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2024年2月27日トレンドを知る

金融における生成AI活用の可能性 ーAI活用のリスク低減への取り組みー

ChatGPTの登場以降、生成AIをさまざまなビジネスに活用する可能性が探られている一方、生成AIを活用することで生じる権利侵害などのリスクも懸念されている。本記事ではAIの歴史、従来のAIと生成AIの違いといった基礎知識を解説。その上で、金融分野における生成AI活用のユースケースやガバナンスの重要性、生成AI活用のリスクを低減するソリューションとしてNTTデータが開発したLITRON®Generative Assistantを紹介する。
目次

AIはどのように進展してきたのか

AI技術と言えばディープラーニングをイメージされるかもしれませんが、AIが進展してきた要因は「パターン認識の高度化」「並列計算の高速化」「多種多様なデータ」という3つの要素によって成り立っています。この「パターン認識の高度化」を支えるものがディープラーニングのようなAIの核となる技術です。その背景には、AIに学習させるためのマシンパワーの向上によって「並列計算の高速化」が進んでいることがあります。また、IoTをはじめとするデジタル技術の浸透によって取得できるデータの量と質が増加したことで「多種多様なデータ」によるAI学習が加速しました。この3つが相まって、現在の生成AI登場に至っています。

金融業界でのAI導入率が高いのは、「多種多様なデータ」、すなわちデータにしやすいものが多い事業であるからです。AIが登場する以前から、情報システムを業務の中で使いこんでおり、多様なデータを蓄積・分析してきた業界であるがゆえに、AIとの親和性が高いのです。

なお、利用されるデータに関して、従来のデータ分析では構造化データと呼ばれるような、集計や比較に適した数値的なデータのみが対象でした。一方、AIであれば画像や音声といった非構造化データも取り扱うことができるため、より幅広い業務に適応可能です。これは、AIの重要な特徴の一つです。

具体的にAIでできることは、「予測」「分析」「判断」「対話」「識別」の5つです。実務ではこれらを組み合わせることによって、AIが人間に代わって業務を行うなど、業務のあり方が大きく変わると考えられます。ChatGPTに代表される生成AIは、「対話」の延長として捉えることができますが、アウトプットを創出するという点が世の中の興味関心を集めています。

生成AI登場に至るまでの歴史として、BERTにも触れておきましょう。BERTは、2018年にGoogleが発表した自然言語処理技術です。BERTもChatGPTも、Transformerというアプローチに基づいています。

NTTデータではBERTをビジネスで実用化するため、さまざまな業界に特化した「ドメイン特化BERT」の開発に取り組んできました。たとえば、

  • 金融機関のコンプライアンスチェックとして、顧客とのやり取りやディーラー同士の会話の中で、インサイダー取引など法令違反に該当するものがないかをチェックする
  • 営業担当者の日報から活動内容を分析し、渉外業務を支援する

など、ドメイン特化BERTを活用した金融機関向けのソリューションを以前から模索してきています。

ChatGPTのような生成AIは突然登場したわけではなく、こういった2018年ころからの変化の一つとして捉えることができます。

これまでのAIと生成AIの違いを一言で表すならば、「学習しているデータ量の違い」です。たとえば、クレジットカードの不正利用を検出する特化型AIを開発しようとした場合、150MBの取引データを学習させておくことで、不正利用を予測できるようにしていました。一方、生成AIは570GBのテキストデータを学習させることで、さまざまな質問に対して柔軟に回答。これはあくまで一例であり、正確な数字ではないですが、学習しているデータ量に数千倍以上の差があります。その結果として、アウトプットの質に大きな違いが生じているのです。

生成AIのユースケースと課題

画期的な技術として注目されている生成AI。ビジネス活用における期待は今、非常に高まっています。生成AIの業界別利用実態を見てみましょう。

上述したとおり、金融・保険業界はかなり生成AIに関心を寄せています。ドキュメントやメールなど、文章を書く業務が多いほど、ChatGPTで代替できる可能性があると考えられているようです。

ユースケースとしては、既存業務の効率化だけでなく、アイデア出しや補完にも有用と考えられます。人間相手ではなく、生成AIを相手に壁打ちをすることで、アイデアの創出やブラッシュアップができます。他には、ソースコードを生成させることで、システム開発支援も可能です。

より具体な例として、実際に金融機関から引き合いをいただいているユースケースを簡単に紹介します。

一つ目は、稟議書の作成です。顧客の企業情報や過去の事例を生成AIに学習させることで、営業担当者の稟議書作成業務を支援するというものです。どこまで実現できるのか、現在検討中ではありますが、複数の金融機関から関心を寄せられていて、期待値の高いユースケースです。

二つ目は、ファイナンシャルプランナーの支援です。顧客との会話から資産運用ニーズをうまく拾い上げるところに加えて、最適なポートフォリオの作成もAIがサポートするというものです。

