参加者は職業も年齢も幅広い層
次世代ビジネスを創出するAIアイデアソンを開催
2017年3月5日、映像・音・画像・物体などのコンテンツを特定する「RMS(Robust Media Search)技術」(※1)を活用し、新しく面白い新規サービスやビジネスの創出を目指すワークショップ「AIアイデアソン ~オト・モノ・コトでつなぐ未来~」がINFORIUM豊洲イノベーションセンターで開催されました。
AIアイデアソンの趣旨を主催者代表として、NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 ライフデジタル事業部 メディア統括部 サービス企画担当 部長の高島正幸は次のように話します。
「NTTデータには“固い会社”というイメージを持たれていると思いますが、RMS技術は映像関係や音楽関係など比較的“柔らかい分野”で活用されています。NTTデータだけで次の展開を考えると固いアイデアに閉じてしまいがちなため、今回は年齢や性別、業態・業種を問わず広く募集を行い、お集まり頂いた皆さんとともに新しいビジネスのアイデアを考えたいと思っています」
NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 ライフデジタル事業部 メディア統括部 サービス企画担当 部長 高島正幸
今回のAIアイデアソンは、2014年に発足したエンタテインメント業界横断型の起業支援コンペティション「SATART ME UP AWARDS」(※2)との共催で、オーガナイザーをSATART ME UP AWARDS実行委員長でもある株式会社バグ・コーポレーション代表取締役の山口 哲一さんに、モデレーターをビートロボ代表の浅枝大志さんにお願いしました。
高島は「山口様、浅枝様のご尽力もあり、年齢や性別はもちろん職種も、学生から会社員の方まで非常に幅広い50名以上に参加していただくことができました。また審査員もバラエティに富んだ方々で構成されています」と話します。
(左)オーガナイザーのSTART ME UP AWARDS実行委員長 株式会社バグ・コーポレーション 代表取締役 山口哲一さん(右)モデレーターのビートロボ代表 浅枝大志さん
アイデアのベースはNTTデータが所有するRMS技術
アイデアソンのベースとなるRMS技術は、指紋により人物を特定するように、映像・音・画像・物体などのコンテンツから抽出した特徴データ(Fingerprint)と、マスタに登録された特徴データを高速に照合することで瞬時に元のコンテンツを特定する技術です。
例えば、編集された映像や一部欠損している映像でも特徴データから元の映像を特定することができるほか、ラジオ番組などのナレーションの背景に流れるBGMなどのように複数の音が重なっている場合に、特定の音のみを検索することも可能です。また、物体の画像からは、撮影された角度や重なりに左右されることなく被写体となった物体の特定が可能となります。RMS技術最大の特長は検索スピードが非常に高速で、精度が高いことです。
「RMS技術はすでに約8年の実績があり、数多くのビジネスシーンで利用されています。このRMS技術をどう活用すればもっと面白いビジネスにできるか。音、画像、映像、物体の4つから選択したテーマをもとに、チームでアイデアを考えてください」(高島)
チーム形成は、各自で「アドバンテージ分析」(※3)をして自分のタイプを把握するとともに、ビジネスパートナーとして相性の良いタイプを見つけて行いました。1チームあたり4~5名、全部で11チームです。
映像・音・画像・物体などのメディア情報を対象として、信号の歪みや雑音に左右されずにメディアコンテンツを高速に探索・特定する技術。
3つのポイントで審査されたアイデア
「革新性」「実現可能性」「ヒット性」が審査のポイント
4時間半に及ぶグループディスカッションで考えたアイデアは、プレスリリースにまとめ、1チームあたり3分の模擬記者発表会形式で行います。プレスリリース形式で必要なのは、タイトル、サブタイトル、本文(5W1H)、そしてサービスのイメージ図です。
審査員は以下の7名です。
株式会社ゴンゾ 代表取締役社長 石川真一郎さん
日本電信電話株式会社 コミュニケーション科学基礎研究所 メディアインテリジェンス研究所 兼務 サービスエボリューション研究所 兼務 主幹研究員 博士(工学)川西隆仁さん
