NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
Twitterは「もう一人の自分」だからこそ発信できる本音
Twitterデータのマーケティング領域における有用性は、しばしばアンケートパネルやインタビュー調査と比較されることが多いように思います。Twitterにおける発信内容の最たる特徴は、ユーザーによる主体的な発信であるということにつきます。
アンケートやインタビューでは、質問者と回答者という関係性のなかで、なんらかの報酬を対価に情報を得ることから、どこまでいっても「純粋な本音」を得ることは難しいのではないでしょうか。たとえば今回テーマに掲げる「子育て」という領域に関しては、「自分は親である」という意識が働くために、人前で子育てに対してネガティブな内容を口にするのははばかられるところがあるように思います。
一方、Twitterは匿名性の強いメディアなので、周囲からの目があまり気にならず、文字通り「つぶやき」として発信することが可能です。実際に、「子育て関連ワード」×「本音」で抽出してみると、1か月間での話題量は以下グラフの通り(※1)となります。
「子育て関連ワード」×「本音」の話題量
日によってばらつきはありますが、おおよそRT込みで約3,000件/日、RTを除いたオーガニックツイートでも約1,500件/日ほどが存在しています。
こうして日々生まれてくる「本音」は、生活者のリアルな声に耳を傾けるうえでは非常に貴重なサンプルといえるのではないでしょうか。それは、生活者であるユーザーがその瞬間に思ったことを素直に投稿できるTwitterだからこそ。今回はそんなTwitterを起点としたマーケティングにおける仮説構築の有用性について見ていきたいと思います。
“仮説”をデータで客観的に示す意義
マーケティング施策を検討するうえで、仮説構築というのは非常に重要なプロセスです。仮説構築にあたっては、客観的に生活者のインサイトを読み解き、どのようなニーズがあるのかを考慮することで、仮説の精度を高めることが可能となります。今回はTwitterデータを用いて育児クラスタのツイートから読み取れることを探ってみたいと思います。
まずは育児に関連するキーワードで、大まかな傾向を見ていくことにしましょう。今回は2022年11月から2023年1月中旬までの「子育て」または「育児」という単語を含むツイートから、キーワードランキングを作成してみました。(※2)
「子育て」または「育児」を含むツイートのキーワードランキング
(2022年11月1日~2023年1月10日)
ここで注目してみたいのは2位の「私」、4位の「自分」で、子育て関連のキーワードを含むツイートには「子育てをしているわたし」にフォーカスしたものが多くみられる、ということが分かります。お金や親との関係性にまつわる困りごとや、子育てのコツ・テクニック論のようなトピックスよりも出現数が多いのは驚きでした。
たしかに私自身、0歳児の息子を持つ父親になったばかりですが、頭に浮かぶことと言えば「連日の夜泣きによる睡眠不足のつらさ」「急に赤ちゃんの顔に現れる湿疹への戸惑い」「泣いている理由が分からないイライラ」など、気がつけば赤ちゃんそのものではなく、自分を主語として物事を考えてしまう瞬間が多くあるな…と考えさせられます。
ではさらにこのトピックスを掘り下げて、「子育てをしているわたし」にフォーカスしたツイートには、どういった内容のものが多く含まれているのかを見ていきましょう。「子育て関連のキーワード」×「わたし」の関連キーワードランキングは以下の通りです。(※3)
「子育て」×「わたし」ツイートのキーワードランキング
(2022年11月1日~2023年1月10日)
単純に子育て関連のキーワードで抽出したときよりも、「夫」「旦那」という、女性の立場からみた男性のありようについて言及しているツイート量が多くなっていることがわかります。私自身、妻と育児を一緒になって行っているつもりでいましたが、完璧ではないようで「ミルクをあげてくれるのはありがたいけど、哺乳瓶を洗って消毒するところまでがワンセットだからね」と釘を刺されるなど、まだまだ「やったつもり」になってしまっているところがあり、反省の連続です。
さらに、「子育て関連のキーワード」×「わたし」で抽出した結果を見ていくと、行動面だけでなく、精神面でお母さんを支えていくことも必要であることが分かってきました。いくつか実際の発信内容を見てみると、以下のツイート例のように「お母さんによる悲痛な叫び」が見つかりました。
👶🏻ベッドに降ろせず抱っこ紐へ。🍑も眠くて泣いて起きないし。愚痴りたいけどパパは今日からとても大事な仕事があってこんなこと伝えられない。ここで吐き出させて😭
もうやるしかないのはわかってるけど、私こんなにボロボロになってまで子育てしたいとは思えない😭自分を大切にしたいのに出来ない
— momo_momo@🍑4y+👶🏻7m (@momo_momo__h)
January 11, 2023
マーケティングの世界において「仮説構築」というのは非常に重視される必須のスキルです。私の前職である広告業界時代の経験から言えば、いかに広く、いかに多く、いかに早く、仮説を立てられるかという部分がいわゆる「アイデアマン」としての力量を示すものさしになっていたように思います。しかし、それに加えて、構築された仮説を検証して精度を高めるプロセスも重要だったことに改めて気づきました。