かなり有用な生成AIですが、実際の業務で利用するには「正確性」「不確実性」「説明責任」「データの保護」「サイバーセキュリティ」「専門性」「著作権侵害」「バイアス増幅」「悪用」という9つの課題があります。これらについては、従来型のAIのときから言われてきているものですが、この課題をきちんとカバーできないままに生成AIを導入してしまうと、企業価値を大きく損ないかねません。信頼性が重要な金融業界においては、高い業務品質を求められるため、特に注意すべきでしょう。

なお、生成AIは金融業界だけに留まらず、産業全体に大きなイノベーションをもたらす可能性を秘めています。そのため、日本としてどう活用していくかの検討も進められています。たとえば、ChatGPTは米国のOpenAI社が開発したものです。利用料金を支払ってサービスを使うことはできますが、海外にお金が流れ続けていきます。それを是とするのか、もしくは国産の大規模言語モデル構築に力を入れていくのか。日本としての立ち位置を決めることが、国家戦略として大事になってきます。

AIガバナンスが求められる理由

ここまでに述べたとおり、生成AIは業務効率化・生産性向上を目的としたビジネス活用に大きな期待が寄せられており、それらを実現する可能性もあります。その一方、間違った使い方をすると、人権侵害などの問題を起こす危険性もあります。そのため、国内外でガバナンスの必要性が説かれており、さまざまな機関・組織が法規制やレギュレーション、ガイドラインの策定を進めているのです。

AIを活用する企業側も、それぞれ独自にリスク対策を講じ始めています。NTTデータではAIガバナンス室という専門組織を設置。AIを含むシステム開発を行う際には、AIガバナンス室の定めるリスク検知・対処のルールに則ることが義務づけられています。

生成AIの登場によって、AIガバナンスはより強く求められるようになっています。その理由は、従来型AIと生成AIの仕組みに違いがあるからです。

特定の業務を自動化するために活用されてきた従来型AIは、読み込ませているデータもアウトプットも明確です。それゆえ、想定しうる範囲の内のことしかほぼ起こりません。それに比べて、生成AIは膨大なデータを学習しており、何のデータが含まれているのかも分からずに利用することになります。そのため、思わぬ成果物が生成されることがあり、間違ったものが紛れ込んでいても気づくことができないといった事態が起こりえるのです。

この違いが、個人情報や機密情報の流出、権利の侵害、不正確な回答といったリスクの原因であり、運用方針やセキュリティ体制の構築などのガバナンスがより強く求められている理由です。

生成AIの法的懸念点に関する詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2023/0421/

生成AI活用のリスクを低減するLITRON®Generative Assistant

NTTデータでは、生成AI活用のリスクを減らすため、LITRON®Generative Assistantというソリューションを開発・提供しています。生成AIの大規模言語モデル(LLM)と、参照する文書を分けることで、情報流出や不正確な回答を一定程度抑止するものです。

LITRON®Generative Assistantがどのように動作するのか、ユーザーが社内規定を確認するシーンを例に紹介します。

ユーザーが「豊洲から広島県福山市への出張に飛行機は使えますか?」という質問を投げかけます。すると、適した回答を導くために、LLMが質問文から検索クエリを生成。その検索クエリで関連する文書を検索したのち、LLMが回答文を生成します。このとき、回答文とともに参照元の文書を提示する仕組みになっています。例では、社内文書を参照しており、もしユーザーが回答内容に対して疑問を感じた場合などには、参照元の文書を確認することが可能です。これにより、回答に対する信頼性が高められます。もっともらしい虚偽の回答をする、いわゆるAIのハルシネーションによるリスクを低減します。

また、参照する文書は適宜選択でき、インターネット上にある不特定で不正確な情報ではなく、業務文書を参照させることで、より回答の精度を高めることが可能です。

LITRON®Generative Assistantは、アプリ本体をクラウド上にインストールし、API接続で生成AIのサービスにつなぐ方式を採用しています。

この構成にしている理由は二つあります。一つは、参照する文書データを入れておく文書ストアを含め、基本構成を構築したシステムをマネージドサービスとして提供することで、システム構築の手間を省き、契約すればすぐに使うことができるようにするため。もう一つは、社内規定など参照する文書に変更があった場合に、AIにもう一度学習させる手間を省くためです。文書を差し替えるだけで、新しい文書に沿った回答文を生成することできます。

なお、現時点ではLLMとしてAzure OpenAI Serviceを採用していますが、API接続にしているため、必要に応じてLLMを変更することもできます。

このように、LITRON®Generative Assistantは、性能・構築難易度・柔軟性・信頼性という4つの観点で、生成AIのビジネス活用を支援。NTTデータは、正確性や信頼性を求められる金融機関を今後も強力にサポートしていきます。

本記事は、2023年10月26日、27日に開催されたFIT2023(Financial Information Technology 2023、金融国際情報技術展)での講演をもとに構成しています。

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