株式会社アンタレス 代表取締役 兼 タレント 黒田有彩さん
ParadeAll株式会社 代表取締役 兼 エンターテック・アクセラレーター 鈴木貴歩さん
LINE株式会社 上級執行役員 コーポレートビジネス担当 田端信太郎さん
株式会社nana music 代表取締役CEO 文原明臣さん
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 ライフデジタル事業部長 林田敏之
審査員はグループディスカッション中に各チームからの相談に答えるメンター役も兼任しています。審査員を代表して、NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部の林田は「まだ誰も気づいていない、世の中を変えるようなアイデアが出てくることを期待しています。良いアイデアに対しては、NTTデータの人材や場所、あるいは資金面での支援も考えています」と挨拶しました。
各チームの発表概要
各チームが発表したビジネスのアイデアは以下のとおりです。発表内容は「革新性」「実現可能性」「ヒット性」の3つのポイントで審査されました。
●チーム石崎:人工知能サティちゃん
「人工知能サティちゃん」は1兆円規模のリユース市場をターゲットにしたサービスです。家にある不要なモノの画像をLINEで送付すると、物体認識技術によって商品が特定されます。チャットボットにより査定価格を算出し、査定額を表示します。査定額によってそのまま売るか、それとも処分するかの判断が自宅に居ながらにして可能となります。グローバル展開も視野に入れ、1年以内に50億円市場を目指します。
●チーム ピンク:Goggles ~映像のmetadataを可視化
「Goggles」は「日常の“なにこれ!?”を教えちゃう」サービスです。10~20代の女子をターゲットとし、SNS上のタグにない“なにこれ!?”な画像や映像が何であるかを明らかにすることで、購買につなげます。サービスは無償でリリースし、B2B2Cモデルで展開予定です。1400万ダウンロードを見込んでいます。
●チーム ユーショーイメージ:よみがえる漫画
「よみがえる漫画」は、作者の死去などで止まってしまった漫画の連載をAIで再開させるサービスです。過去のストーリーを機械学習させることで、作者がいなくても連載を楽しむことができます。その漫画が販売されていた当時の価格で販売予定です。漫画ファンの大人はもちろん、漫画に影響を受けて育つ未来の子どもたちに向けた夢のあるプロジェクトです。
●チーム Fregrance:特産品査定アプリ
「特産品査定アプリ」は訪日観光客向けのサービスです。旅先の気になる特産品の価格や真贋などを、スマホをかざすだけで検索できます。SIMカードのオプションとしてサービスを提供し、20万人の利用を見込んでいます。京都から提供を開始し、最終的には日本全国、さらにグローバル展開も目指します。
●チーム エルモア:StySure(すたいじゃー)~体形のマッチングサービス
「StySure(すたいじゃー)」は女子大生を対象としたサービスです。動画から体形や特徴を解析して似た体形の人を抽出し、服をレコメンドします。リリース後1年間で10万人の会員登録を目指しています。将来的には髪型や服の柄・色の提案やスタイル管理、3D試着シミュレーション、ブランド提案などのサービスも提供予定です。
●チーム えいやぁ:飲食店探索アプリ「AI-Yah」
「AI-Yah」は、お店の外観を写すとお店の情報をリアルタイムで取得可能なだけでなく、飲食代のクレジット決済もできる、飲食店探索アプリです。2018年8月に京都市内でサービスを開始した後に、順次対応地域を拡大予定です。利用者は無料、広告主である飲食店からの店舗情報掲載料、成果報酬費、クレジット決済手数料などから収入を得るビジネスモデルで展開します。
●チーム サウンデック:新コンセプトサービス「音度計」
「音度計」は24時間の音声解析し、幸福度を向上するためのアドバイスを提供するサービスです。街中にあふれる音から生活環境を予測し、聴いている音楽や会話で使われる単語からネガティブかポジティブかを判定して、週末のリフレッシュ方法などをアドバイスしてくれます。
●チーム じゃんけん:コミュニケーション円滑化サービス「察し子」
