本記事は、NTT DATAのCXO Magazineの記事“Better Communication: Understanding the New Language of Digital Teamwork”を翻訳したものです。
1.働き方の変化に対応したデジタルコミュニケーションの在り方
私たちは少し前まで同僚と机を挟んで座り、相手の意見を聞いてそれに返事するという形で情報交換をしていました。現在では、電子メールやテキスト、メッセージなど文字でやり取りをすることが多くなっており、従来の「聞く」に代わって、画面上の文章を「読む」ことが主流になっています。ここで問題になるのは、画面上で文字を読むときは、しっかり時間をかけて内容を読み込むのではなく、斜め読みして重要なポイントを拾おうとする傾向があるため、印刷物を読むときよりも理解度が落ちることです。そして返信を要するメールの件数があまりにも多いため、いい加減な内容、素気ない内容、不明瞭な内容のまま返信してしまうことがあります。
ハイブリッドな仕事における読解力と文章力の重要性を考慮すると、良いコミュニケーションとは何か再認識することが、同僚と良い関係を築く上で重要になってきます。次回メールを送る前には次のことをよく考えてみてください。
「私たちは、細かいことにまで気を配っていられないほど仕事が忙しいことがよくあります。でも、実は自分が思っているほど忙しくないことも多いのです。忙しい忙しいと思っているから、正確に、分かりやすく、相手に対する敬意をもって対応することができなくなっているのです。」
2.そのメール、簡潔すぎませんか?
業務中に読解力が低下する理由の一つとして、仕事が忙しいため細かい部分は読み飛ばされるということが挙げられます。急いで仕事をし、そしてそれに対する不安があるから、正確に、分かりやすく、相手に対する敬意をもって対応することができなくなっています。でも実は自分が思っているほど忙しくないことも多いのです。
まずは落ち着いてください。そして連絡を取るときには、常に詳細に言及すること。会議に関する長めの報告を受け取ったときは、定型の返信をするのではなく、メールの特定の要素に対して返信しましょう。そうすることで、あなたが時間をかけて相手の考えを理解しようとしていること、相手の時間を尊重していることが伝わります。
組織の上層部から簡潔な連絡がくるのは、珍しいことではありません。いい加減な文章やメール、下手な文章、文法やスペルミスが表しているのは「そんなことを気遣っている余裕はない!」というメッセージです。モルガン・スタンレー社では、役職が上になればなるほど、テキストやメールで感謝を表現するときは少ない文字数でよいのだというジョークがありました。仕事を始める時は“Thank you so much!”だったのが、数回昇進すると“Thanks.”になるといった感じです。
簡潔な連絡をすることで自分は偉い人であるかのように見せることはできますが、チームや業務に悪影響を与えることもあります。投げやりなメールを受け取った人は、それが何を意味するのかを解釈するのに時間を費やすことになり、そのために遅れが生じたり、ミスにつながったり結果的に高くつくこともあります。簡潔さを連想させる句読点、つまり文末のピリオドを使うと、不誠実な印象を与えるという調査結果もあります。
以前、会社にいたある幹部は、いい加減で連絡が短いことで有名でした。名前はトムとしておきましょう。「この計画を進めてよろしいでしょうか?それともさらに情報収集した方がよいでしょうか?」と直属の部下がメールで問い合わせたところ、トムの返事は「イエス」でした。そうですか、つまりどちらかを進めるか、両方を進めるか、どちらも進めないということですね。質問に答えていないということをトムに指摘するまでどの程度時間を置くべきかをチーム内で議論することで、どれだけの時間が無駄になったのか想像してみてください!リーダーがすべてのメッセージに返信する必要はありませんが、重要な業務の指示が必要とされるときは、最低でも分かりやすい連絡をするべきです。
また、メールを送信する前に校正するようにしてください。単語の抜けや、誤解を招きやすい句読点によって誤解が生じることが多いのです。スペルチェックなどの文章校正プログラムを活用してください。校正は習慣であり、スキルでもあります。正しく明確な文章を送信するとことで、内容を真摯に受け止めてもらえる可能性も高まります。
3.連絡の「語調」に気を配っていますか?
