1.若手育成がうまく進まない理由と研究の意義
──研究者として感じていた課題感、今回のプログラムの発足の背景を教えてください。
池田 氏
これまで私は、組織行動論・人材開発論の観点から、個人がどのような環境や関係性の中で成長していくのかについて研究してきました。特に近年は、若手がどのような経験を積むと成長しやすいのかや、活躍する若手が楽しく働くために行っている工夫であるジョブクラフティングなどに注目しています。若手育成に関する論文を読んだり、実際に働く人を調査したりする中で、強く感じていたのが、配属時には同じような能力や経験を持つ若手であっても、配属される組織や与えられる役割、周囲との関係性によって成長のスピードや質が大きく異なるという点です。つまり、成長は個人の資質だけで決まるものではなく、組織側の設計や関わり方に大きく依存しているのではないか、という問題意識を持つようになりました。
今回のプログラムは、こうした問題意識を出発点として、企業の現場で実際に起きている育成の実態を捉えながら、「どのような条件が揃うと人は主体的に成長できるのか」を明らかにすることを目的に立ち上がったものです。NTT DATAとの共同研究を通じて、理論と実践の双方からこの問いに向き合える点に、大きな意義を感じています。
三好
今、池田先生がおっしゃった「成長は個人の資質だけではなく、組織や関わり方に大きく依存する」という点は、まさに私自身の実務の中でも強く実感しているところです。
NTT DATAでは、経営・事業変革に踏み込むためコンサルティング力を強化しており、私自身も組織・人材領域のコンサルティングを担うと同時に、社内の人材変革の活動にも関わっています。その中で感じるのは、人材の差というよりも「力を引き出せているかどうか」が組織によって大きく異なるということです。
だからこそ、育成を個人任せにせず、組織としてどう設計するかが重要であり、この問題意識は多くの企業に共通するものだと感じています。
参考記事:変革の提言から実装、成果創出までを一貫サポート
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2026/012901/
鍵村
多くのクライアント様の人材開発組織と接する中で、「若手を早く戦力化したい」という声を耳にします。一方で、現場に目を向けると、必ずしもそれがうまく機能しているケースばかりではありません。
たとえば、本来であれば若手を前に立たせたいと思っていても、案件の難易度が高く、任せきれない。丁寧に教えているつもりでも、成長につながっている実感が持てない。あるいは、プロジェクトの忙しさの中で育成が後回しになってしまう。こうした状況は、多くの企業に共通して見られるのではないでしょうか。
三好
まさにそうですね。「育てたい」という意思は確かに存在しているのに、結果として育成が機能していない。この“意思と実態のギャップ”に悩んでいる企業は非常に多いと感じています。特に難しいのは、育成が個人の努力や意欲に依存してしまっている点です。本来であれば組織として仕組みで支えるべきものが、現場任せになっている。その結果、忙しい状況ではどうしても優先順位が下がってしまう構造になっています。
池田 氏
加えて、最近は若手側のスタンスの変化も影響していると感じています。効率やタイムパフォーマンスを重視する傾向が強く、必要以上に負荷の高い経験は避けたいという意識も見られます。一方で、一口に若手と言っても多様であり、「成長したい」という思いが強く、そうした経験を積めないゆえに仕事を辞める若手も存在します。こうして若手が多様化する中で、育成の難しさを感じている上司は少なくありません。実際、研究では、人は一皮剥けるような経験を通じて職場で成長することが示されています。にもかかわらず、近年はパワーハラスメントへの懸念が高まる中で、必要以上に配慮してしまい、そのような挑戦的な仕事を任せにくくなっている可能性があります。
鍵村
つまり、「成長には一定の負荷や挑戦が必要だと分かっているにもかかわらず、それを設計として与えられていない」という状態ですよね。個人の問題というよりも、構造的にそうならざるを得ない状況が生まれているということですかね?
池田 氏
はい。まさにそこが重要なポイントだと考えています。育成がうまくいかない理由を、個人の能力や意欲に帰結させるのではなく、「なぜその経験が与えられていないのか」「なぜその関わり方になっているのか」といった構造に目を向ける必要があると考えます。この構造的な課題こそが、現在の若手育成の難しさを生み出しているのではないかと考えています。
2.成長を分ける要因は何か?
