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2023年11月20日展望を知る

NVIDIA Omniverseを活用したデジタルツイン構築の好事例

デジタルツイン構築では、テクノロジーやプラットフォームに関係なく、複数の独立したコンポーネントを結ぶアプリケーションの作成が不可欠であり、多様なテクノロジーをシームレスに接続するプラットフォームが必要となる。その代表例がNVIDIA Omniverseだ。本稿ではNTT DATAも活用するNVIDIA Omniverseの機能や活用事例、今後の展望を紹介する。
目次

デジタルツイン上での共同作業を実現するNVIDIA Omniverse

NVIDIA Omniverseは、Universal Scene Description(USD)(※1)ベースの3Dワークフローとアプリケーションを開発できるコンピューティングプラットフォームです。高度なリアルタイムグラフィックス、物理シミュレーション、レイトレーシングによるレンダリング、VR統合、AIトレーニングなど、さまざまなテクノロジーや機能を集約。これにより、ユーザーは詳細でリアルな仮想環境を作成し、複雑なオブジェクトやシーン、インタラクションをデザインしたり、シミュレーションしたり、視覚化したりすることができます。

NVIDIA Omniverseの大きな特徴は、多様なソフトウェアと設計ツールを接続できる機能を備えていることです。つまり、利用するツールを問わず、共同作業が可能です。さらに、リアルタイムストリーミング機能も備えているため、ユーザー同士がPCやリモートサーバー、モバイルデバイスなどを使って、対話しながら作業することができます。

たとえば、デジタルツイン上で3Dモデルを活用するプロジェクトでは、利用するツールが異なる場合、共同作業が難しいという課題がしばしば発生します。しかし、NVIDIA Omniverseであれば、アーティストやデザイナー、エンジニアが複雑なプロジェクトに共同で取り組むことができます。また、プラットフォームに統合可能なカスタムプラグインやアプリケーションを作成することも可能です。

(※1)

Pixer社が開発し、オープンソースとして一般公開している汎用的な3Dシーン記述の形式

NVIDIA Omniverseのユースケース

デジタルツインアプリケーションをNVIDIA Omniverseで統合すると、シーンのリアリズムの向上といったことからAI活用を可能にするユースケースまで、さまざまな階層においてメリットがあります。仮想環境におけるトレーニングやテスト、シミュレーション、設計最適化をAIに学習、適応させることも可能です。

例を挙げると、自動運転分野での活用が見込めます。AIを活用した自動運転を実際の道路で行う前に、まず現実世界を再現した仮想環境でAIのトレーニングやテストを行うことができます。仮想環境だからこそ、多様なシナリオや気象条件など、現実世界では再現が難しい環境での実験も容易となり、より安全で効率的な技術開発が可能となります。

医療分野では、医療訓練や手術シミュレーションといったユースケースが考えられます。AIを搭載した仮想環境では、複雑な医療処理の手順を再現できるため、制御された環境下で安全に練習し、スキルを磨くことが可能です。これにより、実際の医療処置でのリスクが軽減され、患者の安全性が向上します。

そのほかにも、建築や都市計画の分野では、AIがシーンを分析することで、建物の配置、建築資材の選択、照明計画など、設計を変更した場合の影響をシミュレートできます。意思決定者や都市計画者がシミュレート結果に基づく意思決定を行うことで、機能性や美観、エネルギー効率の最適化が可能となります。

コネクタ、RTX、VR統合など、さまざまな機能を搭載

NVIDIA Omniverseが有用である理由の一つは、双方向でのデータ交換を可能にする豊富なコネクタにあります。コネクタを使うことで、Autodesk Mayaや3ds Max、Unreal Engineといった一般的な3Dソフトウェア上の3Dモデルを、NVIDIA Omniverseとシームレスに同期することができます。わざわざデジタルツイン用に作り替えることなく、既存のアセットやモデルをそのまま活用できれば、工数の削減という大きなメリットが生まれます。

また、デジタルツイン上での共同作業が可能であることは前述しましたが、これもコネクタによるものです。建築家やエンジニア、デザイナーなど、デジタルツイン開発に関わる専門家は、それぞれ異なる専用の3Dモデリングソフトウェアを使用しているため、通常であれば共同作業は困難です。しかし、コネクタを使用すれば、異なる3Dソフトウェアで作成した3DモデルをNVIDIA Omniverseに容易に転送し、統合できるので、各自使い慣れたソフトウェアで操作することが可能です。

NVIDIA Omniverseが有用であるもう一つの理由は、リアルタイムレイトレーシング技術(RTX)により高度でフォトリアルな仮想環境を生み出せる点です。実際、既存の3DモデルをNVIDIA Omniverseにインポートするだけで、照明や反射、テクスチャレンダリングが向上するため、よりリアルな表現が可能です。

