がもたらされると山根は言う。

「1つ目は、セルフケアをより効果的にサポートできるようになることです。ライフログ、健康診断データ、医療データ、服薬データなどを活用することで、データに基づいて「肉体的」、「精神的」、「社会的」健康を実現していきます。2つ目は、医療サービスの高度化が加速することです。パーソナルデータをかかりつけ医と共有することで、診断・治療が高度化されるでしょう。また、オンラインでの診断や薬の処方が浸透することで、医療リソースの地域偏在という課題解決にも貢献できます。3つ目は、さまざまなサービスにヘルスケアサービスが組み込まれることです。現状、サービスは業界ごとにつくられていますが、人々の生活は業界ごとに分かれていません。業界を超えてデータ・サービスを連携して生活者視点でのサービスを創造することで、生活の中で自然と健康になっていく世界の実現を目指したいと考えています」(山根)

医療ヘルスケアの未来をつくる会社、メドレー

株式会社メドレー 取締役医師 株式会社パシフィックメディカル 取締役 豊田 剛一郎 氏

株式会社メドレー 取締役医師 株式会社パシフィックメディカル 取締役
豊田 剛一郎 氏

山根の話をもとに、ヘルスケアの未来像について見てきた。ここからは、メドレー・NTTドコモの取り組みについて紹介していこう。メドレーで取締役医師を務める豊田剛一郎氏は、事業内容を次のように解説している。

「メドレーは“医療ヘルスケアの未来をつくる会社”として2009年に創業しました。事業は大きく2つあり、人材プラットフォーム事業と医療プラットフォーム事業です。後者では、診療所・病院向けに電子カルテやオンライン診療システムを提供、患者向けにはNTTドコモと共同でオンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS(クリニクス)」を運営しています」(豊田氏)

図2:メドレーの事業概要

図2:メドレーの事業概要

医療ヘルスケアにおけるデジタル活用を進める中で、業界としての大きな課題を感じていると豊田氏は言う。

「医療自体が複雑化する中で、医療を提供する現場の負担が高くなっていることはもちろん、患者が適切な医療を受けることも難しくなっている状況があります。さらに、社会保障費や医療費が増大しているため、国としては医療のための財源を確保することも急務です。デジタル活用を推進していくことで、医療機関の効率的な経営、患者の適切な医療活用、行政の医療資源の最適配分といった“三方よしの変化“を起こしていけると考えています」(豊田氏)

政府としては、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、顕在化したデジタル活用の遅れを取り戻す動きが加速している。先進国の中でも遅れている電子カルテの普及においては、全国医療情報プラットフォームを構築して全国一律で標準化した情報収集を目指す方針がある。診療報酬改定においては、オンライン診療・服薬指導の大幅な規制緩和が進められている。デジタル田園都市国家構想においては、地域の医療課題をDXによって解決する方針が打ち出されるなど、国の動きがメドレーの事業にとっても大きな後押しとなっているという。

ヘルスケアからメディカルまで一気通貫のサービスを目指すNTTドコモ

続いて、NTTドコモのヘルスケア・メディカルの取り組みについて、ヘルスケアサービス部次長の出井京子氏は次のように語る。

「ドコモでは、2011年からヘルスケア領域の事業をスタートしました。当初は一般生活者向けの健康増進領域を中心に展開し、2016年頃から企業や自治体向けのサービスに拡大しました。最近では、メドレーとの協業により、オンライン診療を中心にしたメディカルの事業領域へと踏み出しています」(出井氏)

図3:NTTドコモのメディカル・ヘルスケアサービスの領域

図3:NTTドコモのメディカル・ヘルスケアサービスの領域

ヘルスケアに限らず、生活者に近い立ち位置でのサービス展開に強みを持つドコモでは、ユーザーにとって利便性の高いサービスの実現を目指しているという。ポイントは、ヘルスケア領域からメディカル領域まで一気通貫で利用できることにあると出井は語る。

株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー ヘルスケアサービス部 次長 出井 京子 氏

株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー ヘルスケアサービス部 次長
出井 京子 氏

「ヘルスケア領域においては、主に『dヘルスケア』を提供しています。利用者のお悩みに応じた情報発信だけでなく、歩いてポイントが貯まるというサービスによって、健康増進につながるような行動変容を促す仕組みを取り入れています。一方でメディカル領域においては、『CLINICS』をメドレーと共同運営しており、オンラインで診療が受けられることはもちろん、オンライン服薬指導までシームレスに利用可能です。また、自治体向けヘルスケアサービス『健康マイレージサービス』では、従来のウォーキング機能に加え、健康アドバイス機能やみまもり機能を提供しています。このように、ヘルスケア領域からメディカル領域までを一気通貫で実現することが私たちの取り組みの特徴です」。

