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2024年3月27日トレンドを知る

素材流通業界のDXを牽引する「素材店売り在庫最適化ツール」とは

日本国内における少子高齢化に伴う労働人口の減少は、鉄鋼をはじめとした素材流通業界においても“働き手不足”という課題として現れている。なかでも中小規模の企業が多い鉄鋼流通・加工の分野では、人材不足の解消は喫緊の課題だ。特に鉄鋼流通の領域では、ベテラン担当者の経験と勘に頼った発注数量算出の手法が根付いており、属人化した発注ノウハウの継承は最優先のミッションとなっている。その中でも25%を占める“店売取引”は不特定多数の需要家向けに小ロット・短納期等の多様なニーズに合わせて在庫を見込で仕込む一方で内示がないため過剰在庫や欠品リスクを抱えている。こうした素材流通業界の課題を肌で感じていた三菱商事は、在庫最適化と属人化の解消(発注業務の標準化)を支援するDXソリューションの開発に着手。Anaplan ジャパンが提供するプラットフォームソリューションを採用し、多様な業界のビジネス課題解決を支援してきたNTTデータを開発パートナーとして「素材店売り在庫最適化ツール」を開発し、2023年10月よりサービス提供を開始した。同サービスの開発に携わったキーパーソンたちに話を聞く。
目次

データドリブンな意思決定までを見据えて、流通・加工業者向け在庫最適化ツールの開発に着手

素材流通業界の変革をミッションに掲げてビジネスを展開する三菱商事では、働き手不足の解消やサプライチェーンの全体最適化といった業界共通の課題に着目。中小企業が多い流通・加工業者、なかでも欠品や過剰在庫が深刻な事業リスクとなる店売り事業者にとって永遠の課題といえる「在庫最適化」を支援するための素材店売り在庫最適化ツール「M-Stock(エム・ストック)」開発プロジェクトをスタートさせた。

同社では、以前より需要予測、生産計画、調達計画、販売計画といった計画系業務の一元的な管理を可能とするAnaplanのプラットフォームソリューションに注目しており、素材店売り在庫最適化ツールの開発基盤として採用を決定。Anaplanの開発パートナーであり、これまでもさまざまな取り組みで三菱商事と協業してきたNTTデータを含めた3社で議論・検証を重ね、プロダクトのコンセプトを固めていったという。Anaplan ジャパン アカウントエグゼクティブの福田 節氏は、同社が提供するプラットフォームソリューションの特徴と、今回のプロジェクトで採用された理由について次のように語る。

Anaplan ジャパン株式会社 アカウントエグゼクティブ 福田 節 氏

Anaplan ジャパン株式会社 アカウントエグゼクティブ
福田 節 氏

「Anaplan は優良な意思決定、ビジネスジャッジメントをしたいというニーズに対応するためのソリューションを展開しています。今回は、サプライチェーン全体を一元管理できるプラットフォームを提供することで、情報の新鮮さ(リアルタイム性)、正確性を担保し、意思決定のステージを上げるところに寄与しています。こうした特徴が今回の在庫最適化ツールのコンセプトに合致していたことや、ノーコード・ローコード開発で、お客様の要件に合わせた作り込みをアジャイルかつクイックに行えることが、採用いただいた要因になったと考えています」(福田氏)

第一インダストリ統括事業本部 機械・電機・建設事業部 第一ビジネス統括部 今井 雄介

第一インダストリ統括事業本部 機械・電機・建設事業部 第一ビジネス統括部
今井 雄介

開発パートナーとして本プロジェクトに参画したNTTデータ 第一インダストリ統括事業本部 機械・電機・建設事業部 第一ビジネス統括部の今井 雄介は、鉄鋼業界には“人のノウハウ”を軸とした企業文化が根強く残っていると語り、データドリブンな意思で決定を実現したいというニーズが高まっていると現状を分析。「今回のプロジェクトでは、在庫の適正化はもちろんですが、まずは計画系業務のデータを“見える化”して、在庫や出荷などの情報を詳細に把握することで、経営判断に“気づき”を与えることを目指しました」とプロジェクトの背景について言及する。

