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2024年2月21日トレンドを知る

今、デザイナーに求められる提供価値 産学連携で「作り手の願い」について考える

顧客体験、利用者視点といった「人」起点で考えることが、ビジネスの成功に影響する時代。対話型AIや生成AIの技術が急激に発展している時代。そのような時代において、求められるスキルや創造すべき価値は何か。
人間中心設計は、どのように発展していくのか。ユーザーと作り手の関係性はどのようになっていくのか。
山梨大学、千葉工業大学、NTTデータは産学連携によって、製品/サービス企画の実務経験がある社会人を対象に、「ヒトを起点としたデザインアプローチによる新たなビジネスや製品/サービスの検討」に必要な知識・ノウハウを、オンライン・オフラインを組み合わせて提供する、「高度デザイン人材育成プログラム」を開発した。
本プログラムの講師で、人間中心設計の専門家である、山梨大学の郷教授、千葉工業大学の安藤教授との対談から、「今、デザイナーに求められること」をひもとく。
目次

研究者として感じていた課題

──お二人が研究者として感じていた課題感、今回のプログラムの発足の背景を教えてください。

山梨大学 大学院総合研究部 教授 郷 健太郎 氏(以下、郷)安藤先生とは、HCD(人間中心設計)の研究に関して、以前から面識はありましたが、山梨大学と千葉工業大学の大学間連携がきっかけです。私から安藤先生にお声がけして、月1回くらいでお互いの研究内容や取り組みを共有する場を持つようになりました。

千葉工業大学 先進工学部知能メディア工学科 安藤 昌也 氏(以下、安藤)郷先生が以前からシナリオベースドデザインに取り組んでいたのは知っていました。特にフォトエッセー。元々は経済学の価値観研究であったものを、HCDに取り込み、意味や価値に注目して方法論化にチャレンジされていたことに関心を持っていました。

私自身は、モノやコトを生み出しているのは、デザイナーの発想であり、「願い」や「想い」だと信じています。
いま、人間中心設計というと、ユーザーを考えなければならない、ということでフィールド調査などをHCDの活動として重視しますが、表面的に見ていると答えがユーザーにあると思ってしまいます。使い古された例ですが、顧客に聞いた答えだけでデザインすれば、自動車を量産するのではなく速い馬を作ることになります。
つまりは、デザイナーの役割がユーザーから答えを引き出すということになってしまい、デザイナーの主体性が薄まってしまうと感じていました。
もちろん対象を正しく知るためにフィールド調査などはとても重要ですが、その上でさらにデザインの主体性をデザイナー側の世界にもう一度戻したいと考えています。

安藤私も「願い」「想い」「価値」といった点を、考えているので、問題意識が共有できました。

──今回のプログラムでは、「作り手」と「デザイナー」をどのように捉えているのでしょうか?

NTTデータ 法人コンサルティング&マーケティング事業部 リードサービスデザイナー 野口 友幸(以下、野口)作り手の方が大きな概念で、企画や設計、開発、プロダクトのものづくり、など、すべての作る人をさしています。一方で、デザイナーはデザインする人、企画する人にフォーカスし、高度な人材を育成している、という位置付けです。

高度デザイン人材育成プログラム(略称:山梨大ADP)の詳細はこちら:
https://adp.yamanashi.ac.jp/

産学連携への発展

──お二人が同じ課題感を持っていたという点はとても興味深い話ですが、そこからどのように、NTTデータとの産学連携の取り組みにつながったのでしょうか?

安藤研究者同士の議論も大事ですが、実践の話とつながっていないと意味がないという点は、郷先生とも共通認識でした。NTTデータの野口さんとは付き合いが深く、郷先生とのディスカッションの内容も適宜共有していたので、何かよく分からないけどプロトタイプ的にやってみようという勢いで相談しました(笑)。もちろん、NTTデータのサービスデザイナーとしての立場から、我々が考えていることに対して、どう感じるかという点も興味があり、みんなで考えていこうというパートナーとして最適だと思っていました。

野口私も、安藤先生のもとで学び、利他の考え方については理解していました。郷先生が言っている「揺り戻し、ユーザー傾聴というが、言われたものを作る、もしくは、言われたものすら作れていない」というのが、今の産業側の現状だと考えています。そんな中で、さらに先を考えている話であり、ぜひ取り組んでみたいと思いました。3人で議論を重ね、2023年4月に20名程度の受講者を集めて、1泊2日の合宿形式でトライアルを開催しました。

安藤野口さんのドライブ力が強かった(笑)。我々研究者は、やりたいと思ってもなかなか前に進まないです。4月のトライアルは、我々としても気づきが多かったです。

AI時代における、作り手を考える

──今回のプログラムでは、AI、伝統工芸、文化人類学の専門家による講義が含まれていますが、どういった狙いでしょうか

今回のプログラムでは、作り手を真剣に考えたいと思っています。AIが浸透していく中で、AIが大量に絵を作成することも始まっている。そういう時代において、デザイナーができること、求められることを考えたいです。そのために、AIでできること・できないことを理解する必要があると思います。仕組みは何か、本質は何か。ということですね。
一方で、伝統工芸を知ることは、作り手の行為、作られた対象の関係性を深く理解することにつながります。昔から培ってきている領域なので、特に、生活で使われるような民芸品を作っている人は、どのようなことを考えているのという点を掘り下げたかったのです。AI、伝統工芸、いずれにおいて、「作り手」ということを軸に考えたいと思っています。
今回、伝統工芸の講義をしてもらった方は、伝統産業に対する地域コミュニティーづくりに取り組んでいます。ご自身もコンピューターグラフィックをデザインして、機織りをしている方です。ジャカード織機というもので、コンピューターの原型とも言われており、実は、伝統工芸とコンピューターの関わりが深い面もありました。

山梨大学 大学院総合研究部 教授 郷 健太郎 氏

山梨大学 大学院総合研究部 教授 郷 健太郎 氏

社会人デザイナーの反応

──お二人が感じていた課題感を、実際にデザイナーとして日々の仕事に取り組まれている社会人にぶつける形になっていますが、どんな反応が見られますか?

