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2025.11.18業界トレンド/展望

変革が問われるシェアードサービスセンター(SSC)

~事業構造変化・AIの発展・働き方の価値観の変化を踏まえて~

人口減少、価値観の多様化、生成AIの台頭-。こうした構造変化は、鉄道業界をはじめとする日本の成熟産業にも大きな波となって押し寄せている。コロナ禍を経て経営効率の追求が加速する中、長年バックオフィス業務を支えてきたシェアードサービスセンター(SSC)(※1)は変革の節目を迎えている。1990年代末に導入が進んだSSCは、すでに多くの企業で10~20年の歴史を持つ。だが成熟期の今こそ、従来の“効率化の仕組み”から“価値を創出する戦略拠点”への進化が問われている。この記事では、2025年9月26日に開催した「鉄道業界向けBiz∫®お客さま交流会」での講演内容をもとに、鉄道業界の現状を事例として紹介しながら、SSCの歴史、そしてNTT DATAにおけるSSC変革事例を紹介。高い経営効率を実現する次世代SSCの変革のあり方に迫る。
目次

鉄道業界が象徴する「成熟企業」の転換期

日本の鉄道業界は、交通インフラ事業を超え、長期にわたり安定した収益基盤と高度な経営力を有する成熟企業群として位置づけられてきた。戦後の都市化の進展とともに築かれてきた独自のビジネスモデルと、他産業に先駆けた経営の多角化戦略が、鉄道業の成長を支えている。各社の経営戦略にはいくつかの共通項があると、NTTデータ社の藤本肇は説明する。

「鉄道各社は、旅客輸送サービス事業者として沿線を持つという強みを生かし、その沿線地域の価値創造を軸とした『総合事業体』への転換を進めてこられました」(藤本)

例えば東急は、交通×不動産のシナジーをコアとしながら事業ポートフォリオのマネジメントを強化。西武ホールディングスは、保有する資産を戦略的に減らしてROIC(投下資本利益率)を大きく伸ばしている。さらに、西鉄グループは、福岡市内に開業したONE FUKUOKA BLDG.をはじめ不動産ポテンシャルを高めている。

そんな中、コロナ禍を経て鉄道業を取り巻く経営環境には変化が生まれている。

「現在の旅客人員数は、コロナ禍以前の9割ほど。リモートワークが定着したことで回復の頭打ちが危惧されています。観光/レジャー需要や訪日外国人を含めた幅広い利用パターンへの構造変革と、さらなる経営効率の向上が喫緊の課題です」(藤本)

図1-1:コロナ禍を経た鉄道業界の変化

図1-2:コロナ禍を経た鉄道業界の変化

高い経営効率を実現する方法の1つが、シェアードサービスセンター(SSC)の導入だ。SSCとは、グループ企業や企業内の複数部門で共通する「間接業務」を一箇所に集約し、専門的に担う組織のこと。1990年代後半~2000年代初頭にかけて多くの企業が導入した。それから10~20年ほどが経ち、機能的に成熟段階を迎えているという。

「外部環境の面では、人口減少や働き方改革、価値観の変化、あるいは、生産性向上や生成AI導入などによる経営変革への要請が高まっています。内部環境についても、バックオフィス人員の高齢化、組織機能の円熟化、若手社員の流動化などがあり、SSC機能が変わる節目にあるのではないかと考えています」(藤本)

(※1)

グループ企業や企業内の複数部門で共通する「間接業務」を一箇所に集約し、専門的に担う組織のこと

SSC再構築の方向性 継続的な改善により競争優位性を高める

あらためて、SSCの歴史を振り返ってみたい。日本企業でSSCが初めて導入されたのは1990年代初頭。それ以降、SSCの歴史は「SSC2000」「SSC安定期」「SSC2030」で整理することができる。

図2:SSCの歴史

まずは「SSC2000」だ。2000年以降、SSCの導入企業は急速に拡大した。まさにSSCの幕開けとも言えるだろう。なぜ、多くの企業がSSCを導入したのか、フォーティエンスコンサルティングの下山慶太は次のように解説する。

「2000年に会計ビッグバンがありました。当時、日本の上場企業が公表する有価証券報告書は個別財務諸表が中心でしたが、連結財務諸表中心に大転換されたわけです。当然、個別財務諸表と同じような精度をグループ会社にも求めるという流れがありました。さらに、『選択と集中』という言葉も流行り、経理部門など間接部門の業務品質向上とコスト削減を目的に、多くの会社がSSCを導入したのです。グループ外の他社から業務を受託するプロフィットセンター化の動きも生まれました」(下山)

次に「SSC安定期」へと移行する。この時期にはいくつかの課題が顕在化した。まずは、事業部門やグループ企業からの不満。バックオフィス業務が物理的に離れることで、不便ややりづらさが増加した。出向・転籍したSSCメンバーも異動に対する不安感からモチベーションが低下。業務のマンネリ化による自身のキャリア形成への行き詰まり感も広がった。

もう一つが、コストの増加だ。標準化せずにSSCに業務を集約しても、トータルの人件費は下がりづらい。BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)やシステムの共通化にも投資コストや相応の時間が必要となる。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)という選択肢もあるが、業務の流れが分断され効率性の悪化やコスト上昇を招く場合がある。SSCを導入するアプローチの理想は、バックオフィス業務を標準化してから集約することだが、標準化と集約を並行して進める企業が多い。

そして、現在「SSC2030」の時期を迎えている。人口減少や人材の流動性の高まり、DXや生成AI活用による生産性向上および高度化に対応するため、SSCを新たに導入する企業が増えている。また、既導入企業でもSSCの再構築を図る動きが活発化している。

