はじめに
近年、サステナビリティは企業や社会における重要なテーマとして定着し、サステナブル投資や脱炭素経営などの取り組みが広がっています。一方で、普段携わっている業務や技術がサステナビリティとどのように結び付くのか、どのように活かしていけるのかを具体的にイメージしづらい方も多いのではないでしょうか。
この連載では、「技術」観点で、テクノロジー×サステナビリティのトレンドや具体事例などを紹介します。2025年度は全5つの技術テーマを取り上げる予定であり、今回は衛星とサステナビリティとの関連に注目します。
昨今、衛星は環境モニタリングや気象予測、災害管理や資源管理、さらにはカーボンクレジット(※1)の算定支援などにも活用され、社会課題の解決に向けた実践的なツールとしてその重要性を高めています。2024年のホワイトペーパーで紹介した衛星による3D地図やデータ解析技術も着実に進化を遂げており、こうした技術の進展が社会や産業の持続的な発展を後押ししています。
一方で、スペースデブリ(宇宙ごみ)の増加、軌道環境の混雑化、データ主権といった懸念も指摘されており、こうした課題への配慮も持続可能な技術活用には欠かせません。本記事では、衛星の進化と課題を踏まえ、サステナビリティの観点からその活用方法や運用のあり方をトレンドや事例を取り上げながら紹介します。
温室効果ガス排出量の基準値(ベースライン排出量)と、実際の排出量または吸収量との差分をクレジット化し、取引できるようにしたもの。
衛星のトレンド
世界的に拡大を続ける衛星市場は日本国内でも同様の傾向を示しており、通信、観測、画像サービスの各分野で高い成長が予測されています。2025年から2030年にかけて日本の衛星通信市場は38.4億ドルから77.6億ドルへ拡大し、年平均成長率は15%を超える見込みです(※2)。地球観測衛星市場は7億ドルから13億ドルへ、衛星画像サービス市場は4.1億ドルから8.3億ドルへと成長が期待されています(※3)(※4)。これら衛星市場の成長の背景には、5G導入や高速通信インフラへの需要、防災や農業・漁業管理など社会課題の解決に直結する活用が進んでいることがあります。
特に地球観測衛星はサステナビリティへの貢献度が高く、幅広い領域で活用が進んでいます。例えばカーボンクレジットにおいては、従来の現地調査などの観測手法を補完することで、制度の透明性確保に貢献しています。スマートシティの分野では都市インフラの状況把握や災害対策などに活用され、官民による実証・実用が進んでいます。さらに海洋分野では、広範囲かつ周期的なデータ取得が可能となったことで、海運、海洋状況把握、洋上風力などの領域でDXが進んでいます。防災分野においても浸水や地震被害の迅速な把握が可能となり、行政の適切な対応判断などに活用されています。このように地球観測衛星の活用は多様な領域に広がり、衛星が単なる観測ツールから社会基盤的なデータインフラへと進化していることを示しています。
衛星技術の社会基盤化に伴い、政策や制度面での整備も各国で進んでいます。例えば、日本では衛星コンステレーション(※5)を経済活動や安全保障の基盤と位置づけ、民間企業や大学などによる展開を支援する方針が示されています。また、衛星データの主権や国際競争力の確保が重要な課題となっている中、EUでは地球観測データのオープンアクセスを進め、世界が衛星データを活用できる基盤を整備することで、環境・災害分野の国際協力を支援するとともに、技術的影響力の強化を図っています。加えて、衛星データは制度設計に組み込まれる動きも見られ、日本では準天頂衛星システム「みちびき」が公共用途で活用されており、EUではEUDR(欧州連合森林破壊規則)において衛星観測が制度実装の重要な手段として位置づけられています。さらにスペースデブリ対策も国際的な課題であり、日本では宇宙ビジネスの多様化を受けて法制度の見直しが進み、米国では低軌道衛星の軌道残留期間を25年から5年に短縮する新ルールが導入され、EUでは2030年までに増加数ゼロをめざす目標が掲げられています。
衛星は先端技術との融合によって新たな価値を生み出しています。AIとの連携では、膨大なデータを軌道上で解析し処理時間を短縮する取り組みが進んでいます。また、衛星間で自律的に観測計画を共有する試みやスペースデブリ除去への応用も進められています。IoTとの融合では、地上ネットワークが届かない地域でセンサー情報を収集し、農業や海洋分野でのリアルタイムな環境把握に活用されています。デジタルツインとの連携では、都市や自然環境のリアルタイムでの把握と将来予測を可能にしています。特に日本では、国土交通省が推進するProject PLATEAUにおいて、全国の都市デジタルツインの構築に衛星データを活用する取り組みが進められており、衛星は地球規模のデジタルツインを構築するうえで不可欠なデータソースとなっています。
https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/japan-satellite-communication-market
https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/japan-satellite-based-earth-observation-market
https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/japan-satellite-imagery-services-market
多数の小型衛星を連携させて運用するシステム。これにより地球全体をカバーし、効率的な通信や観測サービスを実現できる。
NTT DATAの衛星における取り組み
