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2025.12.25業界トレンド/展望

AIへの幻想を打ち壊す、価値創出の鍵

~「PoCの壁」を越え、真の成果につなげる要諦とは~

目覚ましく進歩するAI技術。生成AIが生産性を劇的に変えるという期待が過熱する一方で、AIを導入しようとする多くの企業が導入効果を見いだせず、PoCから先に進めないという悩みを抱えているのが現状だ。NTT DATAは既にグローバルで2000件を超える生成AI支援事例を持ち、自社のソフトウェア開発業務においても全工程での生成AI活用を進めている。生成AIを導入して財務指標(PL)にインパクトを与えるような真の成果を生み出すための“鍵”とは何か。NTTデータ 取締役副社長執行役の冨安寛がその要諦を語る。

※本記事は、2025年8月27日に開催されたITJapan 2025での講演をもとに構成しています。

目次

AIへの幻想:「PoCの壁」を越えられないのはなぜ?

皆さんの会社では、AIを活用して成果を創出できていますか?この質問に対して、自信をもって「Yes!!」と回答できる方は少ないのではないでしょうか。

この実態を表すデータをいくつかご紹介しましょう。Microsoft社の調査(※1)によると、Microsoft Copilotの導入で得られた業務効率化の効果は、1日14分程度と、ちょうどコーヒータイム程度の時間に過ぎないと言われています。

もう一つ、IDC社が2025年2月に発表した、企業におけるAI導入フェーズの分布(※2)では、全体の約半数がPoCなど何らかの形でAIを導入しているものの、本格運用に進んでいるのはたったの5%となっています。

さらに、Gartner社は2025年6月、2027年末までにAIプロジェクトの40%以上が、「コストの高騰」「ビジネス価値の不明確さ」「リスク管理の不十分さ」が原因でキャンセルされるという予測を発表しています。(※3)

こうしたデータから見えてくるのは、AIの本格運用の前には、高い「PoCの壁」が立ちはだかっているということです。AIに劇的な成果を期待してPoCを実施してみたものの、ビジネス価値を明確化することが難しく、本格展開に至らない。そんな状況ではないでしょうか。

図1:立ちはだかる「PoCの壁」

なぜ「PoCの壁」を越えるのが難しいのか。理由はシンプルで、単にAIを導入するだけではコストを減らすことはできないからです。AIは「高性能なエンジン」のようなものであり、性能を存分に発揮できる環境(=業務プロセス)を適切にデザインし、KGIを明確にして初めて真価を発揮します。重要なのは、AIを導入して何を成し遂げるのか、目的を明確にして活用すること。NTT DATAも、真の成果創出に向けた取り組みを進めており、成果がいくつか出はじめているところです。

(※2)

IDC CIO Playbook 2025 Survey, commissioned by Lenovo, https://investor.lenovo.com/en/global/Lenovo_CIO_Playbook_2025.pdf

(※3)

Gartner®, Press Release, June 25, 2025 “Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027” https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-06-25-gartner-predicts-over-40-percent-of-agentic-ai-projects-will-be-canceled-by-end-of-2027
GARTNERは、Gartner Inc.または関連会社の米国およびその他の国における登録商標およびサービスマークであり、同社の許可に基づいて使用しています。All rights reserved.

NTT DATAが目指す「Quality Growth」と生成AI戦略

まずは、NTT DATAが事業を通じて目指す姿「Quality Growth」についてご紹介します。私たちは、新たな事業構想や価値の提言にとどまらず、エンジニアリングの強化によって実装を完遂し、お客さまの成果創出につなげて顧客への提供価値を最大化すること。こうした、持続的な成長と両立する質の伴った成長を目指しています。この実現に向けて、「コンサルティング」「ITサービス」「データセンター」など既存の主力事業に加えて、「Digital & Experiences」「Next-Gen Infra」そして「Agentic AI」の3つの注力領域を定めています。

図2:NTT DATAがQuality Growthを実現するための注力領域

生成AIの開発スピードや市場環境の変化は早く、社会実装を進めていく上では外部との連携が欠かせません。NTT DATAは2025年4月にOpenAIとのグローバルでの戦略的提携を発表。「日本初の販売代理店」として、8月から、大手企業向けにOpenAIアクセラレーションプログラムの提供を開始しました。実践知に基づいたユースケース創出や実装支援、各業界にフィットしたAIエージェントの提供にも取り組んでいます。

外部のパートナーとのアライアンス強化に加え、肝となるのがNTT DATAの「Smart AI Agent®」構想です。これは、利用者の指示に応じて複数のAIエージェントがタスクを自律的に実行・協調して業務を遂行し、新たな労働力を提供する、当社が描く「AIエージェント」の世界観です。

図3:Smart AI Agentコンセプト

AIエージェント事例

国内では、2025年6月末時点ですでに500件以上の引合い、45件の受注があり、業界各社から非常に高い関心を寄せられています。この中から、3つのAIエージェント事例をご紹介しましょう。

【事例1】
東京ガス株式会社 マーケティング領域DX

東京ガスでは、既存の業務プロセスにAIを後付けするのではなく、AIがある前提で業務全体を再設計しています。ターゲット設定~行動仮説の整理~施策立案を支援する「マーケティング施策用アプリ」を開発し、2024年10月から実運用を開始しています。

「構想策定からアプリ開発まで」を一気通貫で実施するために、NTT DATAは長年の経験で培った業務理解と、生成AI・サービスデザインに関するノウハウを提供し伴走しました。現場では工数削減効果が出ており、ユーザーの声を反映した機能の磨き込みと活用シーンの拡大を進め、定着後の売上貢献も見込んでいます。

