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1.運輸業界の課題
コロナ禍を契機としたEC市場の拡大を背景に、配達現場では顧客接点における一層の効率化が求められてきました。小売業界ではクレジットカードのタッチ決済(NFC)が広く浸透する中、運輸業界においても決済のあり方を見直す期待が高まりつつありました。
NTTデータ ペイメント事業本部 ペイメントインテグレーション事業部 部長
三木 孝浩
NTTデータ:三木
小売りの現場では、タッチ決済が当たり前になりつつあります。Visaが2026年10月に、全加盟店でタッチ決済を義務化する方針を示しているなど、業界全体としてもタッチ決済へのシフトが進んでいます。こうした流れの中で、運輸業界、とりわけ配達の軒先においても、同様の決済体験を求める声はあったのでしょうか。

ヤマト運輸株式会社 デジタル推進一部 産業軸ソリューション推進課 担当課長
谷口 順一 氏
ヤマト運輸:谷口氏
本サービス導入前は、クレジット決済は代引きのみでご利用可能となっていて、以前からお客さまからは運賃(配送料)をクレジットカードでお支払いしたいという要望を多くいただいていました。加えて、小規模小売店舗で既に普及が進んでいるタッチ決済にも対応したほうがお客さまの満足度は高いと考えていましたが、実現には従来の決済端末や構成を見直す必要がありました。それまでも配送管理用の業務端末に加えて、携帯電話、バーコードスキャナ、モバイルプリンタ、決済端末などを一人のドライバーが持ち歩き、操作する端末が最大で5台に及ぶケースもありました。
そのため、単に新しい決済手段を導入するのではなく、現場のオペレーション負担軽減も同時に実現したいというのが、当時の課題認識でした。
2.ヤマト運輸の先進的な取り組み
こうしたニーズの高まりや課題認識を背景に、ヤマト運輸ではどのような検討が行われ、どのような判断が下されたのか。意思決定の背景について、谷口 氏に話を伺いました。
ヤマト運輸:谷口氏
「この先も同じ構造を維持するのか」、「10年先を見据えて業務をどう変えるのか」という問いから始まりました。ヤマト運輸には、ドライバーが決済端末を携行しなければクレジットカード・電子マネーを決済できないという構造的な”負”とも言える点がありました。今後のタッチ決済対応カードの普及状況を鑑み、その点に踏み込んだ取り組みを今こそやる価値があると判断しました。
NTTデータ:三木
今回の検討の中で印象に残っているのが、クレジットカード決済について、磁気リーダーやICカードリーダーを搭載せず、タッチ決済に振り切るという判断でした。当時は、タッチ決済がまだ完全に普及しているとは言えない状況でもあり、業務用ハンディ端末に決済機能を搭載することで専用の決済端末をなくせる一方、従来型のクレジットカード決済が使えなくなる点については、社内でも議論があったのではないかと思います。この点について、御社の中ではどのようなやりとりがあったのでしょうか。
ヤマト運輸:谷口氏
正直なところ、その点は社内でもかなり議論になったポイントです。おっしゃる通り、業務用ハンディ端末に決済機能を集約することで、ドライバーが持ち歩く専用の決済端末をなくせる一方で、磁気やICカードによるクレジットカード決済が使えなくなる、という決断が必要でした。そこで、NTTデータさんに調査いただき、タッチ決済対応のクレジットカードの普及状況や今後の見通しなど、クレジットカード業界の動向も含めて説明を受けました。
その結果、国際ブランド全体でタッチ決済対応のクレジットカードの発行が急速に進んでいることや、日本では多くの方が複数枚のクレジットカードを保有していることが分かりました。こうした前提を踏まえ、現場負荷を解消できるタイミングと、当社としてタッチ決済に対応すべきタイミングを総合的に判断しました。長期的に見れば、タッチ決済に寄せることで顧客満足度を維持、拡大できると考え、この判断に至りました。
3.NTTデータの提言と選定理由
運輸業界特有の要件を踏まえた提言や、実現性の高いアプローチが求められる中、ヤマト運輸はなぜNTTデータを選択したのか。その背景にある評価ポイントや提案内容について伺いました。
NTTデータ:三木
検討の過程では、他社からもさまざまな提案があったと思います。その中で、NTTデータのADAPTIS In-Store Tap to Payを選定いただいた理由について、改めて教えてください。
ヤマト運輸:谷口氏
選定にあたって重視したのは、「仕組みとして成立するか」だけではなく、未成熟なタッチ決済という市場において、市場を巻き込んで実運用まで責任を持って伴走してもらえるか、という点でした。当時、PCI MPoC/CPoC(※)のような汎用(はんよう)デバイスでのクレジットカード決済を規定する業界標準は、主に小規模店舗、いわゆる個人商店での利用を想定して整備されていて、私たちのように数万台規模の端末を一つの企業体で運用するケースは、十分に想定されているとは言えない状況でした。
同様に、VisaやMastercardといった国際ブランド、電子マネー各社のレギュレーションについても、そのままでは適合できない点や、解釈が不明瞭な部分が少なからずありました。そのため、単に仕様を実装するだけではなく、各種機関やブランドとの調整・確認を重ねながら、運用として成立させていくプロセスが不可欠でした。NTTデータさんは、こうした前提を最初から理解した上で、「どこがボトルネックになるか」「調整が必要になるのはどこか」を見極め、実際に各関係機関への働きかけも含めて推進してくれました。NTTデータさんの、その調整力と実行力こそが他社との大きな違いであり、最終的な選定理由だったと感じています。
