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第1章 「観せる」から「創る」へ
3年間の連携が生んだ新発想
--2023年の「たんけんひろば コンパスVR」から、今回のワークショップ開発に至るまで、どんな経緯がありましたか?
もともとNJKと科博さんの連携は、2023年にSTYLY.bizを科博さんへ提供したことから始まっています。最初は「バーチャル展示室」という、来館できない方にもオンラインで博物館体験をしてもらうというコンセプトでした。今日は倉島さんから、その頃の背景をお話しいただけますか。(NTTデータNJK 第1デバイスコミュニケーション事業部 営業部 スペシャリスト 鬼武)

国立科学博物館 科学系博物館イノベーションセンター マーケティング・コンテンツグループ グループ長
倉島 治 氏
2023年当時は、展示の敷居を下げることが大きなテーマでした。コロナ禍の終わりかけという時期でもあり、来館が難しい方々にも、ネット接続さえあればいつでもどこでも観覧できる環境を作ろうとしていました。
ただ、バーチャル展示室といっても多くの人にはなじみがない。そこで、館内でも人気の『親と子のたんけんひろば コンパス』のテーマをバーチャル空間で共有した『たんけんひろば コンパスVR』を最初の取り組みとして製作しました。まさにこのプラットフォーム確立の時から、NJKさんとの協業が始まったわけです。
コンパスVRの元となったコンパスは、主に未就学児を対象に、感性や科学的な思考習慣を育てるという目標を持っています。身の回りのことについて感じる、調べる、考える、行動に移す--このフェーズのうち、特に保護者とのコミュニケーションを通して『感じる』と『考える』の部分を育てることがねらいです。そのテーマをバーチャル空間でも意識しました。(国立科学博物館 科学系博物館イノベーションセンター マーケティング・コンテンツグループ グループ長 倉島 氏)

国立科学博物館 科学系博物館イノベーションセンター マーケティング・コンテンツグループ コンテンツ・アーカイブ担当
指田 亮介 氏
コンパスVRは、その後の展示制作の一つの基準になりましたよね。(国立科学博物館 科学系博物館イノベーションセンター マーケティング・コンテンツグループ コンテンツ・アーカイブ担当 指田 氏)
そうなんです。その後、「電子楽器の創造展」「高山植物」と展示を重ね、徐々に進歩させていきました。この中で、バーチャルガイドツアーを実装して、観覧から双方向の体験へ昇華し、また、博物館職員がノーコードで空間を構成できる仕組みを整えました。
そして職員が自分たちで展示を作れるようになったとき、気づいたんです--この試行錯誤のプロセス自体をプログラムにできるのではないかと。大人でできるなら、子どもたちにもきっとできる。それが今回のワークショップの出発点です。(倉島 氏)
NJK側から振り返ると、2023年の段階ではバーチャル展示室のテンプレートを5テーマ用意していたのですが、正直なところ、最初は有効活用されているとは言い難い状況でしたが、それが徐々に解消されて、少しずつ使えるようになってきた。
そのサイクルを地道に回してきた結果として、今回にたどり着いた感じがします。(NTTデータNJK 第1デバイスコミュニケーション事業部 第2開発部 課長 小川)
技術側から見ても、まさにそのプロセスでしたね。観察して、着想して、表現する--私たちが科博さんと一緒にやってきたことが、そのままワークショップのコンセプトになった。いわば私たち自身がそれを体験してきたんだな、と気づかされました。(NTTデータNJK第1デバイスコミュニケーション事業部 第2開発部 主任 星野)
--「子どもたちが自分で作る」という方向性は、最初からイメージがあったのですか?
いえ、最初からではありませんでした。そもそもの目標は、博物館職員がノーコードで展示を作れるようにすること。主な対象は大人だったんです。
その大人がある程度できるようになった時点で、だったら子どもたちにもできるのではないか、という発想が生まれました。展示を作る側を体験させるというアイデアは、自分たちが実際にやってみて、初めて見えてきたものです。(倉島 氏)
活用できていなかったテンプレートが、ワークショップという形で息を吹き返した感じがして、感慨深かったです。(指田 氏)
第2章 「観察・着想・表現」--自然科学の学びと創造プロセスの融合
ワークショップの設計思想とSTYLY.biz活用の技術的工夫
--「観察→着想→表現」という体験の流れは、どのように設計されたのですか?
