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2017年1月16日INSIGHT

InsTechは未来航海の羅針盤

保険×テクノロジーを意味する「InsTech」は、 広く社会にインパクトを与えるものとも考えられています。 「豊洲の港から InsTech Festa」では、 第一生命保険、かんぽ生命保険とNTTデータが3社共催で、 InsTechの未来を語り合います。

InsTechのインパクト

日本初の“InsTech フォーラム”

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「InsTech(インステック)」――。この耳新しい言葉は、保険=Insuranceと、テクノロジーからなる造語で、保険分野での新しいITサービスを指す言葉として第一生命保険株式会社が生み出しました。これは、「Fintech」と並び称され、新しい産業を創発する言葉として注目が集まっています。「豊洲の港から InsTech Festa」は、InsTechをテーマにした特別バージョンです。「第一生命保険」、「かんぽ生命保険」、NTTデータの共催で開催されました。

オープニングで、司会を務める残間光太朗が、「うれしくて涙がこぼれそう。『豊洲の港から』を3年やってきて本当に良かった」と述懐するように、日本で初めて、InsTechをテーマにしたフォ-ラムを「豊洲の港から」で開催できたことは、非常に意義深いことです。

基調講演には、「グロービス・キャピタル・パートナーズ」プリンシパルの福島智史さん、共催のかんぽ生命保険から専務執行役の千田哲也さん、第一生命保険からは取締役専務執行役員の寺本秀雄さんをお迎えし、InsTechを取り巻く現状と今後の展望が語られました。

ヘルステックの今

グロービス・キャピタル・パートナーズの福島智史さん

グロービス・キャピタル・パートナーズの福島智史さん

基調講演1は、「デジタルヘルス市場のブレイクスルーに向けて」と題し、グロービス・キャピタル・パートナーズの福島智史さんが、包括的にデジタルヘルス市場全体の現状を話しました。

福島さんはまず、InsTechを含む広い領域としてのデジタルヘルスまたは「ヘルステック(※1)」について、「今、世界的にも注目を集めている分野だが、日本は投資額を見てもアメリカの50分の1に過ぎず、立ち遅れている。しかし、GDPを考えると、10倍は伸びるチャンスがあるのではないかと見ている」と、今後の日本市場への期待を語ります。

そして、ヘルステックが「健康ステージ」「対象者」「テクノロジー」という3つの項目をかけ合わせたマトリクスの中で生み出され、目標が「医療の質の向上」と「医療コストの抑制」の2つに収斂されることを解説しました。

健康ステージとは “ペイシェントジャーニー(※2)”に基き、「予防・健康維持」「診断・治療」「予後・モニタリング」に段階を設定されています。対象者とは、「一般ユーザー」「医療従事者」「保険者企業」というプレイヤー。テクノロジーは、特にヘルステックではビッグデータ、AI、モバイル、IoTが主要なキーワードとして挙げられています。これらについて福島さんは「それぞれに違う要素があり一律ではないことを、今日は認識していただきたい」と強く念押ししています。

市場規模についてはアメリカとの比較で解説しました。アメリカではベンチャーキャピタルによる投資実行額の20%に相当する年間5000億円がヘルステック関連に投じられていて、ひとつひとつの案件の規模も大きくなっています。先ごろ増資したアメリカのFlatiron Health(フラットアイロンヘルス)社(※3)は、175億円を1回で調達しているという例があることも挙げ、福島さんは「これは日本でいえば東証一部の公募と同等のサイズ。これだけでも、米国のヘルステックの規模感がわかると思う」とコメントしました。日本では、多くても1件あたりの投資額は10億円程度、市場規模全体では「数十分の1」に留まっているそうです。

ヘルステック業界でのベンチャー企業の数も桁が違います。アメリカでは1548社が確認されていて、うち1050社がベンチャーキャピタルからの投資を受けています。対して日本は全体で500社足らず、支援を受けている企業も相対的に少数です。こうした状況について、福島さんはこう言います。

「アメリカはオバマケア(※4)が進んだとはいえ依然、高額な医療費、保険費などの課題があってベンチャーが入りやすい。対して日本は皆保険で医療制度もしっかりしているという市場環境の違いはある。とはいえ、日本でもベンチャーが入る余地は間違いなくあるのではないか」