鉄鋼流通業者ごとの業務ロジックをシステムに落とし込む開発アプローチ

店売り流通・加工事業者における在庫適正化のニーズに応えるために始動した本プロジェクトは、鉄鋼業界(素材業界)のメーカー・流通・需要家と長年にわたり取引を続けてきた三菱商事が、まず20件以上に及ぶヒアリングを通じて流通・加工業者のニーズを収集。NTTデータ、Anaplanが三菱商事を支援する形で必要な機能を洗い出し、システムに落とし込んでいくという流れで進められた。

福田氏は、「鉄鋼業界のバリューチェーンのなかでも、流通各社は鉄鋼メーカー(川上)と最終需要家(川下)の間の川中に位置し、加工・在庫・物流等の機能でバリューチェーンを支えている存在といえるでしょう。代表的な流通には問屋やコイルセンター、溶断事業者等がおり、M-Stockはこれらを対象にしたソリューションです。中でも不特定多数の需要家に向けて見込で在庫を保有する店売領域では、過剰在庫のリスクを抱えながらビジネスを展開しています。在庫の見積を誤れば需要家のニーズに応えることができず、今後の取引に影響が出てしまいます」と解説。需要の情報と在庫の情報を紐付けて、データドリブンによる意思決定で適切な在庫量を導き出すというコンセプトで在庫適正化ツールの開発に着手したと語る。

今井も、データドリブンによる意思決定が実現できることを目指し、属人化の解消を図ったと製品コンセプトを語り、既存の業務にできるだけ合わせる形で機能を実装していったと説明。その実現にあたっては、Anaplanのプラットフォームソリューションが大きな役割を果たしたと話を展開する。

「素材店売り在庫最適化ツールの開発コンセプトとしては、まずは属人化の解消が挙げられます。これまで発注数量を人の意思で判断していたところを、統計理論を活用することで、誰がやっても同じ結果になる仕組み作り、つまり標準化を目指しています。ただし、統計理論はあくまで数値データを用いた手法のため、そこに意思を入れることができるようなカスタマイズ性も追求。これにより、ベテランのノウハウ継承も可能なプロダクトに仕上がっています。鉄鋼業界では、発注数量を決めるフォーマットを各社で持っているのですが、その多くがExcelで作られています。これをSaaS型のツールに落とし込むと従来の業務との乖離が起きるのですが、AnaplanのプラットフォームはUI/UXもExcelライクで、既存業務とのギャップを少なくできました。こういった要素も、Anaplanを採用することで得られたメリットだと感じています」(今井)

発注数量の管理画面

発注数量の管理画面

福田氏は、鉄鋼流通ならではの業務ロジックをシステムに落とし込むところや、セキュリティ面での対応といった部分で、Anaplanのソリューションの強みが活かせたと語る。

「同じ鉄鋼業界でも商流がさまざまで、同じ商流でも製品の形状によって加工のプロセスが異なるため、業務に対する理解が必要になります。会社によって持ちたいデータの軸が違ってくるので、ローコードツールですばやく作って、お客様にフィードバックいただくというプロセスをクイックに回していく形で、現場に寄り添う効果的な仕組みを構築していきました。また、Anaplan基盤上で構築されたサービスを個社だけではなく複数の法人に提供していくことになるため、アクセス制限などのセキュリティ対策を講じる必要があったのですが、Anaplanにはこうした機能も実装しています。ここも評価をいただいたポイントの1つでした」(福田氏)

福田氏は、「開発初期は、最小限の機能を実装して、お客様からのフィードバックを得ながら開発していくMVP(Minimum Viable Product)アプローチで進めていきました。その後は仕様検討の打ち合わせの場で、現場担当者の意見を取り入れながらクイックに機能を実装していきました」と開発の流れを補足し、パターンオーダー的な形で、加工あり、加工なしといった顧客ごとのパターンを準備していったと当時を振り返る。こうしたMVP機能選定や、その後の追加機能実装にあたっては、三菱商事が主体となり、マーケットリサーチで得た知見を存分に素材店売り在庫最適化ツールの機能に活かしているという。こうして1社につき約2カ月というスピーディな導入が可能になった。

