インタビュー動画
0:00 オープニング
0:26 プロフィール
0:37 プロジェクトの概要と担当業務
2:22 プロジェクトの醍醐味
3:32 リリース時の想い
4:20 NTTデータ公共分野で挑戦したいこと
スマホ搭載への挑戦。多様なステークホルダーからなる一大プロジェクト
──2025年6月にサービスが開始された「スマートフォンのマイナンバーカード」のプロジェクトについてお話を伺います。まずはプロジェクトの背景を教えてください。
田中
マイナンバーカードの交付は2016年から始まりましたが、なかなか社会に浸透しないという課題がありました。当時は、「カードを紛失したら個人情報が漏れるのではないか」といったセキュリティ上の不安の声もあり、交付を受けていても、カードを持ち歩かない人も少なくありませんでした。そこで、物理カードを持ち歩く必要がなくなるよう、マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載するという議論が進んでいきました。
――NTTデータがこのプロジェクトを手掛けるに至った経緯を教えてください。
田中
スマホ搭載の議論の中で、NTTデータも2014年頃からマイナポータルアプリケーションの開発を通じて実証実験に参加してきました。サーバアプリケーションだけでなくモバイルアプリケーションの開発の知見、さらにマイナンバーカードのICチップに搭載されている電子証明書やスマートフォン向け組み込みソフトウェア開発など総合的な知見を有していたことから、今回のプロジェクトを担うことになりました。
──このプロジェクトにおいて、皆さんはどのような役割を担ったのでしょうか?
田中
私は業務グループのリーダーとして、主にサーバサイドアプリケーション開発を統括していました。QCDの管理にはじまり、進捗、品質、コスト、リスク、人的資源、コミュニケーションなど、全体のマネジメントを行いました。
松井
私は全体管理グループに所属し、プロジェクト全体の方針策定や対外調整を担当しました。このプロジェクトはデジタル庁様をはじめ、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)、OS提供企業、協業ベンダなど多数のステークホルダーが関わっています。それぞれのシステムが複雑に連携しているため、要所で「合流ポイント」が発生し、各所の進捗・品質が揃っていないと全体のテストが進められません。全体最適の視点から調整することが私の役割でした。
谷口
私は試験グループにおいて試験チームを統括しました。今回は自分たちのシステム単体で動けば良いわけではなく、外部システムとの連携試験が非常に重要でした。社内の試験チームだけでなく接続先担当者とも密に連携し、情報整理やバグの原因切り分けを行いました。
──今回のプロジェクトにおいて、直面した課題は何だったのでしょうか。
田中
今回のシステムは身分証明書および実印相当の機能を実現するもので、法制度の遵守、セキュリティ、機能完全性を高水準で満たす必要がありました。特に頭を悩ませたのは、スケジュールの短さと不確定要素の多さです。
スケジュールが短いことで、人員確保段階から困難がありました。急にメンバーを増やすとコミュニケーションコストが増え、逆に生産性が下がるリスクがあります。「本当に間に合わせられるのだろうか」という空気は、現場の誰もが感じていたと思います。
──そこへ加えて、ステークホルダーの多さが難易度を高めたわけですね。
松井
はい。ステークホルダーは多岐にわたり、それぞれが守るべきミッションがあります。デジタル庁様は法制度に基づく厳格な要件を持ち、OS提供企業はユーザ体験に徹底してこだわります。そして私たちは品質確保と期限厳守を両立させる必要がありました。多様な視点が交わる中で、着地点を模索し続ける日々でした。中盤以降も仕様変更やスケジュール変更が相次ぎました。
谷口
仕様変更や調整が長引けば、試験工程は大きな影響を受けます。実際、当初予定していた試験開始時期よりも遅れてスタートすることになりました。本来は週次で試験項目を組み立てていたものを、日次確認に切り替えるなど、流動的な対応が求められました。
松井
今回のプロジェクトでスマートフォンに搭載されたマイナンバーカードは、「mdoc(エムドック)」と呼ばれるISO/IEC 18013-5で規定されている国際標準のデータ格納形式(※2)に準拠しています。ISO/IEC 18013-5に準拠したシステムは、開発当初、世界的に見てもこれほど大規模なレベルでの事例はなかったため、本システムは世界に先駆けて国家レベルで構築した事例と言えます。結果、他のプロジェクトでは見られない仕様変更が続きました。
田中
ステークホルダーの多様さ、スケジュール制約、技術的な新規性のすべてにおいて、NTTデータがこれまで取り組んできた中でも最高難易度だったと感じています。
急峻な山を前に、どう乗り越えるかを考える総力戦の舞台裏
──きわめて困難な状況下で、チームはどのようにしてプロジェクトを前に進めたのでしょうか。具体的なアプローチについて教えてください。
田中
私がまず手を付けたのは、コミュニケーションと情報共有の変革です。これまでのプロジェクトでは進捗管理をExcelで行い、コミュニケーションはメール中心というケースが多くありました。しかし今回は関わる人数が多く、スピード感も桁違いです。メールでは情報が埋もれ、意思決定の遅れにつながる可能性がありました。そこで導入したのがチケット駆動開発の徹底です。当社のツールを活用し、課題やタスクをすべてチケット化し、「最新の情報はすべてここにある」という状態をつくりました。チケットを介して非同期でもコミュニケーションが回るようにしたことで、情報の透明性とスピードを確保できました。
──従来のやり方に慣れているメンバーも多かったと思いますが、スムーズに移行できたのでしょうか。
田中
最初はやはり戸惑いの声もありました。しかし、私たちが登ろうとしている「山」は非常に急峻で、従来のやり方では登りきれないと粘り強く説明しました。情報を一元化し、誰でも経緯を追えるようにすることで、途中から参画したメンバーも自走できる体制が整います。結果、チケット駆動開発が機能したことでチーム連携のスピードは劇的に向上しました。プロジェクト終了後の振り返りでも「あのツールがあったから乗り切れた」という声が多く挙がりました。
──谷口さんと松井さんは、それぞれどのような工夫をされましたか?
