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2026.3.26業界トレンド/展望

「思考」から「行動」へ。ビジネスを再発明する「エージェンティックAI」の衝撃

生成AIの登場から数年、テクノロジーは新たなフェーズへと突入した。それが、自律的に思考し、行動する「Agentic AI(エージェンティックAI)」だ。この新しい知能は、企業のプロセスを最適化するだけでなく、ビジネスモデルそのものを再発明する可能性を秘めている。

世界的なベストセラー作家であり、インテリジェント・オートメーションの第一人者であるパスカル・ボルネ氏が、エージェンティックAIが生み出す「複利的知能」がもたらす可能性と、AI時代にこそ求められる「人間らしさ」の重要性について語った。

目次

「夢を見るAI」から「実行するAI」への進化

大規模言語モデル(LLM)の登場により、私たちは「生成AI」という強力なツールを手に入れた。そして、現在私たちは生成AIから「エージェンティックAI」への決定的な進化に直面している。

その違いを理解するために、ボルネ氏は非常に身近な「旅行の計画」を例に挙げた。

「皆さんもChatGPTなどを使って旅行の計画を立てたことがあるでしょう。『ロンドンに家族と5日間行く。妻と子供を楽しませる計画を立ててほしい』と頼めば、AIは素晴らしい旅程を提案してくれます。どこのホテルに泊まり、地元の人が行くようなレストランはどこか、時間単位で完璧なスケジュールを組んでくれます」

しかし、その提案を受けて「最高だ、じゃあ予約してくれ」と頼んだ瞬間、これまでのAIは沈黙する。「私は単なるAIです。予約はできません」と返してくるのだ。

「生成AIは私たちに夢を見させてくれます。素晴らしい戦略や提案を提示してくれます。しかし、実際のアクションとなると、何も起こらないのです。ビジネスでも同様です。『戦略を立ててくれ』『不正のパターンを分析してくれ』とは頼めても、『その戦略を実行して』『不正を是正して』とは頼めなかった。これが生成AIとエージェンティックAIの決定的な違いです」

エージェンティックAIは、洞察や提言を提供するだけでなく、自律的に「行動」を実行する。メールを送信し、会議を予約し、システムを操作してタスクを完遂する。ビジネスにおいて成果を生むのは「行動」だけであり、分析を現実世界の行動につなげる能力こそが、エージェンティックAIの真価なのである。

エージェンティックAIはどのように機能するのか。ボルネ氏はその仕組みを「SPARフレームワーク」という概念で説明する。

S(Sense/感知):環境を感知し、何が起きているか、トリガーとなる情報は何かを理解する。メールを受信した際、返信すべきか否かを判断する段階だ。

P(Plan/計画):目標を達成するための手順を策定する。「ステップ1でこれを行い、次にこれを行う」といった計画を立てる。

A(Action/実行):ツールを使用して実際にアクションを起こす。メールの送信やカレンダーの予約などがこれにあたる。

R(Reflect/振り返り):最後に、目標が達成されたかを振り返る。達成できていなければ、そこから学習し、次回に向けて改善する。

「これは料理をするプロセスと同じです。キッチンにある材料を見て(Sense)、レシピの手順を考え(Plan)、実際にお湯を沸かしてパスタを茹で(Action)、味見をして塩加減を確認する(Reflect)。エージェンティックAIは人間と同じように振る舞い、学習ループを回すことで、使えば使うほど賢くなっていきます」。

この自律的なエージェントは、単なるツールではなく「デジタルチームメイト」となる。さらに、異なる専門性を持った複数のエージェントを組み合わせることで、「デジタルワークフォース」と呼ばれる強力なチームを構築できる。

ボルネ氏自身、かつて週に12~13時間を費やしていたニュースレターの作成業務を、現在は7つのAIエージェントからなるチームに任せることで、わずか30分に短縮しているという。

「記事を検索するエージェント、重要度でランク付けするエージェント、要約するエージェント、そしてそれらをチェックするエージェント。人間がチームで働くのと同様に、専門化されたエージェント同士が連携し、互いに監視・確認することで、単体以上のシナジーと高い品質を生み出しているのです」

既存ビジネスの最適化を超え、市場を「再発明」する

多くの企業は、既存の業務プロセスを自動化するためにAIエージェントを活用し、20%から60%の効率改善を実現している。しかし、ボルネ氏は「最大の価値はプロセスの最適化ではなく、新しいビジネスモデルの創造にある」と断言する。

ボルネ氏は、AIエージェントが市場を変革する3つの可能性を示す。

第一に、「ニッチ市場の獲得」だ。従来、人件費の観点で採算が合わなかった小規模な市場も、低コストなAIエージェントを活用することで、収益性の高いビジネスに変えることができる。

「既存のレガシービジネスを変革するのが難しいなら、AIエージェントを前提とした新しいビジネスを別ラインで立ち上げ、そこで成功したモデルを徐々に本体に取り込んでいく。これは『ゲームのルール』を変えるアプローチです」

第二に、「エージェント間経済(Agent-to-Agent Economy)」の到来だ。企業の調達担当者がサプライヤーと交渉するのではなく、買い手側のAIエージェントが、売り手側の数百万のAIエージェントと瞬時に交渉し、最適な条件を引き出す世界がやってくる。

