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2024年4月25日展望を知る

企業変革の要諦 ~欧州製造業の事例から~

多くの日本企業が経営変革を掲げているが、日本の国際競争力は低下していると言われている。この20年で着実に変革の効果を上げている欧米企業と、伸び悩む日本企業との違いは何なのか。ドイツの製造業の事業変革・組織変革の事例をひもときながら、変革を波及させるために重要なポイントを探る。
目次

株価は上昇基調でも国際競争力が低下する日本

2023年12月の政府発表によると、日本の名目GDPは2024年度に600兆円を超える見通しです。インフレもあるかもしれませんが、物価上昇が寄与し、企業の業績も好調。2023年の日経平均株価の上げ幅は1989年に次ぐ水準で、株価上昇が加速しています。「失われた30年」と言われますが、2024年はその出口に向かい、経済・企業変革の成果が出てきているものと思っています。

一方で、IMDによると日本の国際競争力低下は著しく、2023年は過去最低の35位でした。日本は30年たってようやく株価が元に戻ってきた状況ですが、アメリカはその間に株価が9倍になっているのです。特に国際競争力を測る指標の一つ「ビジネス効率性」では、日本は64カ国中47位。さらに、「ビジネス効率性」を構成する5つの要素のうち「マネジメントプラクティス(※)」は、64カ国中62位と最低水準です。

実は、この調査方法の一つに自己評価があり、他の国に比べて日本人は自国の競争力にかなり低い点数をつけていることが理由とも言われています。そこには「自分たちは変われない」という諦めのようなものがあるのではないでしょうか。しかし、経済動向は確実に上を向いているのですから、悲観的になるのではなく、海外企業との違いを正しく認識して向上のポイントを探っていきたいと思います。

ここからはグローバルで比較するために、海外の事業展開割合が高い製造業にフォーカスし、企業経営の変化を「稼ぎ方」「回し方」「人の活かし方」という3つの軸で見ていきます。特に日本と同じく製造大国であり、GDPで日本を抜いたドイツの企業の事例を紹介します。

(※)マネジメントプラクティス

IMDの世界競争力年鑑(IMD World Competitiveness Booklet 2023:https://imd.cld.bz/IMD-World-Competitiveness-Booklet-2023)において、機敏な経営、変化対応力、コンプライアンス整備状況、データに基づく意思決定など14のアセスメント項目に基づき評価される要素。

自社の価値と未来を見据えた「稼ぎ方」

日米欧の製造業における海外売上高比率の推移を見てみると、2008年のリーマンショック以降、日本企業は稼ぐ場所を広げ、急速に海外売上高比率を上げています。一方、収益性では、欧米企業とのEBITDAマージンの差は開いたまま。日本企業は規模拡大やコスト低減、金利低下などによって筋肉質にはなったが、利益の源泉であるキャッシュを稼ぐ力が身についていないと言えるかもしれません。

例えば、空調設備業界のグローバルシェアトップはダイキンです。しかし、相対的に収益性が高いのは米国企業です。例えば、米国のCarrier社は「Blue Edge」と呼ばれるIoTプラットフォームを提供。空調機器からデータを収集し、製品ライフサイクルに基づくアフターサービスを充実させ、モノ売りから、サービス化への転換によって収益性を高めています。

重工業界でも、欧米企業に比べて、日本企業は相対的に低収益低成長となっています。Siemens、ABB、Honeywellといった企業は、いずれもIoTプラットフォームを市場に展開。もともと得意なハードウェアにデータ活用を含むソフトウェアの価値を埋め込むことで、より高い付加価値を提供する稼ぎ方へと転換しています。