健診のデータベースを個人や企業が利活用できるNTTデータのデータベース構想

最後に、「健康」「医療」「製薬」の領域でソリューションを提供するNTTデータの取り組みの中から、「健康」の事業内容について山根は次のように解説する。

「『Health Data Bank』は、企業の従業員の健康管理を支援するクラウド型の健康管理サービスです。健診機関からお預かりした健診データをデータベース化することで、産業医や医療スタッフは”スタッフサイト”から健診データ、ストレスチェックデータなどを組み合わせながら健康課題の抽出やアドバイスなどの産業保健業務を実施し、従業員は”個人サイト”から自身の健康状態を確認することができます。加えて、生活者起点の新たな健康データ管理・運用サービス「My Health Data Bank」の構築に取り組んでいます。生活者が自身の健康データを集約して、自己管理、運用する仕組みです。生活者は自分の意志でサービス事業者や医療機関などに健康データを提供することで、自分に最適な商品やサービス、予防治療やケアを受けられるようになります。各種データを利活用することで、健康と医療の連携した新たなサービスをも生み出していきたいと考えています」。
「My Health Data Bank」のデータベースはNTTドコモやメドレーのサービスとも連携を図り、効果的なセルフケアや医療サービスの高度化を推進していくことになるだろう。

図4:NTTデータのMy Health Data Bank構想

図4:NTTデータのMy Health Data Bank構想

国のリードで、ヘルスケア業界の進化を促進

3社の事業内容を通じ、これからのヘルスケアを実現する具体的なサービスの形が見えてきた。企業の視点から、ヘルスケア業界全体の変化を加速させるために、国に対して期待することはあるのだろうか。

「オンライン診療に代表される医療DXの領域では、多くの規制がありました。新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、デジタル化への機運が高まったことで規制緩和の動きが進んでいますが、医療情報の利活用という視点では電子カルテのフォーマット整備など規制が必要なものもあると考えています。国がリーダーシップをとる中で、民間企業が連携したり切磋琢磨したりすることで、より良いサービスを適切に医療現場に提供していくことが大事だと思っています」(豊田氏)

「豊田さんがお話されたように、医療情報は非常にセンシティブで、その扱いはしっかりと守っていかなくてはいけません。業界全体としての守るべきものが固まってはじめて、ユーザーの方々も安心してサービスを利用できるようになるはずです。情報の使い方を丁寧に説明させていただくことが大切だと考えており、これまで情報の扱いにも慣れているリアル接点であるドコモショップを活用してお客様へのご説明ができるという当社の強みも活かし、データ利活用の普及に貢献していくことが重要だと考えています」(出井氏)

充実した人生100年ライフに欠かせない生活者・患者のエンパワーメント

国全体でヘルスケアの質を向上させていくためには、サービスを提供する側の変化のみならず、利用者である患者の変化も欠かせないテーマになる。メドレーが掲げるキーワードのひとつである「患者が医療を使いこなす」とはどういうことなのだろうか。

「医療が複雑化し、選択肢が増える中で、患者自身も納得して医療を使うことが重要になっていきます。私たちの現在のサービスは医療機関や薬局が主なカスタマーとなりますが、その先にいる患者に価値を提供することにも注力したいと考えています。NTTドコモとの業務資本提携の目的も、まさに患者、つまり生活者との接点を強化することにありました」(豊田氏)

「100年ライフを目指すなら、我々ふくめ患者は、お医者様がなんとかしてくれるだろうという他力本願ではなく、生活者一人ひとりの健康リテラシーを上げて、医療をどう使いこなすかという視点がまさに重要になってくると思います」(出井氏)

図5:3社によるサービス連携イメージ

図5:3社によるサービス連携イメージ

メドレーとNTTドコモで展開するオンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」においても、利用者のデータを利活用する取り組みにはいたっていないという。例えば、NTTデータなどと連携することで、医療からヘルスケアというサービスの展開だけでなく、ヘルスケアから医療の展開も合わせた双方向の動きができるようになるだろう。一人の患者の視点に立った時に、100年ライフを本当の意味で支えられるサービスへ、ここで紹介した3社の連携に大きな期待が寄せられている。

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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