本リサーチはスペインで実施されました。まずはリサーチの背景となる、デジタルバンクやスペインの銀行事情、経済事情についてご説明いたします。
デジタルバンクとは
店舗を持たず、全ての金融商品・サービスをインターネット経由で提供するフルデジタルの銀行のことです。従来の銀行が提供するインターネットバンキングやモバイルバンキングとは異なり、顧客との接点だけではなく、行員のバックエンド業務も含め、銀行の全てのプロセスがデジタル化されていることがポイントになります。また、ビックデータやAI等の最新のテクノロジーを活用し、従来の銀行サービスにはない新しい顧客体験(UX)の提供に注力していることも特徴です。
スペインの銀行サービス事情
(高額な銀行サービス手数料)
スペインの銀行では、口座維持手数料、カード発行手数料等、日本の銀行では通常無料のサービスに対しても手数料がかかるのが一般的です。この様な背景から、手数料無料を謳ったデジタルバンクは、特に収入の少ない若者から支持を集めています。
(キャッシュレス決済の浸透)
ヨーロッパの中では、スペインのキャッシュレス化は遅れを取っているものの、2018年第3四半期のカードによる決済は、過去最高の10億件に達し、前年同期比の15%増となりました(※3)。この様な背景から、フルデジタルの銀行の利用に対する抵抗感が低くなってきていると言えます。
(スペインのデジタルバンク)
イギリスやドイツ発のMonese、Revolut、N26等の影響を受け、スペイン発の新興デジタルバンクEvo Banco等も登場しています。一方、スペインの伝統的な銀行であるBanco Santander はOpen Bank、CaixaBankはimaginBankという、別ブランドのデジタルバンクを展開しています(※4)。
スペインの経済事情
2007年のアメリカのサブプライムローン危機に端を発し、世界全体に金融危機が波及すると、フランコ政権の終焉以降バブル状態にあったスペインでは、一気にバブルが崩壊しました。政府は深刻な財政赤字となり、銀行は多額の不良債権を抱えました。当時のスペインの失業率は25%を超え、特に若者の失業率は50%を超えました。この様な背景から、特に若者の銀行に対する不信感は強い傾向にあります。
それでは、リサーチの内容に入っていきましょう。
Z世代の特徴
Z世代の人物像を調査した結果、彼らには二面性があることが分かりました。生まれた時からパソコンやスマホに囲まれて育った所謂「デジタルネイティブ」である彼らは、革新的で最先端のものを好む一方、世界金融危機の影響を未だに強く受けていており、現実的、慎重で、孤独や不安を感じやすい傾向にあることが明らかになりました。
Adventurers - 冒険的な側面
- 理想主義者である:社会的課題に対する関心が高く、周囲に対して影響力を持ちたいと考えている。
- 既存のサービスモデルの変革を求める:新しいスタイルのサービスに期待している。
- デジタルをベースにしたサービスを求める:フルデジタルのサービス、コミュニケーションを求めている。
- ストレスフリーなサービスを求める:柔軟性、即時性、効率性の高いサービスを求めている。
Defenders - 保守的な側面
- 悲観的である:努力しても世の中には変えられないものがあると思っている。
- 伝統的なサービスの利用を好む:長い歴史を持つ企業は信頼できると考えている。
- 新しいサービスの利用に慎重である:これまでにない新しいスタイルのサービスには疑念を抱いている。
- 個人的で人間的なインタラクションを求める:みんなと同じ対応ではなく、一人の人間として扱われることを好み、完全にパーソナライズされた体験を求めている。
Z世代の銀行に対する期待と不満
Z世代が抱える二面性は、彼らのお金との付き合い方や銀行に対する考え方に影響を与えています。彼らは銀行に対してどの様な期待や不満を抱いているのでしょうか?