メッセージの総合的な態度や個性を表す「語調」も、優れた読解力と文章力の重要な要素で、共感を伝えるための最強のツールと考えられます。読者と観客は誰なのか自問してみましょう。
「メッセージの総合的な態度や個性を表す「語調」は、共感を伝えるための最強のツールと考えられます。」
デジタルコミュニケーションで悩みを抱えているクライアントに私が伝えているのは、自分のメッセージが与える視覚的なインパクトを意識することです。説明しましょう。
私がコーチングしている若手マネージャーのイーサンは、役員とのやり取りで自分が評価されていない上、軽視されていると感じたと話してくれました。イーサンは依頼に応じて、役員のチームの生産性向上に向けた詳細な計画を送りました。その計画では従来とは違う働き方を提示しており、これによって重複を減らして透明性を一段高めることができるとイーサンは確信していました。イーサンはこの計画に大きな期待を寄せており、計画には次回のチームミーティングで提示する具体的な質問まで記載していました。前向きの返答、もしかしたら追加の質問がいくつか来るかもしれないと思っていたところ、役員から返ってきた返事は「k」の一文字でした。
イーサンは混乱し、侮辱されたように感じました。明確で包括的なイーサンの提案に対して返事を書く必要もないというのが、「k」が与えた視覚的なインパクトだったのです。役員はイーサンの企画を検討すらしてくれなかったのでしょうか、それとも頭から却下していたのでしょうか?
「k」は、イーサンにゴーサインを出したということでしょうか、それともそんな馬鹿げたアイデアは後回しにしろと言いたかったのでしょうか?答えは知るすべもありません。また役員は、一文字以上書くのも面倒なほど、イーサンを過小評価していたのでしょうか?「あとで連絡します」といった決まり文句であっても、「k」一文字よりは相手に対する敬意と気配りが伝わったはずです。
イーサンの上司のような語調の不備は、士気を低下させ、混乱を招くことがあります。誰かの頑張りに対して、たった一言(または一文字)しか返さないということは、相手に対する共感が欠如していることを伝えることになります。実質的に提供できるものが何もないときは、ただ返事しなくてはいけないからというだけで返信しないこと。メールに丁寧に対応できないときは、受信を知らせる簡単な返事をして、ちゃんとしたメールをなるべく早く返すと伝えましょう。
4.電話や対面のミーティングの効能とは?
連絡に利用できるプラットフォームはたくさんあるため、メールやグループチャットでは些細な質問を数多くしがちです。電話やビデオ、対面のミーティングであれば、矢継ぎ早にちょっとした質問をするのではなく、適切な質問をすることになります。これは時間の節約にもなりますし、親交を深める効果もあります。
ドイツ人のクライアントから聞いたのは、「フランス人とインド人の同僚と延々とメールでやり取りをしていたのですが、意見交換しながらもお互いを理解できないまま、同じような内容を何度も書き込んでいました。二人と電話連絡し、いろいろな角度からいくつか質問したら問題の真相にたどり着きました」という話でした。
「アイコンタクトや声のトーンといった手がかりがないため、デジタルコミュニケーションには困難が伴います。現在のハイブリッドな世界では、従来のボディーランゲージの代替として丁寧な読解力と文章力が組織に不可欠になっています。」
不明瞭、あるいは紛らわしいテキストやメールを受け取った場合は、躊躇せずに電話で話すか、可能であればビデオ形式か対面でミーティングしたいと申し出てください。機密に関わる内容の場合、すぐに電話をしてほしいと依頼することは、あなたの気遣いを示すことにもなります。質問に答える際に少し間を置くことは、優柔不断ではなく、あなたが相手の話を聞いていて業務を真剣に受け止めていることを示すことになります。相手が言いたいことを明確にするためのアイコンタクトや声のトーン、ボディーランゲージといった手がかりがないため、デジタルコミュニケーションには困難が伴います。現在のハイブリッドな世界において、チームの意見を調整し、卓越した能力を発揮するためには、従来のボディーランゲージの代替として丁寧な読解力と文章力が組織に不可欠になっています。