1.はじめに
NTTデータでは、自らを「クライアントゼロ」と位置づけ、Salesforceを中核とした全社営業プラットフォームの構築を進めてきました。
全社営業プラットフォーム構築の背景や営業プロセス変革に向けた取り組みについては、これまでのDATA INSIGHT記事で紹介しています。
こうした取り組みを通じて営業情報を蓄積・活用できる環境が整いつつある中で、私たちはその先の活用についても検討を進めています。
私たちがめざしているのは、「営業が意のままに情報を活用できる環境」の実現です。
営業担当者が必要な情報を探し回るのではなく、必要なタイミングで必要な情報を活用しながら意思決定できる。そのような営業活動の実現をめざしています。今回は、その将来像を具体化する取り組みの一例として、営業AIエージェントを題材に、AIとBIをどのように組み合わせれば業務成果につながるのか、また、そのためにどのような設計が必要なのかをご紹介します。
2.営業AIエージェントの実践モデル
今回私たちが着目したのは、営業プロセスの中でも「商談準備」です。
商談準備は、お客さまを理解し、仮説を立て、提案の方向性を検討する重要なプロセスですが、多くの情報収集や整理が必要となり、成果が担当者の経験やスキルにも左右されやすい領域でもあります。
そこで、商談準備を題材に営業AIエージェントを検討しました。重要なのは、単にAIで作業を代替することではなく、情報収集から仮説立案、検証、商談設計、アクション実行までの流れを支援することです。
今回ご紹介する営業AIエージェントは、その考え方を形にした一例です。重要なのは同じ仕組みを導入することではなく、自社の課題を理解した上で、どこにAIを活用するのかを設計することにあります。
図1:AIで変わる商談準備:As-Is/To-Be
生成AIは情報収集や仮説立案を得意としています。一方で、その仮説が本当に有効なのかを判断するためには、実際の業務データによる検証が欠かせません。今回の取り組みにおけるポイントは、情報収集や仮説構造化を生成AIで実施するだけではなく、集約された営業情報をもとに、その仮説が有効であるかを検証し、さらにその後のアクションまで落とし込んでいく点にあります。
具体的には、AIが生成した仮説を、Salesforce上に蓄積された営業データと比較・評価し、その結果をTableauによって可視化することで、人が根拠を確認しながら判断・実行できる状態を実現しています。
また、データをセマンティックモデルとして整理することで、表現や言い回しが変化したとしても、同じ評価軸で仮説を説明し、判断できるようにしています。
3.成果を出すための設計原則
営業AIエージェントの検討を通じて、私たちは、AIエージェント導入にあたり、「何を解かせるのか」と「何を根拠に判断させるのか」の設計が重要だということをあらためて実感しました。
今回の取り組みでは、この考え方を「解く課題」と「使えるデータ」という2つの観点で整理しました。
まず重要なのが「解く課題」です。AIを業務へ適用する際には、業務プロセスを分解し、どこにボトルネックがあるのかを見極める必要があります。私たちの検討では、情報収集や仮説立案、意思決定から業務アクションに至るまでの流れを整理し、その中でAIが支援すべきポイントを特定しました。重要なのは、AIをどこに適用するかではなく、どの課題を解決するために活用するのかを明確にすることです。
もう一つが、「使えるデータ」です。生成AIは仮説を生み出せますが、その妥当性を判断するためには検証できるデータが欠かせません。そこで、業務データをセマンティックモデルとして整理し、AIの出力を同じ判断基準で評価できる状態を整えました。AI活用で重要なのはツールそのものではありません。業務のどこに課題があり、それをどのデータで検証するのか。その設計こそが、AIエージェントを生産性向上だけでなく成果創出につなげる鍵になると私たちは考えています。
図2:AIエージェントによる業務改革に必要な2つの設計ポイント
4.AI×BIを支える実装アプローチ
営業AIエージェントの実現にあたり、私たちが重視したのは「AIを業務の中で再現性高く活用すること」です。そのために、重要な技術要素として、「ハーネスエンジニアリング」「MCP」「セマンティック」という3つを軸に設計しました。
図3:営業AIアシスタントを支える3つの技術要素
AIを安全かつ適切に業務に組み込むためのハーネスエンジニアリング
生成AIは情報整理や仮説立案を得意としていますが、その自由度の高さゆえに、期待した結果を安定して得られるとは限りません。そこで着目したのがハーネスエンジニアリングです。
ハーネスエンジニアリングとは、AIモデルの外側で、AIエージェントが業務フローに沿って安全かつ適切に動作できる環境を設計する考え方です。繰り返しになりますが、生成AIは、情報の要約や仮説構築に強みを持つ一方で、業務利用では、根拠が曖昧な判断や意図しないデータ登録・更新につながるリスクがあります。
そのため、今回の営業AIエージェントにおいては、商談準備のプロセスを「調査」「仮説構築」「実データ検証」「商談準備」「TODO登録」に分解し、各ステップで利用するツールや出力形式を制御しています。例えば、仮説構築では生成AIを活用し、実データ検証ではTableau Next MCPを通じて、定義済みの指標や比較母集団に基づき仮説を確認します。
また、判断を伴う検証や業務システムへの書き込みについては、人が確認したうえで実行する設計としています。AIにすべてを任せるのではなく、どこまでをAIに任せ、どこで人が確認し、どの業務アクションまで進めるかを設計することが、今回の営業AIエージェントにおけるハーネスエンジニアリングの役割です。