「察し子」はチャットを頻繁に利用する10~30代の男女を対象に、感情を表すアバターのスタンプをリアルタイムに表示するコミュニケーション円滑化サービスです。2017年6月からサービス開始予定で1ライセンスあたり月額100円。発売後1年間で1,000万ライセンスの販売を見込んでいます。将来的にはウェアラブルとも連動予定です。
●チーム イエロー:隠れ名所ファインダー
「隠れ名所ファインダー」は訪日中国人向けのサービスです。スマートフォンで撮影した画像をもとに、ガイドブックに載っていない穴場の周辺観光スポットや隠れた名店を紹介します。ユーザーは無料で、サービス展開する自治体は年間200万円。2020年までに250の自治体に展開する計画で、将来的には中国人以外の訪日外国人にも展開する予定です。
アイデアを練る参加者たち
審査の結果、「優秀賞」に選ばれたのは、ユーショーイメージの「よみがえる漫画」でした。選考理由を審査員の黒田さんは次のように話します。
「よみがえる漫画は、もし実現したら個人的に必ず使いたいと思ったサービスでした。連載が終わってしまった漫画を、また読めるというワクワク感が素晴らしいと思いました」
そして「最優秀賞」に選ばれたのは、えいやぁの飲食店探索アプリ「AI-Yah」でした。AI-Yahが選ばれた理由を、審査員の林田は「AI-Yahのお店の外観から情報を引き出す仕組みは、ほかのサービスへの応用性が高く、また多言語対応することで、可能性がさらに大きく広がることを評価して最優秀賞に選びました」と話しています。
表彰式の後には懇親会が開催されました。参加者、審査員、NTTデータのスタッフの全員が参加し、飲み物と軽食をとりながらお互いの健闘を称え合い、第1回のAIアイデアソンは、盛況のうちに幕を閉じました。
RMS技術で目指す新ビジネス創出と世界一
アイデアソン開催後、主催者代表であるNTTデータ 高島正幸に今後の展望などをインタビューしました。
───今回、AIアイデアソンの開催に至った背景は?
2つあります。まず1つ目は、NTTデータが主にB2Bの領域でビジネスを推進しているためにお堅い、保守的なイメージがあるかと思いますが、今後幅広い分野へビジネスを拡大させるにあたり、社内外問わず柔軟な発想が必要だと考えたからです。2つ目は、RMS技術の知名度をあげることです。
NTTデータのRMS技術は、処理精度や速度では世界一の技術だと自負しています。また、他社の同様の技術が音なら音だけ、画像なら画像だけにしか対応できないのに対し、NTTデータのRMS技術は音、画像、映像、物体のすべてに対応できる点でも優位性が高いと言えます。
しかし残念ながらビジネスにおいてはまだ全国シェアNo.1には至っていません。素晴らしい技術であるからこそ、今後さまざまな分野へ活用・展開することができると考えています。そのためにもまずはRMS技術の素晴らしさを知ってもらう機会を設けたいと考え、今回の開催に至りました。
また、RMS技術を活用したビジネス拡大を行うにあたり、日本だけではなく海外での認知度も上げる必要があると考えており、世界中から新しい事業アイデアや創造的な技術を持つ企業に興味があるビジネスマンが一堂に会するイベントSXSWへも出展予定(※1)です。
───AIアイデアソンへは、どのような成果に期待して臨みまましたか?
面白いアイデアを考えてもらい、「サービスを立ち上げるぞ!」「起業するぞ!」と
いう気概のある方が出てくることを期待しています。NTTデータとしては、B2C分野は弱いので、Cの部分は外部にお任せし、そのバックエンドの技術をサポートしていきたいと思います。そういう関係がうまく築ければ大成功です。
───期待できそうですか?
みなさん、初対面とは思えないほどワイワイガヤガヤ闊達に意見交換されていたので、期待できると思います。
───今後の展望は?
今後、第2回、第3回と続けていきたいです。また、良いアイデアで実現性が高ければ継続的にサポートしていきたいと考えています。今回はあえてAIコンテンツ認識技術に特化したテーマとしましたが、次回はもう少し範囲を広げてもいいし、別の観点や技術でもいいかもしれないと思っています。
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/information/2017/2017031001.html 「SXSW」とは、アメリカ・テキサス州オースティンで開催される、音楽・映画・インタラクティブをテーマとする世界最大のビジネスとコンテンツの祭典。「サウス・バイ・サウスウエスト」と読む。