スペイン医療機関でICUにおける診断支援を目的とした実証実験を実施、業務効率改善効果とユーザビリティーの高さを確認

ニュースリリース/NTTデータ

2016年7月29日

株式会社NTTデータ

株式会社NTTデータ(本社:東京都江東区、代表取締役社長:岩本 敏男、以下:NTTデータ)、およびNTTデータのスペイン子会社であるeverisグループ(本社:スペイン・マドリード、president:Fernando Francés、以下:エヴェリス)は、Virgen del Rocío University Hospital in Seville(ヴィルヘン・デル・ロシオ大学病院、所在地:スペイン・セビリア、CEO:Manuel Rua Romero、以下:ヴィルヘン・デル・ロシオ大学病院)と、集中治療室(以下:ICU)向けに医師、看護師の業務支援および意思決定支援を目的とした実証実験を2016年3月から3カ月にわたり実施しました。

今回の実証実験では、医療モニターや生命維持装置からのバイタルデータを収集するシステムを構築し、電子カルテシステムを拡張するかたちで統合を実現しました。この結果、患者情報の管理やレポート作成等の業務に要する時間を10%以上削減することに成功し、さらに患者に関する情報が一元的かつ詳細に参照可能となったことで、医師や看護師がより精緻な情報に基づく判断をできるようになりました。

ICU向け拡張電子カルテシステムについては、「ehCOS注1 SmartICU」として2016年11月より商用化を予定しています。また、本フェーズの実証実験で蓄積されたバイタル履歴データを活用して致命的な合併症の進行を予測するモデルを開発しており、その予測モデルに基づくスマートアラートシステムの実証実験も、2017年1月より開始する予定です。

背景・共同研究の概要

ICUにおける医療行為は、生命を脅かす重度の病気や外傷の患者を対象としているため、高度な医療機器を用いて、常時患者の容態をモニタリングしながら行われます。しかし、これらのデータ管理とITシステムとの統合はあまり進んでおらず、バイタルデータはリアルタイムでしか参照できないため人手で読み取り、紙で管理が必要であったり、複数のシステムに分かれてデータが保存されている等、業務効率の観点とデータの精度の観点で改善可能な部分が多くあります。また、これら機器から得られる各種データは膨大であり、さまざまなテスト結果や投薬情報と併せて医師や看護師がデータを解釈するのに、多くの時間を要するケースがありました。

そこで、NTTデータとエヴェリスは、ICUで用いられている各種医療機器から得られる情報を一つのプラットフォームに集約し、患者に関するあらゆるデータを一元化して管理できるようにしました。この一元化された患者データを「(1)リアルタイムだけでなく過去に遡っても参照できるシステム(ICU向け拡張電子カルテシステム)」と、集約されたデータを分析して構築する「(2)症状推移予測モデルに基づくスマートアラートシステム」の開発を2015年3月からヴィルヘン・デル・ロシオ大学病院との共同研究として行っています。本(1)ICU向け拡張電子カルテシステムについて、2016年3月より同病院のICUにて実際に適用した実証実験を行い、その効果を検証しました。

【図】

図:ICU向け拡張電子カルテシステムの一例:患者バイタルチャート画面

実証実験の概要と結果

実証実験では、3つのICUユニットにある19ベッドに設置された3種類の医療機器、医療モニター、人口呼吸器、輸液ポンプからのデータ蓄積を可能とするシステムを開発し、合計で156デバイスからのデータ蓄積を実施しました。データ量としては、1つのバイタルだけで秒間1,000件のデータを生成するものもあり、1日最大4,100万件程度の測定値が生成されます。ヴィルヘン・デル・ロシオ大学病院ではICUユニットごとに異なる医療デバイスベンダー製品が導入されていることから、本ICU向け拡張電子カルテシステムは、マルチベンダーに対応したインターフェースをもっています。医師や看護師向けに、これらデータの参照用端末を2つのベッドにつき1台設置し、3カ月の実証期間の間に延べ147名の患者の治療において、システムの有効性の検証を行いました。

