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1.2030年のAI活用、4つの領域
「AIは早い」と言われるが、実際どれくらい早いのか。1億ユーザーを達成するまでの期間を見ると、Netflixは10年、Instagramは2年、TikTokは9ヶ月かかった。対してChatGPTは、わずか2ヶ月だ。
錦織の部門では、この「2ヶ月」を指針としているという。

システムインテグレーション事業本部 グローバルエンジニアリング&イノベーション室長
錦織 真介
「2ヶ月で作れるものをまず作る。品質度外視であっても、お客さまに支持されるソリューションを作り、進化させていく。そうでなければ、今のAI時代にはついていけません」(錦織)
この圧倒的な速度の先にある2030年。スタンフォード大学やマッキンゼーの研究結果も示唆するように、「情報システムの終焉」という大胆な仮説が現実味を帯びてきている。
従来型のシステムは姿を消し、AIが企業の頭脳として、新しい利益構造や市場機会を自律的に生み出す時代が到来するというのだ。
しかし、すべての領域がいきなりAIに置き換わるわけではない。2030年のAI活用は、「情報システムの必要性」と「人的作業の必要性」の2軸で4つの領域に分類できる。
図1:2030年を想定した、AI活用の4領域
1つ目は、情報システムが必要で、人的作業も必要な領域。基幹系ビジネスシステムや会計システム、ERPの人事給与などが該当し、AIで開発手法を革新していく領域だ。
2つ目は、情報システムは必要だが、人的作業は不要になる領域。監査システムやセキュリティ監視、ワークフローシステム、統合運用システムなどが該当し、AIによる運用効率の革新が求められる。
3つ目は、情報システムは不要だが、人的作業は必要な領域。CRM/SFA、コンタクトセンター、経営ダッシュボード、顧客管理などが該当し、AIと人が共創して新たな価値を作る領域だ。
そして4つ目が、情報システムも人も介さず、AIが単独で新たな価値を創出する領域。需要予測、予防保全、個別最適化、Eコマースなどがこれにあたる。
2.「AI-Shoring」による開発の次世代化
図2:AI活用の4領域と当社のアプローチ
第1の「AIで開発手法を革新していく」領域において、NTT DATAが打ち出しているアプローチが「AI-Shoring」だ。かつてコスト削減の主役だった海外への「Off-shoring(オフショア開発)」になぞらえ、海外ではなく「AI」に開発を委ねるという意味が込められている。
「欧米のAIツールを使ってみて分かったのは、コード生成はできても、日本企業が重視する『品質管理』や『試験』の機能が弱いということです。そこで我々は、設計書を入れるだけで、日本品質のコードとテストが自動で仕上がる『AI-Shoring』というサービスを開発しました」(錦織)
このサービスの最大の特徴は、単一のAIではなく、24ものAIエージェントが連携して動く点にある。計画を立てるエージェント、コードを書くエージェント、そしてテストを行うエージェントが相互に連携し、「書いてはテストし、エラーが出れば修正する」というサイクルを自律的に繰り返す。
「人間がやると大変なテスト工程も、AIなら24時間文句も言わずにやり続けます。従来、テストプログラムのカバレッジ(網羅率)70%程度で妥協していたビジネスアプリケーションでも、AIならば90%、100%を目指せます。設計書さえ正しければ、人間以上の品質を担保できるのです」(錦織)
3.運用の自動化と暗黙知のデータ化
「AIによる運用効率の革新(第2の領域)」におけるNTT DATAのアプローチは「コスト削減コミット型運用巻き取りサービス」という、従来のSIerのビジネスモデルを覆すような提案だ。
「我々は今、お客さまに対して『運用コストの20%削減をコミットする』という提案を行っています。これを可能にするのが、AIによる徹底的な自動化と、シェアード(共有)体制です」(錦織)
従来、システム運用はシステムごとに専任の担当者を張り付ける「人月計算」で契約されることが多かった。しかし、それでは繁忙期に合わせて人員を配置するため、通常期には無駄が生じる。AIとシェアード体制を組み合わせることで、この無駄を排除し、チケット数やアラート数に応じた従量課金モデルへの転換が進められている。
特筆すべきは、ブラックボックス化したレガシーシステムの「巻き取り」技術だ。長年の改修で仕様書が形骸化し、特定の担当者しか中身がわからないシステムであっても、ソースコードをAIに読み込ませることで、設計書を「リバースエンジニアリング」で生成する。
「ソースコードをいただければ、現時点で87%ほどの精度で設計書を起こすことができます。これにより、『既存ベンダーがいなくなるとシステムが維持できない』『有識者が定年退職すると中身がわからなくなる』といったリスクを解消し、安価で高品質なAI運用体制へと移行させることができます」(錦織)
さらに、日々の監視業務においても、定型的なアラートだけでなく、非定型なエラーメッセージの判断までAIが行うことで、99.9%の自動化を実現している事例もある。
「正直に申し上げると、これを進めると我々の仕事が減ってしまうので、苦しい部分もあります。しかし、AIの時代において、自分たちで自分たちの仕事を壊して再構築していかなければ、先には進めないのです」(錦織)
続く第3の領域は、システムが裏方に専念し、AIと人が共創することで新たな価値を生み出す領域だ。ここでは、AIは単なる作業の代替ではなく、人に気づきを与え、意思決定を支援するパートナーとなる。
