AI時代に日本企業が行うべき4つの人事マネジメント
ゴールドマンサックス・リサーチは、生成AIによる自動化の影響を受ける業務の割合が全業種の3分の2におよび、今後10年間で7兆円規模になると試算しました。これは、日本のGDPの約半分を超えるレベルで、ビジネスに非常に大きなインパクトをもたらします。
AIというディスラプター(破壊的イノベーター)の台頭により、新たな雇用が生み出されていくのか、それとも雇用が奪われてしまうのかは、まだ明確な答えはありません。しかし、人とAIの関わりは、「人がAIをツールとして活用する」という段階から、「AIが選択肢を示し、人が判断する」「AIが決め、人が従う」「AIが決め、AIが実行まで担う」へと徐々に移り変わっていきます。そのため、人間の仕事の減少により生まれた余力をどこに使うかという人材戦略の重要性が、ますます高まっていくことが考えられます。
こうした中、多くの日本企業が自社の経営変革の必要性を強く認識し、DXに取り組むようになっています。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)によると、全社的なDXに取り組んでいると答えた企業の割合は34.4%(※)。デジタル化が進む米国などと比較しても遜色のない水準まで上昇しています。しかし、その成果は、事業内に閉じた小さな課題の解消や一部の業務の自動化などにとどまっており、経営から製造・販売に至るまでのデータ連携の高度化といったインパクトの大きな変革は十分にできていないのが実情です。加えて、DX人材不足の問題も依然として深刻です。
図1:日本企業の3つの変革のボトルネック
全社的なDXやビジネスモデル変革が進まないのはなぜなのか。日本企業は、AI・デジタル変革を停滞させる3つのボトルネックを抱えています。1つ目は「人依存の業務運用」。属人的な業務・サービスレベルが存在することで、AI導入の効果や利用可能範囲が限定されてしまいます。2つ目は「学ばない・進まないリスキリング」。従業員の学ぶ意識の低さが、職種転換や再配置スピードへの対応を難しくさせています。3つ目が「雇用調整の硬直性」です。本来であれば雇用調整をすべき場面でも、法規制・雇用慣行・社会要請から大幅な人員調整には限界があります。
これらを踏まえて、AI時代の企業の存続・成長のための人事マネジメントを4つご紹介します。
(1)経営参謀型人事
AIやDXによる事業の見直しや運営基盤強化のニーズが高まっています。人事部門は、経営戦略が決まった後に制度を整える役割にとどまるのではなく、事業ポートフォリオの見直しや投資判断といった初期段階から関与し、人材・組織の観点で経営者の意思決定を支える存在へと進化することが求められています。
(2)アジャイル型の組織・人材モデル
単なる欠員補充や既存の育成計画の実施といった予定調和の組織人材マネジメントでは、市場環境の変化に対応していくことはできません。ここで問われているのは、事業や役割が大きく変わらないことを前提に人材を管理するのか、それとも、変わり続けることを前提に人材を組み替えるのか、という人材マネジメントの思想です。経営環境の変化に適応し続けるために、人材需要の見込みや求められる人材像を随時見直していく。再配置できる人事戦略モデルの有無が、企業の競争力に寄与します。
(3)リーンで効率的な運営モデル
人的リソースをいかに効果的にAIと組み合わせて業務に落とし込めるか。AIを前提に業務と役割を再設計し、人が本来注力すべき領域へ人的リソースを再配分するという考え方がコスト競争力や基礎体力の差を生みます。AI導入や業務プロセスの効率化とセットで、人材の出口戦略やシフト戦略を描き、無駄のない運営体制を組むことが必要です。
(4)チェンジマネジメント機能の強化と高度化
変革期におけるEVPは、役割や働き方が変わることを前提に、企業と従業員との関係性を再構築する軸として機能させる必要があります。自社の変革プログラムの浸透状況や、阻害要因を可視化し、学び直しや役割転換を価値として提示することや、心理的安全性を高め業務に挑戦できる職場づくりを進めるなど従業員のEVPを高めていく支援の強化が必要です。
企業と従業員は「組織自体の評判」「仕事そのものの魅力」「成長機会」「共に働く人の質」「評価報酬」「自律性や多様性」という6つの約束によってつながっています。企業はEVPと自社のビジネスモデル変革との整合性を図ることで、会社と従業員との“絆”もメンテナンスすることが可能となります。
「DX動向2025-日米独比較で探る成果創出の方向性『内向き・部分最適』から『外向き・全体最適』へ」
DXでビジネスインパクトを生むための要諦
DX推進として多くの企業が取り組んできたのが、「DX戦略を策定」「変革推進組織の設置」「ITデジタル人材の育成」です。しかし、前述の通り、実現できたのは事業内に閉じた課題の解消でした。経営・製造・販売のデータ連携の高度化などビジネスインパクトの大きい変革を生むための3つの要諦をご紹介します。
図2:ビジネスインパクトが小さい要因と、デジタルによる変革の要諦
要諦(1)
経営課題を「X」として言語化し、デジタルで解く
解くべき経営課題「X」を明確に言語化した上で、人材戦略と紐づけて現場組織や従業員に対しても説明し腹落ちしてもらう必要があります。事業ポートフォリオの変革を行うのか、新規事業を起こすのか。自動車業界であれば、これまでのコア事業からソフトウェアビジネスにシフトする、交通業界であれば運輸だけではなく人々の生活の改善と明確に定義するなど、そのビジネスを生み出すためにデジタルで何ができるのか、そのための組織体制や人材戦略をどう進めていくのかを考えることが重要です。
要諦(2)
DX組織のミッションは事業変革を主導すること
いまや多くの企業が事業変革組織を組成しています。そのミッションは、非連続な事業成長に向けた経営課題「X」の特定と目標(KPI)の設定、そして、目標達成に向けた注力事業領域とデジタル施策の策定。施策実行と内製化のための構造改革、デジタル人材の拡張にも取り組み、事業ごとの個別変革は社員自身が自律的に実行できるように仕向けます。事業変革組織のリソースは真に解くべき「X」に注力する必要があります。
