約3000種のAIエージェントを検討中
AIの急速な進化は、さまざまなビジネスの形を変えようとしている。金融機関の業務もその1つだ。〈みずほ〉はAIの活用に積極的に取り組み、業務を変革しつつある。
2026年4月からは、AI活用の推進役として、自ら手を挙げた社員を「AIコーチ」に任命、グループ全体で約1900人を配置し、業務部門とAI推進の中核部隊であるデジタル戦略部が一体となって業務変革を加速させる体制を構築した。各現場でAI活用の推進を後押しすることで、時間短縮や業務品質向上などの効果が出ているという。
「例えば、AI作成の議事録では記録の抜け漏れが起こりにくく、情報伝達の質を高めることができます。また、現場ごとの対応のバラツキを抑えることで、組織全体のパフォーマンスの引き上げにもつながると期待しています」と語るのは、みずほフィナンシャルグループの藤井 達人 氏である。

みずほフィナンシャルグループ 執行役員 デジタル戦略部長 Chief AI Officer
藤井 達人 氏
〈みずほ〉の業務の現場では、さまざまなAIエージェントの実証実験が進行している。法人営業における、制度融資の選定・提案を支援するAIエージェントはその一例だ。利用者へのアンケートでは全体平均41.8%、若手層では52.2%の業務時間短縮効果があったという回答が得られている。
「今後、AIの性能や自律性は向上し続けます。人が中心でありながらAIがプロセスを支援・駆動する形への移行が、少しずつ進行していくと考えています。そこで、どのようなAIエージェントが必要か、検討作業を進めています」と藤井 氏は話す。2026年6月末の時点で、実証実験中のものを含めて約3000種のAIエージェントがリストアップされており、将来的に数万規模になる可能性もあると展望を語る。
各業務を支援するAIエージェントは、担当者にとっては便利な存在だ。それだけに、現場任せにすれば、似たようなものが複数つくられたり、品質に大きな違いが生じたりする懸念がある。何よりも、各現場がイチからAIエージェントを開発するのは非効率だ。そこで、〈みずほ〉はAIエージェントの量産化と品質の標準化を短期間で実現する仕組み「エージェントファクトリー」を構築した。
将来的には数千ユーザーが「Dify」を活用
「エージェントファクトリーは共通基盤と標準テンプレートを活用し、開発から評価・改善まで一気通貫で支える仕組みです。そこには『Dify』が組み込まれており、非エンジニアでもノーコードでAIエージェントをつくれます」(藤井 氏)
Difyは米LangGenius(ラングジーニアス)が提供する、オープンソースの生成AI開発プラットフォームである。AIエージェントや複雑なAIワークフローなどを簡単に作成し、運用できることから、日本を含む世界各国で人気を集めている。Difyには一般的なオープンソース版とエンタープライズ版があり、〈みずほ〉は後者を利用している。
Difyの日本での展開において、NTTデータは大きな役割を担う。NTTデータの新井 貴博は次のように説明する。

Dify協会 理事/NTTデータ 社会DXコンサルティング事業本部 第四SDC事業部 Managing Director
新井 貴博
「Difyが公開されてすぐに、LangGeniusとNTTデータは協力関係を結ぶことになりました。当社はパートナーとして、Difyを単独のツールとしてではなく、当社グループが有する業界知見やAIソリューションと組み合わせることで、お客さまの構想策定から業務実装、運用定着までを一貫して支援しています」(新井)
Difyの普及や日本におけるAI活用の推進を目的として、2025年9月にNTTデータはLangGeniusとともに一般社団法人Dify協会を設立した。「ユースケースや実践知の共有、人材育成、企業間の共創を通じて、日本企業全体のAI活用を加速するオープンかつ共創的なAIエコシステムづくりを推進しています」
Dify協会にはITベンダーだけでなく、ユーザー企業や個人ユーザーも参加している。そして新井は、Dify協会の理事も務めている。NTTデータがDifyをAI実装の有力な選択肢として位置づける理由は、その優れた機能や企業利用に適した特性ゆえである。
