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デジタルの力で日本を元気に--NTTデータが介護ビジネスに参入した理由
「デジタルの力で日本を元気にという合言葉で、さまざまな社会課題解決に貢献したい」
2025年10月24日に開かれた記者会見で、NTTデータ代表取締役社長の鈴木正範はそう語った。鈴木は、NTTデータグループにおける国内事業会社の位置づけを「3つの役割と3つの連携」というキーワードで表現している。

NTTデータ
代表取締役社長 鈴木 正範
3つの役割とは、第一にNTTデータグループの牽引役として質を伴った成長を実現すること。第二に、世界70以上の国や地域、従業員20万人というグローバルなパワーを日本の顧客に還元すること。そして第三が、日本社会の課題解決にデジタルの力で貢献すること。
「従来、私たちはSIerとして企業や行政のお客さまを見て、その方々と一緒に仕事をしてきました。しかし、変革パートナーとして進化するには、企業のその先、つまり生活者の視点での課題を解決する姿勢が必要になります」(鈴木)
この言葉は、NTTデータが2025年8月にNTTデータ ライフデザインを設立し、介護ビジネス参入に至った理由の本質を示している。テクノロジーカンパニーとしてのケイパビリティを生かしながら、ビジネスや社会のトレンドをしっかり捉え、社会課題の解決に必要とされる変革をもたらしていく。こうした考えのもと、NTTデータは2020年10月、コロナ禍の真っ只中に「ソーシャルデザイン推進室」を立ち上げた。デジタル化の遅延、データの非連携、社会構造の変化など、コロナ禍で顕在化したさまざまな課題に対し、生活者視点で社会課題を解決していく組織として機能してきた。
そしてこのソーシャルデザイン推進室が検討、準備を進めてきた事業の一つが、ワーキングケアラーを支援する介護事業だ。
高齢者本人から家族介護者へ--3年間の試行錯誤が生んだ事業モデル
ソーシャルデザイン推進室では立ち上げ当初から、高齢化と介護という社会課題に着目していた。
当初は、介護が必要な高齢者に直接アプローチするビジネスモデルを模索していたが、課題解決を一過性ではなくサステナブルな仕組みにしていく上では難しい面があった。そこで、「NTTデータが事業として担うべき領域はどこか」という問いに立ち返った結果、着目したのが保険外の領域だ。在宅介護が増える中で、負担を抱えているのは、高齢者を支えている家族である。特に、働きながら介護を担う「ワーキングケアラー」が重要なキーワードとして浮かび上がってきた。
2024年春にNTTデータ社内で実態調査を行うと、課題の大きさが裏付けられた。回答率が50%を超えたこの調査で、40代以上の社員の半数以上が、すでに介護に困っている、もしくは3年以内に介護が始まる可能性があると回答したのだ。
実際に社内を見渡すと、40代後半の社員の多くが、親の自立支援や介護に何らかの形で関わっており、また、経営層も家族の介護を経験してきた人が少なくなかった。こうした背景は、ワーキングケアラー支援の事業化を進めるうえでの追い風ともなった。
「職場に迷惑をかけて申し訳ない」という気持ちを拭えるよう支援したい。働き手が共感できる当事者性が、ケアラケア事業の具体性と説得力を支えている。
東京海上日動が見出した「保険を超える価値」
NTTデータ ライフデザインには、東京海上日動火災保険(以下、東京海上日動)が資本参画している。東京海上日動はなぜワーキングケアラー支援事業に出資したのか。同社 代表取締役社長の城田 宏明 氏は、記者会見でこう説明した。
「当社は中期経営計画Re-New2026において、『リスクソリューションで次代を支える会社に』という方針を掲げています。複雑化、多様化する社会課題に直面するお客さまに対して、保険の領域にとどまらないソリューションを提供していくことが求められていると強く感じています」(城田 氏)

東京海上日動火災保険株式会社 代表取締役社長
城田 宏明 氏
東京海上日動は創業以来、損害保険事業を通じて全国のお客さまに安心・安全を届けてきた。それに加え、近年は保険金支払いによる事後対応だけでなく、事故が起きる前のリスク低減、そして被害が生じた後の継続的な支援という「保険の事前事後」の領域に注力している。
「今回焦点をあてた介護をはじめ、従業員の健康リスクや就業中の事故、育児と仕事の両立など、企業人事を取り巻く経営課題は多岐にわたります。東京海上グループは、主に従業員様や企業の福利厚生に係る保険に加え、近年では企業の人事戦略に寄り添う形で、健康経営のご支援など保険に留まらない支援も拡充しています。ケアラケアサービスは、多くの従業員が直面する仕事と介護の両立という経営課題の解決に資する、重要なソリューションです」(城田 氏)
東京海上グループは、グループ会社の東京海上日動ベターライフサービスをはじめ、介護領域で各種サービス提供に取り組んできた実績がある。今回の資本業務提携では、この介護事業のノウハウと、NTTデータの高度なデータ分析技術やシステム構築力を融合させる。
「業務提携によって当社グループは、ケアラケアのサービスの販売や開発において役割を担います。東京海上日動が有する幅広いお客さまとのネットワークを生かして、本サービスをより多くのお客さまにお届けするとともに、保険に関する専門性を活用し、サービス開発においても連携してまいります」(城田 氏)
城田 氏はさらに、保険と組み合わせた価値提供の可能性にも言及した。団体保険制度や所得補償保険など、金銭的な負担をサポートする保険商品と、ケアラケアによる包括的な支援を組み合わせることで、企業が抱える経営課題の解決を支援するパートナーとしての価値を高めていく考えだ。
企業と個人、両面からの包括支援--ケアラケア事業の全貌
ケアラケア事業は、「企業向けサービス」と「個人向けサービス」の2つの柱で構成される。2025年4月から段階的に施行された改正育児・介護休業法により、企業は従業員の介護実態を把握し、支援する義務が強化された。しかし多くの企業は、具体的にどう対応すればよいのか手探りの状態だ。
「これまでは、40代以上の方への介護休業取得や介護両立支援制度などに関する情報提供が努力義務でしたが、それが義務化されました。制度対応として企業はセミナーを開催したりしていますが、実態と企業のやっていることがなかなか結果に結びつかないという課題があります」(濱口)

