NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
シームレス:Amazonリアル店舗の進化
世界最大のエブリシング・ストアーのAmazonは、ECだけではなく、デジタルを活用したリアル店舗も手掛けています。2022年はコロナの影響を受けて一部の店舗を閉鎖したものの、2023年は意欲的にリアル店舗事業の拡大を図っていくようです。
今回私たちは、そんなAmazonのリアル店舗を現地視察してきました。
まず、完全無人店舗で知られるAmazon Goです。Amazon Goは、入口のゲートを通り、欲しい商品を手に取って店を出るだけと、シームレスな購買体験を提供しています。レジに並び、財布を出すといった消費者が感じる面倒は一切ありません。
現地時間AM7時のAmazon Go店舗
実は、2020年にもデジマイズムでAmazon Goを紹介しています。
2020年と比べて大きく進化した点は、Amazon Oneという手のひら認証サービスが導入されたことで、「完全に手ぶら」で買い物が出来るようになったことです。以前はAmazonのアプリからQRコードを表示して入店する必要がありましたが、事前にAmazon Oneで手のひらとクレジットカードを登録しておけば、それ以降は手のひらだけでも入店が可能です。手のひらの登録が面倒であれば、クレジットカードだけでも入店出来ます。
実際の店舗で利用者の入店方法を観察しましたが、入店方法はバラバラでした。利用者にとって、最初のAmazonアプリ準備や、手のひらの登録が難しいと感じる人がいれば、都度クレジットカードを出すことやスマホアプリを開くことを面倒と感じる人もいると思います。このようなさまざまな消費者ニーズに対して、Amazonは多様な手段を用意することで、誰にとっても障壁のない「究極のシームレス」を体現していました。
クレジットカードと手のひらを登録するAmazon One
次に、ニューヨークから少し離れたニュージャージー州にあるスーパーマーケットAmazon Freshの店舗について紹介します。
Amazon Fresh:山積みされた果物や野菜売り場
基本的な店舗の仕組みはAmazon Goと同様ですが、Amazon Freshは品揃えが多く、通常のスーパーマーケットで売っている商品はほとんどすべて扱っています。オンラインからのピックアップを含めると、計10万点以上の商品を取り扱っています。また、ニュージャージー州のAmazon Freshの店舗面積は3700平方メートル。一方、さきほど紹介したAmazon Goは170平方メートル程度であるため、比較するとAmazon Freshがかなりの広さであることが分かります。
しかし、通常のスーパーマーケットと同じように多くの商品を扱っていながら、本当にレジ無しで手に取ったすべての商品を把握できるのでしょうか。そこで、私たちは現地で本当に全ての商品を誤ることなく認識できるのかを検証してきました。
① 陳列棚から生ハム、山積みされたパン、レッドブルを手に取る
② 量り売りのポテトサラダを0.5ポンド程度で注文する
※店員さんが計量し、その価格をシステムに入力
③ 店舗の入口にある花束を手に取る
④ レッドブルを元の棚に戻す
⑤ 販売されているショッピングバッグにすべての商品を入れ、退店する
Amazon Fresh:検証で手に取った商品
数時間後、手に取ったすべての商品が正しく決済されていました。決済までの数時間は、正しく決済されているのかが心配でしたが、今回のように意図的に難しくした購買パターンでもシステムの認識に問題はなかったので、通常の購買パターンで利用するのであれば今後は安心して待つことができると感じました。
Amazon Fresh:商品購入の検証結果
Amazon Freshの中では、50代くらいの男性が「魔法のようなスーパーマーケットだろ」と私たちに話かけてきました。最先端なサービスは複雑な操作を伴うことも多いですが、世代を問わず誰でも使え、かつ誰かに話したくなるほどのシームレスな体験ができることに感心しました。
また、他スーパーマーケットで導入されているセルフレジでは、購入する商品にお酒が含まれていると、セルフレジでは購入できず、有人レジに誘導されます。それに比べてAmazon Freshでは、お酒コーナーは有人のIDチェックが必要なエリアに区分けされていますが、IDチェック後はその他のコーナーと同様のシームレスな体験が続きます。このように、レジ無し店舗だからお酒や量り売りのお惣菜は諦める、といったことがないように、部分的に上手く人を使いながらシームレスな購買体験を実現していました。
有人のIDチェックで入れるお酒売り場
カスタマイズ:クラフトマンと相談してCOACHらしくかつ自分好みのデザインに
次に、ニューヨークの5番街に位置するCOACHのフラッグシップストア「COACH HOUSE」を視察しました。COACHは、1941年にニューヨークで革小物工房として誕生し、75年以上の歴史を誇るラグジュアリーブランドです。店内に入ると、入口にはレザーバッグで作られた巨大恐竜モニュメントが飾られ、細部までブランドの独特な世界観が表現されたラグジュアリーな空間になっています。