ベンチャーがヘルステックで成功するポイントは、福島さんが「キーサクセスファクター」(=成功要因)と呼んでいるものを、きちんと見定めることにあります。

キーサクセスファクターを見極める

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「冒頭のマトリクスで、医療に携わっている人たちを「医療従事者」と一括りにしたが、その内実はものすごく細分化されており、成功要因もさまざまで、決して一括りに議論できるものではない」と福島さん。ペイシェントジャーニーと併せて、そこを掘り下げ、因数分解することで新たなチャンスが見えてくると語ります。

成功例(※5)として、ウェアラブルデバイスと健康サービスを統合的に提供する「FitBit」、リモート医療を実現する「Doctor on Demand」、医療アプリとしてFDA(米国食品医療品局)の認可も受けている「WellDoc」などの例を挙げ、その成功ポイントを解説しました。

そのポイントのひとつが「大企業とうまく組む」ということ。例えばDoctor on Demandは、大企業の健康保険プランへの適用が実現したことで一気に普及に拍車がかかりました。WellDocはジョンソン&ジョンソンの計測機器と連携し、収集したデータを医師と共有する仕様になっており、サムソンの健康管理アプリとも連動します。「これはまさにオープン・イノベーションがうまく行っている例では」と福島さん。

もうひとつのポイントを「アンバンドルとリバンドルでは」と福島さんは指摘します。医療機関が持つ医療プロセスを、一度解体・細分化(=アンバンドル)して新たなサービスを生み出し、そのうえで新たに大きな動きとバンドル(=リバンドル)する。小売でいえば、百貨店やデパートのような大きな店から、特徴ある個店が次々に生まれ、結果アマゾンや楽天にもう1回バンドルされるようなもの。こうした動きこそがオープン・イノベーションの実体とも言えるのかもしれません。

そして、再びひるがえって日本国内の課題を、「プレイヤーが圧倒的に少ないこと」「規制緩和の時間軸が読めないこと」「マネタイズの難しさ」などと指摘。スタートアップで苦労するどころではなく、チャレンジの裏側には、さまざまな地道な経営努力が存在することを紹介しました。

しかし、現在の日本では、製薬、保険、病院、介護とあらゆる領域で課題が山積しているために、ヘルステックベンチャーが参入できる可能性は、本当はたくさんあるのです。福島さんが仕事抜きでお手伝いしているという製薬会社の「MSD(メルク・アンド・カンパニー)」との取組みを例に挙げて、さらに詳しい成功のためのポイントを語りました。

例えば、「大企業は大きな目標や成果を求めがちだが、それだとムリが生じる。まずは小さい目標からスタートすること」。また、大企業側はベンチャーが「できること」ばかりに注目しがちですが、「できないこと」にも注意を払うことで連携を効率的に進めることの重要性も指摘。また、体制面では「トップのアナウンス・コミットメント」と「横断的で属人的なパイプを持つ担当者のスタッフィング」も重要であるとしています。

また、「通訳者」の必要性を強く訴えます。

「同じ内容でも違う言葉で話していることが往々にしてあるうえ、社内外を問わず双方の立場を理解する「通訳者」の存在が重要。また、事あるごとにベンチャー企業の人間を呼びつけて市場や事業の内容を1から説明させるということも散見されるが、リソースの少ないベンチャー企業の経営者は大企業以上に忙しい。“お勉強”に付き合わせるのは避けたほうが、よほど成果が出るだろう」

そして最後に、ベンチャー主体で小さな目標を設定することとともに、その成果を企業が客になって採用してほしい、と訴えます。「予算規模は小さくてもいいし、項目は研究費でも何でもいい。その実績さえあれば、我々がファイナンスを付けることができ、次のチャレンジに進むことができる」「大企業もベンチャーのみなさんも、そんなことを意識して取り組んでいただきたい」と締めくくりました。

※1ヘルステック

ヘルス(健康)とテクノロジーを合わせた言葉の事。アプリやクラウドサービスを使って手軽に健康管理ができるアプリケーションなどが注目されている

※2ペイシェントジャーニー

患者が病気を告知されたときから終末期、看取り、または完治までに患者が体験する医療提供者とのすべての接点を旅に例えた名称

※3Flatiron Health社

EMR/EHRを含む複数のデータソースから各がん患者に最適な治療方針を医療従事者に提供する事業を行う。Googleに広告スタートアップを売却した創業者2名が2012年に創業し、これまでGoogle Venturesを中心に大型の資金調達を続けている

※4オバマケア

米国で試みられているユニバーサルヘルスケア制度、医療保険制度改革。バラク・オバマがメリカ大統領選挙で公約として掲げ、2010年3月に成立したことから、オバマケアとも呼ばれる