谷口
私は「品質を試験で測る」だけでなく、「全工程で品質を作り込む」ことを重視しました。NTTデータには「品質は積み上げだ」という言葉があります。これは、試験工程でバグを潰すだけではなく、設計や製造の段階から品質を作り込んでいくという意味です。今回は、試験グループには新規参画メンバーも多くスキルにばらつきがありました。そこで、単にテスト項目を実施するだけでなく、「なぜこの試験をするのか」「過去の類似案件ではどんなバグが出たか」といった背景やノウハウを徹底的に共有しました。過去の類似プロジェクト経験者にもヒアリングをし、その知見を展開。バグ発生時は原因をチケットで水平展開するなど、多角的なアプローチで品質向上に努めました。
松井
全体管理グループとしては、複雑な依存関係の可視化と、クリティカルパスの管理が鍵でした。「この機能が実装されないと、この試験が実施できない」という依存関係が多く存在します。ところが要件変更や遅延が重なり、依存関係が複雑に絡み合ってきました。そこで一箇所に情報を集約し、クリティカルパスを明確。問題が発生した時に即座に対処できるよう体制を整えました。
──今回のキープレーヤーでもあるOS提供企業との協業においては、どのようなアプローチを取ったのでしょうか。
田中
週次で定例会議を行っていましたが、彼らのスタンスから学ぶことは非常に多かったです。特に「ユーザ視点」へのこだわりには強い刺激を受けました。例え発生頻度が低いエラーであっても「ユーザ体験を損なう」と判断されるなら、そのままにはしません。どうすれば利便性を守りながら実現できるかを一緒に検討し、必要であれば私たちからデジタル庁様へ仕様変更の提案をすることもありました。
松井
OS提供企業のメンバーは非常に優秀で、意思決定も驚くほど早かったです。会議中に出た疑問はその場で解決されることが多く、スピード感に合わせるため私たちも準備を徹底しました。
また、彼らからの要求水準は高いですが、それを「無理難題」と捉えるのではなく「世界最高水準のプロダクトをつくるための提言」として受け止めました。これにより、チーム全体の目線が「期限に間に合わせる」だけでなく「良いものをつくる」へと揃っていったと思います。
谷口
試験観点でも学びは多かったです。バグを直す際、どうしても目の前のバグだけに意識が向きがちですが、その先には必ずユーザがいるという視点を改めて持つようになりました。
──チームの一体感を醸成するために意識したことはありますか?