ここでドイツ企業であるSiemensについて、もう少し深掘りしてみましょう。

Siemensは売上高約11兆円、30万人の従業員を要するエンジニアリングソフトウェア企業です。1900年代後半、事業の多角化が裏目に出て、営業利益率が低迷していました。しかし、2000年以降は「10point Program」という戦略のもと、収益性の低い10%以下の事業から撤退し、収益性が徐々に回復。2003年からは「Pictures of the Future」というメガトレンドに基づく未来予測を羅針盤として、買収や組織再編を進めています。さらに2014年には「ビジョン2020」という新たな戦略方針のもと、デジタル・自動化・電動化への注力を宣言。稼ぎ頭であったヘルスケア事業やエネルギー事業を独立させ、経営資源をデジタル事業に集中させることなど、大胆に変革を実行し、この20年でコンスタントに営業利益率を8%以上に保ちながら時価総額を3倍以上に伸長させています。

Siemensが稼ぎ方を変えてきた大きなきっかけの一つはやはり2003年から始めた「Pictures of the Future」であるように思います。彼らはIndustry 4.0構想が世に出る前から、産業のデジタル化・自動化・電動化を予見し、そこに注力してきました。生産ライン制御や、鉄道車両製造、送電網などエンジニアリング領域で長年培ったリアル世界での強みとデジタルが融合するビジョンを設定し、近年、MindSphereで収集したIoTデータを駆使して、再生エネルギー導入や工場自動化の提案といったリアル×デジタルでの稼ぎ方への転換を図っています。これらの挑戦は20年にわたって続いています。

揺るぎない経営哲学に基づく「回し方」

次に、コーポレートマネジメントの回し方について見てみましょう。次は多角化度と売り上げ規模を軸に、日本企業と米国企業を比較してみます。米国では大規模かつ多角化を進めている企業のほうが収益性が高いのに対して、日本では大規模かつ多角化を進めている企業ほど収益性が低くなっています。欧州と比較しても同様の傾向が見られます。つまり、日本は、事業の拡大・多角化にあたってのコーポレートマネジメントの回し方について改善すべき課題があるということです。

コーポレートマネジメントの回し方とERP導入の難易度の違いには相関があると考えています。NTT DATAはSAP導入プロジェクトを多数受託しており、そこから得た経験則を持っています。欧米企業ではERPの標準機能を使って1年程度で導入されるのに対して、日本企業はアドオンが非常に多く4~5年がかりとなることも珍しくありません。欧米企業と日本企業では、標準化レベルやシンプルさに違いがあり、それがERP導入の難易度の差となっています。

具体事例として、ドイツ企業であるBASFを深掘りしてみましょう。

BASFは売上高約11兆円、11万人の従業員を要する世界最大級の総合化学メーカーです。合成染料の製造から始まり、石油化学、ガス精製といった原材料、化学汎用(はんよう)品、自動車向けの機能素材など、川上原料から中間汎用品、川下製品まで事業を広げています。同社は2010年から2017年にかけて安定的な好業績と増配を積み上げ、時価総額を大きく伸ばしてきました。2018年の米中摩擦、2020年の新型コロナ影響で一時的に収益性を落としていますが、2020年以降は業績が改善し、将来への積極的な成長投資を打ち出しています。

BASFを取り上げる上で欠かせないキーワードは「フェアブント」です。「統合・つながり」という意味のドイツ語で、BASFの経営哲学となっています。コモディティ化して、利益が出にくくなった汎用化学品樹脂などの事業を競合他社が切り出していく一方、BASFはフェアブントという経営哲学に基づいて、これらの事業を抱え続けています。

コモディティ領域で利益を確保するために、BASFはドイツや中国などの各地域で、生産からバックオフィスに至るまで無駄のないオペレーションを整えています。ITシステム面ではリージョン単位でのオペレーションを統合し、システムの標準化に着手。2010年代後半にはグローバル標準化とシングルインスタンスERPを実現し、マレーシアにシェアードサービス会社を立ち上げて事業基盤を整えました。事業オペレーション面では、世界6カ所に総合生産拠点を有し、コモディティ領域でも利益が出せる構造をつくるとともに、高付加価値製品に参入し、同じ生産拠点を使ってさらに効率の高いオペレーションを実現しています。その根底にあるのは「We create chemistry for a sustainable future」、総合化学会社として川上原料から川下製品まで幅広く製品を取りそろえるというビジョンです。20年という長い年月をかけて、このビジョンを支えるオペレーションのグローバル標準化と効率化を進め続けています。

