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「戦略人事」への変革が求められる人材マネジメント
事業環境の高度化、複雑化が進む中、日本企業には「人手不足と人あまりの同時進行」「デジタル加速と新技術への対応」「価値観の多様化」など、従来の枠組みでは対応しきれない組織・人事の課題が増えています。そこで不可欠となるのが戦略的人材マネジメント、いわゆる「戦略人事」です。採用・労務・給与などの管理業務が中心だった人事部門は、経営戦略と人事戦略を連携させ、現場に浸透させていく役割への進化が求められています。
図1:戦略人事とは
しかし、さまざまな調査データからは、戦略人事が十分に機能していない実態が浮かび上がってきます。国内企業を対象としたあるアンケート調査の結果(※1)では、「人事部門が戦略人事として機能している」と回答した企業の割合は28.9%、「戦略人事の考え方や視点をもって人事業務に取り組んでいる」と回答した企業の割合も36.7%にとどまっています。
さらに、別の調査(2025年)(※2)によると、戦略人事を担うHRBP(Human Resource Business Partner)の設置率は、日本的な旧来型企業でたったの7%と進んでいません。
図2:日本的な旧来型企業(JTC)でのHRBP設置率
また、リスキリングについての調査(※3)では、生成AIが業務プロセスに組み込まれることで、人のタスクや求められるスキルが様変わりする可能性が高い中で、リスキリングに取り組む従業員は34.9%、組織的に取り組んでいる企業も42.7%と半数以下となっています。
このほか、ジョブ型雇用などトレンドの人事制度を導入してもうまく運用できないケースがあるほか、人的資本データの管理基盤が整備できておらず、データに基づく経営判断ができていないといった現状もあります。
HRBP、リスキリング、人事制度、データ活用。戦略人事を実現していく上で欠かせないこの4つの領域について企業はどのように取り組んでいくべきなのか。領域ごとにその考え方と実践のポイントを見ていきます。
日本の人事部『人事白書2024』
Workday「HRモダナイゼーション実態調査」(2025年7月)
NTTデータ経営研究所/NTTコムリサーチ「令和のキャリアプラン実態調査-キャリア形成とリスキリングの現在地-」
HRBPの機能を分担し「経営と現場の橋渡し」を実現
経営戦略と人事施策を連動させるには、経営層の考えを理解して人事戦略を立案し、現場に経営層の声を届けながら必要な支援を行うHRBP導入は有効な選択肢です。しかし、前述したように、日本企業では導入が進んでいません。そこには、HRBPに経営と現場のあらゆる問題解決を背負わせてしまうという根源的な課題があると考えられます。HRBPは万能ではないため、役割分担(=HRBPs)の設計が肝となります。
HRには、3+1の機能があると私たちは考えています。1つ目(Zone1)は、人事の「専門家」としての機能。人事企画や労務・法務といったコーポレートの視点を持ちながら、人事戦略や施策の方針策定、改善案、業務、サービスを設計します。2つ目(Zone2)は、「ビジネスパートナー」の機能。事業戦略やバリューチェーンを理解した上で、経営層と連携してビジネス上の課題を組織・人材の面で解決します。3つ目(Zone3)は、「オペレーションサービス」。オペレーショナルな業務を集約し、HRサービスを提供します。そして、近年重要性を増しているのが、+1の機能。「デジタル/オートメーション」です。エージェント型AIの導入といったデジタル活用を進めて、データに基づき人事施策や組織の課題解決を行っていくとともに、「専門家」「ビジネスパートナー」「オペレーションサービス」といった各機能における意思決定の精度を高めます。
図3:HR機能配置の概念図
HRBPを導入する際前述2つ目の機能を中心に要件を満たす人材の配置を試みます。しかし、これまで旧来型で進めてきた企業ですべての要件を担う人員を発掘することは現実的ではありません。異なる強みを持つ複数の担当者を配置し、各機能における役割を分担して持続的に実行していくことが重要です。
図4:HRBPの人材要件
HRの高度化に取り組むA社の事例をご紹介します。インフラ系グループで、間接業務のシェアードサービスセンター(SSC)を担うA社は、グループの長期的な構想の下、将来的にはグループ会社のCXOといったホールディングが従前担った機能へ領域を拡張することが求められました。ホールディング機能への拡張を一足飛びに実施するのではなく、まずはその手前で経営管理を担うビジネスパートナー部門を立ち上げ(ステージ1)、グループ内の主要企業・中小企業の経営管理を担っています。
図5:A社の取り組み
ここで課題となるのが、ビジネスパートナー部門の立ち上げによる業務量の増加への対応です。そこでA社は、ビジネスパートナー部門の立ち上げと同時に、現場業務をテクノロジーでサポートするDX部門も立ち上げました。ポイントは、ビジネスパートナー部門とDX部門を分け、DX部門では現場に寄り添った支援をしていること。役割を分担しながらHR機能の高度化を進めている一つの事例です。