レザーバッグで作られた巨大恐竜モニュメント
店舗の2階に上がると、ブランドの起源でもある皮工房を連想させる空間デザインになっています。
店舗2階は皮工房を連想させるデザイン
2階では、COACHの商品を自分の好みに目の前でカスタマイズしてくれるコーナーが設けられています。その場でベースとする商品を選び、ストラップやスカーフで自由にカスタマイズ、そしてイニシャルやスタンプを入れられるサービスです。
自分好みにカスタマイズされた1点モノ
このカスタマイズサービス、COACHでは顧客が求めるカスタマイズのニーズとブランドらしさで上手くバランスを取っているように思います。ベースとなる部分は従来の高品質な商品づくりを強みとしつつ、装飾部分は店舗でその日のうちに自由なカスタマイズができます。購入者は今までよりも愛着が持てる自分好みのユニークな商品を持つことが出来ます。
また、カスタマイズによってユニークでありながらCOACHらしさを失わないことも特徴です。コーチのアイコンのティーローズやダイナソーなどのスーベニアーピンを使って、クラフトマンとカスタマイズ部品の配置バランスを相談しながらセンス良いデザインに仕上げてくれます。
消費者ニーズが多様化した現在では、消費者から「自分に合った商品」や「自分だけのユニークな商品」が求められています。このようなニーズに対応するためにも、他のアパレルブランドもCOACHのブランドらしさと自分好みにカスタマイズの両立のバランスが参考になるのではと感じました。
体験型:家族みんなでワクワクを楽しめる小売店舗
ニューヨークの5番街やハドソンヤードに位置する商業施設にCAMPという体験型店舗があります。CAMPはモノづくりやショーなどのワクワクした体験を家族みんなで楽しめる店舗です。
入った途端ワクワクさせられるCAMPの店舗
CAMPは、店内デザインをさまざまなテーマでローテーションし、そのテーマに合わせた商品やアクティビティーを提供しています。例えば、ハリウッド映画をテーマにした時期には、映画にちなんだ玩具や衣装が販売され、子どもたちが映画の世界に浸ることができるようにしています。最近では、ディズニーの「ENCANTO」とコラボした世界発の没入型ディズニーエンカント体験や、エンカントの世界をイメージしたカスタムメイドの限定グッズが販売されています。
世界初の没入型ディズニーエンカント体験(CAMP公式サイトから)
また、クラフトワークショップや料理教室など、子どもたちが興味を持ちやすい体験が実施されています。これらの体験は、子どもたちが自分で作ったものを持ち帰れるため、家族での思い出作りにも役立ちます。さらに、定期的に開催されるストーリータイムでは、子どもたちがお話を聞いたり、一緒に読んだりして楽しむことができます。その時にキャラクターや著名人が登場することもあり、子どもたちにとって特別な思い出となることは間違いなしです。
CAMPは、このような体験提供によって、家族でリピートして足を運びたくなる場を作り上げています。そして、店舗に並ぶ商品は販売されているようには見えず、テーマに応じた統一感あるディスプレイのように見えます。CAMPは家族の思い出作りの場を提供することで、商品購入を促さなくても子どもから大人まで購入したくなるような店舗を作り上げています。
CAMPのモノづくりができる体験スペース
消費者とのタッチポイントが多くなった現在では、一方的な価値訴求では消費者に届かなくなってきています。「Family Experience Company」という一貫したコンセプトのもと、店舗で体験を提供し続けることで、消費者が自ら訪れたくなるような強い接点を作っています。これによって、ハリウッドやディズニーとコラボできるようなCAMPという強いブランドが築き上げられているのだと思いました。今後、是非とも日本にも展開して欲しい家族向け体験型店舗でした。
店舗視察のまとめ
今回の視察では、小売店舗における「シームレス・カスタマイズ・体験型」の現在地を見てきました。
最初のAmazonのリアル店舗は、多様な入店手段を用意することで誰にとっても障壁がなく、部分的に人を上手く使うことでいつも通りのあらゆる購買体験を可能にし、究極の”シームレス”を体現していました。
次に、COACH HOUSEは、多様化する消費者ニーズに対応して、ブランドらしさを維持しながらも、自分の好みで愛着が持てるユニークな商品をバランスの取れた”カスタマイズ”によって実現していました。
最後に CAMPは一貫したコンセプトのもと、店舗で”体験”を提供し続けることで、消費者が自ら訪れたくなる強い接点を作り、強いブランドを築き上げていました。
今回の現地視察がトレンドを捉えた小売店舗の在り方を考えるためのヒントになれば幸いです。なお、フォームからお問合せをいただければ、この記事よりも詳細な考察レポートもご提供が可能です。そのレポートを基にしたディスカッションも可能ですので、興味のある方はお気軽にご連絡ください。