※5InsTechの成功例

●FitBit…米国でApple Watchよりシェアの高い腕時計型のウェアラブル端末を販売する。ウェアラブル端末と連動するかたちでクラウドで健康管理のサービスを提供している
●Doctor on Demand…医師にビデオチャットで相談できるサービスを提供している。米国では医療費が高いこともあり、PCやタブレット、スマートフォンなどを使ってアクセスする医療サービスが増えている
●Well Doc…Ⅱ型糖尿病患者向けとその治療医向けに、患者自身の自己管理を改善し、赤血球中のヘモグロビンにおける糖との結合割合を示す検査値HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)を減らす「BlueStar」を提供する

InsTechのあるべき姿を考える

「人のあたたかさ」を感じるInsTech

かんぽ生命保険100周年特設サイト

かんぽ生命保険100周年特設サイト

後半のかんぽ生命保険、第一生命保険からの基調講演は、ともに保険会社として何を目指しているかというステイトメントの発表と、ビジネスコンテストに向けた期待が語られました。

かんぽ生命保険の千田哲也さんからは、同社の前身である「簡易生命保険事業」が誕生して今年100周年を迎えることから、改めて“人のあたたかさ”に根ざした新たな保険サービスのあり方を目指していること、そのために行っている取組みについてなど、現状が語られました。

かんぽ生命保険の千田哲也さん

かんぽ生命保険の千田哲也さん

そもそもかんぽ生命は「被保険者数は2300万人以上、日本の総人口の1/5をカバーしている」という、非常に身近な保険です。しかもひとつひとつの額(保険金額)が小さいという特徴を持ち、終身保険、学資保険、養老保険といった商品が中心。これは、ひとつひとつの利益は小さいものの、国民一人ひとりに寄り添った保険サービスとして、高い信頼を得ているということのあらわれでもあります。

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そんな中、今掲げている成長戦略の3本柱が、市場が拡大する高齢者の顧客基盤の確保、新しい商品・サービスの開発、日本有数のビッグデータの戦略的活用の3つです。

高齢者向けには、新たに「かんぽプラチナライフサービス(※1)」をスタートさせ、高齢者専用のコールセンターを設置しました。「高齢者にやさしい、あたたかいビジネスモデルを追求したい」と千田さん。新商品・サービスについては、法規制上で一定の制約があると前置きした上で、「健康度合、発病リスクに応じて掛け金が異なる商品を開発し、医療費削減にも貢献したい」というソーシャルな観点での取組みの意義を説明しました。また、健康増進の取組みについて、福島県伊達市でデバイスを使った健康増進サービスの実証実験を有益な取組みとして紹介しました。

また、ビッグデータについては、「保険金支払等の高度な医的審査」での活用を想定。IBMの「Watson」を導入し、膨大な過去事例データから調査すべきポイントをピックアップすることで、「10年20年のベテラン選手でなければ審査できなかった案件が、より高精度にできるようになる」と千田さんは期待を寄せています。

そして最後に郵便局が全国に2万4000カ所あることに触れ、「日本郵政グループ全体のリソースを使いながら、身近な保険会社として、人のあたたかさを失わずに新しいことにトライしていきたい」と展望を語りました。

InsTechの最前線

「InsTech」という言葉を生み出した第一生命保険は、保険とテクノロジーの活用の最前線にいるといっていいでしょう。その第一生命保険の寺本秀雄さんは「InsTechによって、これまでイメージしたこともなかったことが起きるだろう」と予見します。

第一生命保険の寺本秀雄さん

第一生命保険の寺本秀雄さん

同社がInsTechを打ち出したのは2015年12月。社内で横断的な「InsTechイノベーションチーム」を組織し、新しい付加価値の提供に努めてきました。

もともと同社は、国内では、多様化するお客さまのニーズに対し、「第一生命」「第一フロンティア生命」「ネオファースト生命」のグループ3社から顧客に最適な保険商品を最適なチャネルで提供してきました。海外ではアメリカ、オーストラリア等6カ国で生命保険事業、日米でアセットマネジメント事業を展開しています。

こうした従来の生保事業が持つ“顧客に安心を提供する伝統的価値”を土台にしたうえで、さらに新しい付加価値を提供したい、と寺本さん。そして、それを実現するのがInsTechと位置づけています。また、その新しい提供価値についてこう説明します。