──若手は何によって成長するのか、研究から明らかになった点を教えてください。
池田 氏
今回の研究では、若手の成長を単一の要因で説明するのではなく、複数の観点から捉えています。具体的には、(1)本人の特性や意欲のような個人要因に加え、(2)どのような仕事を経験しているか、(3)上司や先輩の指導や関わり、(4)組織の中での役割や関係性(組織社会化)といった4つの要素です。
また、アンケートだけでなく、若手本人や上司へのインタビューも実施し、実際の現場で何が起きているのかを立体的に把握しました。その結果、成長は一つの要因で決まるものではなく、複数の要素が相互に作用する中で生まれていることが見えてきました。
鍵村
今のお話で重要だと感じたのは、「成長は単一の要因では説明できない」という点です。現場では、「優秀だから伸びる」「教え方が悪いから育たない」といった分かりやすい説明に寄せてしまいがちですが、今回の研究はそうではなく、複数の要素が組み合わさって成長が生まれていることを示しています。
何か一つを変えれば解決する問題ではなく、育成そのものを構造として捉え直す必要があるという示唆だと受け止めました。
つまり、「人を変える」のではなく、「人が育つ環境をどう設計するか」が本質的な論点であり、この視点に立てるかどうかで育成のアプローチは大きく変わると感じました。
──特に成長に影響していた要素について教えてください。
池田 氏
個人要因、たとえば学習意欲や思考力については、一定の関連が見られました。ただし、個人の要因だけでは成長の違いを十分に説明できない、という点が重要です。
批判的思考のようなコンサルに必要な態度は、成長にとって一定の影響を示したものの、大きな影響を示したのは、「どのような経験をしているか」と、「その経験をどう振り返っているか」でした。具体的には、少し難易度の高い仕事、いわゆる“背伸びをする経験”を任されていることに加え、その経験を振り返り、次の仕事に生かしていく一連のプロセスが、成長と強く関連していました。
鍵村
ここは現場にとって非常に示唆的ですね。「任せること」が育成だと捉えられがちですが、それだけでは不十分であり、その後の振り返りまで含めて初めて意味を持つということですね。加えて、上司や先輩からのフィードバックのあり方にも特徴がありましたね。
池田 氏
はい。ポジティブなフィードバックだけでなく、ネガティブなフィードバックも成長と関連していました。ただし重要なのは、「伝えたかどうか」ではなく、「関係性の中でどのように受け取られたか」です。今回のプログラムの中でも、上司や先輩はネガティブなフィードバックをしているつもりでも、若手側にはそのように受け取られていないケースが多く見られました。逆に、厳しい指摘のつもりではなかったものが、若手には強いネガティブフィードバックとして受け取られている場合もあります。
このように、送り手と受け手の間で認識にズレが生じている点も含めて、フィードバックは単なる伝達ではなく、関係性の中で意味づけられるものだと考えています。
鍵村
信頼関係があるからこそ意味を持つ、ということですね。ここまでを踏まえると、成長の要因はどのように整理できそうでしょうか。
池田 氏
成長は、「経験」「振り返り」「関係性」といった要素が組み合わさることで生まれると考えています。どれか一つだけではなく、それぞれが相互に作用することが重要です。
裏を返すと、これらのいずれかが欠けてしまうと、「教えているのに育たない」という状況が生まれやすくなります。たとえば、経験を任せるだけで終わってしまっていないか、振り返りが形だけになっていないか、あるいは前提となる信頼関係が十分に築かれているか、といった点です。
こうした観点で現場の関わり方や設計を見直していくことが、育成を前に進める上で重要になると考えています。
3.人が育つ組織のつくり方
──NTT DATAのコンサルティング組織では、育成をどのように捉え、実践しているのか、改めて教えてください
鍵村
基礎的なビジネススキルやマインドセットを身につけるための研修や、上司との定期的な育成面談の仕組みを整備しています。これにより、キャリアの方向性や成長課題を継続的にすり合わせる機会を設けています。
また、専門性の習得を目的とした資格取得の推進に加え、日々の業務を通じたOJT、さらにはプロジェクト単位での振り返りなどを通じて、実践の中で学びを深めていく機会を設けています。
「人を大切にする」という考え方を理念にとどめるだけではなく、仕組みとして実現していく。そのために、育成を科学し、再現可能なものにしていくことに価値があると考えています。
