全社Salesforce案件における生成AI活用検討の概要
NTT DATAでは、Salesforceの全社導入プロジェクトを通じて、営業支援システムの活用定着と高度化に向けた検討を進めてきました。その中で、Salesforce上の業務に生成AIをどのように組み込み、現場で実際に活用できる形にしていくかという検討を重ねてきました。本記事では、こうした業務を通じて見えてきた論点に焦点を当てます。
全社導入という前提のもとでは、部門や個人ごとに異なる営業スタイルや業務プロセスを前提に、共通的に活用できる仕組みを設計する必要があります。そのため生成AI活用においても、特定のユースケースに閉じた作り込みではなく、全社展開を見据えた現実的な検討が求められました。
また、当社自身を「クライアントゼロ」と位置づけ、Salesforce上の新しい技術を実運用の中で検証することで、机上の議論にとどまらない知見を蓄積してきました。生成AIについても、営業現場での実利用を想定しながら検討を進めることで、期待だけでなく制約や課題を含めて整理することを重視しています。
本記事の狙いは、特定の機能やユースケースの優劣を論じたり、完成された成功パターンを提示したりすることではありません。全社規模の営業支援システムという現実的な枠組みの中で、生成AIをどのように位置づけると議論が整理しやすいのか、どのような点で難しさが生じやすいのかを明らかにし、活用像や課題、設計の考え方につなげることにあります。
営業支援システムにおける生成AI活用の具体像
営業支援システムにおける生成AI活用を検討するにあたり、営業支援領域では、部門横断で再利用できる形に整理された先行事例や知見が十分に蓄積されていないという前提がありました。そのため、ユーザー要望を起点にトップダウンでユースケースを定義するのではなく、現場での利用実態や業務フローを起点としたボトムアップでの検討が必要だと考えました。
具体的には、ユースケースを体系的に洗い出すため、三つの観点から整理を行いました。一つ目はユーザー分類別の観点で、経営層、マネージャー、一般ユーザーそれぞれのSalesforce利用目的を整理しました。二つ目は主要操作画面別の観点で、取引先や商談、レポートなど、日常的に利用される画面を起点に活用可能性を検討しました。三つ目はSalesforceが提供する生成AI関連機能の観点です。
こうして洗い出したユースケースを、効果、実装の現実性、全社展開との親和性といった観点で評価し、最終的に二つの活用パターンに整理しました。一つは、『画面起点の支援(ボタン型)』です。画面操作を起点に、要約や自動生成などを行う支援として、取引先や商談画面から会議の議事録を入力し、その内容に基づいて関連レコードやToDo活動を自動作成する機能や、活動状況を要約する機能などを検討しました。
もう一つは、『対話起点の支援(エージェント型)』です。生成AIを用いたエージェントとの自然言語対話を通じて、類似案件検索や目的に沿ったソリューション検索、全社Salesforceの利用方法や仕様に関する問い合わせ対応などを行う活用が該当します。これらの検討を通じて、営業支援システムにおける生成AI活用の可能性と同時に、現実的な制約も明らかになりました。
検討を通じて見えてきた課題
Salesforceが提供する生成AI機能の一部には、生成AIを用いたエージェント機能があります。例えば、特にコンタクトセンターにおける一次受け対応のように、問いのパターンや対応範囲を整理しやすく、一定のルールに基づいて正確性や再現性の高い応答が求められる業務では、エージェント活用は有効に機能しやすいと考えられます。
一方で、営業支援領域においてエージェント活用を検討する中で、業務特性に起因する課題が見えてきました。営業活動では、顧客や案件ごとに状況が異なり、問いの前提や意図も揺らぎやすくなります。そのため、エージェントを設計するにはユースケースや想定される質問を事前に定義する必要がありますが、すべての問いをあらかじめ定義することは現実的ではありません。その結果、想定外の問いに対して柔軟に対応することが難しい側面があります。
また、ユースケースを詳細に定義すればするほど、自然言語による対話を採用する意義が相対的に薄れてしまうという課題も感じられました。定型的な処理であれば、画面操作やボタン起点の仕組みで十分に実現できる場合も多く、あえてエージェントとの対話を採用する必然性が問われる場面もあります。
営業領域でユーザーが求めているのは、単なる情報取得にとどまらず、蓄積されたデータを横断的に可視化・分析し、次の行動につながるインサイトを得ることだと考えられます。しかし、こうした探索的で分析的な問いは、あらかじめユースケースとして定義しにくく、エージェント型の設計とは必ずしも相性が良いとは言えません。Salesforce上のAIエージェント機能は、参照範囲や実行アクションを設計で定義することで正確性や再現性を担保しやすい一方で、曖昧さを含む問いに示唆を返すには、前提の置き方や人の確認ポイントを含めた役割分担を設計する必要があると感じました。
課題を踏まえた設計指針と今後の展望
これまでの検討から、営業支援システムにおける生成AI活用では、エージェント機能に全てを担わせる設計が常に最適とは限らないと考えられます。特に、営業活動において求められる可視化や分析、インサイト創出といった探索的な業務は、事前にユースケースを定義して作り込むこと自体が難しい領域です。
こうした特性を踏まえると、生成AI活用の起点をSalesforce上のエージェント機能に固定せず、より柔軟な問いを受け止められる構成を検討する余地があります。一つの考え方として、汎用(はんよう)的な生成AIを起点とし、必要に応じてSalesforce上の業務データを参照させるアプローチは、想定した質問に限定されない探索的な対話を可能にする選択肢になり得ます。
こうした構成を検討する際には、顧客情報や機密情報の取り扱い、生成AIによる誤答への備え、参照データの信頼性やアクセス権限の設計といった点も、あらかじめ考慮すべき設計項目となります。加えて近年では、生成AIに対する利用者側の理解が進み、ハルシネーションやプロンプトの特性を踏まえた活用が広がるとともに、モデル自体の性能向上も進んでいます。その結果、正確性担保のためにどこまで前段の制御や開発を行うべきかについても、従来とは異なる判断が求められる場面が増えてきていると考えられます。
一方で、正確性や再現性、業務統制が求められる領域については、Salesforceが提供するエージェント機能を活用し、定型的かつ安定した支援を行うことが引き続き重要です。今後の営業支援システムにおける生成AI活用では、特定の機能や製品に依存するのではなく、業務特性に応じて生成AIの役割を設計する視点が求められるでしょう。
生成AI活用の本質は、エージェント機能の高度化そのものではありません。営業という不確実性の高い業務領域において、生成AIにどの程度の自由度を与え、どこで制御するのか。その設計思想こそが、今後の営業支援システムの価値を左右すると言えます。
まとめ
生成AIの進化により、営業支援システムは単なる業務記録の仕組みから、意思決定を支援する基盤へと変わりつつあります。一方で、その活用は技術先行ではなく、業務や組織の在り方と一体で設計される必要があります。今後は、定型業務を安定して支援する仕組みと、探索的な思考を後押しする生成AIをどう組み合わせるかが重要になるでしょう。生成AI活用は短期的な効率化の手段ではなく、中長期的な競争力を左右する設計課題です。本稿で示した考察が、将来を見据えた営業支援システム活用を考える一助となれば幸いです。


生成AI(Generative AI)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/
Salesforce(セールスフォース)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/salesforce/
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