企業競争力を高めるリスキリングモデルの組み立て方
日本企業においてリスキリングに取り組む従業員の割合が3割にとどまる背景には、業務プロセスへのAI実装の遅れや、AIによる今後の要求スキル変化への認識の不足があります。また、リスキリングに取り組む多くの人が、今後需要が低下するスキルを磨いてしまっているという調査データもあります。リスキリングを個人の自主性に委ねてしまっている現状を変えていく必要があるでしょう。
リスキリングの効果を高めるには3つの観点があります。
1つ目は、未来から逆算して磨くべきスキルを設定すること。事業環境の変化を踏まえて目標やゴールを適宜見直していくことが必要です。2つ目は、ビジネスの成果を目的として取り組むこと。3つ目は、従業員の主体性に依存せず、企業がガイドしていくこと。これにより、企業全体で、ブラッシュアップされていくリスキリングの仕組みを運用できるようになります。
図6:日本企業におけるリスキリングの現状と、効果を高めるポイント
個人のリスキリングを企業競争力の強化につなげたC社の事例をご紹介しましょう。C社はものづくりを主要事業としていましたが、テクノロジーの進展により競争力の源泉となるスキルをIT領域へ移行する、抜本的な変革が求められていました。
そこで、将来必要となる人材像を定義し、それを実現する能力とキャリアを明示。社員自身が新たなキャリアゴールに向かって動く“キャリア自律”を目指し、企業が全面的にバックアップしています。また、変革に対する従業員の反応を計測し、今の仕事がなくなることに対する不安を把握。キャリア探索をサポートする機能をつくり、心理的安全性の確保も実施しました。さらに、人材のポートフォリオ管理も進め、将来的に不足する人材を外部からのソーシングやパートナリングで充足する活動も進めています。
未来を逆算した人材像の整理、キャリア可視化による主体性の喚起、心理的不安への配慮を同時に進めた点は、多くの企業が参考にできる好事例と言えるでしょう。
人事制度改革を成功に導く3つのポイント
AI活用の広がりや人的資本開示の流れを受けて、「ジョブ型雇用」や「スキルベース組織」といった人事制度を取り入れる企業が増えています。しかし、こうした“トレンド制度”を取り入れたからといって、人事制度改革が成功するわけではありません。
人事制度とは、人材マネジメントを行う上で必要となるさまざまな制度のことです。「等級制度」「評価制度」「報酬制度」といった基幹人事制度は身近ですが、制度全体から見ればほんの一部にすぎず、さまざまな制度が相互に作用し有機的につながって初めて、効果的な人材マネジメントが実現できます。
特に、ジョブ型雇用やスキルベース組織は、制度設計やジョブディスクリプションのメンテナンスといった運用負荷が大きく、期待した効果が得られないだけでなく、社員から不満が上がってしまうケースも少なくありません。導入する際には、自社の状況や戦略に本当に合っているのかどうかをしっかり見極める必要があります。
制度設計を進める際の3つのポイントをご紹介します。
1つ目は「経営と人事制度の連動」です。経営者は現状をブレークスルーしたいと変化を求めますが、人事制度を急に変えるだけではうまくいきません。経営者の目線と人事の目線をすり合わせながら、戦略に合致した制度を社内に落とし込んでいくことが非常に重要です。
2つ目は「全体を俯瞰した現状分析」です。最初に、人事制度は有機的につながることで人材マネジメントの効果が生まれると説明しましたが、人事制度改革では、人事制度のもたらす影響を俯瞰し、制度全体のつながりを意識した議論を行うことが重要です。具体的には、人事制度によって何を実現したいかという制度の設計思想に基づき、各制度の内容や制度間の連携に問題がないか、さらには、目的通りに制度を運用できるのかを確認します。人事制度の問題点を社内に説明する場合には、その問題が経営や現場の業務にどのような影響をもたらすのか、それぞれの目線に立ちながら説明していくことが大切です。そして、現状分析で忘れてはならないのが、人事制度によって組織や人材がどういう状態になっているのかを把握することです。制度運用により人事制度で実現したいこと(人材の質、等級ごとの人材の量など)ができていない状態となっている場合は、制度内容や運用方法を見直す必要があります。
図7:現状分析で重要な4つの観点
3つ目は「運用方法の設計」です。ジョブ型雇用を運用していくには、ジョブディスクリプションの作成・見直しなどのメンテナンスが欠かせません。また、評価のばらつきから不公平感が生まれたり、評価制度が形骸化してしまったりすることもあります。そのため、制度設計の際には、誰が、いつ、何をするのか運用方法も含めて設計することが重要です。ジョブ型雇用やスキルベース組織は運用負荷が大きいため、AIなどのテクノロジー活用の検討も有効です。
