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1.求められるリスク起点での設備保全
製造業を取り巻く事業環境は、近年大きく変化しています。労働人口や熟練技能者の減少が進む中、製造設備の老朽化も避けられない状況です。さらに品質要求の高度化や安全、環境に関する規制の強化も進んでいます。
こうした環境変化は、安定生産や品質確保を難しくし、生産停止や品質不良といったリスクを高めます。これらのリスクは、企業の収益や事業継続に直接的な影響を及ぼします。
これまで製造現場では、人の目や経験に依存した設備保全が行われてきました。しかし、人手不足やベテラン技術者の減少が進む中で、従来の進め方には限界が見え始めています。
このような環境変化や現場の実態を踏まえ、設備の重要度や影響を基にリスクを起点とした保全が求められています。この考え方は既にCBM(状態基準保全)を導入済みの現場においても、設備間の重要度や経営影響を踏まえた優先順位付けを再整理する点で、設備保全計画を見直す有効な契機となります。
2.リスク起点での設備保全高度化の考え方と検討アプローチ
2-1.ディスクリートおよびプロセス製造業共通したRBMの重要性
図表1:経営視点で捉える設備保全 – RBMとは?
設備の重要度や影響度を踏まえた保全の最適化が求められる中、こうした課題に対するアプローチとして、RBMという考え方があります。RBMは、経営視点で限られたリソースを有効に活用するための手法です。リスク評価を基に、設備保全における戦略的な意思決定を支えます。この考え方に沿って、CM(事後保全)やTBM(時間基準保全)、CBMの中から、設備に適した方式を選択します。(図表1)
3.RBMの検討アプローチとして構想立案・効果検証・実装・継続改善
図表2:RBMの検討アプローチ
RBMは、「構想立案」「効果検証」「実装」「継続改善」の4つのフェーズで構成されます。(図表2)
最初の構想立案フェーズでは、設備保全の目的や目標を明確にし、投資対効果を整理します。続く効果検証フェーズでは、PoCを通じて技術的な実現性を確認し、必要に応じて保全計画を見直します。そして実装フェーズでは、業務プロセスの改善と技術の導入を進めます。最後の継続改善フェーズでは、設備保全の状況を定期的に把握し、経営と現場の両面で改善につなげます。
4.構想立案フェーズ:リスク評価ととるべき保全手法の考え方
まず構想立案フェーズに焦点を当て、リスク評価と保全手法検討の考え方を具体的に解説します。
このフェーズでは、設備保全の目指す姿と現状との差分を整理します。その上で、自社設備に合わせたリスク評価を行い、対応すべき設備の優先順位を明確にします。優先度に応じて、机上であっても投資対効果が見込める設備保全計画を立てることが求められます。
構想立案フェーズの中でも中核となるのが「リスク評価と優先順位付け」です。
以下の図表3は、リスク評価を行う際の基本的な考え方を整理した例を示します。この考え方を基に、各社の事業特性や設備構成に応じて評価軸を設計します。
図表3:プロセス製造業におけるリスク評価と採るべき保全手法の考え方
評価基準となる尺度を設定し、スコアリングによって各設備の安全性や生産安定性に関するリスクを可視化することが重要です。定量的に整理することで、リソース配分や保全手法の見直しを合理的に判断できます。
設備点数が多い現場ほど、簡易であっても定量評価による重要設備の仕分けが有効です。
リスク評価の結果、故障時の代替手段がない設備は、操業リスクが極めて高いと判断されます。このような設備はリソースを重点的に配分し、CBMをはじめとした手法を適用します。一方で代替手段がある設備は保全に多くのリソースをかけない判断が可能です。
このように、構想立案フェーズでは、なぜ取り組むのか、どこを対象とするのか、何を行うのか、どのように進めるのかという観点で整理します。これらの優先順位を実運用に落とし込み、継続的に判断していくためには、人手による判断だけでなく、データに基づく客観的な分析が不可欠となります。
5.実装・継続改善フェーズ:データ分析が握るRBMの成否
構想立案でリスク評価と優先順位を定め、効果検証フェーズで実現性を確認した後は、実際にRBMを実行する実装フェーズと、その効果を維持・向上させる継続改善フェーズへと移行します。この段階で最も重要となるのが、現場のデータを活用した「データ分析」です。