池田 氏
今回の共同研究を通じて感じたことは、NTT DATAが育成というテーマに非常に真摯に向き合っているという点で、特に印象的だったのは、研究を研究で終わらせるのではなく、その後の実際の育成施策にどのように落とし込んでいくかという点に、とことんこだわって議論されていたことです。
研究の知見をどう実務に接続するかは簡単なことではありませんが、その難しさも含めて真正面から向き合われている姿勢が非常に印象的でした。こうした取り組みは、育成を単なる人事施策ではなく、重要な経営テーマとして捉えているからこそ実現できているのだと感じました。
鍵村
ありがとうございます。そうした取り組みの中で、今回の研究ではいくつか興味深い論点も出てきましたよね。
特に議論になったのが、個人要因、いわゆる学習意欲や思考力といった要素が、介入によってどこまで変化し得るのかという点です。今回の1年間の観察では、これらは大きくは変わらないという結果も見られ、育成の対象としてどのように捉えるべきかは悩ましい論点だったと感じています。
池田 氏
非常に興味深い論点だと思います。この点については、研究の世界でもまだ明確な結論が出ているわけではありません。
一方で、近年の研究では、学習意欲や思考のあり方という個人要因も、適切な介入や経験を通じて変化し得る可能性が示唆されています。ただし、それは短期間で大きく変わるというよりも、一定の時間をかけて徐々に変容していくものと捉えられています。
その意味では、今回の結果も、個人要因が変わらないというよりは、「変化には時間軸が必要である」という示唆として理解することができるのではないかと考えています。
また、個人の意欲や態度は周囲の環境によっても変わることが、これまでの研究で示されています。たとえば、一人ではAIの勉強に手が伸びなくても、職場で詳しい人に教えてもらいながら、みんなでワイワイ試してみるような場があると、「やってみよう」と思えたことはないでしょうか。こうした観点から、個人の望ましい状態を引き出すための環境設計は、今後さらに深めていくべき重要な論点だと考えています。
三好
今のお話は非常に示唆的です。個人要因の変化には一定の時間がかかるという前提に立つと、AIのように変化が激しい時代においては、その時間軸そのものも踏まえた育成のあり方がより重要になってくると感じています。
これからのAI時代では、学習能力の高さに加えて、新しい領域に踏み出す好奇心、そして未知の状況でも一度受け入れて取り組める素直さといった要素を持つ人材が、変化に適応し続けていく上で重要になると考えています。
だからこそ、人材が自然と“変わり続ける”環境をどう設計するのかが、これからの組織の競争力を左右する重要なテーマになるのではないでしょうか。
──最後に
若手の成長は、能力や意欲だけで決まるものではありません。どのような経験を与えるのか、それをどう振り返るのか、そしてどのような関係性の中で働くのか。これらが組み合わさることで、はじめて成長は促されます。本記事で見てきたように、育成とは人を変えることではなく、「人が育つ構造を設計すること」に他なりません。
NTT DATAでは、研究と実践を往復しながら、人が育つ組織づくりに向き合い続けていきます。また、組織・人材領域における変革コンサルティングを通じて、若手育成に課題を抱える企業に知見を還元し、社会全体の変革に貢献していきたいと考えています。
──本記事の深堀り動画
ただし、こうした育成のあり方を実際の現場で実現していくことは決して容易ではなく、多くの企業にとって試行錯誤が求められるテーマでもあります。
そこで本研究をさらに深掘りする形で、実際に現場での取り組みをリードしている組織人材領域のマネージングコンサルタント田端志織と池田めぐみ先生との対談を通じて、より具体的な実践のあり方や処方箋について議論しています。
ぜひあわせて動画もご覧いただき、若手育成の取り組みのヒントとしていただければ幸いです。
動画はこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2026/016/


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https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/dx-organization-transformation-consulting/
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