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2024年4月4日技術ブログ

生成AI・メタバースで加速するデジタルツインの可能性

デジタルツインの重要性に関する認識が進み、活用事例が広がっている。従来は多大なコストと時間を必要としたさまざまな実験、作業がコンピュータ内部で高速、低コストにシミュレーション、映像化することが可能となったからである。デジタルツインは大きな社会課題である人手不足の解消、既存ビジネスの強化とともに新規ビジネスへの拡大などさまざまなDXの可能性を秘めている。
本記事では、デジタルツインの基本的な概念と活用事例、さらに注目を集めるAI、メタバースとの連携によりさらにその価値を高める将来についても紹介する。デジタルツインに興味のある方、自社ビジネスへの活用を検討している方にお読みいただきたい。
目次

1.デジタルツインとは

活用領域が広く、効果が大きな先進技術として、デジタルツインが注目を集めています。

デジタルツインとは、工場の生産設備、ショッピングモールなどの建造物、製品、人、天候などあらゆる現実の事物をデジタルでコンピュータ内に表現した複製(レプリカ)のことです。現実世界にある事物と、それに瓜二つのコンピュータ内のデジタルデータとを双子にたとえた表現です。

現実の事物をデジタルに変換することで、さらなる複製の作成、条件を変えたシミュレーションによる未来予測のほか、ビジュアライゼーション(可視化)により人間が容易に認識可能になるなど、多くの分野においてさまざまな活用が検討、実施されています。

デジタルツインの元祖は1960年代にNASAで実行されたアポロ13号計画だと言われています。アポロ13号計画では、実際のロケットと同じ、物理的なコピーが地上に用意されていました。アポロ13号の月面着陸は水素タンクの爆発により失敗に終わってしまいますが、地上に用意したコピーのロケットを、爆発した実機と同じ状態にし、それを用いた計画と実験を行うことで、搭乗員を載せたアポロ13号は奇跡的な地球への生還を果たします。これらはPairing Technology(ペアリング・テクノロジー)と呼ばれています。

そして2002年、ミシガン大学のマイケル・グレーブズ氏は、デジタルツインの概念および製造業への応用を提唱します。現在、デジタルツインは対象が製造業にとどまらず、都市、物流、素材、医療、人など幅広い領域へと拡大しています。

2.デジタルツインの適用例

デジタルツインはさまざまな用途への応用が可能です。以下に代表的なものを紹介します。

製造ラインの最適化:製造ラインのデジタルツインを構築し、さまざまなシミュレーション、可視化を行うことで、製造ラインの最適化、品質管理、メンテナンスの改善などに活用されます。実際の環境を組み替えることなく、変更の効果および課題を予測することができます。

素材開発の効率化:素材開発や改良においては、デジタルツインを使用した材料の特性や挙動のシミュレーションが有効です。実際に実験を行う前に、コンピュータ上で材料の挙動を予測することができ、開発プロセスの効率化が期待できます。

都市計画:社会インフラ(建物、道路、上下水道等)の計画策定および合意形成にも活用できます。ビル、道路などを含めたデジタルツインを作ることで、人の流れ、物流、温室効果ガスの発生、故障予測に基づく最適な修理計画などさまざまな変化、効果のシミュレーションが可能となります。また、街並みの変化を可視化することで将来の姿を具体的にイメージすることが可能となり、多くの関係者の合意形成が容易になります。

オフィスレイアウトの最適化:オフィスのレイアウトや環境の最適化、空調におけるエネルギー効率の改善などにも活用されます。オフィスレイアウトをデジタルツインとして作ることで、人の動線の確認、空調の精度および効率、オフィス利用効率の評価等が可能となります。この場合も、可視化により関係者の合意形成にも有用です。

人の判断の自動化:人の能力、判断をコピーする「人のデジタルツイン化」に関する挑戦も進んでいます。専門的な技術を持ち、ビジネス判断を行うことができる人のデジタルツインは、ビジネスの高度化や人手不足に対する解決策となりえます。また、人の嗜好、購買判断などのデジタルツイン化を行うことで、商店、ショッピングモールレイアウトの最適化などへの適用も期待されています。

3.デジタルツインを加速するAIとメタバース

デジタルツインは主に図1のような流れで行われ、それぞれのフェーズでさまざまな技術が活用されます。

図1:デジタルツイン構築・利用の流れ

3.1 MODELING/SENSE

デジタルツインの最初のフェーズは、現実世界をデジタルにコピーすることです。ここでは目的に合わせてさまざまな形で現実がデジタルデータに変換されます。

シミュレーションが主目的であれば、センサーによって、温度、風速、人の位置といったデータを頻繁に取得することが中心となります。人間が意思決定を行うための可視化が目的の場合は、カメラ、レーザースキャナーなどを用いて、実物の外観に近い状態で現実世界をデジタルデータとして取り込むフォトグラメトリー技術(図2)や、現実世界に合わせて新規に3Dモデルを作成する(図3)方法が利用されます。

