NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
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うまくいかなくも一緒にやっていきたい仲間と新たなビジョンを見出すことも
「素晴らしい理念で儲からない会社と、儲かってはいるけれど理念が感じられない会社のどちらが良いか、一概には決められないのでは?」
この問いに対して梅本さんは「どっちもダメ」と回答しつつ、「どちらがベターかと考えるには、足りないピースがある」と指摘します。
足りないピースとは「誰がやっているか」。ジム・コリンズが『ビジョナリー・カンパニー2』(日経BP)で述べている「だれをバスに乗せるか」という問題です。
『ビジョナリー・カンパニー2』(日経BP)
この観点から「素晴らしい理念でも儲からない会社」の行く末を考えるとどうなるか、梅本さんと櫻井さんのやり取りを見てみましょう。
梅本さん:理念を大事にしている組織なら、バスの行先が決まっているわけです。でも、行ってみたら、うまくいかないこともあります。その時、その理念を実現するためだけに乗っている人たちだったとすると、もうそこで頓挫しちゃう。
櫻井さん:バスを降りちゃったりとかね。
梅本さん:そう。でも「このメンバーだったら一緒に乗っていたい」と思える人たちであれば、自然に行き先が決まると、彼(ジム・コリンズ)は言うんですね。自然に行き先が決まり、たとえその先で苦労しても、また修正しながら本来行きたいところへと進化的に行けるだろうという理屈なんです。
櫻井さん:新規事業で言えば、いわばピボットのような状況が起きると。
梅本さん:そういったことは、実はNPOにも多いんですよね。みんな本当に社会を良くしたい、課題を解決したいと集まるんだけど、特にNPOというのはお金儲けが目的じゃないので、寄付がなくなった瞬間に終わってしまうということも起きます。そういう意味では、やりたいと思っていることに対して多少遠回りでも、その都度行き先を修正することが究極的にやりたいことにつながるんです。ベンチャービジネスにしても、成功していくプロセスで、最初に掲げた理念やビジョンがずっと続くケースは少ないかもしれませんよね。
櫻井さん:ビジョンそのものが動く可能性も多いということですね。
梅本さん:そうであっても、バスに乗ったメンバーで「究極的にはあそこに行きたかったんだな」というものを見つけていくプロセスを積極的に評価したいですね。
「儲かっているからOK」が通用しない時代に
櫻井氏と梅本氏の対談模様
一方、儲かってはいるけれど理念はいまいち、という会社の問題点については、以下のようなやり取りがなされました。
櫻井さん:バスに乗っている人たちも刹那的で、ビジョンも何もなくて、とにかく今儲かってるというパターンだと、3年後は儲かっていない可能性が高いですよね?
梅本さん:win-winにならない状況はlose-loseしかない。つまり何かしらを犠牲にして短期的にwinしているという状況にあるのだとすると、それ自体が許されなくなっているのが今の時代だと思います。そういう意味では、今儲かっているからこそ「私たちの理念って何だっけ?」と、そこに戻ってほしいんですよね。
櫻井さん:元々は良いものを持っていて、それを磨きこんでいくことでビジョンがイケてる状態になる企業もありますよね。
梅本さん:そうですね。継続性も出てくるし。結局企業っていうのは、ゴーイングコンサーンですから、持続的な成長なり、利益を出し続けるという、それが社会にとって良いことなんだというのが基本としてあるんですよね。
ただ、これまでは社会や地球にとって良いことでなくても、持続的な利益を上げられていたという状況がありました。だんだんそれが、経済学で言う外部不経済(企業の経済活動などが第三者に不利益を及ぼすこと)の問題として見過ごされなくなってきたわけです。
高度成長期、自らの企業活動で環境を汚染することに無頓着だった企業に対し、被害を受けた人々が声をあげた結果、公害が社会問題と認識されるようになりました。今ビジネスをする上では、人権問題や地球環境問題といったSDGsやESGの課題を無視した「儲かればいいんだ」という企業や取り組みが減っていかないと、社会全体のサスティナビリティはないという時代になってきていることは、間違いありません。
櫻井さん:なるほど。
梅本さん:そうなると、やっぱり理念に戻って「それって何なの?」と問う必要があります。SDGsを掲げて「16番目の項目をやってますよ」というような話ではなくて、自分たちが本当にいいことしてるよねと、自らに確信を持てれば仲間も増えるし、やってる人たちのエンゲージメントやハピネスも高まります。「それなら少しぐらい大変でも頑張ろう!」という気持ちにつながるんだと思うんですよね。
存在目的は進化すると考えるティール組織がヒントに
この対話を聴いて、私は「ティール組織」を思い出しました。
書籍『ティール組織』(英治出版)では、ティール組織の3つの特徴のひとつに「存在目的」が挙げられています。前々回に取り上げた「パーパス」が、ティール組織においても非常に重要な要素なわけです。しかし、実はこの「存在目的」は、原書では単に”Purpose”ではなく”Evolutionaly purpose”となっています。「進化的な(Evolutionaly)」という意味が含まれているのです。
同書では、組織のパーパスを明確にすることを「存在目的を策定する」などとは言わず、「存在目的に耳を傾ける」と表現しています。組織は生き物のようなもので、親が子どもの進路を強制できないように、たとえ創業者であっても組織の行き先を決めきって計画通りに成長させることなどできない、パーパスでさえ組織の中から自然に見いだされて成長していくものと考えているのです。
明確な目標を掲げ、そこから逆算して戦略を立てて事業運営をしていくことが当たり前の世界から見ると、「組織はコントロールできるものではない」というこの話は荒唐無稽に思えます。でも、「だれをバスに乗せるか」の話と合わせて考えれば、そこに集うメンバーや周りの状況によって、どこをめざすべきかの最適解は常に変わっていくと捉えるのは、非常に合理的ではないでしょうか。
今回の対談を聴いて、スターバックスの経営には、ティール組織の他のふたつの特徴「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」にも当てはまる部分が多くあると感じました。スターバックスが完全にティール組織化しているというわけではありません。しかし、ハワード・シュルツ氏の“源”からスタートし、常にみんなでビジョンやミッションを磨いて進化し続けた結果、「いまの世の中で一番進化した組織のあり方」と言われるティール組織に自然に近づいてきたのだと思います。
進化し続けた結果、自然に近づいてきたティール組織
私は、どんな組織もティールになるわけだと言いたいわけではありません。それでも、「なぜスターバックスは一過性の流行に終わらず社会に受け入れ続けられているのか?」、「自分たちもそんな組織やブランドを作れるだろうか?」という問いに向き合うときに、「ティール組織」は数々のヒントを与えてくれるものだと思います。
梅本さんと櫻井さんの対談の中から特に印象に残った部分を取り上げ、筆者の見解も交えてお伝えした本シリーズは今回でおしまいです。お二人の対話の中ではほかにもさまざまなトピックが登場します。対談のダイジェスト動画もございますので、ぜひご覧ください。
筆者:やつづか えり
2022年3月11日 編集部追記
対談のダイジェスト動画を公開しました!