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2025.11.26業界トレンド/展望

連載:テクノロジー×サステナビリティ(3) ホワイトペーパー2025~デジタルヒューマン~

近年、サステナビリティは企業や社会における重要なテーマとして定着しつつある。一方で、携わっている業務や技術がどのようにサステナビリティに結び付くのか、具体的にイメージしづらい方も多い。NTT DATAでは、こうした課題に対し2024年度より「普段活用している技術がサステナビリティにどのように関連するのかを知り、より身近に感じること」を目的にホワイトペーパーを作成している。
2025年度は5つの技術テーマについて発信予定である。今回は「デジタルヒューマン×サステナビリティ2025」と題し、2024年度版の内容をもとに、最新の知見や業界動向を踏まえて情報をアップデートするとともに、デジタルヒューマンの国内外のトレンドや事例を紹介する。
目次

はじめに

近年、サステナビリティは企業や社会における重要なテーマとして定着し、サステナブル投資や脱炭素経営などの取り組みが広がっています。一方で、普段携わっている業務や技術がサステナビリティとどのように結び付くのか、どのように活かしていけるのかを具体的にイメージしづらい方も多いのではないでしょうか。

この連載では、「技術」観点で、テクノロジー×サステナビリティのトレンドや具体事例などを紹介します。2025年度は全5つの技術テーマを取り上げる予定であり、今回はデジタルヒューマンとサステナビリティとの関連に注目します。

デジタルヒューマンは、小売、金融、教育、医療など、さまざまな分野で活用が進んでおり、持続可能な社会の実現に向け、すでに一定の貢献を果たし始めています。近年では、LLM(大規模言語モデル)や音声技術、感情認識技術などの進化に伴い、より人間らしい対話や柔軟な対応が可能となり、社会実装の幅がさらに広がっています。これにより、24時間対応や多言語対応、専門的なトレーニング支援など、業務効率化だけでなく、人に寄り添う技術活用が実現されつつあります。これらは学習支援や福祉支援、情報アクセスの公平性向上など、社会的価値の創出に貢献し、その役割は今後ますます重要になると考えられます。一方で、肖像権やプライバシー、倫理的な観点を欠いた設計への懸念も指摘されており、こうした課題への対応は持続可能な技術活用には欠かせません。本記事では、デジタルヒューマンの進化と課題を踏まえ、サステナビリティの観点からその活用方法や運用のあり方をトレンドや事例を取り上げながら紹介します。

デジタルヒューマンのトレンド

デジタルヒューマンの導入は急速に進んでおり、デジタルヒューマン市場(※1)は2034年には世界規模で約1兆580億ドルに達する見込みです(※2)。デジタルヒューマン市場においては、いくつかの技術領域が特に注目されています。そのひとつが、多言語かつ感情認識に対応したデジタルヒューマンの開発です。各地域のユーザーに寄り添うために、声のトーンや表情を自然に変化させる研究が進んでおり、将来的には文化や感情表現の違いを反映する高度なローカライゼーション戦略が可能になることが期待されています。
また、クラウドサービス型の提供モデルである「Avatar-as-a-Service(AaaS)」の拡大も市場の成長を支える要素となっています。これは、専門的な3D制作スキルがなくても、企業や個人が短時間で高品質なアバターを生成できる仕組みであり、専用開発を行わずとも導入できる点が特徴です。特にスタートアップや中小企業にとっては、導入コストや技術的なハードルを下げる手段として注目されており、デジタルヒューマンの普及を加速させる要因となっています。

さらに、ウェアラブルデバイス(※3)やXR技術(※4)との統合も重要な潮流です。心拍やストレスといった生体データと連動することで、医療やメンタルサポート分野における応用が広がりつつあります。
加えて、会話履歴や発話トーンなどの感情情報を解析・保持し、一貫したキャラクター性を維持するデジタルヒューマンの開発や、音声・視線・口の動きのリアルさを高める技術革新も進んでいます。これらは、単に対話を自然にするだけでなく、ユーザーとの継続的な信頼関係の構築に寄与する技術として注目されています。

一方で、感情認識技術はデジタルヒューマンの活用領域を広げる反面、感情認識が個人の内心の自由を侵害しかねないとの指摘もあり、倫理的配慮を伴う導入が求められます。こうした懸念に対しては、技術的な安全性の確保に加え、たとえばユーザーの同意取得やデータ利用範囲の明確化、異議申し立てを可能とする仕組みの検討なども有効な対応の一つと考えられます。

制度面では、現時点でデジタルヒューマンに特化した法整備は存在しておらず、多くの国では既存のAI規制や関連制度を通じて部分的に対応している状況です。今回は、日本・中国・欧州の3つの動きを見てみます。日本では、AIの倫理的利用や安全性の確保をめざした「AI事業者ガイドライン」などが整備されており、デジタルヒューマンの適正活用にも重要な指針となっています。中国では、「インターネット情報サービス深度合成管理規定」により、顔や声などの生体情報を合成・編集するコンテンツに対して識別表示義務やプラットフォームの管理責任が課されており、デジタルヒューマンもその適用対象となり得ます。欧州では、AI規制法により、生成AI技術を含むすべてのAIシステムに対して透明性の確保やリスク管理の実施が義務付けられています。特に、個人の感情を推定・分析する行為は職場や教育の現場では「禁止リスク」、その他の領域では「ハイリスク」として位置づけられており、デジタルヒューマンの感情認識や対話の設計・運用においては、これらの背景となる価値観・思想を理解し、適切に対応することが求められます。

