インディカーレースでドライバーの生体情報を取得する実証実験を実施

ニュースリリース/NTTデータ

2016年1月28日

株式会社NTTデータ

株式会社NTTデータ(以下:NTTデータ)とNTT DATA, Inc.は、NTT物性科学基礎研究所(以下:NTT研究所)、米国のカーレーシングチームChip Ganassi Racing(以下:Chip Ganassi)および、Chip GanassiのドライバーTony Kanaan氏協力のもと、2015年6月から8月に行われた米国インディカー・シリーズにおいて、走行時のドライバーの生体情報を取得する実証実験を行いました。

今回の実証実験では、最高時速235マイル(時速 約378km)注1という過酷な環境下でのレースドライバーの身体能力や運動状態を可視化することを目的とし、着るだけで生体情報の連続計測を可能とする機能素材「hitoe®(ヒトエ)」注2の技術を用いてドライバーの心電波形(ECG)や心拍、胸部の筋電(EMG)などの生体情報を取得することに成功しました。

今後、NTTデータでは、今回の実証実験で取得した生体情報とレース走行時の車の状態(速度、加速度、傾き、ハンドル切角等)などをかけ合わせて分析を進め、外からは見えにくいレースドライバーの身体能力や運動状態、ドライビングにおける身体の使い方などの可視化を目指します。また、これら生体情報の取得・分析技術を他のプロジェクトへの展開を図り、生体情報の活用を軸としたサービスの創出を推進します。

背景

近年、情報技術を活用して、これまで人間の感覚に頼っていた分野のデータ取得や、そのデータを活用したソリューションの開発などが進んでいます。スポーツにおいても、さまざまなデータを活用して選手の身体能力技術の強化、試合の戦略立案を行うなど、これまでは感覚に頼りがちだった選手個々のノウハウをデータの分析によって可視化するなどの取り組みが進んでいます。

NTTデータでは、これまでも心拍数および心拍間隔から自律神経のバランスを計算してオフィスワーカーのストレスや疲労度を提示したり、高齢者の生体情報を計測し自立生活を支援するための見守りサービスに活用することを目的とした研究開発(中国科学院との共同研究)などに取り組んできました。また、NTT DATA, Inc.は医療・ヘルスケア分野の新規サービスとして生体情報を活用したサービス提供を検討しています。今回、新たなサービス分野を創出することを想定し、身体負荷の高い環境において、生体情報を計測・分析する実証実験を行うこととなりました。

実証実験の概要

本実証実験は、2015年3月から8月に行われた米国インディカー・シリーズ中の6月から8月のレースにおいて、着るだけで生体情報の連続計測が可能な機能素材「hitoe」の技術を用いて、身体状態が外からは見えにくいレースドライバーの運動や身体能力を生体情報によって可視化することを目的に実施しました。

インディカーレースは、最高時速235マイル(時速 約378km)を記録する高速走行レースです。レースの安全管理規定により、耐熱性素材のみ着用が許されたため、耐熱性素材でhitoe技術ベースのセンサーを作成し、同素材をアンダーシャツに取り付ける特別仕様のシャツをNTT研究所とNTTデータで作成しました(図1)。生体情報の計測にあたっては、車の振動による身体の大きな揺れ、大量の発汗、それらによるノイズ等、計測に際してさまざまな課題がありましたが、今回の実証実験ではそれら課題をクリアし、レース走行中のドライバーの心電波形や心拍、筋電などの生体情報を取得することに成功しました。これら生体情報とともに車の状態の情報(速度、加速度、傾き、ハンドル切角等)も合わせて分析することで、高速レースにおけるドライバーの身体状態の一端が見えてきています。

【写真】

図1:「hitoe」技術を活用したドライバーのアンダーシャツ(耐火性素材)

実証実験において取得に成功した生体情報

  1. 1.心電波形、心拍数

    心電波形には車の振動などさまざまなノイズが乗っているため、それらを取り除くことで特徴を抽出するとともに、心拍数、心拍間隔(RRI)などが算出できます。ドライバーの心拍数は開始後から急激に上昇し、周回中は常に高い状態(激しい運動状態と同様の心拍数)を維持していることが分かりました。また、減速から停止の際には心拍数があがるなど、車の走行状態との関係がうかがえます。

  2. 2.筋電

    オーバルコース(楕円形のコース)で高速走行する車とドライバーには、コーナーでは外向きに大きな重力(以下:G/本実験では、3から5G)が働いています(図2)。この際のGの大きさは戦闘機に匹敵するほどといわれていますが、その横からのGに抗するため、筋肉を収縮させて姿勢や身体のバランスを維持したり、半身に血液が偏ることを抑制することなどが必要となります。今回の生体情報では外方向の力に抗してハンドルを切る動作と連動して、筋電位による筋肉の収縮が見られました。

今回、これらのデータの取得に成功したことにより、レースドライバーの高い身体能力や、身体的高負荷下でのドライビング状況が可視化されました。

【図】

図2:ドライバーにかかる身体的負荷(重力/G)のイメージ

今後について

今後、NTTデータでは、引き続きインディカーレースにおいて生体情報の取得を行い、計測データの精度を高めるための改善を行うとともに、車の走行状態の情報もあわせて収集、分析していきます。ドライバー自身の身体状態や筋肉の使い方を可視化し、ドライバー、レーシングチームにフィードバックすることで、より効果的な身体トレーニングへの活用を目指していきます。また、ベテランドライバーとルーキードライバーの生体情報の分析結果を比較することにより、ベテランドライバーの暗黙知を定量的に示すことが可能になり、ルーキードライバーのスキルのレベルアップを図ったり、さらには、事故防止に役立てていくことも期待されます。

NTTデータでは、インディカーレースでの取り組みを通じて得られた技術、知見をもとに、2020年にスポーツ分野で適用できる新たな生体情報活用ソリューションの開発を目指します。トップアスリートの体の使い方や動きを可視化することによって、新しいトレーニング方法の創出に資する取り組み等を進めていき、生体情報の活用を軸としたサービスの創出を推進していきます。

注釈

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