3Dモデルとして取り込む場合は、時間がかかる作業になるため、通常一回のみ行われることが多いです。高価で事前に多数のカメラが設定された特定の場所(スポーツスタジアム、撮影スタジオ等)での利用に限られますが、リアルタイムに3Dモデルを作成可能なボリュメトリックビデオ(※1)という技術もあります。

図2:フォトグラメトリー技術によりデジタル化したキリンの人形

図2:フォトグラメトリー技術によりデジタル化したキリンの人形

図3:実物に合わせてモデリングを行った高品質の3Dモデル(データセンタ)

図3:実物に合わせてモデリングを行った高品質の3Dモデル(データセンタ)

フォトグラメトリーは、非常に多くの写真を撮影する必要があり、撮影できない部分があると、そこのモデルが欠けてしまいます。ほかにも、単色の壁や床、ガラスのような透明な物体が苦手といった課題があります。また、3Dモデルを新規に作成する場合、非常に長い時間とコストがかかります。

現在、フォトグラメトリーよりも正確に現実世界をデジタル化する技術が登場しています。AIを応用したNeRFと3D Gaussian Splattingです。これらの技術によりデジタルツイン構築のコストと品質の改善が見込まれています。

生成系AIはテキストや静止画、動画の生成が注目されていますが、3Dモデルを生成する生成系AIも登場しています(図4)。まだまだ作成されるモデルの品質にはばらつきがあるものの、デジタルツイン生成のコスト、品質を大きく改善する可能性があるものとして期待されています。

図4:3D生成AI(meshy.ai)により作成された3Dモデルの例

図4:3D生成AI(meshy.ai)により作成された3Dモデルの例

さらに、現時点では特定のモデルに限られますが(図5の例では人間を利用しています)、一枚の写真から3Dモデルを生成する技術も登場しています。いずれ、一枚の写真から精度が高い3Dモデルを生成することも可能になることが予想されます。

図5:一枚の写真(左)から生成したアバター(https://avatarsdk.com/)

図5:一枚の写真(左)から生成したアバター(https://avatarsdk.com/

3.2 Simulate/Optimize

次のフェーズで行われるのが、最適な選択を行うためのシミュレーションです。シミュレーションにはさまざまな種類があるのですが、通常、より精度の高いシミュレーションをめざすと、計算量が加速度的に増え、より多くの時間や高性能のコンピューターが必要になります。

例えば、1000m3の空間(10m x 10m x 10m)においてシミュレーションを行う場合を考えてみましょう。空間を1m単位で区切って処理を行う場合、立方体の体積を求める計算式に従うと(10m/1m)^3となり、1000回の計算が必要となります。シミュレーションの精度を上げるため、1cm単位で区切って処理を行おうとすると、(10m/1cm)^3となり、10億回の処理が必要です。求められる計算量が100万倍にもなるのです。

すると、従来1分で終わっていた処理が約700日(1,000,000分)かかることになってしまいます。より精度が高い天気予報などのシミュレーションを行うためにスーパーコンピューターが利用されるのはこれも理由の一つです。なお、シミュレーションを高速化するためにAIが利用される例もあります(※2)

3.3 Visualize

3番目のフェーズが可視化(Visualize)です。可視化はより具体的なイメージによって人の意思決定を支援します。これにより、シミュレーションおよび最適化をコンピュータで処理できない場合、代わりに人間が判断することが可能になります。

特に都市計画、オフィスなどにおける景観などについてはコンピュータによる評価が難しいため、可視化が重要です。また、より多くの関係者に具体的なイメージを認識させたい場合にも有効です。家やビルを建てるときに、図面から完成した状態を想像するためには高いスキルが要求されますが、メタバースの中に3Dモデルを格納することで、現実に近いものを複数人で、かつリモートから同時に体験することが可能となります(図6)。メタバースプラットフォームを利用すると、リモートから参加する複数人に対する可視化と、複数人によるコミュニケーション、レビューを容易に行うことが可能になります。

また、デジタルツインにおける条件(天候、人、物の場所、数など)を変更し、可視化することでAIを学習するために必要なデータを、効率的に生成することも可能です。

図6:オフィスのデジタルツイン内で自動販売機の設置位置の検討を行う様子

図6:オフィスのデジタルツイン内で自動販売機の設置位置の検討を行う様子

3.4 Feedback

多くのデジタルツインでは、シミュレーション、最適化および可視化により得られた結果に基づき、現実世界へのフィードバックが行われます。フィードバックの方法はデジタルツインの対象によって、都市(ビル、道路、上下水道等)の建設、オフィスレイアウトの変更、工場生産ラインの変更、空調の制御等大きく異なりますが、その中でも注目されているのがロボット、自動車などの自動制御です。これらにおいては取得した映像に基づく制御が行われており、そこでもAIが活用されています。

4.デジタルツインの今後

デジタルツイン、AI(特に生成系AI)、メタバースはそれぞれ別の技術として認識されがちですが、これらの技術を組み合わせて利用することでビジネスを大きく加速することが可能です。デジタルツインに取り組みたい企業の皆さまはぜひNTT DATAにご相談ください。

(―文章内のサービス名などは各社の商標もしくは登録商標である場合があります)。

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