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2026.9.9事例

財務DXを加速するFP&A改革-NTTデータが実践した「データ共通言語化」とは

業績管理に使う指標の定義やデータの粒度が部門ごとに異なり、数字を揃えるだけで手一杯に--多様な事業ポートフォリオや収益構造を抱える企業の財務部門では、珍しくない光景だろう。NTTデータグループの財務本部は、データ分析・自動化プラットフォーム「Alteryx」を活用し、経営管理データの”共通言語化”に取り組んできた。単なる業務効率化にとどまらない、FP&A業務改革の実践を紹介する。

※この記事は、TECH+2026年8月21日記事を転載したものです。

目次

「数字を集めて整えるだけ」への危機感

株式会社NTTデータグループ(以下、NTTデータグループ)は、NTTグループにおいてグローバル・ソリューション事業を担うITサービス企業だ。近年は事業拡大やグループの再編を背景に、財務部門を取り巻く環境も大きく変化してきた。

同社財務本部のFP&A(Financial Planning & Analysis:財務企画・経営分析)チームは、「NTTデータグループ全体の業績に関する意思決定を推進する」ことをミッションに掲げている。一方で、持株会社体制への移行、データセンター投資による固定資産の増加、13年ぶりとなる国内会計システムの刷新などにより、従来の業務設計を見直す必要が生じていた。

そのなかで顕在化したのが、業績管理データのサイロ化である。各組織は自らの事業特性に合わせて、指標の定義や集計粒度を個別最適化している。それ自体は自然なことだが、全社横断で業績を見ようとすると、部門ごとに異なる“数字の見方”が壁になる。

管理会計・事業計画を担当する高橋 秀尭は、当時の状況をこう振り返る。

NTTデータグループ 財務本部 Digital FP&A統括部 FP&A担当
高橋 秀尭

「それぞれの組織が独自の文化を持ち、独自の言語で業績を管理している状態でした。全社の分析をする前に、業績データの収集や調整に時間をとられてしまい、肝心の分析まで、なかなかたどり着けない状況に陥っていたのです」(高橋)

課題は、データを集める負荷だけではなかった。戦略的投資のような一時的要因と、事業そのもののパフォーマンスが一つの数字に混ざり合い、業績の実態を読み取りにくくしていたのだ。

そこでFP&Aチームは、めざす姿から逆算して業務を再設計することにした。目指したのは、より解像度の高い業績情報を活用し、経営層をはじめとするステークホルダーと一貫性のある業績コミュニケーションを実現することだ。

そのために、重要な施策影響を別出しして可視化できる独自の利益管理指標を導入し、全社共通の切り口である「ディメンション」と、その階層である「タクソノミ」を定義した。サイロ化した情報を“共通言語”に揃え、「SSoT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)」として整備していく。これが、FP&Aチームが描いた改革の出発点であり、構想を実現するものとしてAlteryxが選ばれた。

「サイロ化した情報に対して、『全社を見る』にはどうすればいいかを改めて考え直しました。データをどんどん整えていき、最終的にはデータベースという形で自分たちの資産にする。それを目標に動き始めたのです」(高橋)

財務部門がAlteryxに求めたのは“説明できる処理”

Alteryxは、データの取り込みから加工、分析までをノーコードで行える分析プラットフォームである。処理ブロックをドラッグ&ドロップでつなぐことで分析フローを構築でき、プログラミングの知識がない業務ユーザーでも扱いやすい。

FP&Aチームが重視した要件は、大きく4つあった。

第1は、大量のデータを一度にロードし、加工できること。第2に、仕訳計算の過程をホワイトボックス化し、数字の正しさを説明できること。第3に、すべての作業が同一のマスタを参照し、更新漏れやマスタ間不一致を防げること。そして第4は、加工後のデータの正確性をフローの中で検証できることだ。

これらの要件を満たすツールとして、チームはAlteryxの導入が効果的だと判断した。高橋は、その決め手を次のように語る。

「大きかったのは、Alteryxはコードを書いたことがない財務人材でも習得しやすいことです。処理の流れがブロックのつながりとして画面に見えますし、処理の前後でデータがどう変わったのかも、その場ですぐ確認することができます」(高橋)

財務部門にとって重要なのは、処理の速さだけではない。数字がどのような過程で作られたのかを説明できること、変更があった際にすぐメンテナンスできることも不可欠である。Alteryxは、その両方を満たす選択肢だった。

SSoTを“使える情報源”にするための設計

現在、FP&Aチームが運用するAlteryxフローは約20本。複数のメンバーが作成・運用しているが、どのフローにも共通のルールを設けている。データを取り込み、必要に応じて仕訳計算を行い、マスタによって共通言語化し、整合性チェックを経て、最終的にデータベースとして出力する流れだ。