仮説構築は極端に言えば、単なる「思い込み」でしかありません。それをデータで数値化し、修正していくことで仮説の精度を高めることは非常に重要なことです。直観で物事を見るだけではなく、Twitterデータを用いて客観的に俯瞰することの意義は大きいように思います。
ハッシュタグ付きのツイートは「シェアしたい」という外向けの顔
ときおり、お客さま企業から、「わざわざキーワードでツイートを抽出しなくても、話題になったハッシュタグを追いかけていればよいのでは?」といったお声をいただくことがあります。たしかに「トレンド事象を追う」という観点からはあながち間違いではありませんが、ハッシュタグ付きの投稿には少し「クセ」があることに注意する必要があると私は考えています。
そもそもハッシュタグとは、TwitterやインスタグラムなどのSNSで検索されやすくするために使われる目印のようなものです。育児クラスタの中で、例えば「#赤ちゃんのいる生活」「#新米ママ」のように、文末などに付けられます。その大きな意味合いとしては、フォロワー外に自分の発信内容に同意をしてくれる人を求めたり、企業や行政といった大きな組織に自分の意見が届いたりすることを期待している、と考えられています。
ハッシュタグがついた投稿の場合、ユーザーにとって発信したい内容の軸が明確であることからインサイト発掘の参考にしやすいという特徴があり、マーケターによっては「とりあえずハッシュタグだけ追いかけていればいい」と考えることもあるようです。ただ、私個人の見解としては、ハッシュタグだけで分析した結果をもってインサイト探求をするのは、必ずしも世間の声と一致するものになるとは考えていません。
実際に、「育休」という単語でハッシュタグをつけたツイートと、そうでないツイートで投稿におけるポジティブ・ネガティブの割合にどの程度差がついているのかを比較してみましょう。(※4)
「育休」に関するハッシュタグあり・なしのツイート比較
この図のように、「#育休」を含むツイートではポジティブな投稿の割合が35%となる一方で、「育休」または「育児休暇」という単語を含むツイートから、「#育休」を含むツイートを除いたツイートではポジティブな投稿の割合が43%まで上昇していました。「#育休」を含むツイートを実際に見てみると、今回分析したタイミングでは「育休退園」(2人目以降の子が生まれて育児休業を取得した結果、家庭で保育が可能とみなされ、保育施設に通う上の子が退園させられること)に対する問題提起が多く確認できました。つまり、「#育休」を含むツイートでは、育児休暇にまつわる制度への批判的な見方が相対的に多く含まれているということになります。
ハッシュタグ付きのツイートは「シェアしたい」という外向けの顔であり、自分の立場をはっきりとさせるために、現状に対する「批判的な強い主張」が行われることが多いように見受けられます。こうした「強い主張」に耳を傾けすぎるあまり、ハッシュタグ付きの投稿には現れにくい「どちらかと言えば賛成/反対」「現状維持を望んでいる」といった意見が見逃されてしまう懸念もありますので、注意が必要なのではないでしょうか。
Twitter分析をはじめてみよう
「データ分析」と聞くと、専門知識が必要なのではないか、手間と時間がかかるのではないか、とハードルを感じてしまう方もいらっしゃると思います。しかし、ソーシャルリスニングツールを使えばそこまでハードルが高いものではありません。
今回の記事はNTTデータが提供しているソーシャルリスニングツール「なずきのおと」を用いて作成しましたが、データ分析の知識がなくとも、簡単にツイートを分析することが可能ですので、ぜひご活用いただければと思います。
分析対象
- 1.子育て関連ワード×「本音」を含むツイート
キーワード:(“子育て” OR “赤ちゃん” OR “育児”) AND (“本音” OR “本当” OR “ホント”)
分析期間:2022/12/19~2023/1/17 - 2.「子育て」、「育児」を含むツイート
キーワード:「子育て」または「育児」という単語を含むツイート
分析期間:2022/11/1~2023/1/10 - 3.「子育て関連のキーワード」×「わたし」の関連キーワードランキング
キーワード:(”子育て” OR ”育児” OR “赤ちゃん”) AND (“わたし” OR ”ワタシ” OR “私” OR “あたし” OR “アタシ” OR “自分” OR “俺” OR “オレ” OR “僕” OR “ボク”)
分析期間:2022/11/1~2023/1/10 - 4.育休関連ツイート
【比較対象①】
キーワード:「#育休」を含むツイート
分析期間:2022/11/1~2023/1/10
【比較対象②】
キーワード:「育休」または「育児休暇」という単語を含むツイートから「#育休」を含むツイートを除いたもの
分析期間:2022/11/1~2023/1/10
こういうとき、パートナーの力を借りたいと強く思う。子育てはひとりでするには難しすぎる。家事するあいだ、全力で遊んでくれる人が欲しい。私が苛立った時に娘のそばに寄り添ってくれる人が欲しい。フォローがないのつらい。居ないもんは仕方ないんだけどもさ。
— 佐藤@CD (@minmi_829) March 5, 2023