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2025.7.4業界トレンド/展望

サプライチェーンファイナンスとは?商流データがもたらす共存共栄のサプライチェーンモデルを解説

サプライチェーンファイナンスとは、企業間の取引データを、金融機関が与信やモニタリングに活用することで、資金の流れを最適化する仕組みを指す。地政学リスクの増大、原材料価格の高騰──、複雑で予測不可能な経営環境の中で、今サプライチェーンファイナンスが注目を集めている。
NTTデータでサプライチェーン分野から金融へのアプローチを牽引する大居由博と、金融分野の視点からこの取り組みを推進する登坂千尋が、サプライチェーンファイナンスをはじめとする金融機関における商流情報活用の可能性と、サプライチェーンが共存共栄する未来図について語った。
目次

サプライチェーンファイナンスが求められている背景

近年、サプライチェーンのあり方は大きな転換点を迎えている。かつてのサプライチェーンはバイヤー側(需要側)の変動に合わせてサプライヤー側(供給側)がいかに確実かつ効率的に対応するかに主眼が置かれていた。しかし、現在は数年前の半導体不足に象徴されるような供給制約にどう向き合うかもセットで検討することが求められるようになってきている。
この背景について、長年サプライチェーンのコンサルティングに携わってきた大居は、複数の要因が複雑に絡み合っていると分析する。
「数年前のEV化進展の波により、一部の原材料・部品では需要急増により供給量が追い付かない状態が起きました。その後、供給が一時安定化すると、今度は関税リスクや地政学リスクの高まりにより、供給網の分断(デカップリング)や原材料価格の高騰の影響が強まっています。企業は複層的な環境変化に対応する必要があり、ますます複雑な舵取りが必要となってきています」(大居)

さまざまなリスクや不安定性に対抗するため、今、サプライチェーンにはサステナビリティとレジリエンスが求められている。しかし、これらの課題はもはや1社の努力だけでは乗り越えられるものではない。バイヤーとサプライヤーが深く協業し、サプライチェーン全体を強くしていく視点が不可欠となる。
「バイヤーが自社の利益のみを追求し、サプライヤーに一方的な負担を強いるやり方では、サプライチェーンが結果的に弱体化してしまいます。サプライチェーンを強くするためには、バイヤーもサプライヤーに対してメリットを感じてもらえるようなインセンティブを提供する必要があります。サプライチェーンファイナンスはそのインセンティブのひとつになり得るものだと考えています」(大居)

サプライヤー中小企業が抱える「資金調達」の課題

サプライチェーンファイナンスがサプライヤーへのインセンティブになり得る背景には、サプライチェーンを支える中小企業の資金調達の問題がある。大企業は過去の実績に基づいた高い信用力を背景に容易に資金調達ができたのに対し、実績や不動産などの有形資産に乏しい中小企業やスタートアップは、経営者個人が会社の連帯保証人となることで資金調達をするしかなかった。
2024年6月に成立した「事業性融資の推進等に関する法律」により、事業の将来性や成長可能性などが評価対象となり企業融資の円滑化が期待される一方、金融機関の「目利き力」の向上が喫緊の課題となっている。

登坂は「貸し手である金融機関と、借り手である中小企業の間に横たわる『情報の非対称性』が、円滑な資金供給を阻む根深い課題となっている」と指摘する。
「金融機関は行員が足繁く企業へ通い、顧客と長期的な関係を築き、そこで得た情報をもとに金融サービスの提供を行う、いわゆるリレーションシップ・バンキングを行ってきました。しかし、それだけで企業の将来性や成長可能性を図ることには限界があります。また、金融機関において担保や保証協会へ過度に依存してリスクをとらない体質が常態化したことで、金融機関が企業の事業性を評価する『情報生産機能』は低下しています」(登坂)

商流データで実現する「サプライチェーンファイナンス」の仕組みと特徴

人手に頼る従来のリレーションシップ・バンキングが限界を迎えつつある中、その進化の鍵を握るのがデジタル技術の活用だ。NTTデータが提唱するのは、定量的なデジタルデータを活用して企業の経営実態をリアルタイムで把握する、「リレーションシップ・バンキングのデジタル化」である。
これにより、これまで後追いでしか把握できなかった企業の成長性を早期に発見し、融資判断や経営サポートに活かすことが可能となる。
そしてさらに、このデジタル化を実現する具体的なアプローチが、サプライチェーンファイナンスだ。その核心は、企業間の取引情報、すなわち「商流データ」を金融に応用することにある。
サプライヤーとバイヤーの間で発生する、受注から納品、請求、支払いに至るまでの一連の取引データを、金融機関がリアルタイムで与信判断や融資に利用する。これにより、金融機関は企業の経営実態をデジタルに、かつ正確に把握することが可能になる。

