NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
LTV(Life Time Value)とは?
LTVは「Life Time Value」の略
マーケティング用語におけるLTVとはLife Time Valueの略で、日本語で「顧客生涯価値」と訳されます。
「顧客生涯価値」とは?
「顧客生涯価値」とは、一人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす価値を指します。一人の顧客がある商品の購入やサービスの利用を開始してから終了するまでをひとつの「生涯」ととらえ、その生涯の間に企業にもたらす価値の総額を表します。
LTVが重視される「3つの背景」
なぜLTVが近年のマーケティングにおいて重視されているのでしょうか?そこには大きく3つの背景があります。
➀デジタル技術の進化・デジタルデータの増大
LTVという概念は、近年のデジタル技術の進展とともに注目を集めるようになりました。スマートフォンの普及によって収集・把握できる顧客データが飛躍的に増大しましたことで、顧客一人ひとりの購買行動に基づいてLTVを測定できるようになり、顧客がもたらす価値の大きさを表す指標として重視されるようになったのです。
言い換えると、LTVはデジタルデータと不可分の関係にあり、顧客がIDで特定できていることが測定の前提条件になります。近年、小売業などでECとリアル店舗のID連携に取り組む企業が増えていますが、その目的の一つはLTVを正確に把握することにあります。
LTVが重視される「3つの背景」
➁新規顧客の獲得が困難に
人口が減少傾向にある日本では、多くの業界やサービスにおいて新規顧客の獲得がますます困難になっています。そのため、一度獲得した顧客をできるだけ長く維持することがこれまで以上に重要になってきました。結果、新規顧客を多く獲得するマーケティング施策から、既存顧客とのエンゲージメントを高め、来店頻度や購入単価を高める施策へと変化してきました。その結果を測る指標として、LTVが重視されるようになりました。
➂商品・サービスの定額(サブスク)化
最近は音楽や動画から家具・ファッションまで様々なサブスクリプション型(定額制)のサービスが普及しています。商品・サービスを単発で売っていた時代には、毎回の買い物で「いかに多く買ってもらうか」が大事でしたが、一度使い始めたら自動的に課金される定額制サービスでは「いかに長く使ってもらうか」が重要になります。
そこで、サービスを使い始めてもらうためのマーケティングだけでなく、利用開始後もそのサービスを長く使い続けてもらうために、購入後のフォローやサポートなどカスタマーサクセスに力を入れる企業が増えています。その「長く利用してもらう」価値を測る指標として、LTVが重視されています。
総じて言うと、短期的に売上や利益を高める方向から、長期的に顧客がもたらす価値を高めていく方向にマーケティング施策の軸足が移ってきました。そして、デジタル技術の進展に伴いLTVという概念が「見える化」できるようになり、新たなマーケティング指標として重視されるようになったのです。
現在のマーケティング施策の軸足は長期的な顧客エンゲージメントの向上
LTVの計算方法は?
以上の背景から近年ますます重視されているLTVですが、実際にはどうやって計算するのでしょうか?実は、その計算方法は複数あり、どこまで厳密に測定するかで計算式が変わってきます。その中で、最も基本的な計算式を挙げると次のとおりです。
LTV=購入単価×利益率(粗利率)×購入頻度×期間(顧客でいる期間)
一例として、次の数値をもとに計算してみましょう。
・1回あたりの平均購入単価=1,000円
・利益率=10%
・来店回数(1月あたり)=10回
・継続期間=1年間
LTV=1,000円×0.1×10回/月×12カ月=12,000円
LTVは「売上」で表す場合もある
ここではLTVを「利益」で表す計算方法をご紹介しましたが、「売上」でLTVを計算する場合もあります。たとえば「ECとリアル店舗の比較」、「WEBブラウザ経由とアプリ経由の比較」などのように、異なるセグメント間で比較するのであれば、コストはいったん度外視して「売上」でLTVを計算するのも一つの方法です。
把握が難しい「継続期間」
上記の計算の中で、「継続期間」、つまり顧客の「生涯」をどうとらえるのかを疑問に思った方もいるかもしれません。サブスクリプションモデルのように新規契約と解約の時点が明確であれば継続期間はある程度容易に導くことができますが、小売業などの場合は実際に来店・購入のアクションを起こしていない「休眠顧客」が少なからずいることが一つの理由です。
そこで、比較的高い頻度で利用してくれる顧客、すなわち「アクティブユーザー」を何らかの方法で定義する必要があります。たとえば「3か月間に1回も買い物をしていなかったらアクティブユーザーではないものとみなす」など、自社の業態に合わせて「常連」と言える期間・頻度を設定します。「アクティブユーザー」を定義したうえで、自社の業態に合わせて適切な顧客の購買行動データを取得し、継続期間を測定することが望ましいでしょう。
LTVを高めるための方法は?