この体験の流れは、コンパスの設計思想にも通じています。科学的な思考を育てるためには、まず対象を見て感じることが起点になる。そこから調べ、考え、表現へ--この流れの一部を展示制作を通して体験できないかと考えました。
具体的には、動物の剥製3Dモデルを観察して特徴を感じ、動物リストなどの資料で調べ、動物同士の共通点や違いを考える。そして、その気づきを展示という形で表現する。科学者が実際にやっていること--観察、比較、仮説の構築、結果の伝達--を国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹 川田氏に監修してもらいながら、小学生向けに再現したプロセスです。(倉島 氏)

NTTデータNJK第1デバイスコミュニケーション事業部 第2開発部 主任
星野 香織
プログラムの設計段階で、科博さんから『観察・着想・表現』というフレームをいただいて、それをワークショップの時間割にどう落とし込むかをNJK側で考えました。特に『着想』の部分--動物を比較して、自分なりの法則を見つけてもらう--をどう引き出すか、何度も試行錯誤しましたね。(星野)
観察・着想・表現のプログラム設計は、感じたことや調べたこと、考えたことをまとめる過程を参加者にどのように進めてもらうかを皆で考え、調べるための材料である動物リストも科学的な観察や比較のヒントが埋め込まれていましたよね。(倉島 氏)
--STYLY.bizを選んだ理由と、技術的に一番苦労したポイントは何ですか?
科博側としては、スマートフォン・タブレット・PCなど多様なデバイスで動作し、ノーコードで空間を構成できる点が決め手でした。展示を広める手段として、観覧やイベントへの参加のハードルが低いことは大きな条件でした。(倉島 氏)

NTTデータNJK 第1デバイスコミュニケーション事業部 第2開発部 課長
小川 和也
技術面での最大の課題は、3Dモデルの容量管理でした。ブラウザーで快適に動かすにはモデルを軽くしなければならない。でも科博さんとして『本物の特徴を伝える』ことは絶対に譲れない。この両立が本当に大変でした。
特に哺乳類の剥製モデルは、毛並みや体の細部まで本物の質感を残しつつ、容量を削る調整を何度も繰り返しました。子どもたちが『観察』するための素材ですから、細部が雑になるわけにはいかないですし。(小川)
小川さんのモデル調整のおかげで、子どもたちが『この動物は毛が長い!』とか細かいところまで観察してくれていましたよね。(星野)
第3章 当日、子どもたちは何を見せてくれたか
2026年3月開催レポート--想定外の反応と「気づき」の瞬間
--実際に子どもたちを見ていて、「これは想定外だった」と感じた瞬間はありましたか?
小学校低学年から高学年まで幅広い年齢が対象だったので、特に低学年の子は手が止まってしまうのではと心配していました。でもふたを開けてみると、展示の構成を考えるところまでは、苦労しながらもみんな進んでいた。むしろ設計図通りにバーチャル空間を実際に組み立てる操作の部分の方が、少し時間がかかっていましたね。(星野)
私が一番驚いたのは、子どもたちの着眼点でした。てっきり、ある動物1種を深掘りする展示が多いのかと思っていたんです。ところが実際には、動物同士を比較して関係性を表現しようとする子が多かった。住んでいる環境が似た動物を並べたり、体の大きさや特徴で分類したり。
科学の基本は観察と比較です。それを多くの子が自然にやっていた。普段からそういうことに慣れ親しんでいるんだなと感じました。(倉島 氏)
保護者の方が『どう思う?』『どうしたらいいと思う?』と問いかけてくれていたのも、比較という方向性を自然と引き出していたと思います。(指田 氏)
最初は手が止まっている子が多くても、ちょっとしたきっかけでパッと動き出す場面が何度もありましたね。設計図を書き終えた瞬間に一気にスイッチが入って、バーチャル空間にどんどん動物を並べ始める子が多くて。見ていてすごく楽しかったです。(星野)
--デジタルアーカイブの使われ方に、新しい発見はありましたか?