図1(左):既存の3Dモデル 図2(右):NVIDIA Omniverseにインポートした3Dモデル

図1(左):既存の3Dモデル 図2(右):NVIDIA Omniverseにインポートした3Dモデル

高いレベルで現実世界を描き出すことは、仮想環境のビジュアル品質を向上させるだけでなく、AIの高度な学習にも役立ちます。現実世界に酷似した仮想環境において、精度の高い学習ができるからです。また、NVIDIA Omniverseを使った合成データ生成では、手動でデータを収集することなく、多様なデータを活用した包括的なテストが可能となります。コスト効率の向上や、より迅速なイテレーション、モデルの頑健性向上を実現し、AI開発を簡素化し、加速します。一つの環境下でAIの構築とトレーニングを行い、最終的に仮想環境から実環境へシームレスに展開することができるのです。
その結果、ユーザーは現実世界の環境に悪影響が及んでしまうようなリスクを負うことなく、資産運用の計画作成やその最適化ができるため、ダウンタイムやコストを最小限に抑え、全体的な生産性向上につながります。

図3:様々な形でデータセンターを可視化した様子

図3:様々な形でデータセンターを可視化した様子

なお、NVIDIA Omniverseには、3Dモデルに変更を加えることなく、すぐに利用できるVR統合の機能もあります。これにより、ユーザーは現実世界のシナリオを再現した没入型シミュレーションを作成し、安全で制御された仮想環境で練習をしたり、スキルを磨いたりすることができます。この機能は職業訓練に役立ちます。さらに言えば、複数のユーザーが同じVR環境に同時に参加できるため、チームワークや知識の共有、インタラクティブなトレーニングセッションも可能で、全体的な学習体験が向上します。

成功事例:データセンターのデジタルツイン

大規模なデータセンターを保有する企業では、その監視業務のほか、今後の拡張や構成のシミュレーションを行うため、データセンター管理に必要なさまざまなツールを一つのプラットフォームに一元化したいというニーズが高まっています。この課題解決に役立つのが、データセンター用のデジタルツインです。

そこで、ここからはNTTデータイタリアにおける、大手メディア系企業の事例を紹介します。このお客さまは、リアルタイム監視のほか、アラームや物理環境、電気環境の可視化、さらには数値流体力学シミュレーション(※2)を使用したさまざまな運用シナリオをテストできる仮想環境を求めていました。そのため、温度やその他のデバイスから得られるデータを元に、かなり詳細なレベルまで完全に同期したデータセンターのデジタルツイン構築が必要でした。

デジタルツインの開発にあたっては、NVIDIA Omniverseを活用しました。Autodesk MayaやBlenderといった3Dモデリングツールとのコネクタによって、現実世界のデータセンターを忠実に再現した3DモデルをNVIDIA Omniverseにインポート。データセンター内の構造や設備を視覚化したことで、オペレーターはまるでそこに現実世界があるかのように仮想環境を探索し、操作できるようになりました。データセンターのオペレーター、エンジニア、意思決定者といった複数の関係者が仮想環境内で協力し、意見やアイデアを交換できるようになったことも、本プロジェクトの成果と言えるでしょう。

さらに、NVIDIA OmniverseはUSDファイル形式ベースでの開発に対応しているため、デジタルツイン上の3Dモデルに、さまざまなメタデータを直接格納することができます。今回構築したデジタルツインでは、温度、湿度、CPU消費量、PUE(エネルギー効率)などの情報を格納し、現実世界のデバイスとリアルタイムで同期できるようにしました。

また、カスタム拡張機能として、メタデータの値に依存するインタラクティブな動作を簡単に定義することも可能です。たとえば、PUEの値が重大なしきい値に達した場合に、デバイスを明るい赤色で強調表示したり、全体の温度が重大な値に達した場合にデバイスの近くにアラームを示すバナーを表示したりできます。

図4:デバイスを強調表示して異常を知らせるイメージ

図4:デバイスを強調表示して異常を知らせるイメージ

図4:デバイスを強調表示して異常を知らせるイメージ

このデータセンターのデジタルツインでは、さまざまなソースから収集および同期された膨大な量のデータを利用し、データセンター内の温度や空気の流れ、冷却、電力消費をリアルにシミュレーションできます。これは、コネクタによりParaViewのような高度なシミュレーションツールを活用しているためで、読み取り可能なヒートマップやストリームトレーサー、ラベルを通じて、その結果を可視化するのです。データセンターが新しいデバイスで拡張された際に、冷却システムがどのような影響を受けるか、施設の電力消費がどのように増加するかをシミュレーションすることができます。

以上のように、NVIDIA Omniverseを活用して構築されたデジタルツインによって、お客さまはデータセンターの監視やプランニング、最適化に使用するすべてのツールを一元化。メンテナンス戦略やリソースの割り当て、運用の最適化などに関する意思決定を取得したデータに基づき容易に行えるようになり、ダウンタイムの削減、全体的な効率化を実現しました。

今後の展望としては、このデータセンターのデジタルツインを活用し、AIがさまざまな運用シナリオをシミュレートしたり、最適化したりすることが考えられます。たとえば、サーバーのメンテナンス、ケーブルの配線、デバイスの設置といったタスクを自律的に実行するようにロボットを訓練することができるでしょう。フォトリアルな環境だからこそ、AIがさまざまな状況を学習して適応できるようになり、現実世界における課題への対応力が向上します。AIモデルを反復的に訓練し、微調整することで、ロボットは複雑な作業でも正確・迅速・安全に実行するために必要なスキルを習得できます。

本取り組みは、技術開発本部イノベーションセンタによるものです。

(※2)

気体や液体といった流体の運動方程式をコンピューターで数値的に解き、その流れをシミュレーションすること

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