LTVの基本的な計算式から、主要な変数は➀購入単価、➁利益率(粗利率)、➂購入頻度、➃期間の4つであることがわかります。この4つの変数のいずれかを、あるいは複数を向上させることが、LTVを高める基本的なアプローチとなります。
➀購入単価を上げる
リアル店舗なら1回の来店あたり、ECなら1回のアクセスあたりの購入単価を上げるアプローチです。商品の価格そのものを上げる方法もありますが、それ以外に次の方法があります。
・同じ商品でも、より高価格帯の上位モデルを購入してもらう(アップセル)
・1回の購入で、あわせて別の商品を購入してもらう(クロスセル)
施策例としては、購入した商品に対する満足度を顧客にヒアリングし、そのニーズをより満足させるための上位商品・サービスを提案することなどが挙げられます。ただし、LTVの考え方に照らした場合、短期的な購入単価増を目的とするではなく、あくまで顧客に納得・満足して購入いただくことが重要です。
重要なことは顧客に納得・満足して購入いただくこと
➁利益率を上げる
利益率を上げることは、LTVに限った話ではなくビジネスの基本といえるでしょう。たとえば食品スーパーであれば、粗利率の高いデリカ・総菜やプライベートブランドなどの購買比率を高めるといったアプローチが挙げられます。
➂購入頻度を上げる
購入頻度を上げることは、特に小売業などにおいてはLTVを高める主要なアプローチの一つです。来店動機を促すために、顧客の属性や購入データに基づいてパーソナライズしたメルマガを配信し、新商品情報や店頭で使えるクーポンなどで来店メリットを伝える施策が一例です。また、消費財であれば定期購入制度を導入するのも施策の一つです。
➃期間を延長する
LTVが重視される背景をふまえると、顧客でいる期間を延ばすことは、LTVを高める最重要施策といえるかもしれません。満足度の高い顧客体験を常に提供し、顧客エンゲージメントを高めて、その店舗・商品・サービス・ブランドのファンになってもらい、長く支持し続けてもらうことで、必ずしも1回あたりの購入金額が高くなくても、その顧客が企業に貢献する利益は着実に積み上がっていき、長期的なLTVは高まります。
➄新規顧客獲得・維持コストを下げる
上記➃にも関係しますが、良質な顧客体験を提供し続けることで、顧客がその商品やサービスのファンになってくれると、顧客自ら口コミやSNSなどで告知してくれるようになります。その結果、新規顧客の獲得や維持コストを下げることができ、LTVが向上します。
LTVを高めるための5つの方法
高LTVを実現している企業とは?
「ついサイトを訪問してしまう」「店内に入るとワクワクしてしまう」という気にさせてくれるような店舗やECサイトを、誰しも1つ、2つは思い浮かぶのではないでしょうか?それを実現できている企業は、すなわち高いLTVを獲得できている企業といえるでしょう。その一例として、全国に460店舗以上を展開する食品専門店「カルディコーヒーファーム」を取り上げます。
カルディの店内には、他ではあまり見かけないユニークな商品や、ヒットの兆しになりそうな珍しい商品などが所狭しと並んでいます。来店するたびに新たな発見があるので、通常の食品スーパーより高単価の商品にもかかわらず、ついいろいろな商品に目移りして買い物かごに入れてしまいます。それでも不思議と「買わされた」という印象はなく、ユニークな商品との出会いを顧客体験として楽しめる店舗づくりがなされています。
加えて、同社は海外に食品加工子会社を持っており、実は取り扱う商品の多くがプライベートブランドです。したがって、利益率も高いことが推察されます。
高LTVを実現している代表企業
LTVがこれからのマーケティング活動の主要なKPIに
LTVの言葉の定義から、重視されるようになった背景、計算方法まで解説してきました。これまではサブスクリプションビジネスなどで重視されてきたLTVですが、デジタルデータによってあらゆる商品やサービスでLTVの「見える化」が実現しており、企業の収益性を測定する指標としてあらゆる業界に普及しています。LTVをKPIとして設定することで、顧客の商品・サービスに対する満足度や信頼の度合を定量的にとらえることが、これからのマーケティング活動においてはますます重要となるでしょう。
一方で、LTVはあくまで顧客に満足いただけた「結果」の数値であることも忘れてはいけません。本質的には、良質な顧客体験を提供し続けることで顧客エンゲージメントを長期的に高めていくことがカギとなることも押さえておきましょう。
監修者:田邉 裕喜