第三に、そして最も重要なのが「メインインターフェースの座」を巡る競争だ。

「銀行を例に挙げましょう。顧客の支出状況を分析し、『使いすぎているのでローンの見直しをしましょうか』と能動的に提案するAIエージェントは、顧客との深い信頼関係を築きます。顧客がその『メインのエージェント』を信頼すれば、他の銀行は単なる資金移動のパイプ役になってしまう。顧客との接点を握るメインのAIエージェントになることこそが、市場での勝利の条件となります」

失敗から学ぶAIエージェントが最強の資産になる

ボルネ氏は、「早く始めた者が、決定的な優位性を築く」と強調する。その背景にあるのは「複利的知能(Compounding intelligence)」という考え方だ。AIエージェントは経験や失敗を通じて学習し、加速度的に賢くなるからだ。

印象的な事例として、ある高級オンラインワインセラーでの失敗談が語られた。需要予測と在庫管理を行うAIエージェントを導入し、当初は順調だったが、8ヶ月後に数十万ドルの損失につながる事態が生じた。

「AIエージェントは、8ヶ月間売れ残っているワインの在庫を見つけ、あらかじめ定められたルールに従って大幅な値引き販売を行い処分してしまったのです。ワインは熟成によって価値が上がる資産であることを、AIエージェントは考慮していませんでした」

これは設計ミスによる損失だったが、クライアントはこの経験を前向きに捉えた。この失敗を教訓にAIエージェントを修正・再教育したことで、競合他社にはない、ワインの資産価値まで理解する極めて高度なエージェントが誕生したからだ。

「この学びには数百万ドルの価値がありました。早く始めて失敗し、そこから学んだ企業は、後発企業が決して追いつけない知能の蓄積、つまり、『複利的知能』という資産を手にするのです」

「自動化の罠」を避けるための3つの教訓

一方で、導入に失敗するケースも存在する。ある大手銀行では、住宅ローン審査にAIエージェントを導入したが、4週間で停止に追い込まれた。その原因は、人間が行っていたプロセスをそのままAIエージェントにコピーさせ、さらに人間がAIエージェントの仕事をやり直すようなマイクロマネジメントを行ったため、効率性が完全に失われたことにあった。

ボルネ氏は、AIエージェント導入の成功には3つの教訓があると説く。

業務プロセスの再設計:既存のプロセスをそのまま自動化してはいけない。AIが得意なタスク(実行・処理)と、人間が得意なタスク(例外処理・判断)を明確に区別し、最適化してから自動化する必要がある。

信頼の構築:人間が介入できる設計、制御の仕組みを組み込むこと。例えば、エージェントが悪い判断を3回続けたら停止させ人間にエスカレーションする仕組みや、意思決定のプロセスを監査できる「監査可能性」を担保することで、安心してAIに任せられる環境を作る。

人間第一:最も重要なのは、テクノロジーではなく人間である。AIによって自分の仕事が奪われるという恐怖を取り除くため、透明性のある情報提供と教育、そしてツールの活用をエンパワーメントすることが不可欠だ。

「業務時間の20~30%をAIの学習に充て、AIツールを試し、失敗を経験することを推奨し、それを評価するKPIに変えていく必要があります」

AI時代に残る「3つの人間らしさ」と日本企業の可能性

AIが論理的思考やタスク実行において人間を凌駕していく中で、私たち人間に残される価値とは何だろうか。ボルネ氏は、AIが決して再現できない人間の3つの能力を提示する。

一つ目は「真の創造性」だ。AIの創造性はデータの組み合わせに過ぎないが、人間の創造性は、一人ひとりのユニークな人生の物語と経験、そして感情から生まれる「オリジナリティ」にある。

二つ目は「クリティカルシンキング」だ。AIの出す答えを鵜呑みにせず、倫理的な観点や社会のルールに照らし合わせて問い直す力。そして、正しい答えを導き出すために「正しい質問」をする能力である。

三つ目は「人間関係(Human Connection)」だ。共感、ぬくもり、信頼。同じ人間として痛みを分かち合う感覚は、テクノロジーが模倣できても、決して代替できない領域である。

「AIが人間特有と思われていたスキルを代替する世界において、私たちは『さらに人間らしく』ある必要があります。AIと競うのではなく、人間独自の強みに集中することで、シナジーを生み出せるのです」

最後にボルネ氏は、日本企業への期待を語った。

「日本には『改善』の文化があり、プロセスを継続的に良くしていくDNAが根付いています。これは学習し続けるエージェンティックAIとの親和性が非常に高い。さらに、日本文化が重んじる『尊敬』『共感』『おもてなし』といったハイコンテキストな人間関係は、まさにAIには真似できない領域です」

文脈を理解することはAIにとってまだ難しい課題だが、だからこそ日本企業が、その豊かな文脈をAIに学習させ、人間中心のユニークなエージェントを構築できれば、世界で勝てる大きなチャンスとなる。

「エージェンティックAIは、単なるITプロジェクトではなく、オペレーティングモデルの変革です。早く始め、失敗から学び、複利的に知能を高めていく。そして何より、その中心に『人間』を置くこと。それが、真の変革への鍵となります」

「究極の自動化」が進む未来において、企業の競争力は、AIの実行力と、それを使いこなす人間の「人間力」の掛け算によって決まるのだろう。エージェンティックAIという新たなチームメイトと共に、日本企業がどのような変革を遂げるのか。その答えが明らかになるのは、もうすぐそこだ。

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