1.Z世代は伝統的な銀行と新興の銀行の間で揺れている
彼らは既得権益の象徴である伝統的な銀行とは決別したいと思っている一方、新興のデジタルバンクの利用には慎重な姿勢を示しています。双方の銀行は、若者たちが重要視している要素 - 伝統的な銀行は透明性、新興の銀行は信頼性 - を明確に表明することが重要です。
2.Z世代は銀行に対する忠誠心が薄い
彼らはより良い条件を提示されればすぐ他の銀行に乗り換える一方、常に信頼できる銀行を探しています。銀行は価格競争力があり柔軟な金融サービスとパーソナライズされたレコメンデーションによって、若者たちの気まぐれな行動をコントロールする必要があります。
3.Z世代は全てがガラスの様に透明であることを求めている
彼らは銀行は情報を隠していて、不透明であると考える一方、「銀行が完全に透明になることはない」という事実を受け入れています。金融サービスの約款は、若者に届く言葉と方法でシンプルに伝えるべきでしょう。
4.Z世代は常に誰かに気にかけてほしいと思っている
彼らはフルデジタルのサービスを求める一方、困った時には、いつでもすぐに誰かとコミュニケーションが取れることを求めています。若者が自分の話を聞いてもらっている、問題を一緒に解決しようとしてくれている、と感じられる様なコミュニケーションが必要です。
Z世代をターゲットにしたデジタルバンクのUXデザインのポイント
ユーザリサーチで得られた結果をもとに、Z世代をターゲットにしたデジタルバンクのUXデザインのポイントを3つにまとめました。
1.Transparency - オープンで明快なコミュニケーション
- 専門用語ではなく、日常生活で用いる言葉を使用する。
- 利用者の声、第三者機関による評価等により、銀行が発するメッセージの正当性を客観的に示す。
- 同じプロファイルを持つユーザの評価を元にレコメンデーションを行う。
2.Assistance - 血の通った人間らしいサービス
- ユーザが困った時にはいつでもサポートできる状態にする。
- 情報のビジュアライゼーションを強化し、視覚的に情報を提供する。
- ユーザのプロファイルや嗜好を加味し、そのユーザにとって重要な情報を特定した上でプッシュ通知を行う。
3.Flexibility - モジュール化され革新的なデザイン
- 機能毎にバラバラではなく、全ての機能が一つにまとまったアプリを提供する。
- サービスや機能をモジュール化し、ユーザが自分のライフスタイルに合わせて組み合わせて使える様にする。
- P2P決済機能を組み込む。
Frost & Sullivanの研究(※5)によると、2020年までにプロダクトの購入を決定づける要素として、ユーザ体験が価格やプロダクトそのものを上回ると言われています。Z世代の期待や不満を理解することは、ユーザ体験でデジタルバンクにイノベーションを起こす上で重要です。近い将来、ユーザやユーザ体験を中心に自分たちのビジネスを構成することによって、銀行は利益を上げていくことになるでしょう。
最後に
NTTデータは、2018年6月11日、六本木の泉ガーデンにデジタルビジネスのデザインスタジオ「Fluid Experience Design Studio "AQUAIR(アクエア)"™」をオープンしました。(※6)本スタジオは、NTTデータグループのデザインスタジオをつなぐNTT DATA Design Network(※7)を活用したグローバルの事例・ノウハウの共有、プロジェクトの組成が特徴の一つとなっています。
私たちeverisのDigital Experienceは約10年前に発足し、スペインをはじめヨーロッパのお客さまにUXデザインを提供しています。ぜひNTT DATA Design Networkを通じ、everisが蓄積したUXデザインのノウハウをご活用ください。
UX(User Experience)とは、ユーザがプロダクト、または、サービスを通じて得られる体験を指し、UXデザインとは、その体験を設計する行為を表す。
https://elpais.com/economia/2019/01/20/actualidad/1548000654_594893.html
https://www.bankingtech.com/2019/02/challenger-banks-in-spain-whos-who-and-whats-their-tech/