図1:NTTデータが考えるサプライチェーンファイナンスの構想

大居はサプライチェーンファイナンスの特徴を次のように話す。
「サプライチェーンファイナンスの最大の特徴であり、従来の金融手法との決定的な違いは、与信の根拠にあります。従来の融資が、資金を必要とするサプライヤー個社の信用力や不動産といった担保に依存していたのに対し、サプライチェーンファイナンスでは信用力の高いバイヤーや、サプライチェーン全体の信頼性を融資の背景とします。この仕組みにより、たとえサプライヤーが中小企業で十分な実績や担保を持たなくても、取引相手である大企業の信用力を活用して、より有利な条件で資金を調達する道が開かれるのです」(大居)
サプライチェーンファイナンスにより提供可能な代表的なサービスが「早期資金化」や「発注書ファイナンス」だ。
「早期資金化」とはサプライヤーの売掛金などの売掛債権情報に基づき、早期の資金化を可能にする金融サービス。
そして「発注書ファイナンス」は早期資金化よりもさらに早い、「発注」の時点で融資を実行する。サプライヤーは、受注後すぐに運転資金を確保できるため、経営の安定化や、将来の成長に向けた設備投資などを安心して行えるようになる。

イオン銀行との協業によるサプライチェーンファイナンス事例

NTTデータが手掛けたサプライチェーンファイナンスの具体的な実装例が、イオン銀行との協業によって実現したプロジェクトだ。この取り組みは、昨今の円安や原材料高に直面するサプライヤーの資金繰りを支援し、サプライチェーン全体の安定化と強靭化を図ることを目的としている。
提供されるサービスは、主に「発注書ファイナンス」だ。この仕組みでは、イオンのグループ企業と取引のあるサプライヤーが対象となる。 「『発注』の捉え方は業界によってさまざまで、ファイナンスのためのデータとして活用するのが難しい業界もあります。しかし、食品小売業界に関して言えば、発注書の債権リスクが比較的低く、発注から納品・決済までの流れも安定的です。そのため、受注後間もなく融資による現金化が可能になり、サプライヤー企業の経営の安定化につなげることができます」(登坂)

NTTデータが目指す「マルチバンク・マルチサプライチェーン」のプラットフォーム

イオン銀行との取り組みは、この新しい金融の形を実現するための重要な一歩となった。NTTデータがその先に見据えるのは、業界横断的なプラットフォームの構築だ。ユーザーである企業が金融機関を選べる「マルチバンク」、そしてさまざまなサプライチェーンが参加できる「マルチサプライチェーン」。それこそが、NTTデータが目指す理想だと両氏は語る。
このプラットフォームが実現すれば、商流データは単なる早期資金化のツールに留まらない。例えば、バイヤーが新規サプライヤーの与信調査を行う際にプラットフォームの取引実績を活用したり、逆にサプライヤーが自社の技術力を登録して新たな取引先を見つけたりといった、ビジネスマッチングへの応用も期待される。プラットフォームが、これまで金融機関が担ってきた「信用創造」の機能をデジタル上で代替し、拡張していくのだ。
金融機関もまた、このプラットフォームの情報を活用することで、リレーションシップ・バンキングを進化させることができる。「行員が足で稼いで得る定性的、アナログな情報と、プラットフォームが持つデジタルな情報を掛け合わせることで、各金融機関が独自の価値を提供できるようになります。こうした『デジタルなリレーションシップ・バンキング』は、金融機関が抱える経営課題に対する一つの解決策となると考えています」(登坂)

図2:NTTデータが考えるサプライチェーンファイナンスの将来展望

サプライチェーンの共存共栄モデル。個社最適の「BtoB」から、全体最適の「BforB」へ

NTTデータはサプライチェーンファイナンスのプラットフォームの先に、サプライチェーンのあり方そのものを変革する「共存共栄モデル」の実現を見据えている。
大居は、この新しい関係性を、従来の「B2B(Business to Business)」から「B4B(Business for Business)」へ転換することだと表現する。企業が特定の取引相手のために動くのではなく、サプライチェーンという「全体」のために貢献し、「全体」がその貢献に報いる世界である。

図3:B4Bの世界

「これまでのサプライチェーンは、“個人戦”だったと言えます。バリューチェーンという名のもと、各社が個別に外部環境の変化に対応し、QCDを個別に追求してきました。その結果、サプライヤーにリスクや負担が偏り、チェーン全体が脆弱になるという問題が生じていました。
これからは、サプライチェーン全体で環境変化を受け止め、中で活動するプレイヤーがより伸び伸びと挑戦できる状態を作ることで、SC全体や業界全体の競争力強化につなげていくことが必要と考えます」(大居)
個社最適から全体最適へ。それは理想ではありつつも、実現は容易ではない。各企業が自社の成長を目指す中で、いかに同じ方向を向いていくか。登坂も「長期戦になる」と語るように、この壮大な構想には、中長期的な視点で粘り強く取り組み続ける「担い手」が必要となる。
その役割を担う上で、NTTデータには独自の強みがあると登坂は語る。
「一つは、公共、金融、法人の三つの分野に深くコミットし、業界団体とも広範なネットワークを持つ総合力です。この構想は、どれか一つの分野だけでは決して実現できません。二つ目は、特定の企業グループの色がついていない中立的な立場であること。そして三つ目は、短期的な利益だけでなく、社会インフラのような中長期的な事業を創り上げてきた企業文化そのものです」(登坂)
事業、そして社会の変革パートナーとして日本を元気にしていく。サプライチェーンファイナンスを起点とした「共存共栄モデル」への挑戦は、まさにその企業姿勢を体現する、壮大なプロジェクトなのである。

サプライチェーン・ファイナンス「Ascendi」で企業成長を加速(6:43)

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