IoTとは
IoT(Internet of Things)は、今や一般のニュースでも扱われるほど注目されている技術です。IoTという言葉やその概念が登場したのは1990年代と言われています。当時は、商品などの「モノ」に電子タグをつけて、インターネットを通じてモノの情報を管理するといった技術を指していました。その後、通信技術の高度化やクラウド、スマートフォンなどの登場により、IoTで実現できる世界が広がりました。さらに最近では、AIやビッグデータ、ウェアラブル端末などといった技術を活用することで、新たな価値の創出につながることが期待されています。
IoTにおける品質保証の難しさ
このように進化し続けるIoTによって、私たちの生活が快適になり、仕事の効率が上がるといったメリットがあります。その一方で、私たちの安全や安心を脅かすリスクが発生しています。『つながる世界の開発指針』(※1)では、以下の4つのリスクを挙げています。
- (1)想定しないつながりが発生する
- (2)管理されていないモノもつながる
- (3)身体や財産への危害がつながりにより波及する
- (4)問題が発生してもユーザーにはわかりにくい
複数のシステムが接続されることは決して珍しいことではありません。しかし、IoTが特殊なのは、接続する相手の情報をシステム開発者が持っていないことがある点です。開発者は、見えない相手との接続に関しても品質を保証しなければなりません。以降では、この難題を解決するための主な取り組みを2つ紹介します。
- ※1 つながる世界の開発指針
https://www.ipa.go.jp/sec/reports/20170630.html(外部リンク)
つながる世界の開発指針
先にも紹介した『つながる世界の開発指針』は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)技術本部 ソフトウェア高信頼化センター(SEC)が取りまとめた、IoTの製品やシステムの開発者が考慮すべきリスクや対策をまとめた指針です。方針策定から運用に至るまでの開発ライフサイクル全体における17の指針がまとめられています(図1)。さらに、この内容を具体化したものとして、IoTの製品やシステムが備えるべき機能要件を取りまとめた『「つながる世界の開発指針」の実践に向けた手引き[IoT高信頼化機能編]』も発行されました(※2)。これらを参考にすることにより、IoTのリスクに注意しながら、品質保証をするポイントを押さえて開発を進めていくことができます。
図1:つながる世界の開発指針に挙げられた17の指針
- ※2 「つながる世界の開発指針」の実践に向けた手引き[IoT高信頼化機能編]
https://www.ipa.go.jp/sec/info/20170615.html(外部リンク)
オープンシステムディペンダビリティ
ディペンダビリティとは、広い意味での品質に関わる概念で、信頼性や安全性などを包括したものと捉えられます。このディペンダビリティをオープンシステムに対して保証する技術がDEOS(Dependability Engineering for Open Systems)です(※3)。オープンシステムは「システムの境界が定義できない」ことが代表的な性質ですが、これは正にIoTに該当します。したがって、DEOSの技術がIoTの品質保証に活用されることが期待されます。
DEOSの技術の中核は、障害や変化に対応してディペンダビリティを継続的に保証する「DEOSプロセス」です(図2)。このプロセスの中では、開発から運用に至るさまざまな場面で、ステークホルダーと合意形成をすることが重要視されています。この合意形成には、ゴール指向の論証技法である「アシュアランスケース」を基にした「D-Case」と呼ばれる手法・記法を活用します(図3)。これらの技術を使うことで、IoTのシステムが障害なく稼働すること、あるいは仮に障害が起こっても被害を最小限にとどめ、迅速な対応や再発防止ができることが期待されます(※4)。
図2:DEOSプロセス
図3: D-Case(アシュアランスケース)の例
- ※3 DEOS協会(一般社団法人 ディペンダビリティ技術推進協会)
http://deos.or.jp/index-j.html(外部リンク)
- ※4 プロジェクトマネジメント学会誌 18(5), 5-10, 2016-10 システムのディペンダビリティを顧客と合意するための技術(町田欣史、山下裕介、猿渡卓也、塚本英昭、坂田洋幸)
まとめ
IoTの推進にあたっては、国内外のさまざまな団体により規格を策定する動きが見られます。日本では2015年に産学官が連携したIoT推進コンソーシアムが設立されました(※5)。それらの規格とあわせて、今回紹介した技術やノウハウを活用することで、利用者が安全、安心に使えるシステムを開発できます。今回紹介した2つの技術は、まだ活用事例が少ないのが現状です。今後事例が増えることで、それらの技術が洗練されることが期待されます。一方で、IoTやそれに付随するさまざまな技術の進化も目覚ましいものがあり、品質保証のための技術も追随することが求められます。
- ※5 IoT推進コンソーシアム
http://www.iotac.jp/(外部リンク)