はじめに
近年、サステナビリティは企業や社会における重要なテーマとして定着し、サステナブル投資や脱炭素経営などの取り組みが広がっています。一方で、普段携わっている業務や技術がサステナビリティとどのように結び付くのか、どのように活かしていけるのかを具体的にイメージしづらい方も多いのではないでしょうか。
この連載では、「技術」観点で、テクノロジー×サステナビリティのトレンドや具体事例などを紹介します。2025年度は全5つの技術テーマを取り上げる予定であり、今回はデータ連携基盤とサステナビリティとの関連に注目します。
データ連携基盤は、技術進化や社会的背景の変化を受け、産業や社会を支えるインフラとして認識されつつあります。クラウドやAPI(※1)、ゼロトラストセキュリティ(※2)、暗号化技術の進展に加え、非接触・オンライン化の需要拡大や国際的なガバナンス整備もデータ連携の動きを加速させています。特に、複数企業間のデータ連携を通じた効率化や高度化のニーズが高まっており、その背景には、カーボンニュートラル(※3)、人権デューデリジェンス(※4)、循環型社会、産業DXなどの実現に向けた動きがあります。企業間データ連携はサステナブル経営やDXを推進する鍵となりますが、一方で、その実現には制度面・技術面での標準化やガバナンス体制の整備が前提条件となっています。本記事では、データ連携基盤の進化と課題を踏まえ、サステナビリティの観点からその活用方法や運用のあり方をトレンドや事例を取り上げながら紹介します。
アプリケーションやサービス同士がデータや機能をやりとりするためのしくみ
すべてのアクセスを「信頼しない」ことを前提に、ユーザーやデバイスごとに常に認証・検証を行うセキュリティモデル
温室効果ガスの排出量から森林吸収や削減分を差し引いて、排出量を実質ゼロにすること
企業が自らの事業やサプライチェーン全体で、人権侵害のリスクを特定・防止・是正するために行う取り組み
データ連携基盤のトレンド
データ連携基盤の導入は急速に進んでおり、データ連携プラットフォーム市場(※5)は2034年には世界規模で約297億ドルに達する見込みです(※6)。エネルギー、製造、医療、行政など多分野で活用が進み、再生可能エネルギーの需給調整や医療データの相互運用など、社会課題の解決に直結するユースケースが増えており、データ連携基盤は社会の共通インフラとしての役割が一層強まると期待されています。
一方で、プライバシー保護やガバナンス確保といった課題も顕在化しており、各国では自国の制度や社会状況に応じた政策を展開しています。
欧州では、Gaia-X(※7)をはじめとする欧州主導の分散型データ基盤の整備が進められています。また、制度面では欧州データスペース構想に基づき、さまざまな分野で官民連携によるデータ共有の枠組みが構築されています。特に医療分野では、欧州データスペースの中で最初に採択された欧州医療健康データスペース規則に基づき、個人が自身の医療情報を管理・共有できる仕組みが整備されています。さらに、2025年9月に発効された欧州データ法はIoT機器やサービスから得られるデータの利活用を促進するための法整備を目的としており、データ所有者や利用者の権利の明確化と、透明性の確保を進めています。 日本ではデータ利活用による価値創出が国際的に遅れているものの、行政や医療、教育などの分野で基盤整備が進められています。たとえば、スマートシティ関連プロジェクトを通じた自治体内のデータ連携や、全国医療情報プラットフォーム構想、教育情報の統合管理に向けた実証などが進行中です。
産業分野では、比較的早いペースでの実装が進んでおり、経済産業省主導のウラノス・エコシステムが代表例です。本取り組みでは、企業や業界、国境を越えたデータ流通とシステム連携を目指しており、2025年には本取り組みの参考となる優良事例を奨励することを目的に「ウラノス・エコシステム・プロジェクト制度」が開始しました。自動車・蓄電池のカーボンフットプリントに関するデータ連携プロジェクトなどが選定され、今後は再生可能エネルギーや物流分野への展開も期待されています。 さらに、2025年6月にはデジタル庁、日本経済団体連合会、情報処理推進機構(IPA)が連携し、デジタルエコシステム官民協議会が設立されました。本協議会は、ユースケースを数多く創出するために、好事例の共有やデータ連携環境の整備、国内外の動向調査などを通じて、官民連携によるデータ利活用の推進を図っています。