人手不足の状況は今後も続く。現場では、ベテラン業務のスキルの継承者をどう確保するかが大きな課題だ。下山は次のように指摘する。

「SSCのメンバーの中には、例えば経理をやるためだけにこの会社に入社したのではない、自分のスキルはもっと高く評価されるべきだと思っている方も多くいらっしゃると思います。人材を確保するには、透明性・納得感のある人事評価制度や仕組みの導入、ジョブ型雇用による採用や従来型雇用とのハイブリッドな運用が必要です」(下山)

また、DXやAI活用も避けて通ることはできない。めざすゴールは、オペレーショナルエクセレンスの実現、すなわち業務の効率性や生産性を継続的に向上させながら、運用により収集されたデータを整備・活用して企業の競争優位性を高めていくことだ。こうした付加価値の創造が、市場競争力だけでなく、SSCメンバーのエンゲージメントを向上させ、ひいてはサステナブルなSSCへつながっていく-。いま求められている再構築の方向性と言えるだろう。

NTT DATAのSSC変革 30年の軌跡と実践

NTT DATA自身もSSC機能の変革に取り組んできた。

NTT DATAがSSC機能会社を設立したのは1992年のこと。社員の福利厚生支援といった総務サービスの受託からスタートした。受託業務が本格化したのは2006年。NTT DATA内に経理審査、出納・資産管理を一元化する「アカウンティングセンタ」を設け、2008年にはそれをSSC機能会社に移管。2010年には、SSC機能会社での受託会社は国内のグループ会社も含めて17社まで拡大した。

SSC機能変革を拡大させるトリガーとなったのが、2013年に本社財務部門が、中期経営方針で掲げたグローバル事業拡大を見据えて示した方針だ。
「NTT DATAでは、SSCをグループ全体の中核のバックオフィス機能にするという方針を打ち立て、加速度的に国内の受託会社を増やしていきました。2016年にはNTT DATAの海外子会社の決算業務もSSCに移管しています。このSSC変革の背景にあるのは、NTT DATAの当時の中期経営計画(FY2012~FY2015)で掲げられた、”Global Top 5”という戦略命題と連動しており、この先も加速するM&Aを通じた海外事業拡大を見越しての本社財務部門での判断でした。NTT DATAのFY2024決算では海外売上高比率が60%超に至っていますが、これら一連のSSC機能変革が経営戦略実行にあたって重要な役割を果たしていました」(藤本)

そして2025年4月、SSC機能とBPO外販機能を持つ2つのグループ会社を一体化させ、新会社「NTTデータ・ウィズ」を設立した。NTTデータ・ウィズは国内に8つのBPOセンターを持ち、働き方改革、DX推進、業務改善といったさまざまなノウハウを活用しながら、企業の生産性向上と業務変革を支援している。

図3:NTTデータ・ウィズ概要

現在では、連結決算の財務数値に関する報告、税務監査、監査時の情報提供、会計制度の変更対応など、通常であれば本社の財務経理部門が担うような、高度かつ戦略的な業務も受託。断続的に実施しているM&Aや企業再編といった経営戦略実行を下支えしている。NTT DATAのSSC業務移管のノウハウを生かし、顧客企業の業務可視化・標準化のコンサルティングや、経理DX支援、BPOと外販事業にも注力をしている。社員構成は167名。平均年齢は36歳と、グループ平均年齢よりも若い水準だ。公認会計士や税理士、USCPA(米国公認会計士)といった高度資格保有者も多く在籍する。

図4:NTT DATAのSSC機能の社員構成

人材とAI活用がカギ CFOが描くべきSSCの未来像

生成AI活用が広がる中、財務経理業務をAIによって自動化し、財務諸表の解説や予実分析を生成AIが実行する未来像も見えてきている。つまり、社員が経理業務の基本である仕訳や財務業務の知識・経験を養う機会を失ってしまうことが懸念されている。経理リテラシーのない人材が、CFOなど経営幹部に成長していくことはできない。そうしたスキルを持つ人材の確保もますます競争が激しくなっていくだろう。

人材育成の対応が遅れれば、バックオフィス組織の新陳代謝が遅れ、高齢化、硬直化が進み、財務経理機能の弱体化につながっていく。

では、これからのSSCはどうあるべきなのか。藤本はNTT DATAの取り組み事例を踏まえて説明する。

「NTT DATAでは、変革のビジョンを設定し、オペレーション業務の集約を通じた効率化・標準化の追求だけでなく、本社が担う高度管理業務のSSCへの移管を通じ、本社管理部門はより戦略機能に特化し、SSCはより広範囲な業務を担いながら機能と人材強化を図り、グループ経営戦略を下支えする本社+SSC機能一体でのバックオフィス改革を進めてきました。この先、経理/経営管理人材の獲得競争は激しくなると予見し、SSCの大部屋化・グループ経理人材の一括育成と供給・グループ経営支援や外販化といった付加価値追求を志向し、2025年にNTTデータ・ウィズが設立されました。当社のSSC変革の一連のストーリーから、企業全体の持続的成長のためにも、本社管理部門+SSC一体での機能戦略の転換の重要性をお伝えしたいと思います」(藤本)

業務集約・AI活用・人材育成を一体で進め、蓄積したスキル・実行した改善をグループ経営支援や外販などに転換していく。こうした付加価値に磨きをかけることで、バックオフィスは企業競争力の中核に生まれ変わっていく。SSCが価値創出拠点へと変われば、SSCの業務は若手社員にとって魅力ある専門業務となり、バックオフィス業務の持続的な成長にもつながっていくはずだ。NTT DATAは、さまざまな分野の企業におけるSSC変革の支援を通じて、企業の持続的な競争力強化を実現していく考えだ。

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