RBMにおけるデータ分析のアプローチとして、現在は機械学習(AI)の活用が広がっています。これは、過去の膨大な稼働データをAIに学習させ、設備の正常な状態や規則性を定義し、そこから外れた動きを異常の予兆として検知する仕組みです。人間が常時監視することが難しい微細な変化であっても、AIであれば休むことなくデータを監視し、リスクが顕在化する前にアラートを発することが可能になります。
5-1.データ分析を成功させる「3つの重要要素」
図表4:データ分析を進めるために必要となる3要素
しかし、単にAIを導入すればRBMが実現できるわけではありません。実効性のあるデータ分析を行うためには、図表4に示した「インプットデータ」「データ分析基盤」「分析AI」という3要素をバランスよく整備する必要があります。(図表4)これらは相互に依存しており、どれか一つでも欠ければ十分な効果は得られません。
(1)インプットデータ:量と質、そして鮮度
図表5:データ分析を進めるために必要となる3要素 インプットデータ
AIによる学習の土台となるのがインプットデータです。ここで求められるのは「品質」「網羅性」「鮮度」の3点です。(図表5)欠損やノイズのない信頼性の高いデータ(品質)であることに加え、十分な期間のデータ(網羅性)が必要です。さらに、予兆検知においては、設備の“今”の状態をリアルタイムで反映できるデータ(鮮度)が望まれます。適切なセンサー選定を行い、AIが正しく学習・判断できるデータを集めることが第一歩となります。
(2)データ分析基盤:多様なデータを繋ぎ、生かす
図表6:データ分析を進めるために必要となる3要素 データ分析基盤
製造現場には、新旧さまざまな設備やセンサー、制御機器(PLC等)が混在しています。データ分析基盤には、これら異なるソースから発生するデータを収集・統合し、AIが処理可能な形に加工する役割が求められます。データをためこむだけでなく、分析結果を現場へフィードバックし、継続的な改善サイクルを回すための環境として、柔軟性と拡張性を備えた基盤構築が重要です。(図表6)
(3)分析AI:解釈性と継続的なメンテナンス
図表7:データ分析を進めるために必要となる3要素 分析AI
収集したデータからリスクを判定するのが分析AIの役割です。ここでは精度の高さだけでなく、「なぜ異常と判断したのか」を現場の保全担当者に説明できる「解釈性」が重要視されます。ブラックボックス化したAIでは、現場の納得は得られず、実際の保全行動につながらないためです。また、設備の状態や環境は日々変化します。時間と共に精度が低下することもあるため、モデルの再学習やチューニングといった継続的なメンテナンスは欠かせません。(図表7)
5-2.NTTデータのRBM支援:構想から実装までの一気通貫
データ分析の3要素を繋ぎ、実効性のあるRBMを実現するには、現場とデジタルへの深い理解が不可欠です。NTTデータは全プロセスを統合的に支援することで、変革を共に推進することが可能です。
例えばインプットデータの整備では、コンサルタントと技術者が現場に入り込み、ユースケースに応じた最適なセンサー選定や設置箇所の設計を行います。分析AIの実装においては、専門的なデータサイエンスの知識がなくてもモデル構築が可能な「AutoMLツール」の活用も推進しています。実績あるツールの選定から導入、運用設計までをサポートし、属人化を防ぎつつ、スピーディーなRBMの実装を実現します。(図表8)
図表8:AutoMLツールの活用
6.まとめ
製造業を取り巻く環境が厳しさを増す中、リスクを起点にリソースを最適化するRBMは、競争力を維持・強化するための重要なアプローチです。RBMは単なる保全手法の高度化にとどまらず、経営視点と現場実行をつなぎ、限られた人材・投資を真に重要な設備へ集中させるための意思決定基盤となります。構想立案によるリスクの可視化を起点に、確かなデータに基づいた実装と継続的な改善を通じて、NTTデータは製造現場の保全高度化をトータルでご支援します。


ディスクリート製造業で今後求められるRisk Based Maintenance ウェビナーについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2026/001/
プロセス製造業で今後求められるRisk Based Maintenance ウェビナーについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2026/002/
Risk Based Maintenanceを支えるデータ分析 ウェビナーについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2026/003/
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