(※1)デジタルヒューマン市場

ここでいうデジタルヒューマンとは、「AIを搭載し、テキストや音声を通じてユーザーと自然なコミュニケーションが可能なインテリジェントデジタルヒューマン」を指す。

(※2)Business Research Insights: Intelligent Virtual Digital Human Market Forecast to 2034

https://www.businessresearchinsights.com/market-reports/intelligent-virtual-digital-human-market-122012

(※3)ウェアラブルデバイス

腕時計型・眼鏡型・衣服型など、身体に装着して利用する情報端末の総称。心拍やストレスなどの生体データを取得し、健康管理や業務支援に活用されている。

(※4)XR技術

VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)を包括する概念。ユーザーの視覚や聴覚を拡張し、仮想空間での没入体験や現実空間との融合を可能にする。

NTT DATAのデジタルヒューマンにおける取り組み

NTT DATAは、AIアバターと対話機能を備えたデジタルヒューマンを開発・展開しており、筐体(きょうたい)型(PARSONII(※5))と自社開発のブラウザ軽量型(コードネーム「Edge-Ghost」)の2種類のプラットフォームを提供しています。筐体型は多数の導入実績があり、安定した対話体験を提供しています。一方で、ブラウザ軽量型はアバター作成やインターフェース設計などを自社で開発しているため、低コストで導入しやすいのが特徴です。さらに、ブラウザ軽量型ではNTT研究所の技術により、個性的な会話の表現やジェスチャーなど高度な機能も実現しています。今回はブラウザ軽量型のEdge-Ghostを用いた事例を2つ紹介します。

図1:NTT DATAのデジタルヒューマンプラットフォーム

最初に、営業活動を支援するAIエージェントサービスLITRON SalesとEdge-Ghostを活用した音声対話型業務支援の事例を取り上げます。LITRON Salesは、NTT DATAの“Smart AI Agent™”構想に基づき開発された業務支援サービスで、複数のAIエージェントが連携し、営業現場の提案活動をサポートします。特に、Edge-Ghostの映像・音声インターフェースを組み合わせることで、ユーザーはデジタルヒューマンと会話しながら、提案書作成などの業務を進めることが可能です。指示を出すと、AIがタスクを整理し、適切なエージェントを選定して自律的に作業を実行し、必要に応じてユーザーに質問しながら、成果物を自動生成します。音声や表情を活用した親しみやすい対話は直感的で扱いやすく、業務の質を高める効果が期待できます。AIと人が協働する、新しい働き方の可能性を感じさせる取り組みです。

続いて取り上げるのはEdge-Ghost技術を活用し、トヨタ紡織株式会社と共同で開発した「デジタル上司」の取り組みです。これは管理職の判断基準や性格を反映したデジタル上司が、社員に対して時間や場所を問わずアドバイスや情報を提供するものです。これにより、業務効率化に加え、日常業務の中でのコミュニケーションや相談の機会を広げることができます。詳細についてはこちらの記事(※6)をご覧ください。

(※6)Insights and Strategies from Toyota Boshoku's Digital Transformation Initiatives

https://www.nttdata.com/global/en/insights/focus/2024/insights-and-strategies-from-toyota-boshokus-digital-transformation-initiatives

おわりに

「テクノロジー×サステナビリティ2025」と題して、連載の第3回では、デジタルヒューマンとサステナビリティの関係を解説しました。デジタルヒューマンは、小売、金融、教育、医療など多様な分野で活用が進み、情報アクセス支援や遠隔サービスの提供などを通じて、包摂的な社会の実現に貢献しています。近年では、生成AIなどの技術の進展により、より自然で信頼性の高い対話が可能となり、社会実装のフェーズへと移行しつつあります。一方で、肖像権やプライバシー、倫理的な懸念、環境負荷といった課題も顕在化しており、持続可能な技術活用には慎重かつ責任ある対応が求められます。

NTT DATAでは、こうした課題にも配慮しつつ、デジタルヒューマン技術を進化させ、小売、金融、教育、医療など多様な領域への展開を推進し、新たな価値創出とより持続可能な社会の発展に貢献していきます。
ホワイトペーパーでは本記事で紹介した内容の詳細に加え、デジタルヒューマンの他社での導入事例の詳細についてもまとめています(※7)

図2:ホワイトペーパーの構成

NTT DATAでは、2024年度に引き続き、「普段活用している技術がサステナビリティにどのように関連するのかを知り、より身近に感じること」を目的として、2025年度では全5つの技術テーマについてホワイトペーパーを公開する予定です。
2025年度は最新の知見や業界動向を踏まえて情報をアップデートするとともに、サステナビリティの観点からその活用方法や運用のあり方を再考していきます。
次回以降、衛星やスマートロボットといったテーマについて取り上げる予定です。ご期待ください。

(※7)デジタルヒューマン×サステナビリティ ホワイトペーパー 2025

デジタルヒューマン×サステナビリティレポート2025

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