データ活用の新たな潮流(セルフサービスBIの限界)
データドリブン経営、データドリブンマーケティングといった言葉に代表されるように、データに基づいて意思決定や業務活動を行うことの重要性は、今やビジネスの共通認識とも言えるでしょう。
そんな中、セルフサービスBIツールの導入が大ブームとなり、ビジネスユーザーが自らデータ分析を行い、仮説検証や施策立案に役立てる成功例が増えてきています。
一方で、一般的にビジネスユーザーはデータ分析のスキルやノウハウを十分に持っているわけではなく、セルフサービスBIの課題・限界として以下のような問題に悩まされる企業が目立ってきています。
- 問題1
多様な分析軸と指標値が存在し、何を組み合わせて見れば有効な知見を得られるかわからない
- 問題2
レポートに表示される指標値を見ても、何がどのくらい良いのか(悪いのか)読み取れない
- 問題3
たまたま気付いた傾向・異常値を、全体への影響度を熟慮せずに過度に追いかけてしまう
- 問題4
因果関係と相関関係を混同し、結果指標と要因指標を切り分けられず、目的達成に寄与する改善策を導けない(アクションに結び付けられない)
- 問題5
人によってデータの読み取り方や深掘りの仕方(データ分析のプロセス)が異なり、正反対のアクションに結びつけてしまうことすらある
いずれも、セルフサービスBIツールは企業のデータベースと直接つながっており、「人によって見ているデータソースが異なる」という問題は解消されている前提で発生し得る問題です。
「Guided Analysis」でビジネスユーザーをデータ分析エキスパートへ
上述したようなセルフサービスBIの課題・限界を打開するための手法として、「Guided Analysis」という考え方・手法を取り入れる先進企業が出てきています。
「Guided Analysis」とは、文字通り「分析」を「ガイド」する、つまり、業務フローの一部としてのデータ分析プロセスの標準を定義し、ガイドラインとしてビジネスユーザーに利活用してもらうことです。
データ分析が独立した分担として存在し業務へのインプットになるのではなく、日々の実業務の中にデータ分析プロセスが「組み込まれている」イメージです。
「Guided Analysis」が整備・定着された組織では、ビジネスユーザーは概ね以下のようなステップでデータ分析を行います。
- ステップ1
推奨された分析軸と対象(絞込条件)で指標値を確認し、基準値と比較し高いか(低いか)を把握する
- ステップ2
「次に見るべき指標値」がステップ1の結果に応じてガイドラインとして示され、詳細分析や要因分析を行う
- ステップ3
上記分析の解釈と対応の方向性が、具体的に「どの対象に」「どんな活動を行い」「どの指標値を」「どの程度改善すべきか」を特定可能な状態で示される
これにより、データ分析のスキルやノウハウを十分に持たないビジネスユーザーも、闇雲にデータを突っつくような分析をするのではなく、ガイドされながら組織が期待したアウトプットに近づくことができます。
「Guided Analysis」の要素とITシステム
では、このような高い業務的効果を期待できる「Guided Analysis」を、どのように導入・実現していけばよいのでしょうか。
まず、「Guided Analysis」を構成する要素として、以下があると考えています。
- 要素1
データ分析プロセスを含む業務フロー
- 要素2
データ分析プロセスにおいて個々の判断やアクションに役立てるガイドライン
- 要素3
要因指標と結果指標の関係が示されたKPI参考1ストラクチャー
- 要素4
分析軸や指標値の定義が示されたデータディクショナリ
- 要素5
インタラクティブに検索・絞込・深堀を行い分析結果を簡単に共有できるデータビジュアライゼーションツール
要素1~4については、データ分析・利活用を組織内で集権的に推し進めるBICCやACE参考2が主導して整備する場合と、「Guided Analysis」に精通したコンサルティングファームの支援を受ける場合があります。
通常、特定組織で3~6ヶ月程度の検討フェーズ・トライアルフェーズを行い、ナレッジを蓄積しながら、他組織への横展開を図ります。
一方、要素5については、セルフサービスBIツールを使用してデータ分析プロセスに沿ったダッシュボード・レポートを構築することが基本となります。
まず主要なKPIが基準値と比較して良いか(悪いか)の概況が一目でわかるダッシュボードが表示され、着目したKPIについての詳細レポートにリンクし、最終的にはアクションを打つべき対象のリストが出力されるイメージです。
この時、留意しなければならないのは表示・絞込のレスポンススピードです。
前述のとおり、実業務の中にデータ分析プロセスが組み込まれていますので、即座(目安:1分以内)に対象のデータが見たい形式で表示され、判断に活用される必要があります。
概況を示すダッシュボードは集計済データセットを参照し、詳細レポートは必ず対象を絞り込んだ状態でアクセスする構成とするなど設計段階から考慮します。
また、ビジネスユーザーが集計結果のデータを瞬時に正しく理解できるよう、適切なビジュアライゼーション手法参考3を採用することも重要です。
「Guided Analysis」を組織に定着させるには
最後に、「Guided Analysis」を定着させ、データに基づいて意思決定や業務活動を行う組織になるためのヒントを紹介します。
- ヒント1
分析過程で得た気付き・考察をコメントとして共有し、周囲のメンバからフィードバックを得て、分析を深化させる
- ヒント2
分析結果をストーリーとして発表し、組織を巻き込んだアクションに結びつける
- ヒント3
データ分析が組織の目的達成に寄与した成功例を定期的に収集し、分析ナレッジとしてガイドラインに反映する
セルフサービスBIを導入済の企業も導入を検討している企業も、「Guided Analysis」という考え方・手法を取り入れることで、データ分析の効果を飛躍的に高めることが期待できます。
NTTデータでは、直感的な操作性と卓越した視覚化表現を備えたデータビジュアライゼーションツール「Tableau」とのパートナーシップをはじめとして、セルフサービスBIおよび「Guided Analysis」導入・展開を強力に支援するコンサルティングサービス、システム導入サービスを提供しています。
参考文献
- 参考1Key Performance Indicator(重要業績評価指標)の略
- 参考2BI Competency Center, Analytics Center of Excellenceの略
- 参考3今、脚光を浴びている「Data Visualization」とは