NTTデータ ライフデザイン 代表取締役社長
濱口 雅史
ソーシャルデザイン推進室時代から本事業の立ち上げに携わってきた、NTTデータ ライフデザインの濱口 雅史はそう指摘する。ケアラケア事業の企業向けサービスでは、まず実態調査で従業員の状況を把握。個々に異なる仕事と介護の状況を30近いセグメントに分類し、未来介護予測(シミュレーション)や各種コンテンツの提供、それぞれの状態に応じて、次にどういうアクションをすべきかをAIが自動的に提案するパーソナルカウンセリングの仕組みを構築した。
「主に20代、30代の介護に直面していない社員には啓発を。既に困り事を抱えている当事者に対しては、個人向けサービスをご案内します」(濱口)
図1:ケアラケア事業のサービス構成
個人向けサービスの核となるのが、専門家による伴走型の支援だ。ケアマネジャー経験者を直接雇用し、「コンシェルジュ」としてワーキングケアラーの日々の悩みや不安の相談に応じる。
「ここで重要なのが、介護保険外のサービスとの連携です。企業に勤めながら親の介護をしている場合、親は加齢に伴い心身の機能が低下し介護が必要となる手前の段階(フレイル)であることが多く、要支援レベル、あるいは介護認定すら受けていないケースも少なくありません。公的な介護サービスを受ける前の段階ということは、必要なサービスの情報を仕入れるのも大変ですし、たくさんの事業者がいてどこを選んだらいいのかも分からりづらい。この効率化をお手伝いしたいと考えています」(濱口)
ケアラケアは現在、セコム(見守り)、ダスキン(家事代行)、ケアプロ(通院付き添い)の3社とパートナーシップを組んでいる。これらは社内調査で特にニーズが高かった領域だという。
「従業員からのチャット相談、コンシェルジュとのやりとり、親御さんとのコミュニケーション、さらには介護保険外サービス事業者の現地スタッフと親御さんとのコミュニケーション。こういったものをすべて文字で書き起こしてデジタル化し、AIで分析します。そしてコンシェルジュや現地スタッフに、AIが次の対応を提案するような仕組みを現在開発中です」(濱口)
図2:ケアラケア事業サービス提供イメージ
介護という労働集約的な業界に、IT・データ・AIの力を持ち込むことで、サービスの質を向上させながら効率化を実現する。将来的には、「パーソナルデータ連携基盤」の構築も視野に入れている。各企業が保有する個人データの主権はその企業に残しながら、必要なデータだけを連携・共有し、新しい価値に変えていく仕組みだ。
「パートナー企業の数を増やすことが、この事業の規模拡大につながります。2030年度ごろには、パーソナルデータ連携基盤で蓄積されたデータをもとに、新しい価値を生み出すサービスやビジネスをつくり、さらに事業を拡大していきたいと考えています」(濱口)
介護業界そのものを変える--2030年度への挑戦
ケアラケア事業が掲げる、2030年度までに導入企業500社、利用する従業員150万人、個人会員30万人を獲得という目標は、大企業の約15%に相当し、経済産業省が推計するワーキングケアラー数の約1割にリーチすることを意味する。
2025年度は、NTTグループ企業を対象にサービス品質と生産性を磨き上げ、2026年度以降、東京海上日動の法人営業網も活用しながら、全国の企業へと展開を加速させていく。その先に見据えるのは、単なる事業規模の拡大にとどまらない、介護業界そのものの変革だ。
「介護の業界は労働環境が非常に苛酷だと言われています。将来的には、IT業界と同じような水準の労働環境や賃金レベルに引き上げを図っていきたいと思っています。民間の活力をしっかり介護の領域に入れていき、公的サービスとも連携しながら、介護のありようを少しでも変えていきたい」(濱口)
会見で濱口はそう語り、ケアラケアで直接雇用するコンシェルジュの年収を、介護従事者の全国平均の1.5倍にするとの目標を掲げた。
介護は突然やってくる。備えを持って計画的に迎え、一人で抱え込まず、企業や地域、専門家の支援を受けながら乗り越えていく。ケアラケアがめざすのは、そんな「新しい選択肢」を提供することだ。
「キャリアも介護も諦めない」--ケアラケアのスローガンには、働く人々の多様な生き方を支えたいという強い意志が込められている。
2030年、ワーキングケアラーがピークを迎えるとされる頃、ケアラケアは日本の働く人々を支える重要なインフラとなっているだろうか。NTTデータとNTTデータ ライフデザイン、東京海上日動は介護の未来の実現に向けて動き始めたところだ。
左から、NTTデータ代表取締役社長 鈴木 正範、NTTデータ ライフデザイン代表取締役社長 濱口 雅史、東京海上日動火災保険代表取締役社長 城田 宏明 氏


NTTデータがめざす社会課題解決についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/socialdesign/
株式会社NTTデータ ライフデザインについてはこちら:
https://www.nttdata-lifedesign.com/
ワーキングケアラー支援事業「ケアラケア」を始動についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2025/102400/