田中
プロジェクト終盤は、ウォーターフォールというよりもアジャイル、もっと言えば総力戦でした。遅延が起きても原因分析と対策を即座に行い、「何としても期限に間に合わせる」という共通ゴールが全員の意識をつないでいたように思います。一つでも判断ミスがプロジェクト全体に影響するという緊張感の中、毎日最善の決断を積み重ねていました。
谷口
試験グループでバグが見つかるたびに開発チームと緊密に連携し、終盤は強い一体感がありました。厳しい状況だからこそ燃えるメンバーも多かったと思います。「このリリースで社会が変わる」という確信があったからこそ、前向きに取り組めました。
松井
本プロジェクトでは、発注者・受注者という立場を超え、「社会に提供する一つのプロダクトをどう成立させるか」を共通の問いとして、関係者全員が向き合い、「どうすれば実現可能か」を一緒に考えてくれました。そんなワンチームの空気が、困難なプロジェクトを支える土台になっていたのは間違いありません。
総力戦で迎えたリリース。経験が息づくNTTデータの文化
──そして迎えたリリース当日の心境はいかがでしたか。
田中
リリース直前まで関係各所との調整が続き、本当にギリギリの状況でした。当日、デジタル庁様の記者会見でデモンストレーションが行われ、ニュースでも大きく取り上げられました。しかし正直なところ、私たちは喜びよりもシステムの負荷状況が気になって仕方ありませんでした(笑)。
松井
リリース当日は、かなり緊張していました。デジタル庁様がSNSで投稿するタイミングに合わせてアクセスが急増するため、その波を常に監視しながら関係者と連絡を取り合っていました。
田中
当日想定以上のアクセスがありましたが、事前に入念な準備をしていたおかげで、大きなトラブルなく乗り切ることができましたね。
松井
本当に安心できたのは、リリースから一週間ほど経って稼働状況が安定してからですね。街中やニュースで、自分たちが関わったシステムが話題になっているのを見ると、ようやく完遂した実感が湧きました。
谷口
私は家族が目の前でインストールしてくれた時が一番嬉しかったです。「これ、私が担当したんだよ」と伝えられた時は誇らしかったですね。チームのメンバーもリリース後は安心した表情で、本当にやり切って良かったと感じました。ニュースを見るたびに「社会の仕組みを一つ前進させたんだな」と実感します。
──このプロジェクトを通じて、ご自身の中で変化や成長はありましたか?
谷口
私は今回、初めて大規模なチームのマネジメントを経験しました。力不足を痛感する場面も多かったのですが、逃げずに向き合ったことで少しずつできることが増えていきました。振り返ると、非常に大きな成長の機会になったと思います。当時、経験が浅い私に挑戦の機会を与えてくれたリーダーや上司には感謝しかありません。
松井
今回のプロジェクトで、NTTデータのプロジェクトマネジメント力の高さを改めて感じました。たとえば進捗管理ひとつ取っても、「なぜ遅れているのか」「どこまでが影響範囲か」「どのようにリカバリするのか」を細かく掘り下げます。キャリア採用の私としては「そこまでやるのか」と驚くことも多かったのですが、大規模なプロジェクトを完遂した今振り返ると、関係者の多いプロジェクトにおいて全員が同じ方向を向くために必要なプロセスだったと感じています。
田中
確かにその通りですね。私自身も、プロジェクトマネージャとして一段レベルアップできたと思います。これほど大規模で特徴的な関係者が集まるプロジェクトは初めてでした。特にデジタル庁の方々とのやりとりにおいて、プロダクトマネジメントの視点が強く意識されていたのが印象的でした。その視点の違いに学ぶことが多く、自分の視野が大きく広がりました。
――プロジェクトを通じて感じた、NTTデータの価値について教えてください。
田中
今回のプロジェクトは、従来のやり方にこだわっていたら成功しなかったと思います。進行中にスケジュール変更が何度も発生しましたが、そのたびに柔軟かつ的確にスケジュールを組み替えました。改めて考えると、非常にバランスの難しい決断の連続でしたが、それができたのは、NTTデータが長年積み上げてきた経験が根底にあったからこそです。上位層も豊富な知見を持っており、まさにNTTデータだからこそ成し遂げられたプロジェクトだと感じます。
松井
デジタル庁様からの「NTTデータならできるはず」という信頼を強く感じました。その裏側には、田中さんが言ったように会社としての積み重ねがあるからこそだと思います。
谷口
そうですね。プロジェクト後の振り返りも丁寧に行われていて、「経験を次に活かす」という文化が根付いていると感じました。継承されていく文化こそ、NTTデータらしさなのかもしれません。
──今後、NTTデータでどのようなことに挑戦していきたいですか?
谷口
今回得られたユーザ視点を活かし、システムの先にいるユーザにとって本当に価値あるものを提供していきたいです。そして、後輩や協力会社のメンバーから「このチームで働けて良かった」と思ってもらえるリーダーを目指したいですね。
松井
今回のプロジェクトを一区切りとするのではなく、さらにユーザを増やすための施策にも関わっていきたいです。
田中
プロジェクトマネジメントのスキルをさらに伸ばしつつ、デジタル庁様から学んだプロダクトマネジメント視点を掛け合わせ、より高い視座で価値提供できる存在を目指します。そして、お客様にとってのパートナーとなる存在を目指したいと思います。
—
日本の全国民に関わるサービスにおいて、実現困難に思えた課題を乗り越え、世の中に価値を提供したプロジェクトメンバーたち。その誇りと、ここで得た経験は、また次のプロジェクトに受け継がれていくでしょう。NTTデータの総合力と、諦めない姿勢が色濃く体現されたプロジェクトでした。