事業転換に向けた「人の活かし方」

人の活かし方を分析する視点として、私は「M&Aによるケイパビリティ確保」「BPOによる人材の流動化」「リスキリングによる人的資源の再定義」の3つがあると考えています。

「M&Aによるケイパビリティ確保」について、日米欧各国の製造業がIT企業を買収した件数の推移を見てみると、日本に比べて欧米は増加傾向にあり、積極的に進めていることが明らかです。「BPOによる人材の流動化」については、地域別のBPO市場規模の推移を見てみます。欧米に比べて日本のBPO市場は一桁以上も少なく、市場成長率も緩やかです。「リスキリングによる人的資源の再定義」について、現在は日本企業も積極的に取り組んでおり、産学間連携も進んではいますが、欧米に比べると着手が少し遅かったと思っています。言い方を変えれば、まだ日本は変化の触れ幅を広げる余地があると考えられます。

ドイツ企業であるBoschを例に「人の活かし方」のポイントを探ってみます。

Boschは売上高約12兆円、40万人の従業員を要する製造コングロマリットです。政府の再生エネルギー政策に呼応するように、2008年に太陽光事業の買収をしますが、リーマンショックや国策の行き詰まりにより、2010年代前後は成長が停滞しました。変革のきっかけは、2014年に「Shaping change」というビジョンのもとで、太陽光事業から撤退、電動化・自動化への注力を発表し、自らを自動車ソフトウェア企業と再定義したことです。2016年には、全従業員40万人のリスキリングに2,800億円を投資するという大胆な判断をしています。

リスキリングに関して、ドイツには非常に特徴的な取り組みがあります。Boschをはじめ、SIEMENSやBASFなど40社が参画する「アリアンツ・デア・シャンセン」と呼ばれるリスキリング共同体スキームです。リスキリングと配置転換が適合しない場合に、共同体スキームの間で会社を越えて社員を斡旋(あっせん)し合うというもので、日本にはない取り組みです。こういった取り組みを通じて、Boschはこの3年間で、1万4千人ものソフトウェア技術者を増やしています。これは驚異的なスピードです。2014年のビジョン設定から遡ると、Boschは10年に渡って人の活かし方を変えてきているのです。

欧州製造業の企業変革の成功要因

Siemensは、「Innovating the Electrical World」というビジョンを掲げ、エンジニアリング領域で長年培ったリアル世界での強みと、ソフトウェアをかけ合わせ、産業革新のリーダーを目指して「稼ぎ方」を変えてきました。
BASFは、「We create chemistry for a sustainable future」というビジョンを掲げ、総合化学として、コモディティ製品と高付加価値製品のオペレーションをリーンに統合することで「回し方」を変えてきました。
Boschは、「Shaping change」というビジョンを掲げ、自らを”自動車ソフトウェア企業”と宣言し、「人の活かし方」を変えてきました。
これら3社の事例に共通して言えることは何か。それは、「稼ぎ方」「回し方」「人の活かし方」の変化の土台には、企業経営の変化をもたらすための確固たるビジョンと、10年から20年という長期にわたる挑戦が必要だということです。

NTT DATAの「稼ぎ方」「回し方」「人の活かし方」

では、NTT DATA自身の取り組みはどうでしょうか。私が所掌する法人分野では「経営課題を提起してくれ、一緒に考えてくれ、業務とIT一体で変革を実現してくれる」会社をめざすことをビジョンに掲げ、「稼ぎ方」「回し方」「人の活かし方」の変革に取り組んでいます。

「稼ぎ方」に関しては、受動SIから”能動”提案に変えているところです。ただRFPに応えるだけではなく、お客さまの経営課題を提言し、変革に向けた能動的な提案をし、必要なサービスをトータルでご提供することをめざしています。具体例としては、ダイエーと共同で行ったCatch & Go®という無人店舗の実現です。都市型店舗へのシフト、顧客接点の強化、省人化というお客さまの経営課題に対して、当社内での無人店舗運営の実証実験を提案。システム実装だけでなく、オペレーション課題の解決など、2年にわたり店舗運営のノウハウを蓄積した上で2023年10月に一般のお客さま向けの路面店として正式にオープンしました。