一般的に「AIエージェント」として語られるこの領域について、錦織はNTT DATA独自のユニークな取り組みを紹介した。
「3番目の領域については、世間でもAIエージェントとしてさまざまな議論がなされていますが、当社でやっていて面白いのが、暗黙知をしっかりと引き出す『インタビューAI』です。熟練者の頭の中に埋まっている知識や知見を、AIとの対話を通じてデータ化していくのです」(錦織)
熟練者が持つノウハウは、形式知化されていないことが多い。AIがインタビュアーとなり、深掘りした質問を投げかけることで、人の内面にある貴重な資産を表出させる。これもまた、AIが人の能力を拡張し、共に価値を創出する一つの形と言えるだろう。
4.因果律を理解する「GRAG AI」への挑戦
第1から第3の領域でAI活用は着実に進んでいるが、錦織は「現在のAIの限界」についても率直に懸念を示す。
「AI-Shoringや運用巻き取りサービスでコスト削減は進んでいますが、LLM(大規模言語モデル)ベースのコード生成や判断は、90%が限界なのです。残りの10%は人間がチェックし、修正しなければならない。この『最後の10%』が壁となります。さらに深刻なのは、AIの判断を本当に信じられるかという問題です」(錦織)
LLMはもっともらしい回答を生成するが、ハルシネーションのリスクや企業固有の文脈理解に課題がある。
例えばECサイトの遅延に対して、LLMは可能性を羅列するだけで、熟練エンジニアのように「画像キャッシュの設定漏れ」といった因果関係を見抜くことは難しい。
「今のAIには、この『因果の連鎖』が見えていない」と錦織は指摘する。AIにすべての判断を任せられない限り、真の自動化やAI経営は実現しないのだ。
この「90%の壁」と「信頼の問題」を突破するために開発されたのが、「GRAG AI」だ。
図3:GRAG AIの特長
これは、従来のRAG(検索拡張生成)に「ナレッジグラフ(知識の構造化)」を組み合わせた次世代の技術である。設計書やドキュメントを単なるテキストとしてではなく、情報のつながりや因果関係(オントロジー)としてAIに理解させることで、AIは「なぜそうなったのか」という根拠を持って回答できるようになる。
「GRAG AIは、設計書内の機能、API、データベースなどの関係性を網の目のように結びつけて理解します。通常のLLMであれば『サーバーを増強しましょう』としか言えない場面でも、GRAG AIなら『アクセス急増時に、このAPIが遅延することでDBロックが発生し、画面タイムアウトにつながる』といった因果のチェーンを特定し、ピンポイントでの対策を提案できるのです」
回答の根拠とした設計書の箇所と、それらがどのように関連しているかを示すネットワーク図が可視化されることで、人間はAIの回答をブラックボックスとしてではなく、論理的な推論の結果として確認し、信頼することができる。
「人間と同じようにAIが因果関係を理解すれば、もっとAIに仕事を任せられるようになる。LLMとRAGでは『構造的に分かりやすい原因』止まりだったものが、GRAG AIなら『最も影響を及ぼす処理の核心』までたどり着けるのです」
5.システム領域からビジネス領域へ。「AI経営」の実現
GRAG AIの適用領域は、システム開発にとどまらず、顧客のビジネスそのものへと広がっていく。
「まずは我々の本業であるシステム領域で、この技術を徹底的に磨きます。高度な設計ができるエンジニアのノウハウをAIに学習させ、システム開発・運用の生産性を劇的に向上させる。そして次のステップとして、その『意味理解のノウハウ』をお客さまの事業領域に適用していきます」(錦織)
例えば、飲料メーカーの需要予測。従来のAIは過去の販売実績と気温の相関関係から「暑いから売れる」と予測しがちだが、GRAG AIならより深い因果推論が可能になる。
猛暑になれば、外出が減って外出先での購買が減るかもしれない。あるいは、猛暑が続けばまとめ買いが起きて短期的な需要の先食いが発生するかもしれない。健康志向の高まりで低カロリー商品へシフトするかもしれない。GRAG AIは、こうした直接・間接の要因を因果グラフで表現し、「なぜそうなるか」を説明できる需要予測を実現する。
「『なぜ』を説明できること。これが一番大事です。説明責任を果たせるAIを作ることで、初めて経営判断やビジネスの現場でAIを活用できるようになるのです」(錦織)
図4:GRAG AI適用ロードマップ
6.NTT DATAは「事業を共創するパートナー」へ
2030年、AIが企業の頭脳となる時代。NTT DATA自身もまた、大きな変革の渦中にある。SI(システムインテグレーション)がAIに置き換わる時代だからこそ、「システムを作る会社」から、GRAG AIを軸に「事業を共創するパートナー」へと進化しようとしている。
中国のスマートファクトリー「ライノファクトリ」などを実験場とし、実業の中でAIの有効性を検証する取り組みや、AI時代に活躍できる人材を育成する「人材インキュベーションセンタ」への投資も進められている。
「最適なAI活用の答えは、外にはありません。御社の中に眠っている知識やデータを、AIに授けることで初めて、その企業独自の『頭脳』が完成します。我々も、自らの仕事をAIに置き換えながら、首を絞めつつも変革の最中にあります。だからこそ、お客さまの痛みも可能性も共有できる。ぜひ、AI時代に勝つための構造を、一緒に創り上げていきましょう」(錦織)
本記事は、2026年1月27日に開催されたNTT DATA Foresight Day 2026での講演をもとに構成しています。


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