NTT DATAは、最先端の画像処理技術を活用し、衛星画像から高精度な2D・3D地図を生成する「AW3D」サービスを展開しています。JAXAやMAXARとの連携により世界規模の3Dデジタル地図を開発し、都市計画や水資源対策など130か国以上で4,000件を超えるプロジェクトに活用されています。また、新会社Marble Visionsは、人工衛星の設計・開発から運用、データ分析、アプリケーション提供までを垂直統合し、農業や都市、防災、森林、土地利用などに関する社会課題の解決に挑戦しています。さらにNTT DATAのイノベーションセンタはAW3DやMarble Visionsと連携し、AI専門知識を組み合わせて衛星データの分析・自動化・最適化を推進し、衛星画像の潜在能力を最大限に引き出すことで、より深い洞察を得ることをめざしています。
具体的な衛星技術の活用事例として、農業・森林分野での「Farm360」と「CO2Sink」が挙げられます。Farm360は農家がカーボンクレジット市場に参加できるよう支援するプラットフォームで、AIと衛星データにより作物計画や肥料投与を最適化し、収量向上と環境負荷低減を両立します。国際認証基準に基づいて炭素隔離(※6)や温室効果ガス削減を支援し、低コストで使いやすいサービスを提供しています。CO2Sinkは、Light Detection And Ranging(LiDAR)(※7)やAIを用いて森林の炭素貯蔵量を高精度に可視化し、CO2吸収量の測定精度とデータの透明性を高める仕組みです。グアテマラやイタリアでCO2Sinkを活用した植林プロジェクトが展開され、これらの取り組みは、林業における炭素貯蔵を活用した収益化に関するパイロットケースとして、大きな可能性を示しています。
また、NTT DATAはBifrost AIと連携し、衛星データ活用を支えるAI開発基盤強化に取り組みました。衛星データを活用したAI技術はインフラ監視や農業などで利用が広がっていますが、こうしたAIを開発するには、取得コストやアノテーション(※8)作業の負担などの課題があります。この課題を解決する手段として注目されているのが合成データです。そこで、NTT DATAのAIおよび衛星データ機能と、Bifrost AIの合成データ技術を活用したAI開発におけるPoCを実施しました。PoCでは合成データ技術により物体検出や変化検出モデルにおけるAIの性能向上が確認され、少数の衛星データでの開発や自動アノテーションが可能となりました。この成果により、インフラや環境モニタリング、都市計画などさまざまな分野への応用が始まっています。例えば、環境モニタリングでは衛星から地表面の変化を捉えて自然災害リスクを評価するといった、防災リスクマネジメントへの活用が進んでいます。長期的にはMarble Visionsが、地球全体(または特定の対象地域)の動的なデジタルツインを実現する、高時間・高解像度の衛星コンステレーションとして、お客さまのニーズに合わせたAIベースの知見を提供することも想定しています。詳細についてはこちらの記事(※9)をご覧ください。
大気中の二酸化炭素を植物や土壌などに吸収・蓄積させ、温室効果ガスの増加を抑えるしくみ。
レーザー光を照射して、その反射光が戻るまでの時間を測定することで、対象物までの距離や形状を高精度に把握する計測技術。
AIが学習できるように画像やデータにラベルや情報を付ける作業。
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2025/0821/
おわりに
「テクノロジー×サステナビリティ2025」と題して、連載の第4回では、衛星とサステナビリティの関係を解説しました。衛星は、環境モニタリング、災害対応、農業支援、教育・医療のアクセス改善など、多様な分野で課題解決に寄与する重要なインフラとして役割を拡大しています。NTT DATAが推進するMarble Visionsも、衛星データを活用した社会課題の解決に向けた取り組みとして持続可能な未来の実現に貢献しています。今後はより多くの領域で衛星の活用が進み、地球規模の課題に対する解決手段としての存在感が一層高まると考えられます。
一方で、スペースデブリの増加やエネルギー消費、データ主権などの課題も顕在化しており、衛星技術の持続的な発展には制度面・技術面双方からの対応が求められます。
NTT DATAではこうした課題にも配慮しつつ、衛星技術を進化させ、新たな価値創出とより持続可能な社会の発展に貢献していきます。
ホワイトペーパーでは本記事で紹介した内容の詳細に加え、衛星の他社での導入事例の詳細についてもまとめています(※10)。
図:ホワイトペーパーの構成
NTT DATAでは、2024年度に引き続き、「普段活用している技術がサステナビリティにどのように関連するのかを知り、より身近に感じること」を目的として、2025年度では全5つの技術テーマについてホワイトペーパーを公開する予定です。
2025年度は最新の知見や業界動向を踏まえて情報をアップデートするとともに、サステナビリティの観点からその活用方法や運用のあり方を再考していきます。
次回はスマートロボットを取り上げる予定です。ご期待ください。


サステナビリティについてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/sustainability/
NTT DATAのテクノロジーについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/technology/
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