もう一つの”能動”提案に関する事例は、塩野義製薬と進めているDTx(デジタルセラピューティクス)と呼ばれる、近年、注目されている新たな分野の開拓です。DTxとは、デジタル技術で疾病の予防や診断・治療を支援するソフトウェアです。例えば、患者のスマートフォンやタブレットにアプリをインストールして、禁煙治療や小児ADHD治療、糖尿病治療など、患者の行動変容を促すといったものです。

米国・ドイツでは市場を伸ばしており、日本市場はこれから発展が望まれますが、社会的認知・普及はまだこれからという状況です。そこで私たちは、DTxを国内で普及させる仕組みを提供できないかと考えました。DTxを提供する事業者は製薬会社だけとは限らず、ベンチャー企業など多様な事業者が参入してくる可能性があります。現状はDTx事業者と卸・医療機関の間の契約・処方・決済をそれぞれの間で個別に構築する必要があり、その煩雑さが普及を阻害する可能性があります。

このため、私たちは同じ課題意識を抱いている塩野義製薬と協業し、未来のDTx普及に向け、DTx事業者と医療機関をつなぐフリクションレスな機構を協創していこうとしています。この取り組みに共感いただける企業や行政機関との連携・協業も視野に、本プラットフォーム構築を通じてDTxの普及と産業課題解決への貢献を目指します。

「回し方」の変化としては、組織変更とオペレーション変更を実施しました。従来、お客さまや業界軸で事業部などの組織を構えてきましたが、最近では業界を超えた知見を期待されるケースが増えています。業界軸を超えたノウハウ・アセットなどの強みを束ねた横軸の組織と、それを業界軸で顧客にアプローチしていく縦軸の組織のマトリックス型体制に変更しました。

「人の活かし方」については、これまでは社員が特定のお客さまのシステムを長く担当する傾向が強かったところ、社員自身が自分のキャリアプランを設定し、それに応じてマネジメントサイドがプロジェクトや組織へのアサインメントを変えていくスタイルに変更しました。社員の専門性獲得を促進させるだけでなく、ワークメンタリティやエンゲージメントの向上を図り、結果としてお客さまへの提供価値を高めることを狙っています。

2018年からデジタルペイメント開発室という組織を”Digital CAFIS”と呼び、特別な組織・制度として運営するという取り組みも行っています。CAFISはNTT DATAが40年近くサービス提供しているキャッシュレスペイメント関連のサービスで、長年社会インフラとしての安定稼働が求められてきました。昨今はビジネス価値の高いサービスをスピーディーに提供することも求められていることを受け、管理統制型ではなく社員が自律的に活動しリーダーがサポートするようなマネジメント手法のもと、若手社員が大半を占める600名規模のアジャイル/クラウドネイティブな組織に成長しています。システムはビジネスの一手段でしかないという発想のもと、ビジネスモデル、業務プロセス、システム、組織を一気通貫で変え、社員が活躍できる仕組みを作っています。

また、企業間の人事交流も活発に行っています。例えばキリンホールディングスからは、当社に対してITの実装だけでなく、より事業に深く関与し伴走することを期待いただいていました。そこでキリンホールディングスの社員の方にDigital CAFISのアジャイルチームへ出向いただき、当社プロジェクトへの参画を通じて、大規模アジャイル開発手法を学んだり、新規サービスのPoCに参画していただいたりしています。逆に当社からお客さま企業へ出向し、DXマネジメントや新規事業企画を進めるケースも増えています。
このようなお客さまとの人事交流を通じ、企業の垣根を超えた「人の活かし方」の改革を進めています。

「経営課題を提起してくれ、一緒に考えてくれ、業務とIT一体で変革を実現してくれる」会社を目指すというビジョンのもとで変革に取り組みながら、これからも技術力とコンサルティング力で日本の産業界のレベルアップに貢献し続けていきます。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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