サービタイゼーションとは?
製造業における既存のビジネスモデルでは、作った製品を売って利益を得ることが中心です。
サービタイゼーション(Servitization)(※)とは、“製品を売って利益を得る”従来のビジネスモデルから、“製品をサービスの一環として利用する”新しいビジネスモデルへのパラダイムシフトを指した言葉です。製品販売を中心としたアプローチから製品を利用したサービス提供に重点をおいたアプローチへの切り替えとも表現できます。
自動車販売を例に考えてみましょう。
製品販売を中心としたアプローチでは、自動車そのものを売って収益を得ることが目的です。顧客に製品を売ることで完結するビジネスモデルとなります。
一方、サービス提供を中心としたアプローチでは、自動車はサービスの一部として販売されます。顧客が自動車とそれに付随するサービスを使い続ける限り、企業は収益を得ることができます。
このように、サービタイゼーションによるビジネスモデルの変革は、企業に新規かつ継続的な利益をもたらすことが可能なのです。
図1:自動車販売におけるサービタイゼーションの例
自社製品に新しい機能と価値を付与することができるため、多くの企業がサービタイゼーションに向けた検討を始めています。しかし、サービタイゼーションを実現させ、成功した企業は多くないのが現状です。
「モノのサービス化」、「Product as a Service」と呼ばれることもあります。
サービタイゼーションの実現に必要なプラットフォーム
ビジネスの視点では新しいサービスモデルの定義やマーケティング戦略が大事ですが、技術的な観点ではサービスを提供するプラットフォームが非常に重要です。お客さまにサービスを使い続けてもらうには、お客さまの情報を収集・蓄積・分析し、分析結果をもとにしたサービス改善を行う必要があります。プラットフォームはサービスの提供だけでなく、サービス改善の機能も担うため、サービタイゼーションの成功に不可欠な要素なのです。
前述した自動車のサービタイゼーションを例にとると、以下のようなシステムが求められると予想されます。
- 各車両には情報収集用のIoT(Internet of Things)デバイスが搭載され、定期的にプラットフォームへ情報を送信する。
- プラットフォーム側では、受信した情報をもとに個人ごとの処理を行う。
- 処理結果に応じて、車両のIoTデバイスや利用者の端末へフィードバックを送信する。
このようなシステムを実現するプラットフォームは、下記のような要件を満たしていなければなりません。
- 数千~数万のデバイスからデータを収集して処理できるスケーラビリティ
- サービス利用者からの情報を受信した直後にフィードバックを返すことのできるリアルタイム処理性能
- サービス利用者の個人情報や行動情報を保護するセキュリティ
これらの要件を満たすには、様々な技術を組み合わせる必要がありますが、そのうちの1つがクラウドです。クラウド、特にパブリッククラウドを用いることで、インフラの管理コスト(ハードウェアの維持保守など)から解放され、サービタイゼーションに必要なアプリケーションの開発やシステムの改善活動に注力することができます。AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)といった主要なパブリッククラウドでは、自動的にリソースが拡張するコンピューティングサービスや、IoTデバイスの管理に特化したマネージドサービスを提供しており、これらを適切に活用すれば迅速にプラットフォームを実装することが可能です。
サービタイゼーション実現に向けたNTTデータの取り組み
クラウドはサービタイゼーションを加速させますが、それでも実装は容易ではありません。クラウドベンダが提供する多種多様なマネージドサービスから適切なサービスを選択し、提供するサービスの要件を満たすように設計する必要があります。また、IoTや機械学習のマネージドサービスに対する知見がなく、マネージドサービスの選定やアーキテクチャ設計自体が困難であるという企業も少なくありません。
NTTデータでは、お客さまのサービタイゼーション実現に向けて、プラットフォーム実装の道標となるAWSリファレンスアーキテクチャを作成しています。
図2:サービタイゼーションのAWSリファレンスアーキテクチャ
このリファレンスアーキテクチャは、大きく下記3つから構成されています。
1.製品のデータ収集
製品に搭載されたIoTデバイスから顧客ごとのデータを収集し、クラウドへデータを送信します。
ここで利用される代表的なAWSサービスとしては、AWS IoT GreengrassやAWS IoT SiteWiseが挙げられます。
2.クラウドでのデータ処理
クラウド上では、IoTデバイスから受信した顧客データをもとに、機械学習・AIによるデータ分析や顧客ごとのレコメンデーションなどの処理が行われます。
プラットフォームが提供するサービスによって必要なAWSサービスは異なります。一般的には、IoTデバイスからの大量のストリーミングデータを処理するAmazon Kinesis Data Firehose、Amazon S3やAmazon DynamoDBといったスケーラブルなストレージ、データ分析を担うAmazon SageMakerやAmazon RekognitionといったAWSサービスが必要になると想定されます。
3.顧客やデバイスへのフィードバック
クラウド上でのデータ処理結果に応じて、モバイル端末やWeb画面を通した顧客へのレコメンデーションやIoTデバイスへのフィードバックを行います。
顧客がプラットフォームへアクセスする方式によって利用するAWSサービスが異なりますが、例えばAmazon API GatewayやAmazon PinpointといったAWSサービスを使うことになります。
また、リファレンスアーキテクチャの作成に加えて、自動車のサービタイゼーションをユースケースとしたデモを構築しました。
AWS IoT CoreやAWS IoT Eventsを用いたデータ収集の仕組み、Amazon Personalizeによる個人向けのレコメンデーションシステム、Amazon API Gatewayを介した顧客へのフィードバックなど、サービタイゼーションを実現するのに必要な要素を実装しています。
図3:サービタイゼーションのデモアーキテクチャ
おわりに
この記事では、製造業を中心に注目されているサービタイゼーションとそれに必要なプラットフォームについて解説しました。
新たな価値とビジネスモデルを提供するサービタイゼーションは企業にとって非常に魅力的ですが、実現するのは容易ではありません。
NTTデータでは、リファレンスアーキテクチャの作成やデモの実装を通じて得た知見をもとに、サービタイゼーションに挑戦するお客さまを支援いたします。