「専門的なプログラミング知識がなくても現場主導でAI開発ができるので、ビジネスを俊敏に動かせます。同時に、エンタープライズ版は高度なセキュリティやアクセス制御機能を備えており、企業利用に必要なガバナンスや内部統制にも対応できます」と新井は話す。
例えば、ワークフローとして処理内容や判断プロセスを可視化するため、再現性が確保される。また、AIがどの情報に基づき、どのような手順で結果を導いたのかを容易に追跡できるため、企業利用において求められる説明責任や監査対応にも適している。
「俊敏性と信頼性を両立できるのはDifyの最大の特長で、企業が安心してAIを業務へ組み込むためのプラットフォームだと考えています」。新井はDifyの特長をこう説明する。
〈みずほ〉では、デジタル戦略部のメンバーを中心に、まずオープンソース版のDifyを使ってみたという。「想定していたのは技術者以外の利用です。Difyはノーコードで扱いやすく、AIエージェントを簡単に試作して機能を確認することができました。オープンソース版でユーザーの評価が高かったので、エンタープライズ版の導入に踏み切りました」と藤井 氏は導入の経緯を説明する。
NTTデータによる支援の下、4カ月ほどの構築期間を経て2026年5月、複雑なクラウド基盤や金融機関ならではの厳格なセキュリティ要件に対応した〈みずほ〉のエージェントファクトリーにDify Enterpriseが実装された。藤井 氏はこう続ける。
「現在、デジタル戦略部を中心に40~50人の社員がDifyを使っています。ツールが直感的で取り組みやすいので、現場で気軽にAIエージェントの試作を始められる雰囲気が広がっています。また、業務で使うアプリケーションを実装するための基盤であると同時に、RAGのような仕組みを実際に作りながらAIエージェントの仕組みや動きを理解できるため、人材育成や社内の理解促進という面でも有効だと考えています。他の部門からは『Difyを早く使いたい』と期待の声も届いています。近く各部門に展開する予定で、将来的には数千人規模で利用することになるでしょう」
AIエージェントが企業の課題を解決する
Difyは日本企業の間に広がりつつある。新井に他の事例を紹介してもらった。
まず、審査準備の高度化効率化に取り組んだA社の事例だ。人による審査準備では、一定確率で見逃しやミスが生じる。誤りがあれば手戻りも発生する。A社は以前からRPAを使って定型業務を効率化していたが、その前後にある文書確認や判断材料の整理といった非定型業務にDifyを適用。既存の基幹システムやRPAと連携させることで、大規模な改修を行うことなく、一連のプロセスを自動化した。
もう1つの事例は、大量・多様な情報の整理に課題を感じていたシンクタンクB社へのDify導入である。B社はコア業務である情報分析などに集中するため、前処理的な業務の効率化をめざしている。NTTデータの現場駆動型エンジニア(FDE:Forward Deployed Engineer)とコンサルタントが現場に深く入り込み、Difyを使ってAIエージェントなどのアプリケーションを開発し、短サイクルで改善・修正を繰り返している。業務プロセスの高度化・効率化が着実に進んでいるという。
〈みずほ〉におけるAIエージェント活用は、これから本格化する。
「AIエージェント駆動型に一気に変わるわけではありませんが、人は徐々にAIエージェントの設計・構築、プロセスの管理・監視といった役割にシフトしていくでしょう。AIエージェントを活用していかに業務品質を高め、効率化を図るかを考えるのは、人の重要な仕事です。AIエージェントによって人の能力が引き出され、拡張される、そのような状態の実現をめざしています」と藤井 氏は将来展望を説明する。
一方の新井は、Difyのさらなる普及を通じて、日本企業の課題解決に貢献したいという。「人材不足の時代、AIへの期待は高まっています。Dify協会は、オープンな共創エコシステムとして日本企業がAI活用をより実践的に進められる環境づくりを進めます。NTTデータとしては、お客さまの構想策定から業務設計、AI実装、運用定着、人材育成までを一気通貫で支援し、AIを前提とした業務変革を実現します。それぞれの立場から、日本企業全体の競争力向上に貢献したいと考えています」
AIの本格的なビジネス活用は、まだ始まったばかりだ。〈みずほ〉のみならず、今後はさまざまな企業から先進的なユースケースが報告されるだろう。