フローの要所には、一意性と網羅性を確認するチェックプロセスを組み込んだ。データの結合やマスタによる組み替えでは、意図せずデータが増減することがあるためだ。また、会計ルールの変更が起こりやすい仕訳計算は、フロー内で明確に別出しし、モジュール化した。これにより、変更が発生しても対象箇所を素早く把握できる。

図1:Alteryx実装の全体像

こうしたフローが毎月生み出すデータ群こそ、全社業績の参照元「SSoT」となる。ただし、この基盤は最初から現在の形だったわけではない。当初は、あらゆる情報を一つの巨大なテーブルに集約していた。

「結果として、新しい情報が増えるたびにファイルは際限なく膨らみ、更新にも時間がかかっていました。データは一つのテーブルにまとまっているものの、作る側にも使う側にも煩雑な『巨大な倉庫』になってしまっていたのです」(高橋)

そこでチームは、SSoTのあり方を見直した。経営層の視点から「全社を横断的に分析するには、どのような切り口と階層が必要か」を定義し、既存データをマッピングし直した。月初にまず見るべき全社のハイライトをまとめた「Main Stream」と、深掘り分析するための詳細データである「Sub Stream」に分け、マスタを索引として結びつける構造へ再設計したのである。マスタは全社で一つ。Alteryxのフローも、その先のPower BIも、同じマスタを参照する。

「小説がページをめくるごとに違う言語で書かれていたら、全体像がつかめませんよね。連結全社の業績をストーリーとして語るには、辞書で通訳する必要があります。その役割がマスタなのです」(高橋)

図2:“巨大な倉庫”から“探しやすい図書館”へと見直したSSoTデータモデル

この構造は、Power BIの表示速度も向上させた。階層構造をマスタ側に持たせることでデータテーブル自体を軽くし、月次更新の範囲も最小限にできる。こうして、巨大な倉庫だったSSoTは、必要な情報を探しやすい図書館となった。

月60時間の削減で生まれた、業績と向き合う時間

Alteryxによるフロー化の成果は、工数にも表れている。従来は1フローあたり約3時間かかっていた作業が圧縮され、月に約60時間の稼働を削減した。空いた時間は、業績を読み解き、経営に資する示唆を導き出すという本来の仕事に充てられている。

「目的は自動化ではありません。あるべき姿から逆算したとき、調整・加工業務がボトルネックになっていました。そして、それを解決する手段がAlteryxだったのです」(高橋)

数字を集め、揃え、整える作業に追われていた状態から、共通言語化されたデータをもとに業績を語る状態へ。FP&Aチームの役割は、データ処理の担当者から、経営判断を支える分析者へと進化しつつある。

ポイントは「AIが活用できる業務知識」の整備

共通言語化されたデータ基盤は、次の挑戦の土台になっている。現在、同社では「人間のアナリスト」「組織化されたAIエージェント」「SSoTデータモデル」の3要素を前提に、FP&A業務の一部を再構築する取り組みを進めている。

改革を推進する井上 貴史は、AIエージェントの可能性と課題をこう語る。

NTTデータグループ 財務本部 Digital FP&A統括部 FP&A担当
井上 貴史

「大量の作業を一挙にこなすのは、間違いなくAIの方が得意です。一方で、AIは静かに嘘をつきます。こうした特性をふまえた仕組みづくりを重ねています。もちろん、最終的な説明責任は、人間が負うことが大前提です」(井上)

また、FP&Aチームの取り組みを支援し、顧客のAI活用支援も行っている伊藤 早紀は、Alteryxの新たな価値を見据えている。多くの企業で、判断基準や例外対応のノウハウといった業務知識が、担当者の頭の中や部門ごとのファイルに埋もれており、AIが活用できる形で整理・共有されていない。それがAI活用の壁になっているという。

NTTデータ テクノロジービジネス事業本部 テクノロジーセールス事業部
伊藤 早紀

「これからの差別化要因は、『AIが活用できる業務知識をどれだけ形式知化し、再利用可能な資産として蓄積できているか』です。Alteryxなら、業務を一番よく知る現場自ら、その知識をデータ化していけます。人もAIも参照できるプラットフォームとして、さらに価値を発揮していくことでしょう」(伊藤)

Alteryxは、「業務を最もよく知る現場が」「自ら業務ロジックを見える化」し、「再利用可能な形で管理できる」プラットフォームでもある。AIに何を任せるか。その前に、何を基準に判断させるか……判断基準となる業務知識を整えることが欠かせない。

数字を揃えるだけで消耗していた財務業務を、業績を語り、経営判断を支えるものへ変えていく。NTTデータグループ財務本部の取り組みは、AI時代の経営管理において、足元で問われるのは「誰もが同じ意味で使えるデータ」という地道な土台づくりだ。AIに任せる前に、まず言葉を揃える。NTTデータグループの実践は、その最初の一歩を示している。

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