ICU向け拡張電子カルテシステムの導入効果

本システムを利用した病院のスタッフに聞き取り調査を行い、今回開発したICU向け拡張電子カルテシステムによって、医師や看護師が患者情報の管理や診断レポート作成に必要な時間が10%以上削減されたことが確認できました。具体的には、バイタルチェック、ケアプランの作成、チェックリストの作成、薬物治療、診断レポートの作成といった業務において、生産性や業務効率の向上が認められています。また測定したデータがすべて蓄積できることにより、参照できるバイタルデータの精度が向上し、かつ病歴やアレルギー、検査結果などと合わせて患者の情報が一元的に参照できることで、より精緻で的確なデータに基づく診断が可能となりました。

ICUでは業務とワークフローが非常に複雑で、ストレスの高い業務環境であることから、新規システム導入の際には、ユーザビリティーが高いことも、実用上非常に重要な観点になります。本実証実験では、95名の医師と看護師がこのシステムを利用し、実証実験後に実施したユーザビリティー・スタディーにおいて70%以上のユーザーから、使いやすく、ICUのワークフローによく合っているとの回答が得られました。

ヴィルヘン・デル・ロシオ大学病院 看護師長 Maria Isabel Gonzales氏のコメント

病院にあった既存の看護記録アプリケーションは使いにくく満足度が低かったため、看護師はみな紙を使っていました。私達がエンジニアに協力して現場の声を提供してきたことで、ehCOS SmartICUのアプリケーションは、業務にあったデザインで使いやすく直観的なものになりました。おかげで、システム導入後、看護師たちがみな業務でしっかりこのアプリケーションを利用しています。

今後の実証実験について

ICU向け拡張電子カルテシステム

本ICU向け拡張電子カルテシステムは、2016年11月からは対象とするユニットを現在の19ベッドから41ベッドに拡大し、さらなる検証を進める予定です。

機械学習を用いた患者の症状推移の予測技術開発

医師と看護師にとって、適切なタイミングで必要な医療介入ができるかどうかは、患者の生命を救うために大きく影響します。NTTデータでは、ヴィルヘン・デル・ロシオ大学病院の医師と密に連携して、ICU入院患者にとって致命的かつ頻度の高い合併症である「(1)敗血症ショック」、「(2)急激な血圧低下のエピソード」、「(3)低酸素血症」の3症例を選定し、2時間後に同症状に陥るか否かの予測モデルを開発しています。これまでに蓄積されたバイタル履歴データに対して、機械学習注2の手法を活用することでモデルの検証と改善を実施しています。患者につながれたセンサーから生成されるバイタルデータを、予測モデルを使ってリアルタイム処理することで常時患者の状態を監視し、投薬や治療に必要なアラートをあげるスマートアラートシステムの開発を進め、実証実験を2017年1月より開始する予定です。

商用化について

本実証実験の結果をもとに、2016年11月からehCOS SmartICUは商用化を予定しています。スペインとラテンアメリカ市場を最初のターゲットとし、その後北米、アジアへと展開を広げる計画です。

エヴェリスについて

エヴェリスは、主にスペインや中南米6カ国において大手銀行、大手保険会社、大手通信事業者、政府機関やユーティリティー企業、大手グローバル製造会社等を主要顧客とし、コンサルティング、システムインテグレーション、アウトソーシングといった幅広いITサービスを提供しています。また、エヴェリス社はスペインと南米にCMMI Level 5認証を受けた6カ所のニアショア・オフショア拠点を有しており、高品質かつ低価格なサービスを提供する体制を整えています。

注釈

  • 注1ehCOSとは、エヴェリスが提供する、質が高く安全な患者ケアのサポートを目的とした医療機関向けソリューションです。次世代医療手順にフォーカスした電子カルテシステム「ehCOS CLINIC」、患者情報管理システム「ehCOS Patient」、病院ネットワーク間での患者情報の共有を可能にする「ehCOS Clinical Share」など、7つのパッケージから構成されています。ヨーロッパやラテンアメリカにおいて、1,100以上の医療機関に採用されています。
  • 注2機械学習とは、データ分析等においてサンプルデータの分析により、規則性やルールを抽出、学習し、識別、検知、予測等のアルゴリズムを発展的に構築する技術です。音声認識や画像認識などのパターン認識や、センサリングシステム等での異常検知や予兆検知、金融市場等の予測など多様な分野に用いられています。
  • 文中の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。

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