統計理論を用いて発注業務の標準化・効率化を実現し、現場のマインド変革までを密接にサポート

こうして3社の共創により開発された「素材店売り在庫最適化ツール」は、「M-Stock」の名称でサービス化し、2023年10月より提供を開始。すでに複数の流通・加工業者が導入し、統計理論にもとづく在庫の適正化に成功している。今井は、「M-Stockの導入により、人の意思にもとづいた発注数量算出では拭えなかった欠品や過剰在庫のリスクを軽減できると期待する声をいただいています」と手応えを口にする。

福田氏も、「在庫最適化の要となる統計予測の機能で、より精度の高い需要予測が可能となっています。実際に従来の業務における予測データと比較したところ、本ツールの予測精度が高いという結果が出ています。現場の発注担当者からは、よく業務を理解し、きめ細かく作り込まれていているといった評価をいただきました」と語り、現場から評価されていることを喜ぶ。

また、M-Stock導入で、在庫の約40%圧縮、在庫管理工数の80%削減を見込むユーザーもあり、在庫適正化と業務効率化の両面で確かな効果が実現されつつある。さらに属人化の解消にも寄与しており、これまで特定の社員のみが対応していた発注業務を標準化できたという喜びの声も聞こえてきているという。

三菱商事の担当者とともに導入企業の現場に出向き、実際に導入を支援した今井も、現場の反応から確かな手応えを実感していると話す。

「M-Stockのようなツールは、いかに使ってもらうかが重要です。流通・加工業者の現場にはITに慣れていない方も多く、まずはプロダクトに信頼感を持ってもらうところから始め、導入されるお客様のマインドを変えるところまでをサポートさせていただきました」(今井)

他素材への展開から、その先の社会貢献までを視野に入れ、3社の共創は続く

本プロジェクトで得られた成果を踏まえ、三菱商事、NTTデータ、Anaplanジャパンの3社では、先ずは鉄鋼店売り領域の流通・加工事業者へのサービス提供拡大を図り、過剰在庫の圧縮、発注業務の工数削減を通じてカーボンニュートラルに貢献していく構えだ。さらに特定の需要家向けに内示を受領しながら在庫を仕入れていく鉄鋼紐付き領域や、他素材への横展開、海外展開も検討しているという。

初期段階から責任者としてプロジェクトを牽引したNTTデータ 第一インダストリ統括事業本部 機械・電機・建設事業部 第一ビジネス統括部の三野 浩数は、デジタル技術を用いて、お客様のサプライチェーンマネジメントにおける課題を解決してきたいと今後の展望を口にする。

第一インダストリ統括事業本部 機械・電機・建設事業部 第一ビジネス統括部 三野 浩数

第一インダストリ統括事業本部 機械・電機・建設事業部 第一ビジネス統括部
三野 浩数

「素材流通業界には、古い商習慣が根強く残っており、さまざまな課題が顕在化しています。今回のM-Stockで支援した領域は、その一部に過ぎません。サプライチェーン、すなわち物量の管理と金額の管理を合わせて行いたいというニーズはありますが、Anaplanのソリューションは、業務に合わせた“箱”を作って、つなげていくという作りです。そのため法人をまたぐ業務や、サプライチェーンと財務という異なる領域を一元的に管理することができますので、当社はAnaplanと連携しAnaplan企業間連携パッケージをより展開していきたいと考えております。」(三野)

三菱商事株式会社 産業素材DX部 次長 素材DXプロダクトマネージャーの栗本氏は、M-Stockの今後の展望について、「店売領域以外にも、鉄鋼紐付領域や他素材への横展開を検討しています。将来的には海外展開も視野に入れていきたいですね」と話す。

「M-Stockを店売領域の多くの企業にご利用いただくことで、鉄鋼業界の店売分野における過剰在庫の圧縮、欠品リスクの低減、発注に伴う業務工数の削減などあらゆる課題に貢献していきたいと考えています」(栗本氏)

現場の業務に寄り添いながら、鉄鋼を皮切りに素材流通業界のDXを加速させた、三菱商事、NTTデータ、Anaplan。今後も3社の連携により、社会課題の解決に貢献していく姿勢だ。

M-Stockの詳細はこちら:
https://www.m-stock-series.jp/

Anaplan Japanの詳細はこちら:
https://jp.anaplan.com/

SCM高度化を実現する「Anaplan企業間連携パッケージ」
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/032700/

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