新しい発電技術の登場
日本政府が主導する水素発電参考1に期待が高まっていますが、現状は従来手法よりもコストが掛かるため、インフラ設備投資によるコスト削減が急務となっています。また、太陽光発電の普及が順調に拡大しています。オフィスビルのガラス窓に張り付けて使えるような、光を透過する透明タイプ参考2の太陽電池など、さまざまな新技術が開発されています。オランダでは太陽電池を道路に敷き詰めるソーラーロード参考3が設置されました。太陽光発電で動くドローンや自動車の開発も進められており、太陽光発電は継続して拡大を続けると考えられます。メインストリーム以外の発電方法にも進展が見られます。例えばアイスランドでは、マグマ溜りの近くに穴を空け高温高圧の水蒸気を放出させる「マグマ発電参考4」の実証実験が行われ、イギリスでは海の潮力を使って発電する施設の建造参考5が計画されています。
こうした大掛かりな設備に注目しがちですが、もう少し小さな変化も重要になってきます。例えば、「無線給電」や「エネルギーハーベスティング」です。無線給電はスマホの充電向けなどの用途でコンビニにワイヤレス充電パネル(パネルの上に置くだけで充電される)が設置されるなど、既に至近距離では実用化されている技術ですが、この技術が進化すると大きな力を持ってきます。先日、ワシントン大学が既存のWi-Fiルータから送られる信号でカメラなどのデバイスを充電するシステム参考6を開発しました。これが高性能化して普及すれば、スマホなどをWi-Fiに繋ぐだけで自動的に充電され、電池が減らなくなる環境が整備されることも考えられます。エネルギーハーベスティングは、構想自体は何年も前からある物ですが、関連する新技術として摩擦発電参考7が登場しています。自動車の車体などに取り付け、運転時の空気摩擦を利用して発電するデバイスです。改良されることで発電効率が上がり耐久性が高まれば、飛行機や列車や自転車などあらゆるものから自然に電力を得られるシステムが作れる可能性があります。
電力需給の変革とIT
発電した電気は売電事業者を通じて販売され、ユーザー=需要家が使用することになりますが、その接点が大きく変わろうとしています。ひとつはスマートメーターによる変革です。需要家ごとに設置されている電力メーターが通信機能を持ち、需要家と売電事業者の間に双方向のコミュニケーションが可能となります。これにより、例えば時間帯や機器類ごとの電気使用量が細かくわかることで電気の使い方を見直したり、蓄電装置を用いてピーク時間帯の電力使用量を別の時間にスライドして抑制することなどが期待されています。
日本では2016年4月から電力自由化が始まることを受け、需要家が自由にいろいろなタイプの電力サービスを調達できるようになります。スマートメーターの利点を活かした時間帯別の料金設定など、ダイナミックプライシング(注 需要と供給の状況に応じて電力価格を変動させる仕組み)による低価格な電力サービスが登場すると考えられる一方で、クリーンなエネルギーだけを使いたいという需要家が、風力発電などの再生可能エネルギーのみを扱う売電事業者を選択して購入することも可能となります。さらに、自家発電や蓄電による自家消費のウエートも増すでしょう。
こうした変化に先立ち、オランダでは風力や水力などによる自家発電を行っている個人と電気を使用したい需要家が直接契約し、電気を買うことができるプラットフォーム参考8が整備されています。タクシーを探す人と運転手を結びつけたUberや、宿泊場所を探す人と余った部屋を結びつけたAirbnbのように、人と人をビジネスで繋ぐデジタルなプラットフォームは近年大きな広がりを見せています。電力売買においても、こうしたプラットフォームが世界で広がっていく可能性は充分あると考えられます。