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2026.10.1技術トレンド/展望

製造業のデジタルツイン実用化に向けた課題と取り組み

製造業でデジタルツインの実用化を広げるには、業務に応じた機能を開発するだけでなく、異なる設備やシステムをつなぐ「相互運用性」と、機能や連携方法を再利用できる「再利用性」を高めることが重要である。デジタルツインの価値は、現実の状態を仮想空間に反映した上で、そこでの分析や予測の結果を人の意思決定や現実側の動作につなげることである。一方、製造業では工場や設備ごとにデータの取得方法が異なるため、OT領域のデータをデジタルツインで利用可能な形に連携する設計が課題となる。NTT DATAはDTCのCOMPOSE Testbedを共同でリリースし、こうしたデジタルツインの標準化を推し進めている。
目次

1.デジタルツインが製造業にもたらす価値

デジタルツインは、現実の状況をデータで捉え、分析や予測を行い、その結果を人の意思決定や現実の動作に反映することで、業務の高度化を支える技術です。デジタルツインの普及を推進する国際コンソーシアムであるDigital Twin Consortium(DTC)は、デジタルツインを以下のように定義しています。

A digital twin is an integrated data-driven virtual representation of real-world entities and processes, with synchronized interaction at a specified frequency and fidelity.

日本語にすると、現実世界の対象やプロセスをデータに基づいて仮想空間に統合的に表現し、所定の頻度と忠実度で、現実世界と同期しながら相互作用するものと捉えることができます。

「with synchronized interaction」とあるように、注目したいのは現実と仮想の相互作用です。デジタルツインの活用は、現実の状態を仮想空間に反映することにとどまりません。分析や検討の結果を人の意思決定に生かすほか、用途やシステム構成によっては、その結果を設備の制御や業務処理へ自動的に反映することもできます。

たとえば製造業では、設備の状態から故障の兆候を捉えて保全時期を検討したり、生産条件の変化に応じて複数の計画を比較し、より適した計画を選択することができます。

こうした活用には、設備や工程をモデル化するだけでなく、稼働中のデータを用途に応じた頻度で取り込み、現実の変化を仮想空間に反映し続ける仕組みが必要です。さらに、モデルと現在・過去のデータを用いて、状態把握、分析・予測、条件を変えた場合の挙動の評価、最適化などを行う機能を組み合わせます。これらの処理を、判断や動作への反映まで一連の流れとしてつなぐことで、業務で活用することができます。

2.実用化に向けたデータ連携の課題

しかし、設備から取得したデータが、そのままデジタルツインシステムで使えるとは限りません。
情報通信技術を指すITに対し、工場などの設備の制御・運用に関わる技術領域はOT(Operational Technology)と呼ばれます。製造業のデジタルツインでは、OT領域にある設備やシステムから得られるデータを、分析や計画に活用するシステムへつなぐ必要があります。

たとえば、設備の異常を素早く検知する用途と、過去の稼働傾向を分析する用途とでは、必要なデータや更新頻度が異なります。加えて、工場には異なるメーカーや世代の機器が混在し、取得できるデータや接続方式も一様ではありません。用途の要件と設備側の条件を踏まえ、データをどのように取得・処理し、利用するシステム側へ連携するかを設計する必要があります。

接続方法やデータの表現を共通化する手段として、OPC UAなどの産業用データ連携の標準規格が有効です。こうした規格を活用しながら、データがどの設備のどのような状態を表しているのか、利用するシステム側でも正しく解釈できるよう、設備や工程との対応関係を整理します。その対応関係や接続設定の変更を管理し、継続的に利用できる仕組みを整えることも重要です。

これらを設備や用途ごとに専用の仕組みとして構築すると、機能の追加や他拠点への展開の際に、接続やデータ変換を改めて作り込むことになりかねません。個別統合の積み重ねは、導入のコストや複雑性を増やす要因になります。

業務に合わせた設計を維持しながらこの負担を減らすには、異なるシステムがデータを利用し合い、連携して動作する「相互運用性」と、一度構築した機能や連携方法を別の用途でも生かす「再利用性」を高めることが重要です。