戦略人事を加速させる「KPI設計」と「人的資本データ基盤の整備」
これまで、「HRBP」「リスキリング」「人事制度改定」をテーマに、戦略人事のポイントをお伝えしてきましたが、それぞれの取り組みを連携させ、運用していく上で欠かせないのが人的資本データの整備と活用です。
人事部門では、構造的な4つの課題を背景に、データ整備が遅れています。課題の1つ目は「データ収集と蓄積の課題」。給与・勤怠・スキル・評価・エンゲージメントなどの領域ごとにクラウドサービスが普及した結果、データの種類が多様化しています。これらのデータを一元管理し、全体を俯瞰した統一的なルールによって整理、蓄積していく必要があります。
2つ目は、「データ標準化の課題」。システムによってカタカナや英語を混在させないなど、継続的な更新を見据えたデータの品質維持を図る必要があります。
3つ目は、「データセキュリティの課題」。人的資本データは、個人のセンシティブな情報を取り扱うことが多いため、アクセス制限の厳格化、高度なセキュリティ対策が欠かせません。
4つ目は、「データ運用面の課題」。多種多様な人的資本データを統合した後、データを整理・構造化し施策の効果を検証・分析するスキルが求められます。
これら課題を乗り越え、戦略人事へと移行する第一歩となるのが、「KPI設定」と「人的資本データ基盤の整備」です。
図8:人的データ活用のポイント
「KPIの設定」は、自社が保持しているデータの状態、整備の必要性を把握(As-Is)し、あるべきデータ像(To-Be)をイメージしながら、どこまで可視化できるのかを診断します。その後、人的資本の可視化指標のサンプル、他社の先進事例を参考にしながら、自社の経営管理で指標をどう活用していくかを見据え、KPIの設定を行います。
続いて行うべきは、「人的資本データ基盤の整備」です。人的資本データを可視化するには、統合データベースの構築が必要です。その際、人材データ基盤ツールを活用することで、散在する人的資本データをスピーディーに効果的に集約することができます。
こうした取り組みを実践に落とし込むために、外部パートナーの知見を活用することも有効です。NTT DATAでは、データに基づく人事やピープルアナリティクスを本格的に推進し、戦略人事へと迅速かつ効果的に移行するための総合支援サービス『戦略人事 Accelerator 』を提供しています。人的資本データの現状分析を行った後、お客さまの目指したい姿や状況に応じて人的資本データの収集・管理・可視化支援、KPIの設計・運用支援、人事機能変革支援などを行っていきます。
戦略人事を実現するための一歩を踏み出すために
HRBP、リスキリング、制度、データ活用という多様な人事領域は、本来相互に連動して機能する必要があり、これらを個別最適で推進するだけでは、組織全体としての大きな変革を実現することはできません。重要なのは、いきなり制度改定やツール導入に踏み込むことではなく、「人事のどこが分断されているのか」を可視化・整理すること。その上で、HRの役割分担の再定義やデータ基盤整備といった具体施策を段階的に進めることが、戦略人事実現への現実的な第一歩となります。
NNTT DATAでは、従来型の人事から戦略人事へと移行しようとする企業が直面する複雑な人事課題に対し、構想策定・制度設計・テクノロジー実装・運用定着・成果創出まで、一貫して伴走するサポートを提供しています。


DXを推進するための組織変革コンサルティングについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/dx-organization-transformation-consulting/
戦略人事Accelerator(フォーティエンスコンサルティングのページへ遷移)についてはこちら:
https://www.fortience.com/solutions/transforming-organization-and-talent/strategic-hr-accelerator/
ウェビナー「HRBP設置×テクノロジー活用」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/063/
ウェビナー「組織・人材ケイパビリティシフト時代の企業競争力を高めるリスキリングモデルの組み立て方」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/070/
ウェビナー「人事制度改定を成功に導く3つのポイント」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/071/
ウェビナー「戦略人事を加速する、人的資本データの整備と活用のポイント」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/072/
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