AIと業務システムをつなぐMCP
業務フローを設計するだけでは、AIは必要なデータやシステムへアクセスできません。その役割を担うのがMCPです。営業AIエージェントでは、Tableau Next MCPとSalesforce Hosted MCPを活用しています。Tableau Next MCPでは、AIが出した仮説を定義済みの指標や比較母集団に基づいて検証し、Salesforce Hosted MCPでは、商談情報の参照や確認後のTask作成に活用しています。
ただし、AIが業務システムを自由に操作するわけではありません。利用できる権限は制御されており、必要に応じて人の確認を経て業務アクションへ進みます。MCPは、AIを業務アクションに近づける有効な仕組みですが、安全に活用するには、どのToolを、どの権限で、どこまで実行させるかを設計することが重要です。
人とAIの判断基準を揃えるセマンティック
AIが業務判断を支援するためには、人とAIが同じ意味でデータを理解している必要があります。例えば「受注率」や「類似案件」といった指標も、比較条件によって意味が変わります。こうした定義が曖昧では、AIの回答も安定しません。
そこで、業務用語、KPIや比較条件、データ間の関係性を事前に定義し、AIがその定義に沿ってデータ参照できる状態にしています。今回の営業AIエージェントでは、AIが出した仮説を、課題類似条件やスコープ類似条件に基づき、類似案件数、提案到達率、受注率、停滞要因といった定義済みの指標で検証しています。
重要なのは、AIが自由にKPIや類似案件を作るのではなく、人が定義した分析シナリオや指標に基づいて仮説を検証することで、AIの出力を単なる思い付きではなく、営業判断に活用しやすい形に近づけています。
このように、ハーネスエンジニアリング、MCP、セマンティックを組み合わせることで、AIを単なる生成ツールではなく、業務の意思決定を支援するエージェントとして活用できるようになります。
5.BIとAIエージェントがつながる未来
ここまで、営業AIエージェントを例に、AI×BI活用の考え方と、それを支える設計・実装アプローチについて紹介してきました。
BIの価値は単にグラフを見ることではなく、データから仮説を立て、原因を探り、インサイトを得て、意思決定につなげることにあると考えています。
一方で、実際の業務では、ダッシュボード、DWH、Excel、Slack、メール、Salesforceなど複数のシステムを行き来しながら、人が解釈・判断し、アクションに落とし込む必要がありました。
しかし、今回ご紹介したハーネスエンジニアリング、MCP、セマンティックを組み合わせることで、AIは定義済みのKPIや分析シナリオを参照しながら分析を実行し、その結果をもとに次のアクション候補まで導けるようになります。
つまり、これまで人が行っていた「見る」「解釈する」「判断する」「実行する」という流れの一部を、AIエージェントが支援できるようになりつつあります。ただし、BIが不要になるわけではありません。定常的なKPI監視、会議での合意形成、AIの出力結果の確認において、BIは引き続き重要です。
これまでTableauなどで蓄積してきたデータ活用の資産は、AIエージェントの判断を支える重要な土台になります。これからはそうした資産を有効活用しながら、インサイトをどのように業務アクションへ接続するかがデータ活用における論点になると考えています。
6.まとめ
今回ご紹介した営業AIエージェントは、NTTデータがめざす「営業が意のままに情報を活用できる環境」を具体化する取り組みの一例です。本記事を通じてお伝えしたかったのは、AIエージェントそのものではありません。
重要なのは、AIを業務のどこに適用するのか、どのデータを根拠に判断するのか、そして得られたインサイトをどのように業務アクションにつなげるのかを設計することです。生成AIの登場によって、仮説を立てることや情報を整理することのハードルは大きく下がりました。一方で生成AIやAIエージェントの活用により業務変革を実現するためには、個別ユースケースの実装に留まらず、業務プロセス、データ、基盤、ガバナンス、人材・組織を連動させて推進することが重要です。
NTTデータでは、ビジネス課題を起点に、AI前提での業務変革構想、AI・BI活用による小さな成果創出、全社的な成果連携・運用定着までを見据えたオファリングを整理しています。構想策定からPoC、AI Readyなデータ基盤・セマンティック層の整備、AIエージェント実装まで、一体的にご支援しています。
図4:AI×データ活用による業務変革を加速する当社オファリング
- ※本記事は、2026年6月10日(水)に開催されたAgentforce World Tour Tokyo のNTTデータのセッションと、2026年7月10日(金)に開催されたウェビナー「AI×データが変える営業の常識-技術実践編」をもとに構成しております。


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https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/tableau/
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https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/salesforce/
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