ここでいうデータ連携プラットフォームとは、「異なるシステムや組織間で、形式の異なるデータを安全かつ効率的にやりとりできるプラットフォーム」を指す。
2019年に始まった欧州の分散型データ基盤構想で、クラウドやデータサービスを相互接続しつつデータ主権・透明性・相互運用性を確保することを目的としている。
NTT DATAのデータ連携基盤における取り組み
NTT DATAはこれまで培ってきたデータ利活用の知見と実績を活かし、データスペースの構築・普及を通じて社会的課題の解決と付加価値の創出を推進しています。共創活動を通じたユースケースの創出や、接続性・信頼性・秘匿性・可搬性を重視した技術開発、異なる基盤との相互連携を可能にする標準化などを通じて、業界横断の課題解決に貢献しています。
ここで、2025年7月より本格展開を開始した、企業・組織間データ連携の総合サービス「X-Curia™」を紹介します。これは、構想策定から技術導入、運用支援までをワンストップで提供する総合サービスです。データ主権の確保と高機密性の両立を可能にする技術を備え、業界横断の課題に対応できる柔軟な機能構成と専門人材による導入支援を特徴としています。エネルギー、製造、物流、医療、金融、行政など多様な分野への展開を進めています。詳細についてはこちらのページ(※8)をご覧ください。
また、NTT DATAは、2025年7月に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の「ウラノス・エコシステムの実現のためのデータ連携システム構築・実証事業/ウラノス・エコシステムに資するデータスペース基盤整備・普及促進事業/データスペース基盤の開発・実証・普及促進事業」に採択されました。本事業では、相互接続機能や認証認可機能などの技術開発を行っています。また、産業界の実ニーズに即したデータスペース基盤の開発・実証を進め、データスペース構築者や利用者に向けたガイドラインを作成し、普及促進活動も展開しています。本事業で開発する技術仕様・ソフトウエアはオープンソースソフトウエア(OSS)として原則公開し、広く意見を受け付けることで、関心のある企業・団体を巻き込みながら継続的な機能改善を行っています。これにより、データの掛け合わせにより生まれる新たなビジネス市場の創出に貢献します。詳細についてはこちらの記事(※9)をご覧ください。
おわりに
「テクノロジー×サステナビリティ2025」と題して、連載の第2回では、データ連携基盤とサステナビリティの関係を解説しました。データ連携基盤は組織や分野を越えた情報の流通を支え、エネルギー、製造、医療、行政など多様な領域での課題解決に貢献する重要な社会インフラとなりつつあります。一方で、プライバシー保護やガバナンス確保といった課題も顕在化しており、制度整備や技術の標準化が重要なテーマとなっています。
NTT DATAでは、こうしたデータ連携基盤の可能性と課題の両面に向き合いながら包括的なアプローチを進めています。信頼あるデータ流通を支える基盤の構築から業界横断のユースケース創出、さらには国際的な相互運用性の確保に至るまで、実践的かつ先進的な取り組みを通じて持続可能な社会の実現に寄与しています。
ホワイトペーパーでは本記事で紹介した内容の詳細に加え、データ連携基盤の他社での導入事例の詳細についてもまとめています(※10)。
図:ホワイトペーパーの構成
NTT DATAでは、2024年度に引き続き、「普段活用している技術がサステナビリティにどのように関連するのかを知り、より身近に感じること」を目的として、2025年度では全5つの技術テーマについてホワイトペーパーを公開する予定です。
2025年度は最新の知見や業界動向を踏まえて情報をアップデートするとともに、サステナビリティの観点からその活用方法や運用のあり方を再考していきます。
次回以降、デジタルヒューマンや衛星、スマートロボットといったテーマについて取り上げる予定です。ご期待ください。


データスペースについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/dataspace/
サステナビリティについてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/sustainability/
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