「QOL(Quality of Life、生活の質)を上げて、健康的な暮らしをサポートしていくもの。さらにいえば、社会的な課題である健康寿命の延伸をアシストする商品やサービスを提供したい」

具体的には「ヘルスケア」「アンダーラインティング」「マーケティング」の領域で新しい付加価値の提供に取り組んでいます。ヘルスケアでは、「健康寿命の延伸に資する商品・サービスの提供」、アンダーライティングでは「お手続きの迅速化・利便性向上等の実現」、マーケティングでは「お客さま一人ひとりに最適な提案の実現」を目指すとしています。

ネオファースト生命「カラダ革命」

ネオファースト生命「カラダ革命」

具体的な事例として、ヘルスケアではネオファースト生命の新商品「カラダ革命」を挙げています。これは実年齢に代えて、「健康年齢?(株式会社日本医療データセンターの登録商標)」に基づいて保険料を設定するもので、実年齢より、「健康年齢?」が若いほど保険料が安くなるメリットがあります。この健康年齢?の算出部分が、InsTechの活用のしどころ。「外部の医療ビッグデータを使いながら、独自の解析手法により、算出している」と寺本さんは説明しています。

また、医療ビッグデータ解析による保険引受範囲の最適化にも取り組んでいます。「疾病によっては保険に入れない、または入れても高額になるといったケースがあったが、医療ビッグデータ解析で、これまでとは異なった基準で保険にお入りいただけるようになる」。この他、北米のプロテクティブ社もビッグデータ解析による新たな取組みを始めているなど、InsTechの推進に非常に意欲的な姿勢が示されました。

そして最後に「InsTechは、ただのツールではなく、大きくビジネスを変えていく手段のひとつだと思う。そこをやっていける方とご一緒したい」と呼びかけました。

※1かんぽプラチナライフサービス

かんぽ生命が推進する「安心感」「信頼感」に基づく「ご高齢のお客さまに優しい」サービスを提供するための取組名称 http://www.jp-life.japanpost.jp/information/inf_platinumlife.html

日本が進むべき未来を描く

いざ、大海原へ

この後、会場を移して、残間が「これからが本番」と呼ぶ懇親会が執り行われましたが、それに先立ち、共催3社の社長が登壇し、発表と記念撮影も行われました。

第一生命保険の渡邉光一郎社長は、冒頭に「今夜、この港から大きな船が出ることになった。向かう先はSociety5.0(※1)、第4次産業革命と呼ばれる大海原。広すぎる海なので、迷子にならないようにInsTechという羅針盤を立てた。願わくば、この船に大勢の人に乗ってもらうとともに、投資というエンジンを積んでいただき、みなで大海原を進みたい」と、共催フォーラムの意義を語ります。

続いて登壇したかんぽ生命保険の石井雅実社長も「航海」になぞらえて「101年目の航海を始めたばかりのかんぽ生命が、その門出に3社で大きな船に乗せてもらえたことは希望そのもの」と言葉を継ぎます。「これは日本のために何ができるのかという問題でもある。日本の社会課題に対するソリューションをひとつでも多く提案したい」と期待を語りながら、その要諦にあるのは「アナログ的な人のあたたかさを感じさせる関係ではないか」とも投げかけます。

「今は企業価値を高めるためにあらゆるICT、ITを活用し、効率化、生産性向上に努めなければならないが、その根底に旧来の人のあたたかさがなければいい仕事はできないだろう」

第一生命保険 渡邉社長

第一生命保険 渡邉社長

かんぽ生命保険 石井社長

かんぽ生命保険 石井社長

最後に、乾杯の発声を兼ねて、NTTデータの岩本敏男社長からも挨拶がありました。岩本は「航海と羅針盤という例えでお話しいただいたが、“成功”という向こう岸に着くまで、弊社がしっかりとナビゲーションしたい」と決意を語ります。「保険にかぎらず、政治もスポーツも芸術も宗教も、ありとあらゆる物事がIT抜きでは発展しない世界になってきた。そんな世界で我々のリソースを大いに活用して、日本の国全体に寄与するソリューションを創り上げたい」

NTTデータ 社長 岩本

NTTデータ 社長 岩本

会場からも大きな乾杯の声が上がり、いつも以上に熱心なビジネストークが繰り広げられたようでした。

※1Society5.0

経団連が提言するインターネット、人工知能(AI)、ロボット技術などを高度に組み合わせた社会・経済変革の考え方。産業の生産性向上や新産業創出と、少子高齢化などの社会課題解決の両立を目的にしている

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