正直なところ、子どもたちが3Dモデルを『本物の標本』として意識していたのか、バーチャル空間上のパーツとして扱っていたのかは難しいところです。
ただ、動物に動きをつけようとしている子が多かった。動物だから動くはず、という感覚で。標本は本来静止しているのに、バーチャルだから動きをつけられる--その機能があることで、単なる3Dオブジェクトではなく、生きた動物から作られた標本なのだという実感につながっていたのかもしれない。結果として、動物の関係性や生態に着目した展示が生まれていた。デジタルアーカイブが『観覧するもの』から『考えるための素材』に変わった瞬間だったと思います。(倉島 氏)
STYLY.bizの動きをつける機能は、実はワークショップをやる前は、そこまで重要じゃないだろうと思っていたんです。博物館展示で標本が動くというのは普通ないですし。でも実際には、機能があるから使ってみようという流れが、子どもたちの発想を広げていた。技術があるからそれを使ってみて、そこから考えるという逆方向の発想の重要さを、改めて実感しました。(小川)
動きをつけた展示を見せてくれた子が、誇らしそうにしていたのが印象的でした。(指田 氏)
第4章 本当に目指しているのは、その先にある
科博・NJK それぞれの「野望」--連携を通じて変えたい未来
--科博としては、NJKとの連携を通じて「博物館」そのものをどう変えていきたいという思いがありますか?
博物館は公衆に開かれた機関と定義されますが、現実にはどれだけめざしても何らかのバリアーが存在します。移動が困難な方、遠方の方--そういった方々にも、博物館で感じて考えるという体験を届けられる方法があるとすれば、非常に意義があることです。
今回のワークショップはその大きな流れへの一歩です。最初の一歩でも最後の一歩でもなく、あくまで通過点。
今後は、AR技術などとも組み合わせて展示設計のツールとして職員が活用できるようにする流れと、対象年齢を上げてより深く『考える』ことに特化したワークショップへ発展させる流れ、この二つが見えています。バーチャル空間であれば、展示制作などを何度もやり直すことができます。試行錯誤を効率化できるわけですから、その分、思考に時間を使えるようになる。そういう展開です。(倉島 氏)
地方の博物館や美術館にも、このプログラムの知見や活用を広げていけたらと思っています。今回の参加者も首都圏中心でしたし。(指田 氏)

NTTデータNJK 第1デバイスコミュニケーション事業部 営業部 スペシャリスト
鬼武 洋孝
NJK側としても、技術と現場が本気で対話することで生まれるものの大きさを、この連携を通じて実感してきました。科博さんの『デジタルアーカイブをもっと活用したい』というビジョンと、私たちのXR技術が組み合わさることで、今回のプログラムが生まれた。このモデルを他の機関でも展開したいというのが私たちの目標です。(鬼武)
技術側から言うと、今回学んだのは『技術を利用してみて、発想する』という可能性です。ゴールありきで技術を選ぶだけでなく、技術の可能性を見せることで思いもよらない発想が教育プログラムの中で生まれることがある。科博以外の文化施設でも、同じことが起こり得ると思っています。(小川)
--「これが実現できたら面白い」という、まだ言えていない夢はありますか?
VRに興味のある人がVRを使うのではなく、展示に興味のある人がVRを使う未来が来ると面白いと思っています。設計図を描くよりもバーチャル空間で試した方が早くて楽だという時代が来れば--その時点でバーチャル展示も自然に出来上がっていて、来館できない方も体験できる。効率的な展示制作と、誰でもアクセス可能な展示の両立が実現できる。
さらに言えば、展示のアイデアはあるけれど実現する機会がない人も、展示制作に参画できる可能性がある。博物館の壁がもっと低くなる未来ですね。(倉島 氏)
収蔵庫に眠っている510万点以上の標本のうち、展示できているのはわずか1%未満。残りの標本や資料を届ける手段としても、デジタルアーカイブの可能性は本当に大きいと思います。(指田 氏)
私の夢は、このワークショップが日本全国どこでも開けるようになることです。今回は上野本館という最高の舞台でしたが、地方の子どもたちにも同じ体験を届けたい。プログラムをもっと定型化して、博物館のデジタルアーカイブを素材に、どこでも再現できる形に育てていきたいです。(星野)
星野さんが言うように、国内各地域のグループ会社とも連携しながら広げていく絵が描けるといいですよね。(鬼武)
第5章 次の一手--教育CSRの社会実装へ
「NTTデータ アカデミア」での展開と、他機関・他企業への広がり
本ワークショップは、NTTデータおよびグループ18社が協力して取り組む小学生向け社会貢献プログラム「NTTデータ アカデミア」の一環として実施。NJKはグループ企業の一員として、企画・開発・当日運営を一貫して担当した。
--NTTデータ アカデミアという枠組みの中で、NJKが今回の開催を担った意味はどこにありますか?