スマートフォン、タブレット等市販の汎用端末を決済端末として安全に利用するために、PCI SSC(PCI Security Standards Council) が定めるセキュリティ基準。
4.プロジェクトを通じて直面した技術的チャレンジとその克服
このプロジェクトには、運用規模や構成の特性から、技術面でもいくつか大きなチャレンジがありました。特に工夫した点や印象に残っている取り組みについて伺いました。
ヤマト運輸:谷口氏
操作目線から見ると、技術的なチャレンジは大きく二つあったと思います。
一つ目は、専用の決済端末ではなく、汎用デバイスで、現行と遜色ない決済スピードを実現することです。今回の構成では、業務用ハンディ端末に決済機能を組み込む形を取りましたが、ドライバーが現場で使っている端末の中には、2016年頃から運用している機種もありました。
そのため、「本当に今までと同じ決済スピードで使えるのか」は、非常に大きな懸念でした。
もう一つは、6万台を超える端末が、一斉に決済を行うようなピーク時の業務集中に耐えられるかどうかです。
配達の集中する時間帯に決済が重なっても、現場の業務を止めないことは絶対条件でしたので、ここは最後まで気を使ったポイントでした。
NTTデータ:三木
技術的な観点から補足すると、一つ目の決済スピードについては、端末のスペックに依存せず、システム全体の設計でどう体感性能を揃えるかがポイントでした。最新端末を前提にするのではなく、既存端末でも現行と遜色のないレスポンスタイムを出すために、アプリケーション構成や処理フローを含めて見直しを行いました。結果として、現場の操作感を変えずに利用できるレベルに到達できたと考えています。
二つ目の業務集中については、本番に近いピーク特性を事前にどう再現するかが最大の難所でした。6万台規模が同時に動作する環境では、単一システムの性能だけでなく、複数のソリューションが連携する中で、どこがボトルネックになるのかを特定する必要があります。今回の構成には海外の決済ソリューションも含まれていたため、問題発生時には、日本の配達現場で何が最優先かを正確に伝え、迅速に対応してもらうことが不可欠でした。NTTデータは海外の決済ソリューションパートナーとの強固な連携体制に加え、グローバルに展開する拠点ネットワークを活用することで、現地との円滑なコミュニケーションを実現。技術的な課題が発生した際も、海外拠点がパートナーと密接に連携しながら迅速に対応できたため、問題の早期解決につながりました。
5.苦労を乗り越えた大きな成果
プロジェクト期間19カ月という大型協働プロジェクト。多くの困難を乗り越え、ついにサービス開始。ADAPTIS In-Store Tap to Pay導入による成果について伺いました。
ヤマト運輸:谷口氏
成果としては、運賃の支払いにクレジット決済を使えるようにしたことで、現金の取り扱いが減った点が挙げられます。決済専用端末をなくしたことと相まって、期待通り、現場オペレーション負担軽減につながっています。
コスト面では、自社グループで運営していた電子マネーセンターを廃止し、固定資産として保有していた設備を、サービスとして利用する形に切り替えられました。結果として、決済に関わるコスト構造を見直すきっかけにもなっています。
NTTデータ:三木
現場やお客さまからの反応はいかがですか?
ヤマト運輸:谷口氏
運賃の支払いにクレジットカードを使えるようになり、お客さまには大変好評です。ドライバーや受付担当からも「以前から運賃のクレジット決済を求められることが多かったので、対応できて良かった」「現金のやりとりが減り、業務負荷が軽減され楽になった」「携行する端末が少なくなって良い」といった前向きな声が寄せられています。
6.今後の展望
物流を取り巻く環境や、配達の軒先における顧客ニーズは、今後も変化し続けていきます。そうした中で、決済の仕組みが変化を阻害するのではなく、柔軟に追随できる存在であることは、サービス設計において重要な要素となります。ADAPTIS In-Store Tap to Payを導入したことで、ヤマト運輸の決済基盤はどのような可能性を広げたのか。今後に向けた考えを谷口 氏に伺いました。
ヤマト運輸:谷口氏
ADAPTIS In-Store Tap to Payの価値は、やはり決済を専用端末の世界から切り離し、業務アプリの中で完結して扱えるようになった点にあります。今後も、ヤマト運輸の軒先でのお客さま向けサービスは、時代に合わせさらに変化していきます。特別な開発を重ねなくても変化に追随できることが、ADAPTIS In-Store Tap to Payに期待している大きな役割です。


ADAPTISについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/adaptis/
ADAPTIS In-Store Tap to Payについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/adaptis-instore-tap-to-pay/