要諦(3)
デジタルケイパビリティの獲得
デジタルケイパビリティとは、IT資産を経営資源と捉え、ヒトと組織がそれを使いこなすための能力です。ここで大事なのは、使い方を覚えるだけでは使いこなせないということです。経営課題「X」を解いていくには、ITリテラシーとは別の能力を自社の社員・組織が自ら獲得するという強い覚悟が必要です。NTT DATAでは、5つの力を定義しています。これらの能力は、個別のスキル育成ではなく、人材配置や評価、キャリア設計と一体で設計されて初めて企業のケイパビリティとして定着します。
図3:変革の要諦(3)デジタルケイパビリティの獲得
「デジタル活用戦略を構想する能力」
経営課題や事業課題に対してデジタルが寄与できる領域と、そこでのデジタルが果たすべき機能・役割を可視化していく力です。
「デジタル活用コミュニケーション能力」
IT部門だけでなく、ユーザー部門や経営が一体となって変革を進めるための基礎となります。
「業務デザイン能力」
既存の業務制約にとらわれず、業務の可視化・改善・標準化といった一連の流れを作成し、それを他の社員が理解できるようにします。
「投資判断・モニタリング能力」
効果の見えないデジタル施策の推進のために明確なKPI設定と正しい投資判断が必要です。
「チェンジリーダーの開発能力」
チェンジリーダーは企業変革の中枢を担う人材であり、専用のキャリアパスを設定した上で、専門人材として育てるべきです。
ビジネスモデル改革事例3選
NTT DATAは多種多様な業界のビジネスモデル変革を支援してきました。その中からHCMも考慮しながら変革に取り組んだ3つの事例を紹介します。
製造業A社:経営課題と紐づくDX戦略
A社は国内事業における営業利益の低下を打破するため、海外事業展開の強化を試みてきました。しかし、海外リージョンごとのニーズを十分に捉えきることができず、売り上げが伸びない状態が継続。新規事業にもチャレンジしていましたが、収益化に結びつかない状況でした。
そこでNTT DATAは、現状の可視化・課題抽出を実施。アセスメントした結果を経営層にぶつけながら、経営課題と、紐付いたDX戦略としてバリューチェーンの変革、それを支えるための基盤整備、成長領域拡大への投資を行う計画を取りまとめ、実行に移していきました。A社は、このバリューチェーン改革の施策によって、数十億円オーダーでの原価の改善が見込まれ、組織・人材拡張への投資や成長領域の拡大につながっています。
図4:製造A社の事例概要
サービス業B社:事業変革方針の策定と組織のミッション・ビジョン・バリューを再定義
B社は、コア事業の会員を増やして、新規事業へ送客することで事業ポートフォリオを変革し収益拡大を目指す方針を打ち出していましたが、実現のためのデジタルの知見が不足していました。そこで、組織ごとのミッション・ビジョン・バリューを再定義し、既存IT部門が注力すべき領域(守りの領域)とデジタル部門が注力すべき領域(攻めの領域)を明確に線引きし、限られたリソースの中で効率的に人員配置を行いました。さらに組織拡大戦略として、既存のIT部門メンバーのリスキリングとNTT DATAの人材活用を進めて、成果創出を年単位で前倒す計画を実現しました。
図5:サービスB社の事例概要
製造業C社:DXグランドデザインの策定、デジタルケイパビリティの蓄積
C社は、海外を含む事業環境の急激な変化に対して、デジタル技術を活用した製品の高付加価値化と原材料の安定供給が必達となっていました。全社員に対して変革の自立を促していくようなマインド変革も課題でした。
まずは、経営課題「X」と紐づけたDXのグランドデザインを作成。事業のあるべき姿、ロードマップ、改善施策との一貫性を持たせ、経営層と現場組織に共有。加えて、デジタルケイパビリティの必要性を訴求し、デジタルリテラシーの獲得のみではなく、業務デザインの教育や投資判断スキームを描いた上で、社員・組織へのノウハウの蓄積を進めていきました。
現在は、事業ごとの個別テーマは社員ができる限り自律的に推進できるサポート体制となり、リソースが不足する中でも十分な成果を上げています。デジタルケイパビリティの獲得と、それによる社員の自律化、注力領域を集中した上で成果を上げた事例と言えます。
図6:製造C社の事例概要
問われているのは、デジタルを導入できるかではなく、変革を担う人材モデルを設計できているかどうかです。NTT DATAは、こうした複雑な変革課題に対し、ビジネスモデルの構想からDX推進を含めた具体的な組織運営モデルの実装と成果創出まで支援を行っています。


DXを推進するための組織変革コンサルティングについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/dx-organization-transformation-consulting/
戦略人事アクセラレーターについてはこちら:
https://www.fortience.com/solutions/transforming-organization-and-talent/strategic-hr-accelerator/
ウェビナー「HRBP設置×テクノロジー活用」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/063/
ウェビナー「組織・人材ケイパビリティシフト時代の企業競争力を高めるリスキリングモデルの組み立て方」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/070/
ウェビナー「人事制度改定を成功に導く3つのポイント」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/071/
ウェビナー「戦略人事を加速する、人的資本データの整備と活用のポイント」についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/072/
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