グループとして教育CSRに取り組むとき、各社の強みを生かすことが大事だと思っています。NJKにとってはSTYLY.bizというXR技術と、科博さんとの3年来のパートナーシップがその強みでした。今回はそれがNTTデータ アカデミアという大きな枠組みの中で形になった。グループ全体に対して、NJKならこういう形で貢献できるんだというのを示せたと感じています。(鬼武)
--今後、NTTデータ アカデミアの定期カリキュラムとして継続・発展させていく上での展望を聞かせてください。
まずはプログラムをもっと磨きたいです。今回の経験から、参加者への促し方や、最後の展示の共有プロセスなど、改善できる余地がたくさん見えました。ある程度定型化・マニュアル化できれば、専門家以外でも実施できるようになる。再現性がぐっと高まります。(星野)
NTT DATAとして、各地域の会社とも連携しながら、地域の博物館や文化施設と組んで日本全国に展開していく--そういうロードマップを描いています。科博さんにも引き続きパートナーとして関わっていただきたい。(鬼武)
私たちとしても、このプログラムをより多くの方に届けたいという思いは強くあります。今回の参加者も首都圏が中心でした。国立科学博物館として、日本全国の方に届けられる取り組みにしていきたい。各地域の博物館にプログラムの知見やデジタルアーカイブを共有していく流れが生まれれば、今回の一歩がもっと大きな広がりになると思います。(倉島 氏)
そのためにも、NJKさんとの共同研究を継続して、プログラムをアップデートし続けることが大事だと感じています。(指田 氏)
--最後に、「デジタル×教育・文化」に課題感を持つ機関・企業の方へメッセージをお願いします。
教育プログラムを考えるとき、一般的には目標ありきで技術を選ぶことが多いと思います。でも今回NJKさんと一緒にやって感じたのは、技術で実現できることを先に知ることで、これまで思いもしなかった方向性が生まれることがあるということです。
異業種の方とのコミュニケーションの中で、技術側のアプローチの違いを制限として捉えるのではなく、新しい方向性のヒントとして生かす。そういう姿勢がとても重要だと感じました。(倉島 氏)
私たちも技術を持っていますが、どう使えばいいかは現場を知っている方との対話から生まれます。科博さんとの連携で学んだのはまさにそこです。(鬼武)
技術と現場が本気で対話すると、プレスリリースには書けないようなアイデアが出てくる。それが一番面白いところだと思っています。同じような課題感をお持ちの方は、ぜひ一緒に話しましょう。(小川)
今回のワークショップを通じて、子どもたちが見せてくれた発想力に、私たち大人が一番刺激をもらいました。技術と教育がつながると、想像以上のことが起きる。その可能性をもっと多くの場所で実感してもらえたらうれしいです。(星野)
おわりに
近年、教育施策は人材育成に加え、地域貢献や地域との関係構築を通じた新たな価値創出の手段としても注目されています。NTTデータは「NTTデータ アカデミア」を通じて、地域の子どもたちに寄り添いながら学びの機会を提供し、地域社会との接点を広げてきました。
これらの取り組みは、グループシナジーを生かした地方創生や地域活性化につながるものであり、今後の成長機会の一つになると考えています。
本プロジェクトもその一環として、2026年度夏の展開を皮切りに、NTTデータNJKが開発したカリキュラムを起点として、NTTデータ国内グループ各社と連携しながら全国での展開を進めていく予定です。教育を通じた地域貢献と関係構築を基盤に、地域課題の解決や新たな事業機会の創出へとつなげ、地方創生への貢献と持続的な成長の両立をめざしていきます。


NTTデータ アカデミアについてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/socialactivity/academia/
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