【事例2】
株式会社みずほフィナンシャルグループ “企業特化型モデル”の構築

みずほフィナンシャルグループは、NTT版大規模言語モデル「tsuzumi®」に独自の研修資料やナレッジなど社内データを学習させ、特化型モデルの構築に取り組んでいます。一般的モデルでは実現しにくい独自の企業文化や価値観にフィットした生成AIを目指しています。現在は基礎づくりの段階にあり、今後は経理・法務・営業などへの展開や、複数エージェントの組み合わせによる高度化を計画しています。

【事例3】
株式会社JALカード マーケティング施策高度化

JALカードでは、「LITRON® Multi Agent Simulation」というディスカッションシミュレーションツールを用いて、マーケティング施策高度化のための示唆を導出しています。実顧客データから考えたペルソナを元に、複数のAIバーチャル顧客を生成。ある商品の購入に最もふさわしいのは誰かをAIバーチャル顧客同士にディスカッションさせることで、販売プロモーション施策に有効な示唆を得ました。その結果、購買率は3.0%向上。実際に売上に直結する成果を得ることができました。

成果を出す“鍵”は「目的・範囲・時間の再投資」

このように「PoCの壁」を乗り越えて成果を出し、本格導入へ進むための分水嶺となるのは何でしょうか。その“鍵”は「目的・範囲・時間の再投資」です。

「目的」は、時短などの効率性を示すKPIで終わらせず、売上向上・コスト削減といった財務指標に直結するKPIを当初から設計すること。「範囲」は、個人タスクの自動化ではなく、業務全体をEnd to Endで再設計し、プロセス横断やグループ横断でスケールしていくこと。また、「時間の再投資」は、AIで生まれた余力を、提案活動、高付加価値業務、新たなチャレンジに再配分する運用まで見据えて設計しておくことです。

図4:「PoCの壁」を超えるための分水嶺

NTT DATAのシステム開発における生成AI活用事例

NTT DATA自身も、システム開発業務においてAIを活用した業務変革に取り組んでいます。

NTT DATAは、長年に渡り公共・金融分野を中心にミッションクリティカルな社会インフラの構築・運用で実績を重ねてきました。システム開発の進化は、常に技術革新とともにあります。生成AIが登場した今、システム開発の世界は従来とは全く異なるフェーズへの「大きな転換点」を迎えています。

図5:NTT DATAのシステム開発におけるAI活用

NTT DATAでは、AIを次世代のシステム開発に不可欠な要素と位置づけ、プロジェクトマネジメントやITサービス管理領域も含めた全工程での活用を検証しています。適用件数は250件を超え、成果を上げている事例も複数生まれています。その中から、20年ほど前に開発されたシステムのモダナイズ事例をご紹介しましょう。

当該システムは、生成AI登場前に更改された経緯があり、段階的な移行の結果、新旧のコードが混在し保守性に大きな課題を抱えていました。そこで、NTT DATA独自のコード生成・変換アセット「Coding by NTT DATA」を用いて、高精度かつ汎用性のあるプログラムコードを作成。具体的な数値は控えますが、生産性・品質の両面において大きな成果を上げています。

図6:「Coding by NTT DATA」によるプログラムコード作成事例

一方で、大きな成果を得るには“前提となるプロセス自体”を見直すことも必要です。例えば、「自然言語から自然言語を生成する」タスクには精度や手戻りの課題があるため、要求分析から基本・詳細設計をAIで生成しようとすると、曖昧な記述や意図のズレにより生産性を下げてしまうケースが出てくるのです。そこで、“自然言語から自然言語を生成する”工程を廃したプロセスへの転換にも挑戦しています。

新しいプロセスでは、要求分析の成果物をAIに渡してコードを先に生成し、その後リバースエンジニアリングによって設計書を生成します。これにより、AIは各工程の成果物作成を担い、プロジェクトメンバーはレビュー・修正、シニア層は品質評価やAIへの模範データ提供に専念するという役割分担が可能となります。その結果、人の負荷を大きく削減しながら、開発全体のスピードと品質の両立を目指すことができます。

図7:生成AI活用に適した新しい開発プロセス

さらに、ソフトウェア開発エージェントの発展で広がる自然言語からソースコードを生成する新たな開発スタイル「バイブコーディング」の実証も本格化しています。この手法は、将来的にはシステム開発の“当たり前”になり得るものです。

適用の優先度は、「開発対象のシステム規模」と「求められる信頼性」の二軸で整理することができます。適用しやすいのは「小規模かつ高い信頼性が求められない」領域ですが、価値創出のポテンシャルが大きいのは「大規模」もしくは「高い信頼性が求められる」領域です。こうした領域への展開に向けて、最適なプロセス設計や体制の在り方を検証しています。

図8:AIネイティブ開発による開発スタイルの変化

さいごに

いま、多くの企業が「AIを導入したはずなのに、成果に結びつかない」という現実に直面しています。「目的・範囲・時間の再投資」で述べたように、AIを導入して達成したいことは何か。AIを前提としたときに、業務は、人はどう変わるべきか。AIで削減された時間を、どう有効活用するのか。これらの観点を見直し、真の価値を生むためのAI活用へと進化させていくことが必要です。NTT DATAは、単なるシステム提供者にとどまらない、提言、実装、成果創出まで伴走する変革パートナーです。”AIを導入する”から“AIで成果を出す”へ--その一歩を、ぜひ私たちと一緒に踏み出していきましょう。

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