3.相互運用性・再利用性を高めるCOMPOSE Testbedのアプローチ

こうしたデータ連携や統合の負担を減らすための設計を検証する取り組みが、NTT DATAが主導する「COMPOSE Testbed」です。2026年9月に、DTCが推進するデジタルツインの開発・検証プロジェクトの1つとして、DTCとNTT DATAが共同で発表しました。用途や業務が違えば、必要な分析や判断の方法も変わります。そのため、1つの構成を一律に適用するのではなく、業務に必要な処理を選び、組み合わせられることが重要です。

そこでCOMPOSEは、データ取得、分析、可視化など、デジタルツインシステムを構成する各機能を疎結合にすることを設計の核に据えています。標準規格や明確な接続仕様を活用し、複数ベンダーの技術を組み合わせられる構成をめざします。共通的に使える機能と用途固有の処理を分け、業務に合わせた構成を取りながら、機能の追加・交換や再利用をしやすくする考え方です。

この設計の有効性を確かめるためにCOMPOSEが用いるのが、工場の工程の一部を模した「マイクロファクトリーシステム」です。産業用の制御装置(Programmable Logic Controller、PLC)で機器を動かし、稼働時に得られるデータを使って、データ取得、分析、可視化などの技術要素が連携して動作するかを検証します。この検証は、DTCに参加する企業や研究機関との協力の下で進めます。複数の組織が開発した技術を同じ環境で接続し、そこで得られた知見を、再利用しやすい構成や連携方法の検討に生かします。

NTT DATAの日本チームはCOMPOSEの考え方を実際のスマートファクトリーデモとして展開し、複数の技術(スマートロボティクス、数理最適化、デジタルヒューマン)を接続することでデジタルツインの活用シナリオを拡張してきました。

図1:スマートファクトリーデモのイメージ

たとえばスマートロボティクスとの連携では、設備から直接取得できるデータだけでは把握しにくい設備情報を補うために、四足歩行ロボットを新たなデータソースとして接続しました。ロボットが取得・判定した情報を、NVIDIA Omniverseを用いて構築された仮想工場にもアラートとして反映しています。

一方で、受注条件や電力コストなどを考慮した生産計画を作成し、その計画に沿ってマイクロファクトリーシステムを動作させることで、仮想空間で算出した計画を物理側へ反映する連携も実装しました。さらに用途によっては、すべての判断を自動化するのではなく、人が状況を確認しながら意思決定する運用も考えられます。こうした場面で人とデジタルツインをつなぎ、意思決定を支援するインターフェースとして、デジタルヒューマンもシステムに接続しています。

これらの技術を組み合わせたスマートファクトリーのデモは、NTT R&D FORUM 2025やNTT DATA Foresight Day 2026で展示し、デジタルツインに異なる技術を接続して活用シナリオを広げる取り組みとして紹介してきました。

図2:NTT DATA Foresight Day 2026における展示の模様

これらの取り組みでは、既存のマイクロファクトリーシステムの基盤を再利用しつつ、その上に用途の異なる技術要素を追加することで、活用シナリオを拡張してきました。共通の基盤を生かしながら必要な機能を組み合わせていくこの構成は、COMPOSEがめざす再利用しやすいデジタルツインの考え方にも通じます。

4.デジタルツイン実用化に向けて

このように、製造業の課題解決に活用できるデジタルツインの実用化を広げるには、業務に応じた機能の開発に加え、それらを支える技術要素を連携・再利用しやすい形にすることが重要です。システムの相互運用性と再利用性を高めることは、活用対象を他の設備や用途へ広げるための土台になります。

COMPOSE Testbedは、データ取得や分析、可視化などを担う技術要素を実際に組み合わせながら、どのような構成や連携方法を再利用可能にできるかを検証し、知見として蓄積していく取り組みです。そこで得られた知見は、DTCにおけるベストプラクティスや参照アーキテクチャの検討、さらには相互運用性の向上や将来の標準化に向けた議論にも活用されます。私たちNTT DATAも、知見を今後の設計に生かし、デジタルツインの構築・展開の負担を減らすことで、さらなる実用化をめざします。

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