難しいテーマではあると思いますが、活発な議論をされているので、「ユーザー傾聴し過ぎず作り手の思いが大事」という課題感を持って積極的に参加してくれている印象ですね。

安藤実践に関しては、我々の意図通り、よい具合にモヤモヤしています(笑)。モヤモヤしながらも考えていくことがよい気がする、と参加者の皆さんは感じているようです。

野口学生向けのサービスを考える講義の回から、雰囲気・考え方が変わったように見えます。学生に見てもらうというイベントによって、作り手、という立場を意識し始めたのではないでしょうか。

安藤デザインに関わる仕事をしている人でも、例えば、リサーチメインの方は、「作り手」を意識する機会は少ないかもしれないですね。そう考えると、学生向けに提案し、評価されるという中で、「作り手」ということを明確に意識できる場であったのかもしれません。
多くのデザイナーは、例えば、ソフトウェア開発における、要求があり、それに応えていくための仕組みがあるという思い込みをしているように見えます。そういった思い込みや視点を変えてもらうところから始めていて、そのためには、疑うところから考える必要があるし、自分たちが何を考えているのかを考えることが必要です。そこに気づけるとよいですね。

デザイナーとして求められること

──作り手の「願い」というテーマは非常に深く・難しいだと思いますが、デザイナーとして考えていく上で、求められることは何でしょうか?

明確な手法があって、順番に従えば答えが出るということはない、という認識は必要です。

野口安藤先生と郷先生の利他・願いの講義の回において、先生たちも、ここまではわかっているが、ここからは先はわからない。と言い切っているのが印象的で、受講生のアンケートでも同様の声が出ていました。

安藤我々も答えを持っておらず、一緒に考えていこうという姿勢で取り組んでいます。だからこそ、産学連携の意味があると考えています。モヤモヤしながらも、「これを考えていくと大事なことに気づける」と感じてもらいたいですね。

安藤郷先生の作り手としての利他の話は、「作る」ということにもう一度迫る話だったと思います。方法を見てしまうと、方法を動かしていくだけの人になってしまいます。しかし、「自分が作っていくんだ」という時には、モチベーションが発生し、その中身として「願う」という言葉を当てています。やはり、「作る」ということを意識することが大切なのです。

千葉工業大学 先進工学部知能メディア工学科 安藤 昌也 氏

野口初学者はどうしてもフレームワークから入る傾向があります。段取りとしてはよいかもしれないですが、本質は、「何を作り出すか」ということなので、この通りやったらできるというものではありません。そこに気づいてアプローチできるかが、今、デザイナーとして大事なことではないでしょうか。ディレクションも大事ですが、「作る」、「何かをアウトプットする」、ということを大切にしてほしいです。

安藤誤解してはいけないのは、人間中心設計などは大事です。我々がやろうとしていることは、そのことを追求しようとした話になります。

ユーザーに寄り過ぎているから、ユーザー調査をやらなくてよいということではなく、ユーザー調査は重要です。それを踏まえた上で、デザイナーの役割を発揮してよいのではないか、という事ですね。

今後の展望

──最後に今後の展望を聞かせてください

当初の狙いとしては、参加者同士の交流から、コミュニティーの形成や次世代人材の育成につながっていくとよいなぁと考えていました。参加している方はいろんな業種がいますが、今回のプログラムをきっかけに自身の課題についても意見交換できるようにしていきたいです。

野口プログラムに関しては、前半はチームをシャッフルしながら進めましたが、後半は、経験などを考慮してチーミングする予定です。さまざまな参加者とお互い刺激し合ってほしいです。かなり難易度の高いお題が出されますが、利他・作り手の願いということを意識して取り組んでいただけることを期待しています。

安藤特に、ビジネスでユーザーに要求を確認すると、その中で着地を模索して、着地させている現状があると思います。そうではなく、願うレベルまで考えて、結果的に着地させることに、同じ着地するのでも、違いがあることに気がつきました。まさにここが、研究だけではなく産学連携でやっている意義です。すぐに答えが出るものでもないし、時代も人も変わっていきますが、今後も数年かけて取り組んでいきたいですね。

NTTデータグループのデザインコンサルティングの詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/design-consulting/

山梨大学の詳細はこちら:
https://www.yamanashi.ac.jp/

人間中心イントロダクションの詳細はこちら:
https://www.kindaikagaku.co.jp/book_list/detail/9784764906396/

千葉工業大学の詳細はこちら:
https://www.it-chiba.ac.jp/

安藤研究室展(価値のかたち展)の詳細はこちら:
https://kachinokatachiten2024.studio.site/

UXの教科書の詳細はこちら:
https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b294953.html

Tangity noteの詳細はこちら:
https://note.com/tangity/

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